11. 学園のトップ7 〜第4話〜 "世界最強"
なんか長くなっちゃったなー。
すみません
「はぁ……一体、どうしたものか……」
俺は梨沙に、あの日、俺が公園で一人寂しくチーズ牛丼を食べていた公園で、ある相談受けてもらっていた。
「……あのー。なんでこの公園なの?」
「なんか……安心するんだよな。この公園のこのベンチに座ると、久しぶりに実家に帰省した気持ちになるんだよ」
「きっもちわる」
俺は、あの日から……ずっと、ずっと、悩んでいた。
しかし、その悩みは、この後一瞬にして消え失せてしまうのだった。
「sssランク、か……なんか、すごいじゃん!! あんた、無敗のクイーンより上のランクに昇格するんだよ!? どう!? 今の気持ちは!!」
「最悪だよ!!! バカにしてんのか!?」
sssランク……もし、sssランクに入れたら、俺の欲しいもののほとんどが手に入るのだろうな……しかし、俺はその"ほとんど"を手に入れることを、まったく所望していない。
"俺の責務は……sssランクでは果たせない……"
そう、思っていた時。俺は、フードをかぶっている見知らぬ男に声をかけられた。
「よぉーそこの少年」
「俺、そんな少年って言われるような年齢じゃない気がするんだけど」
うーん。誰だろうか。俺の知り合いか?
……まずい。もし本当に、本当に俺の知り合いなのだとしたら、知り合いなのに姿も名前も全く覚えていないのはまずい。
と、とりあえず、話を続けるか。
「……あ、あんた……一体何者だ? 只者じゃないだろう?」
うん? さっきまで全然気づかなかったが、こいつ……強い? 一体何者だ? おそらく、こいつは強い。とんでもなく強い。
清水結衣……無敗のクイーン並? いや、もしやそれ以上……! しかし、なんでさっきまで気がつかなかったのだ? 強いやつの気配は、とてもわかりやすい。俺は、気配を感じることが、あまり得意な部類ではない。俺より弱いやつでも、俺並に、俺以上に気配を感じるのが上手いやつは山程いるだろう。しかし、さっきまで感じられなかった気配を急に感じられるようになるなんて、そんな事は今まで経験したことがない。
一体どういうことだ? もしや……俺に近づくまで、気配を消していたとでも言うのだろうか。もしそうだとしたらこいつは……あいつ並のの実力の持ち主かもしれないな。
俺は、久しぶりにとても高揚していた。
「……お前……なんでそんなにやけてんの? キモいんだけど」
「……ちょっと言い方キツくない? ちょっと……ちょっとだけ興奮しちゃっただけさ」
「きっもちわるっ」
「おい、俺のさっきの話聞いてた? ちょっと言い方キツくない!?」
そんな、俺の言葉なんかには聞く耳を持たずに、目の前のフードをかぶっている男は、少し興奮気味に語り始めた。
「俺な。実は、この国最高峰の学園から、なんとな! 直々にスカウトが来ちゃったのよ!!! 是非、私の学校の教師になってくれないかって!!」
「……は?」
「はじゃねーよ」
こいつ、何を言っているのだ? あの学園から直々に?……んなわけ……というか何のために……
そこで、俺はハッとした。
「もしかしてなんだが……お前、新しく作られるランク、sssランクの担任だったりは、しないだろうな?」
俺がそう言った瞬間に、目の前のそいつは指を鳴らしながら、言った。
「大正解っ!! そう、俺はsssランクの担任!……になる予定の男だ!!」
「あまだ決定はしてないのね」
「というか、俺はさっきまでならない方向で行こうと思ってたぞ?」
「……えまじで?」
何か、教師にならなくてはならない理由が生まれたのだろうか……
「俺のことを知っているってことは……君が噂の……話題の落ちこぼれか!?」
「初対面でよくそういうこと言えるな」
「いや、違う違う。言い方が悪かった。校長は、君のことをかなり買い被っていたよ」
「いや何も違くないじゃねーか」
……なぜだろう……こいつと話していると、初対面のはずなのに、どこか懐かしい感覚がする……
俺、こいつと知り合いなのか? だめだ。まったく記憶がない。まじで誰だ! こいつっ!!
いや、そんなことよりもだ……俺……もしかして無敗のクイーンとか、こいつみたいに見るからに強いーって感じの気配出てないのか? だから初対面の奴らに舐められるの?
俺結構強いはずなんだけど? おかしくない? 俺とこいつの違いはなんだ? なぜ、こいつには明らかに強そうな気配が出ているんだ?
まあ、これ以上考えても、悲しくなるだけだな。
……泣
「まあ、あの学園の校長があそこまで言うってことは、君には何か、あるんだろうね」
「まあ……一応、無敗のクイーンに勝ってるからな」
「おいそれ初耳だぞ?」
……は?
「え? 嘘だろ? 学園長言ってないの?」
「一言も言ってなかったぞ。そんなこと」
……は? なんで? 不意打ちだったからか!? 不意打ちは倒したうちには入んないってか!?
た、たしかに? 不意打ちだったけどね? 別に不意打ちじゃなくても倒せるし!? 別に!?
もう……なんというか、メンタルが……
……もう帰ろ。
「……てことで、まあ、ここらで解散ってことで」
「えー早くないか? 俺はまだ、君と話したいんだが……まあしかたない。じゃあな少年、今度はsssランクの教室でな!」
そうして、その男は俺が瞬きした次の瞬間には、視界から消えていた。
「ふぅ……世界って、広いんだな……まさか俺とあいつ以外であんな強そうなのがいるとは……」
そんな事を言っていたら、隣に座っている梨沙が、急に立ち上がった。
「なんだ? 梨沙。俺たちも解散するか?」
ペチッ
「……え?」
「なんで……なんで私をいないもの扱いするの!? 私をここに呼んだのはあんたでしょ!? なんで!? なんでなの!?」
うーん……
いけない。これはいけない。挽回しないと。
「ち、違う! ちょっと、ちょっっと気分が高まっちゃっただけなんだよ!」
そう、俺が言うと、目の前のそいつは頬を膨らませながら、こう言った。
「ほ、本当に?」
「本当だ」
「そ、そう……」
なんだ? こいつ。俺のことを好きなのか?
……そんなわけないか。自分で言うのもなんだが、俺に、誰かを好きにさせるような魅力的な要素があるとは、到底思えない。
「というか……さっき言ってたの、誰よ?」
「ん? 誰のことだ?」
「ほら、さっき言ってたじゃん。俺とあいつ以外でーって。もしかして結衣ちゃんのこと?」
結衣ちゃん、だと……っ!
「……この短期間で、あの怪物に結衣ちゃんと呼べるような関係にまで至るなんて……恐れ入った」
本当に、本当に梨沙は凄いやつだ。
「……結衣ちゃんに一回しばかれれば良いのに」
「おい聞き捨てならないんだが?」
そして相変わらず、本当に、本当に、梨沙はとても物騒である。
「で、誰なの? 結衣ちゃん以外であんたと同じくらい強いやつなんて、全く見当もつかないんだけど……」
俺は、この質問に答えるか答えないか、悩んだ。
そして、悩んだ末に、俺は答えることにした。
「俺の……父親だ……」
……長い沈黙の末、先に口を開いたのは梨沙だった。
「やっぱり…………遺伝子なんだな。所詮」
「くそっ! そうだろう!? 絶対そう言うだろう!?!? だから言いたくなかったんだよ!!!!!!」
俺は、梨沙の頭を指でぐりぐりした。
「痛い! 痛い゛!!! やめて! 結構痛いんだよ!? それ!!!!」
「ふふーん。それはもう無敗のクイーンで立証済みだ!!」
しばらく頭ぐりぐりを続けた後、俺はやがて、口を開いた。
「……実は俺……ちっちゃい頃、全然戦いの才能がなかったんだ」
「……本当に? 戦闘のの才能がない? あんたが!?」
「お前こそ俺のことを買い被りすぎなんじゃないか?」
俺は梨沙に、父親に関する情報の概要を話した。
「俺の父親は、全てのことにおいて、"世界最強"であった」ということ、「そのせいで、父親は、俺が2歳の時にこの国に命令され、戦争に向かい、その後消息不明である」ということ。
「……うーん……あなたのお父さんは、世界最強と言われるほど強かったのでしょう? なのになぜ、戦争に行ったっきり消息不明なのかしら? なにか原因が……」
……はぁ
「原因? そんなの分かりきっている。慢心だ。足元を掬われたんだろ。あんなやつは、そう言う運命を辿るのだと、決まっているのだ」
「ちょっと。その言い方はないんじゃないかな。君は、お父さんに何かされたの? 何かされていたとしても、そんな口の聞き方をしていいほどのことなの!?」
「……あぁ。そうだよ……あいつは、俺の親父は……俺にとって、それだけのことをした」
その後、少しの沈黙の末、梨沙は口を開いた。
「……そ、そうなのね……申し訳なかったわ……」
「……あーもう!!! こう言う雰囲気になるから話したくなかったんだよ!!」
こういう、しんみりとした雰囲気は、あまり好きじゃない。
「じゃあ話さなきゃよかったじゃん!!!
…………というか、あんた、お父さんのこと好きでしょ?」
……っ!!!
「べ、別に!? 好きじゃないですけど!?」
「うーん……たしかに、好きっていう感じではないかもね……好きっていうより……尊敬に近い感じ? あなた、そんなにお父さんのこと尊敬しているんだね? 意外と……可愛いところあるじゃない」
「……も、もういい!! 俺はもう部屋に戻るからな!? お前も遅くなる前には部屋に戻っておけよ? ここら辺、最近不審者とか出てるらしいからな!!!」
「おい。あんた、そんな場所にレディを呼んだのか? しかも一人で? ……うそだろ……?」
今日は、大変な1日だった。
……やってしまった。責務を果たすまでは、こういう話をするつもりはなかったんだけどな……
しかし、心なしか、心が……体が、軽くなった気がする。
こんなに、明日が楽しみなのは、久しぶりだ。いや、ここまで楽しみなのは生まれて初めてかもしれない。
そう、思った。
「明日も、いい1日になりますように!」
俺は、自分の部屋で、そう、口にするのだった。