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第二章 海人の村

 微かな呻き声をパールは聞きつけた。

 一平が気がついたのだ。

 何度か瞬きをしながら見開いた瞳に見られぬ光景が映った。

 室内のようだった。石でできた壁が見てとれる。その壁からいくつかの調度品が枝のように生えていた。

 いずれも、見たこともないものばかりだ。

 すぐには判断しかねた。

 一平が海に出て久しい。地上でしかお目にかかれなかったような人工的なものが、今一平の目の前に存在していることに驚いた。石造りの壁は磨かれて平らで均整がとれていた。しかも、そこが海の中だという事は、一平の五感の全てが主張して疑わない。

(ここは…⁈)

 記憶を手繰り寄せて、はっとなる。

 がば、と身を起こし、胸の痛みに顔を顰めた。

 小さな柔らかい手が、胸を押さえる一平の手の甲に触れてきた。

(…パール…)

 手の主を認めると痛みは吹っ飛んだ。

 小さな肩を抱きすくめ、痛みのあるはずの胸に押し付けた。

 部屋の隅で大柄な女性が目を丸くしてその様子を眺めていることなど、何も気づかなかった。

 パールは一平のすることにびっくりはしたが、奇異なことではないのでされるがままにしていた。でも、一平が胸を痛がっていたことを思い出して、離れようとする。

 我に返った一平が二の腕を掴んで顔を覗き込んだ。

「パール…だよな?…何も…何もされなかったのか?…あいつらは?ここは…どこだ⁈」

「そんなにいっぺんに訊かれても、答えられないよ」

 矢継ぎ早の質問に、パールは笑って受け答えた。

「パールは大丈夫。元気だよ。あの人たちはここにはいないよ。ここはムー一族の村なんだって」

 そのくせ、ちゃんと答え合わせをしてみせる。

「ムー一族の村⁈」

 聞いたこともない名を訝しんでいると、いきなり上半身を脱がせられた。

「な…何してんだ? 」

 パールは躊躇することもなくはだけさせた胸を覗き込んでいる。これが慌てずにいられようか。

「ここ?痛いの…」

 少し紫色に腫れている箇所を見つけてパールは尋ねた。

 途端に痛みがぶり返す。

「…つ…」

「じっとしててね」

 パールは一平の胸に直に手を当て、目を瞑って何かを念じている。少しでも一平の痛みが和らぐようにと、施術をしているのだ。

 裸に剥かれた恥ずかしさと、少女がその肌に触れていることへの興奮で、一平の心臓は早鐘を打ち始めた。けれどパールの治療の効果なのか、パールが無事だったことへの安堵なのか、次第に落ち着いてくる。じっと動かぬ少女の前で、一平もじっと動かず、愛しげにパールを見下ろしていた。


「おまえは医術の心得があるのか?」

 突然、驚きと感心の入り混じった声が降ってきた。

 一平は慌てて顔を上げる。

 見知らぬ女性が立っていた。最前の若者たちと似たようないでたちだが、一見して女性とわかる美しい人だった。服装にも装飾品がつけられており、男の服なだけに却って色気を醸し出している。長い髪は邪魔にならぬよう頭頂でまとめて括りつけられてあり、そこにも装飾品が飾られていた。

 そして何より、背の高さが目を引いた。

 百八十センチほどになった一平よりもさらに大きそうだ。

 女性の登場に一平は泡を食っていた。肌を晒け出して女の子といちゃついているように誤解されても仕方のないような状態だったのだ。こんな無防備に自分の気持ちに正直に心地好がっていたのを見られたと思うと、顔から火が出るほど恥ずかしい。

 が、当の女性はその事は何とも思っていないようだった。ぶっきらぼうと言えなくもない、飾り気のない男言葉で平然と喋ってくる。その堂々とした話しぶりと仕草とで、経験豊富な大人の女性と知れる。だいぶ一平よりは、年が上のようだ。

「誰…です⁈」

 一平の問いに、女性は面白そうに頬を緩ませた。

 パールが気づいて代わりに答えた。

「ミラ姉さんだよ。この人がパールたちを助けてくれたの」

「もう毒されたのか?ミラと呼んでくれてかまわんぞ」

 例の若者たちが姐さんとか姉さんとかもめていたのと、年上ということを鑑みて、パールなりに気を遣って使った呼び名なのだろう。が、本人はミラ、とだけ呼ばれたがっているのがわかる。パールのような小さい子になら譲歩しよう、くらいの気持ちは感じ取れる。

「では、ミラ。…助けてくださったことには感謝します。ありがとう。でも…」

 経緯を知り、一平は一応例を尽くすが、不満も少々ぶつけてしまう。

「ちょっと失礼じゃないですか?いきなり、入室してくるなんて」

「おっと。それは失礼。眠っていると思ったのでね。できるだけ静かにしていたつもりだったが、お気に触ったようだ。…でも私はかなり前からパールとここにいたんだがね」

「え…⁈」

「二人の世界だったからねぇ。…もっと早く声を掛けた方がよかったかな?」

「……」

 この揶揄には参った。一平は真っ赤になって項垂れる。

 パールの方は訳もわからずきょとんとするだけだ。一平ちゃんはまだ怒っているのかな、くらいにしか感じていない。

 そのパールに近寄り、ミラが訊く。

「そうやっていると、良くなるのか?」

「うん。…そんな気がするの」

「気がする?」

 わかってやっているのではないか、とミラは訝しんだ。

「そうか…。話には聞いたことがあるが…本当にいるのだな。癒しの力を持つナイチンゲールが。まさか、おまえがそうとは…」

 一人合点した。

「ナイチンゲールじゃないよ。パールだよ」

 かわいい否定に笑みが零れる。

「ハハハ…。ここではそういう力を持つものをそう呼んでいるんだ。何故かは知らないが」

 一平には心当たりがあった。まさかこんな所で聞くことになろうとは思わなかった名前だ。

 ―ナイチンゲール―

 アメリカに実在したと言われる、戦地で怪我人や病人を看護して回った天使のような女性の名前だ。

 ここはアメリカ大陸に近い。どこからか聞き伝わってきたのだろう。

「いいことを知った。ちょうど良い。ぜひおまえに手伝ってもらおう」

 ミラは嬉しそうに言った。

「手伝う?」

「力を貸してくれ。ここのところ怪我人が大勢出て大変なのだ。しかも働き盛りの男たちばかりなので、ほとほと困っている。おまえのその力があれば痛みも和らぐし、回復も早まるだろうよ。どうだ?」

「どうしてそんなに怪我しちゃったの?「」

「事故でもあったんですか?」

 二人は思わず尋ねる。

「そこだ。実は、今回の弟どもの仕業とも関係があるのだ」

「弟?」

 聞き返す一平に、ミラはすまなそうに眉尻を下げた。

「すまぬ。おまえに狼藉を働いたのは、私の弟の一派なのだ。監督が行き届かず、申し訳ないことをした」

 一平は目を瞠いた。まさかだ。そんなこととは思ってもみなかった。

「では、あの…」

 リーダー格の男が、この女性の弟だったのだ。

 顔を思い出そうとしたが、うまくいかなかった。遠目だったし、近寄ってからはいきなりボコボコにされたので、ろくに顔など見ていなかったのだ。だが、雰囲気だけとってみても、似ても似つかぬ。この女性は信用できそうだが、弟の方はまるで逆だ。強いて言えば、このちょっと偉そうな口の利き方は似ているかもしれない。

「あのようないきなりの暴行。人を騙し討ちにするような手口は、この私が断じて許さん。謹慎処分にしてある」

「謹慎…」

「だが、背景に事情があったことも事実だ。わかってやってくれとは言えた義理ではないが、話しておこう」


 この国、ムー一族のムラーラ国には聖域と呼ばれる祠のようなものがある。そこには彼らの神であるラ・ムーが祀られている。その周囲は神獣が守っているため、定められた時以外は近寄ることはできない。掟を破ったものは例外なく神獣に食われて帰ってこないと言う。

 その神獣に近頃異変が起こった。

 人の味を覚えたせいではないかとか、祟りだとか、国のあり方に神が怒りを表しているのだとか、様々な噂が流れているが、はっきりとはわからない。

 数ヶ月前から人里に出没し、若い娘を攫っていくと言う。それに対抗しようと立ち上がった男たちが、先ほどミラの言っていた怪我人たちなのだ。

 攫われて行くのは若い娘ばかり。年齢は様々だが、将来子を産み育てて一族の繁栄を狙っていくべき女性がこうも次々と失われては、一族の存続も危うくなる。なんとしても阻止しなければならない。

 しかし、神獣は強く大きく凶暴であり、誰一人としてまともに相手にならないのだった。

 困り果てた国政者は、ついに占いに頼る。

 占いに出たこの危機を救う方法とは、『珊瑚色の髪の乙女を神獣に差し出すべし。さすれば神の怒りは鎮まり、ムラーラに平和が戻るだろう』と言うものだった。


「だから、パールを?」

 一平は聞くなりいきり立った。

 パールが珊瑚色の髪をしているという、ただそれだけの理由でパールを獣の餌にしようとしたのか⁈よりによって、ボクの大事なパールを⁈

「まあ、待て。そう怒るな。傷に触るぞ」

 ミラが宥めるが、そう簡単に収まってたまるかと一平は思う。

「国の中で賄えればよかったのだ。だが誰だって人身御供になりたくはないし、自分の家族を差し出したくもない。国政者だからといって、強制できることでもない。しかもムラーラには珊瑚色の髪の者は多くない。志願者を募ったが、そこまでの勇気と国を守るためという気概のある者はついに現れなかった」

 その先は聞かなくてもわかる。国内で調達できないなら、国外から連れてくればいい、という論理だ。身勝手も甚だしい。

「弟は―名をナムルと言うのだが―乱暴者ではあるが、本当は心優しい子なのだ。愛国心も人一倍ある。国の危機を黙って見ていられなかったのだろう。弟が珊瑚色の髪の娘だったら、一番に名乗り出ていただろうと私は思う。私とてこの身でよければ喜んで差し出そうものを」

 ミラの髪も緑だった。ナムルよりも黒に近い色をしている。

「そんな…」

 いくら国のためとは言え、国民がそんな申し出を喜んでするとはとても思えなかった。

「…あなたたちは、間違ってるよ」

 一平が言った。

「そんな、人の尊い犠牲の上に成り立つ平和なんてものが正しいはずがない。占いなんか信用する方がおかしいんだ」

「そうかもしれない。だが、長年に亘って身に染み付いた概念は侮り難い。そう易々と考え方を変えることはできないのだ」

 特に年配者においてはそれが激しいものだ。

「人を食うなんて、そんなのは神獣でも何でもない。ただの人食い獣じゃないか。みんなで退治してしまえばいい」

「神獣を退治する意見も出たが、何分にも神の領域のこと、退治するには踏み切れないでいるのが現状だ。弟は神獣退治に賛成派だが、神獣退治に行きたくとも、あの子の身分では行かせてもらえない。それが不満であのような暴挙に出たのだろう。それに、ナムル以外にも試みたものは何人もいるのだ。ほとんどが身内の悲劇に我慢しきれなかった者たちだが、いずれも敗退、もしくは絶命している」

「そんなに凶暴なのか?」

「私は見た事はないんだが、ナムルから聞いたところによると、かなりな」

「あいつ…退治に出向いたのか?それでよく…」

 僅かだが、思わず感心してしまいそうになった。

「出向きはしたが、戦うことはできなかった。供の者に無理矢理引き止められてな」

「供の者?」

 一平には身近でない言い回しを聞きと咎めた。そう言えば、さっきも身分がどうとか言っていたなと思う。

「言ってなかったな。あいつはまがりなりにも、このムラーラの元首の長男、次期総裁の第一候補なのだ。簡単に命を落としてもらっては困る立場にある」

「な…」

 開いた口が塞がらないとはこのことだ。よりにもよって、あんな卑怯な真似をする青二才が次期総裁?この国の無様な行く末が見えたような気がした。

「おまえの言いたい事はわかる。確かにあいつは未熟者だ。自分を抑えると言うことを知らない。直情径行で立ち止まって考えることが苦手なのだ」

「そんな奴を総裁にしていいんですか?他にも候補者はいるんでしょう?」

 尋ねてからはっとする。ミラはナムルの姉だと言っていた。と言う事は、ミラも国家元首の子どもではないか。

「あなたは…総裁にはなれない⁈」

 年下のナムルの方が第一候補ということは、女性にはその資格がないということではないのか、と一平は思い至った。この人の方がよほど施政者には相応しそうなのに。

 諦めとも安堵とも言えぬような微笑みをミラは浮かべた。国家権力など私には無用、と言っているようにさえ見える。

「お察しの通りだ。女は子を産んで育てるのが第一の役割と相場が決まっている。納得できずに、ずいぶん私も抵抗してきたつもりだが…そう簡単には変わらんよ」

 ミラは一瞬遠い目をした。

「別に総裁になりたいわけではない。国が安泰ならそれでいい。願わくは…弟にもう少し国政者らしくあって欲しいのだが…」

 ミラの悩みはなかなか深そうである。

 それこそ部外者である一平には関係ない話なのだが、ちょっと見にも男勝りでしっかり者そうなミラが表情を曇らせているのが、いかにも深刻そうで気遣わずにはいられない。


「…とにもかくにも、まずは現在のこの状況を打破しなければならん。皆、これ以上ないほどに頭を悩ませているのだ。…そんな事情があったのだ。おまえたちには本当に申し訳ないことをした。私の責任において、おまえたちの身柄の安全は保証しよう。取り敢えずはしばらくここに逗留して身体を治してくれ」

 身体を治せ、と言われて再び痛みがぶり返す。

 どうやら自分で思う以上に痛め付けられたらしい。確かにあのナムルとか言う奴のパンチは効いた。不意打ちなので尚更だ。

 一平は自分の身体を見下ろした。外傷は無いようだが、紫色に腫れ上がっている。常時水に晒されているため、打撲にあっても赤く腫れ上がる事は滅多にない。その代わりにすぐ青くなる。内出血をしている事は明らかだった。放っておいても直に治るだろうが、適切な手当てはより早い回復をもたらし、変形や後遺症を防ぐ。

 痛いのは腹や胸ばかりではなかった。顔を殴られたときに、自分の歯で口の中を切ってもいた。頭の方は脳震盪を起こしただけで済んだが、下手をすれば本当にあの世行きだったのだ。

「こんなのは…パールが治してくれる。無用の気遣いだ」

 思わず強がりが口をついて出た。

「…その話だ。本当にその少女は癒しの力を持っているのか?」

 ミラが熱心に問い詰める。

「本当の癒しの力がどういうものかは知らないが、ボクは多少なりとも効き目があると思っている。何人かにそう指摘されたし…。あなたの言う通りのものだったとしても…力を貸せと言うのはお門違いだろう⁈この国の人間がパールにしたことを考えたら、そんな事は言えないはずだ」

 一平はやはりまだ怒っていた。自分の命よりも大切なパールを獣の餌にされるところだったのだ。その辺は割り引いて見てやっても罰は当たらないだろう。

「わが国でもお医師の数は限られている。患者が桁違いに多いのだ。また、お医師だからといって患者にならぬという保証は無い。そういう力はいくらあっても過ぎるということはないと思うが…」

「……」

「頼む。しばらくの間でよい。おまえが良くなるまででもよい。パール姫を貸してはもらえまいか?」

『姫』と呼ばれて、パールは目を丸くした。瞬きを繰り返し、不思議そうな目でミラを見た。

 一平が断る、と言おうと口を開いた途端、パールに先を越された。

「いいよ」

「パール‼︎」

 思わず大声を出して嗜めようとする一平だが、パールは純粋な微笑みを浮かべて素直な目でミラを見ている。

「でも、その代わり一平ちゃんを治してね。ちゃんとしたお医師様に診てもらいたいの。パール、自信ないから…」

 二つ返事でオーケーしたのは一平のためなのだと悟って、彼は何も言えなくなってしまった。

 ミラの方は喜んで小さなパールの手をとった。

「もちろんだとも。約束する。ムラーラ一のお医師を寄越そう」

 そうと決まれば話は早い方がいいと、ミラは動き出した。早速お医師を手配してくれると言う。

 しかし部屋から足を踏み出してから、言い忘れたと戻ってきた。

「おまえの部屋を別に用意した。一平の怪我はお医師に任せて休むといい」

 パールに向かって告げた。

 身柄を離されると気づいて、一平は慌てた。ミラの事は信用できそうだが、なんといっても、ここはあのならず者のナムルのいる国だ。しかもあいつはミラの弟ときている。もしも引き離されている間にパールに何かあったら…。

 一瞬のうちに気を回すと一平は言っていた。

「お心はありがたいけど、二人一緒にお願いできないだろうか」

「それはまずいんじゃないか?おまえはもう十五だと聞いた。女の子と一つ部屋と言うのは、外聞が悪い」

 ミラの言う意味を理解して一平は少々赤くなる。

 しかし、反論する。

「…その心配はありません。今までだってずっと一緒だったんだ。それに…パールは…妹ですから」

 ためらいながら、一平はそんなことを口にしていた。

 驚いてパールが目を瞠った。が、賢明にも彼女は何も言わない。

「…妹…そうか…」

 ミラは鳩が豆鉄砲を食らったような顔になる。

 そんなはずがないのは明らかだ、と目が語っていたが、こちらも賢明におとなしく引き下がった。

「そういうことなら、おまえの言うようにしよう」


 ミラが部屋の近くにいなくなったのを見計らってからパールが訊いてきた。

「パールは一平ちゃんの妹だったの?」

 まるで知らなかった真実を告げられたかのように真面目な表情だ。

「そんなはずないだろ。そういうことにしといた方が都合がいいんだ」

 不思議になるほど素直な心を持っていることに、いつも一平は驚かされる。

「知らない人ばっかりなんだ。別々にいたら、心配事が増えちまう」

「ミラ姉さんはいい人だよ」

 パールは自分たちの危機を救ってくれたかっこいい女性にもう心酔しているようだった。パールに対しては優しいので、当然の結果かもしれない。

「ボクもそう思う。けど、問題は他の奴だ。特にナムルとか言う弟の方…」

 思い出すだに腹立たしい。

「じゃあ、一平ちゃんもミラ姉さんのこと好きなんだね。よかった」

「え…」

 そういう問題じゃないんだけど、と一平は鼻の脇を掻く。

「パール、びっくりしちゃったよ。一平ちゃんのこと、お兄ちゃんて呼ばなくちゃならないのかと思って」

「………」

 そう呼んでもらった方が信用してもらえるかもしれない。だが、パールにそのような器用な真似ができるわけないのだ。正直の権化のようなこの子に嘘をつかせるのは忍びない。

「無理をすると却って不自然だからな。いいよ、そのままで。そういう習慣だとか、なんとでも言い訳はつく。それよりおまえも少し寝ろ。どうせずっとボクの看病をしてたんだろう?」

 この頃わかってきたことの一つにパールの体力のことがある。元々未熟児だったせいで発達が遅く、体力もないらしいが、癒しの力を使った後は特に消耗するらしい。普段よりよく眠るし、時によっては口を利くのも億劫な様子が窺える。今もかなり疲れているのに違いないのだ。

「もう痛くないの?ここで寝ていいの?」

 一平のことを案じているための憂慮と、一平の傍らで休める安心感が交互に顔に現れる。

「直にお医師とやらが来てくれるから、心配するな。ここに来い」

「うん!」

 パールはぴょんと寝台に飛び上がる。

 一平が横になっているのは、磨き上げられた岩に海藻を敷き詰めて留めたものだ。形状は四角い。海の中にこんな人工的な形のものがあるとは驚きだ。地上のベッドに比べれば、ものすごく硬いが寝心地は悪くない。ゴツゴツした岩の上や砂などをベッドにしてきた一平にとっては、久々のふかふか布団だ。

 気づけば服装も変わっていた。

 一平はそれまで着ていた父の形見の服ではなく、バスローブのようなものを着ていた。手当てをしやすいように前開きの服に着替えさせてくれたようだ。聞けばその他にも部屋着や普段着を用意してくれていると言う。あまりにもみずぼらしくなっていたので有り難く着用させてもらうことにする。

 いつものように懐に潜り込んでくるかと思いきや、パールは少し間を置いて横になった。

「…⁈…何、遠慮してるんだ?」

 怪訝な顔顔の一平に向かってパールは説明する。

「…痛いでしょ。パールがそばにいたら。…ぶつかっちゃうかもしれないし…」

 なんの、と一平はパールを引き寄せた。

「おまえが触れててくれた方が…楽なんだ」

 パールは嬉しそうに微笑んで、あっという間に寝入ってしまった。

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