妖怪の店
「おやお前さん、人現界の物を随分いっぱい持ってるじゃないかい」
お婆さんは俺を見て、驚いた後に目を輝かせた。商売人の顔だ。
「どれを売るんだい?」
喫茶店じゃないんかい! と、口に出しそうになって、慌てて口を塞ぐ。
〈黙り込んで変な娘だね。それに落ちて来た物を拾ったにしちゃ、多過ぎるね。落ち人か? それなら、拾った妖怪のモノだ〉
いつものように、声が頭に響く。
これはこのお婆さんが思った事、心の声とでも言うのだろうか。
超能力だと思っていたけど、妖怪さとりの能力だったわけだよな。
いや、ある意味超能力?
それにしても、妖怪の心の声も聞こえるのか。
そう考えると逆に、あの女の心の声はなぜ聞こえなかったのか……。
まぁ、今更だな。調べようがない。
「何か困っているなら相談に乗るよ?」
お婆さんが優しそうに見える笑顔を浮かべ、殊更親切そうに振る舞う。
心の声が聞こえてなかったら、騙されて……いや、無いか。
本当の親切でも、絶対に裏があると疑っただろうな。
「これを売りたい」
俺はポケットの中から、飲み物を買う為に常に入れてある小銭をカウンターに置いた。
200円。
「んん? なんだい、これは。一本蹈鞴の作った金じゃないね。柄も違うじゃないかい」
〈100と書いてあるが、蹈鞴印が無いから贋金だね。いや、もしやこれは人現界の金かい? それなら古物商に持ち込めばイイ金になるね〉
「子供の玩具かい? それなら一個10円で買ってやろう」
お婆さん改めクソババアが、親切ごかして笑顔で人の金を騙し取ろうとしてやがる。
タタラインって何だ?
まぁ良い。古物商に行けば良いのか。
その情報が手に入っただけでも、この店に入った価値はあったな。
「他の店も見てみるよ」
俺はカウンターの上に置いてあった200円を掴み、踵を返して店を出た。
後ろからクソババアの声が聞こえてきたが、勿論振り返りはしなかった。
【古物商】【こぶつしよう】
商店街の端に、目当ての店はあった。
ここに来て、初めて漢字を見たな。
入口扉の上に掲げてあるひらがなの看板の方が大きく、色が褪せてて古い感じがする。
入口横にある漢字の方は、プラスチック製に見えるな。この街の中では、少し浮いている。
プラスチック製の看板に触れると、ピカッと明かりが灯り、看板が明るく光った。
センサーライトの応用なのか、無駄に高性能だ。
街並みに合わせて入口扉が木製の引き戸なので、尚更この看板だけが浮いている。
そして案の定、触れてもいないのに引き戸が開いた。
「いらっしゃいませ~」
低いけど妙に明るい声に迎えられ、店内に入る。
狭い店内は、鍵付きのガラスケースが並べられており、中身は俺には見覚えのある物ばかり。
シャーペンや消しゴムまで鍵付きのガラスケースの中だ。
店内を見回した。人? 妖怪? とにかく生物の気配は無い。
受付兼会計用であろうカウンターのすぐ脇には、昔懐かしの人体模型が置いてあった。都市伝説では夜中に学校内を走り回るアレだ。
カウンター自体は無人で、あの「いらっしゃいませ」の声の主はどこなのか、とカウンターに近付いた。
中でしゃがんで作業でもしているのかと思ったからだ。
カウンターに乗り出すように中を見たが、誰も居ない。
と、突然首? 肩? に固い物をぶつけられた。
「Hey, bro」
テンション高く、妙に良い発音で声を掛けられ、声の主へと顔を向ける。
そこにいたのは、さっきまでカウンター脇に立っていた人体模型だった。