表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
相互異世界譚〜帝都と妖都とその考察〜  作者: なこまる
[妖怪だった]
5/5

【古物商】貉




「はぁい、いらっしゃぁい。買い取り? それとも何か欲しいの?」


 人体模型が、高いテンションで、肩を組んだまま、耳元で、声優ばりの低くて良い声で、話し掛けてきた……オネエ言葉で。


 情報多過ぎだろ。

 人体模型って妖怪か?

 都市伝説的なアレじゃないのか?

 今ではほとんど見る事の無いレトロな人体模型。身体の半分筋肉剥き出しで、内蔵が取れるあれだ。

 しかもしっかりと男性器が付いている。


 とりあえず俺の首に回されている人体模型の腕を外し……ゴドンという音と共に床に落ちた。

 外すって、そういう外すではなくだな。俺の首を解放してもらおうとしただけなのに。



「あらやだ、落ちちゃった」

 軽いな! それで良いのか人体模型。

「もう少し柔らかい素材ならもっと(なめ)らかに動けるのにぃ、残念~」

 何となく、このまま固い素材でいた方が世の中の為のような気がする。


 そんなこんなで、落ちた腕を嵌めたり、嵌めたり、嵌めたり……面倒臭いな!

 落ちた衝撃で腕が分解してしまい、立体パズルよろしく、組み立てた。

 なぜ筋肉側の腕を回してきた、お前。

 上腕二頭筋長頭を拾ってくれ、とか、上腕三頭筋短頭がどうのとか言われても、俺にわかるはずがない。


 そもそも普通の人体模型は、こんなに細かく分解出来なくないか? と、嫌気が差してきた時。

 店の奥から()()が出て来た。


 着物を着た茶色い二足歩行の動物(よう)の物体は、()()としか言いようがない。

「うるせぇぞ、人体模型」

 暖簾(のれん)をかき分け出て来た其奴(そいつ)は、俺を見ると目を大きく見開いて固まった。



 たっぷりと5秒は固まってから、ボフンという音と共に、()()は美青年に変身した。

「いらっしゃい。何かお探しかな?」

 着流しの着物が似合う、美青年が笑いかけてくる。

 遅ぇわ! 妖怪の姿、完全に見てるわ!


〈うおぉぉお! びっくりした、びっくりした! まさか客が居るとは思わなかったよ。後で人体模型君は説教だな。客が来たらちゃんと声掛けてくれないと!〉


 爽やかな笑顔の裏で、すっごい焦っているらしい。

 早口だし、うるさい。


(むじな)の姿で人前に出ちゃったよ! しかも美少女だし、焦ったぁ。カウンターあるし、下半身は見えてないよね? ね?〉


 俺は美少女では無い。残念。

 そしてむじなの姿だと、着物を着ててもナニが見えるらしい。

 信楽焼の狸みたいな感じか? 特大サイズ。

 美青年に(へん)()後なのに、つい視線が股間を見てしまった。

 別に特に大きそうではないな。当たり前か。




「人間の物を売りたい」

 貉の変化は見てない振りで、カウンターの上にハンカチを置いた。洗濯してあり、今日はまだ使ってない。

 四隅に桜の柄のある女性用のハンカチだ。母親は自分用に買ったハンカチを、平気で思春期真っ只中の高校生の俺に持たせる女だった。


 ただ単に、俺用の買い物をしない、とも言える。

 それでもきちんと世話はしているアピールで、勝手に鞄に新しいハンカチや、冬だと手袋が入っていたりした。

 他人の目に触れる物ばかり、というのがあの女らしい。


 だが、今回はそれが役に立った。

 貉が目を輝かし、桜柄のハンカチを手に取った。丁寧な手つきで広げる。

「おぉ! 素敵なハンケチだ」

 ハンケチ?

「これなら5万円……いや、8万円でどうかな?」

 それ、多分3枚1,000円とかのハンカチだけどな。

「売った!」

 買い叩きの心の声が聞こえなかったので、喜んで売らせていただきます!




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ