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愛され気質な逸般人の異世界奮闘記  作者: Mat0Yashi_81
三章:災禍を滅ぼす虚無の躍進
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1-7:ディメンション・レイ

 天才であるがゆえに、ひらめきは似通う。




 



突発的発生(アウトブレイク)ねえ・・・」


 森と平原の境目、遠くに見える城壁に囲まれた都市を眺めながら、俺は現状を整理する。

 暇神様に「(現実)で何かが起こっている」と知らされて起床した直後、俺達は体感で震度三くらいの揺れを感じた。

 それを皮切りに大量の魔力反応が目の前の街───テグラに殺到し始めたため、馬車は森の出口で一旦待機。

 魔力反応の発生源・・・が何故か探知できない(・)ため、とりあえずは危険を避けるためにも街には近づくべきでないと判断している。


「どう・・・でしょうかね。

 何が起こってるか、把握できたりしやせんかい?」


 御者の人にそう問われるが、生憎と把握は無理だ。

 熱源探知は発生源があるであろう森の木に邪魔されるし、音響探知は雑多な足音しか拾えない。

 人間であれば二酸化炭素を探知する手もあるが、相手は魔物なので循環するのは魔素。

 そして今は、その魔素が何らかの要素によってジャミングされている。

 しかも街の周辺だけ。

 バリアを展開している様子もないし、これはどうするべきか・・・


「サッパリわからない。残念だが」


 とりあえず断言はしておいて、はてさて。

 悩んでいても仕方ないし、動いた方が早そうだな。


「ニア、グリム」

「はい」

「はいっす!」

「車列を守れ。手段は問わない」


 緊急事態っぽいので実体化していたニアと、普通に寝ていたところをゴリゴリに起こされたグリムを呼び、端的な命令を伝えた。

 この場に立ち往生しているのは俺達が乗ってきた馬車だけではない。

 何らかの商会のお偉いさんが乗っていそうなものや、沢山の民間人が乗っているものまで、計五台ほど。

 ほかの馬車にも護衛はいるし、概ね足りる戦力ではあるだろう。

 任せた事柄が失敗することはないはずだ。


「ど、どこへ・・・」

「ちょっくら偵察に。護衛はそこの二人で」

「そんな・・・うわっ!?」


 御者は驚き、浮遊魔法で飛び上がった俺とティアを呼び止めようとしたが、戦闘態勢に入ったことで魔力を解放したニアに驚き、狼狽える。

 俺達はその隙に魔力を解放して飛翔魔法を起動し、そこまで急いでいない程度の速度・・・まあ時速六十キロくらいで飛ぶ。


「発生源と思しき場所は・・・」

「ほぼ反対側?」

「そう。危険は薄い気がしなくも無いがな」


 とはいえ、対策はしておくに限る。

 ここで人死が出たら嫌だし。


「・・・ん」

「どうしたの?」


 と、ここで俺に対する魔力通信。

 知らない魔力の特徴だから、テグラの街の人達か。


『憲兵隊より、飛行している色付きに告ぐ。

 街は魔物の突発的発生(アウトブレイク)によって警戒態勢にあるため、不要な飛行は控えていただきたい』


 警戒状態だから無闇に飛行するな、という警告。

 まあ、なるようになる。


「失礼、こちらは虚無の寵愛者、グレイアだ。

 南東方向の森の出口付近で立ち往生している車列から飛んできた。

 ここで何が起こっているのか、周囲環境の現状を教えてくれないか」

『・・・・・・待機を』

「了解」


 巻き込まれるのを承知で名乗り、現状を説明すると相手は少しの間の後に簡単な命令を残して音声をミュート。

 どう対応するかを考えているのか、次に連絡が帰ってきたのは一、二分ほど経過してからだった。

 ブツッという音が鳴り、多少のノイズとともに相手の音声が聞こえる。


『憲兵隊より通達。

 虚無の寵愛者は狼煙が上がった位置に移動せよ。

 南東方向の車列については憲兵隊で対処する』

「了解した。感謝する」


 応答を終えて辺りを見回すと、緑色の魔力の線が空に向かって伸びている場所があったため、それが狼煙なのだと把握。

 それから、俺は動く前に通信魔法を使い、ニアに連絡を取る。


「ニア、憲兵隊がそっちに行く」

『把握しました。マスターは』

「ご指名だ」


 端的に告げ、魔力の狼煙が上がっている場所・・・街を囲む塀の上にやってきて、手招きをしている軍服の男性の目の前に降り立った。

 中肉中背で、そこそこの階級っぽい紀章をぶら下げている男性は、俺とティアが着地するなり重心のブレが一切ないモデルみたいな足運びで近づいてくる。

 それを見た俺が右手を差し出すと、男性は帽子を取って俺の手を握った。


「初めましてだな、兄弟!」

「どーも。俺の事はご存知なカンジ?」

「追加のアーカイブを待ち望んでいるくらいだな!」


 ハキハキとした口調にクソでかい声量。

 正しく鬼教官をやっていそうな彼は、ヨーロッパ系のビジュアルで男らしい髭を生やしたナイスガイ。

 年齢もオジサンぎみっぽくて、パッと見では四十代くらいに見える。

 会話するのに困らないタイプの人だ。


「さて、俺は帝国軍人のヘルマンという。

 階級は少佐だが、兄弟は軍という組織をどれくらい知っている?」

「初手で佐官と会話することに驚きを隠せないくらい」

「ならば俺の地位についての説明をする必要は無いということだな!」


 帝国、名前の特徴、その他もろもろ。

 色々と聞きたいことはあるものの、口調に反して冷徹な表情で魔物ひしめく外を見やる彼の言葉を、俺は黙って待つ。


「現在、この街が魔物の襲撃によって危機に瀕していることは知っているな?」

「知っている」

「ならば話は早い。

 この街は魔物の襲撃を受けていて、そこに()()()()軍人である我々が居合わせた。

 それ以上でもそれ以下でもない!」


 たまたま、か。

 念押しをされた以上、これより深くは探るなと言われているのと同じだ。


「・・・発生の原因はわからないか」

「無論だ! 把握していれば既に潰しているのでな!」


 キッパリと断言するヘルマン。

 ここで、これならべつに自立して行動しなくても状態は悪化しないだろうと思った俺は、彼の言うことに従ってみようと考えた。

 軍人だし、こういった状況には慣れているのだろうと推察したためだ。


「わかった。なら、部外者の俺はどこを担当すれば───」


 そうして、俺が指示を仰いだその時だった。

 塀のどこかから、ドカンという小規模な爆発音が響く。


「爆発・・・?」


 敵に自爆する類の魔物がいるのか・・・なんて呑気に考えている俺とは対照的に、ヘルマンは明らかに焦燥を滲ませる。

 焦った様子で塀の内側を探すと、彼は爆発の場所を見つけたようで、焦りを加速させながら呟く。


「あの位置は・・・弾薬庫かッ!」


 おっと、まずい・・・と俺が思考したところで、爆発は再び巻き起こる。

 恐らくは弾薬類が誘爆したのだろうが、合計三回くらいの非常に大きな爆発によって街を囲む分厚い塀の一部は破壊され、目測で横幅十メートルほどの侵入口が誕生してしまった。

 これが何を示すのかは単純明快。

 魔物の侵入を防ぐ手段が、魔物を撃退する手段の一部を巻き込んで吹っ飛んだということだ。

 すると、それを確認するなりヘルマンは叫ぶ。


「総員に告ぐ! 現状パターンE! 即座に迎撃体勢!

 負傷兵は捨ておけ! 民を守ることが先決だ!」


 攻めから守りへ、余裕が無くなった現状。

 ならば前言撤回。

 俺とティアがやるべき事は、攻めによる防衛を行うことだ。


「ヘルマン」

「なんだ!」

「俺達は上空から迎撃するが、魔力探知が効かない」

「探知妨害は新兵器のせいだ!

 だが心配するな、こちらには秘密兵器がある!」

「なら、前に出すぎるなと伝えておけよ」


 欲しかった情報は得られた。

 大量発生の原因が自然ではなく人為的なモノであるとするのなら、それを暴いて吹っ飛ばす手段はいくらでも思いつく。

 あとは適度に帝国軍を疑いつつ、角が立たない程度に事を済ます。

 民間人を軍人がどうにかしてくれるなら、俺は何も気にする必要は無い。


「・・・物は試しって?」

「やってみる価値はある」


 上空へと移動しながら、ティアとともに情報を整理する。

 まあ、整理とはいっても、気に留めるべき話題を互いに引き出すだけ。

 ティアから何も言われないということは、俺が立てた作戦の通り行動するという方針で決定だ。

 先ずは塀の破壊を皮切りに出現した空中の魔物を消し飛ばし、ティアの思考を見る能力でヒトを探す。

 その結果、もし何も見つからなかったら森の一部を消し飛ばす。

 単純明快な作戦だ。


「ふたつ、よっつ、いつつ・・・」


 爆発範囲から概算した転移位置を目測で決め、頭の中で転移後の位置を五箇所セット。

 空中の魔物は鳥系からガーゴイルみたいに硬そうな面子まで勢揃いだが、須く問答無用で吹っ飛ばす。

 俺は左手に準備しておいた計五つの爆裂魔法をくるくると回しながら適切なタイミングを待ち、なんとなく行けそうなタイミングを見計らって爆裂魔法の起動および転移を行った。


「・・・ビンゴ、よし」


 するとタイミングはドンピシャ。

 空中に出現していた魔物は軒並み爆発によって吹っ飛び、辛うじて生きてそうなヤツも魔力エネルギー弾で撃墜。

 左手に残った余剰魔力を握り潰し、制空権の確保を確認した。

 そのため、俺は隣・・・というか斜め後ろのちょい下あたりで攻撃魔法を連射しているっぽいティアが、何に何をしているのか気になったため、振り返って視点を落としてみる。


「・・・・・」


 見て理解した。

 どうりで俺の方に攻撃が届かないわけである。


「・・・うん、終わった?」


 驚いている俺はさておいて、ティアは下にいる魔物を注視しながら攻撃と防御を同時に行い続けていた。

 ヘルマンが言っていた「新兵器」の目的であろう「遠距離魔法が使える魔物の照準分散」が意味を成さないほどの対空攻撃を、ティアは右手から放つ魔力エネルギー弾の単発速射によって、俺達の位置に届きそうな攻撃のみを相殺していたのだ。

 それに加えて、左手では同じく魔力エネルギー弾の単発速射によって、的確に地面の対空要員を刈り取っていく。

 感覚的にはほぼFPSゲームの上位者とムーブが同じ。

 あまりに技量が極まっている。


「グレイア」

「どした」


 暫くすると、ティアは攻撃をやめて俺の隣まで移動してくる。

 対空攻撃もかなり薄くなってきたから頃合か───なんて考えていると、街の方に、この世界に存在しているには余りにも異質すぎるビジュアルが二つほど見えてしまった。


「・・・マジか」


 俺の視界に写ったのは、人型のクソデカロボットと宙に浮かぶ空母らしき何か。

 クソデカロボットの方は目測で十五メートルほどあり、騎士の鎧っぽい全身に威圧的な角が付いた頭部が特徴的で、金色を散りばめた煌びやかな配色。

 空母らしき何かは明らかに空に浮かんでいて、前世にあった空母とは違って非常に縦長の六角形の一番後ろと思しき場所にブリッジっぽい平べっための何かが乗っかっている構造をしている。


「・・・・・」


 あれらが秘密兵器なのは驚きだが、しかし秘密兵器を出すのならば俺達の狙いは変わらない。

 元凶を引きずり出して殺害する。

 情報はまあ、知れたら御の字だろうな。


「・・・見つけた」

「よし」


 ティアからの端的な報告。

 俺はそれを聞くなり固有武器をナイフの形状にして出現させ、ティアに手渡して準備完了。

 予め魔法を構築しておいた右手の指を上に向け、今しがた頭の中で指定した範囲内の全ての生物を纏めて空中に引き摺り出す。


「防御手段ナシ、回避も不可能だろうな」

「目視した。やっちゃうね」

「はいよ」


 黒いローブの男を空中に固定し、待機。

 思考を見て完全に黒だと判断したティアは、そのままナイフを持って振りかぶり、めっちゃ綺麗なフォームで真っ直ぐ投擲した。

 ティアの手を離れたナイフはソニックブームを放ちながら魔物の間を一直線にすり抜けていき、捉えたのは黒いローブの男の顔面ど真ん中。

 男の首から上はキレイに吹っ飛び、追い討ちで放たれた爆裂魔法によって身体の方も消し飛んだ。


「・・・無理か」

「そうみたい」


 しかし、まだ終わらない。

 ティアによって全身が吹っ飛んだはずの男だが、僅かに男から滲んでいた魔力の色が、ちょうど男が絶命した位置で燻っている。

 これはつまり、あの時の、叡智の寵愛者の時と同じような事態が起こるという前兆に他ならない。

 確かに予想の範囲内ではあるが、とても面倒だ。

 命をかけた召喚魔法というのは、往々にして面倒な代物なのだから。


「・・・・・」


 森の中、魔物の発生源らしき場所に渦巻く嘔吐物のような色の魔力。

 それは次第に蠢き、見えない手によってこねられる粘土のように、不明な形へと変化していく。

 脚、胴体、腕、頭。

 下から順繰りに生成され、全長は目測で五十メートルはあるだろうか。


「千変万化、短剣───」


 一気に片付けてしまおうと意気込み、遠くへ飛んでいった武器を回収して形を変えた───その時。

 突然、俺達の背筋を妙な感覚がつたう。


「・・・っ」

「何・・・?」


 背中に這い寄る、べっとりとした嫌な感触。

 五感ではない。

 第六感が、この身体に迫る何らかによって、今までにない類の重大な警告をぶつけてきている。


「まさか・・・」


 先程のヘルマンの言葉を想起する。

 たしか、あの男は「秘密兵器 」と言った。

 そして俺はついさっき、人型のロボットと空母が「秘密兵器」なのだと感じたが、もしかしたらそれは勘違いなのかもしれない。

 現に、俺の中にはひとつの心当たりがある。

 正直に言って勘弁してほしい事柄が、ひとつ。


「・・・ちいっ」


 振り返って見下ろし、視点を人型ロボットに向けたところで俺の「勘弁してほしい事柄」は見事に的中。

 あのロボットが持っている無骨なライフルっぽい何かが纏っているエネルギーはまさしく、俺がいつも「ストーム・プロテクション」として用いているエネルギーと同種のものだ。

 特徴的なトゲトゲしたオーラに、やたらと宙を走る稲妻。

 となると、まさかあれは・・・


「・・・・・くそったれめ」


 暫くの後に放たれた細く白い光線。

 それは光にしては余りにも遅すぎる速度で、しかし銃弾のような凄まじい速度で、今しがた出現した不明な魔物の胴体を易々と貫く。

 するとどうだろう、不明な魔物の五十メートルはあるであろう体躯などはものともせず、貫いた光が傷口から凄まじい速度で不明な魔物の肉体を侵食していくのだ。

 恐らくは魔石を砕いたせいだろう。

 人間で言う心臓を消し去ってしまえば、魔物の体に残るのは形を保てずに崩れゆく魔力の塊。

 否、核がなくなった以上は魔物とすら呼べないか。


「グレイア・・・」


 不明な魔物の残滓が完全に崩れ落ち、魔力探知の妨害も解消したところで、ティアが肩を叩いて話しかけてくる。

 なんだか妙につつかれるような不快感を感じながら、俺はティアの言葉に耳を傾けた。


「あれ、試作型ディメンション・レイ、だって・・・・・」


 そして、背骨を引っこ抜かれたような悪寒に襲われる。

 下にいた人の思考を見たのだろうティアの言葉で、俺は暇神様の言う「謎掛け」がどれだけの厄ネタか、今ここで察することができた。


「転生者絡みか・・・」


 独善の次はなんだ?

 独り善がりの楽園の次は、誰が何を目的としている?


「・・・・・」


 今のままでは、判断材料が少なすぎる。

 それに、今の俺達に「ディメンション・レイ」を防ぐ手段は殆どないと言ってもいい。


「・・・情報を得ないとな」


 くそったれの野蛮人どもめ。

 そいつはどんな思想を、概念を背負ってるかは知らないが。

 前世における水爆にも匹敵するか、それ以上の大量破壊兵器に成りうる存在を生み出したツケは・・・高くつくぞ。




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