妖幻界
『お前のいるべき場所はここではない』
見知らぬ女にそう言われた途端、まるで世界から弾かれるように、俺の身体は飛ばされていた。
気が付いたら見知らぬ場所に居た。
学校帰りに在る道祖神の前を通りがかった時、いきなり話し掛けてきた女。
変な女だと思ったら、変どころではなかった。
女は俺を妖怪だと言った。
しかも、自分が人間の赤ん坊と妖怪の俺を入れ替えたのだと。
そして飛ばされた俺は、道祖神に吸い込まれるように此処に居たのだ。
今時の、普通の街中なのに、何故かポツンと置かれていた道祖神。これだけ時空を超えたみたいだな、といつも思っていた。
今まで浮いて見えた道祖神が、とてもしっくりと馴染む街並み。
昭和? ……いや、もっと前。教科書やテレビで見た事のある、明治初期のようだ。
「どこだ? ここは……」
思わず言葉を口に出したのは、やはり不安だからだろう。
他人には「冷静過ぎて怖い」や「感情が無い」などと言われてきたが、俺にも感情はある。
ただ、それを表に出すのを止めただけだ。
それにしても……何だ? この世界は。
街並みは古き時代の日本っぽいけれど、なぜ桜と紅葉が同居している?
「寒っ」
急に冷たい風が吹いたかと思ったら、雪が舞っている。
まるで俺みたいな世界だな。
夏生まれなのに、紅桜雪と書いて『ふぶき』と読む。女のような名前。
美少女と称される顔ではあるのだが、残念な事に俺は男だ。まぁ、それで得する事もあったし、そこだけは両親に一応は感謝しておくか……と、思っていた。
実際は血が繋がっていないどころか、種族も違ったわけだが。
ほぼ育児放棄されていたのだが、本能的に異物を排除しようとしていたのかもしれないな。
まぁ、こんな異様な世界に飛ばされたからこそ、そう思ったわけで……ホンの数分前までは、いつか有名になって「俺はネグレクト被害者です」とか言ってやろうと思っていたのだがな。
紅桜雪とは、大地主であり古くからある名家で、先祖が大名だった血筋しか自慢するところの無い父親が付けた名前だった。
「俺は選ばれた人間なんだ!お前らとは違うんだ」が口癖の、いい歳をして厨二病を患っている父。
キラキラネームにしても、もっと他になかったのだろうか?
まぁ、変な名前が付けられたのは、俺の髪が赤くて、肌が北欧人のように白いせいもあるかもしれないが。
母親が、自分は北海道出身なので先祖にロシア人がいたのだろう、と言っていた。所謂先祖返りというものだ。折角なら顔もロシア人並に彫りが深い男前なら違ったのだろうが、残念な事に典型的な日本人顔だった。美少女だけど。
さて、道祖神の前で座っていてもしょうがない。
とりあえず移動して、誰か人を探そう。
そうすればここが何処で、どういう場所なのか判るだろう。
何故なら、俺は他人の心が読める能力があるのだから。
「あ、妖怪さとり……」
女に言われた妖怪さとりの能力と、自分の能力が今やっと、=で結ばれた。
超能力だと思っていたのに、妖怪の力だったのか。
その前に、本当に妖怪なんて存在したのか。
まぁ、その妖怪が自分だったわけなのだがな!