天の楽園
やぁやぁ皆様。大変お待たせいたしました。昔噺のお時間にございやす。
遥か昔、まだ天と地という概念がなかった頃の話でございやした。
えっ?そんな真偽のわかんねぇ噺なんてどうでもいい?さっさとかの英雄の噺をしろって?
っかぁ〜!最近の人は本当にせっかちで困ったもんでぇ。
噺がわからなくなっても知りやせんからね?
そう、それは今よりもずっとずっと昔、
「まだ、神がこの世の実権を握っていた頃の話でございやす。」
楽園エデン。
神々を愛し、神々に愛されるものが住まう国。
花は咲き乱れ、鳥が囀り、人々は歌い踊って暮らす国。
ある日、とある青年が神直属の福祉機関”アマデウス”に入るべく、
神の座す場所”オリュンポス”へと向かっていた。
「こ、ここが大御神の座す場所…。」
神々しい大きな神殿を前にして
ごくりと喉を鳴らすこの青年こそが、この噺の中心となる人物、ローレン・ヘリオス。
輝かしい金髪でそこそこ容姿端麗である以外は特に特徴のない今を生きる並一通りな青年である。
母親と父親のいる3人家族で、つい先日ハイスクールを卒業したばかりの18歳。
幼少の頃から神のお膝元で働くのが彼の夢だった。
「やっと…やっとここまで来たんだ!絶対にここで大御神様にご奉仕するんだ…!」
そう言いながらローレンは神殿に向かって足を進める。
繊細な装飾がほどこされた門を潜るとそこはまるで別世界のようだった。
一点の曇りもない白い壁や床には一面彫刻がされていて、不思議なことにあるはずの天井には現実の青空が広がっていた。
「うわ…やば。」
壁と床の白さは決して汚すことのできない、いや、汚そうと思うことすら罰当たりに思えるほど美しく、神の神聖さをひしひしと感じさせる。
威圧感に負けぬよう、パンッと頬を叩き、気合を入れ直す。
「えっと、試験会場は…カメラ・ウィルトスだから…中庭の方か。」
ローレンは試験を受けるべく、また歩き始めた。
中庭にはたくさんの植物が植っている。
枯れることを知らず生い茂る様子はまさしく神の楽園を体現している。
カメラ・ウィルトスは受験者の勇気を試し、振り分けるための部屋だ。
この部屋の扉もまた重厚な作りで、威圧感を感じる。
ギィ…と音をたてて扉を開く。
中は中央を囲うような形の長机と長椅子が配置されていた。
ローレンはどうやら一番最後の受験者だったようで着席すると同時に鐘の音が部屋を満たした。
大きな音を立ててドアが開く。
「諸君。これからアマデウス選抜試験を行う。心してかかるように。」
その一言を皮切りにして部屋の空気が変わった。
「私は偉大なるゼウス大御神の配下、デウス・ステラが一人、アリエスだ。よろしく。」