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愛され気質な逸般人の異世界奮闘記  作者: Mat0Yashi_81
三章:災禍を滅ぼす虚無の躍進
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1-6:表明

 導かれ、たどり着いた先で。




 



 かたかたと揺れる馬車に乗り、ゆっくりと本を読みながら、誰かに体を預けて気ままに過ごす。

 求めていた通りの結果かと言われれば、肯定できる。

 可能なら、あんなにみっともない姿は見せたくなかったが───それはワガママというものだな。

 あのまま進んでいたら、俺は絶対に()()()()()()()()()()()を犯していたのだろう。


「・・・・・」


 しかし、過ぎた可能性だ。

 もう気にする事はない。

 ・・・なんて、()()()()()()()()()()()()()見て見ぬ振りをしたからこうなった。

 しっかり、反省しなくては。


「・・・はあ」


 本を閉じ、横に座っているティアに体を預ける。

 一昨日の夜、とうとう色々と限界が来てしまった俺は昨日もあまり調子が出ず、結局もう一日だけゴールデン・スプリングスに滞在してから隣国に向けて出発した。

 その際、やたら押しが強いティアと一緒に娯楽本・・・まあライトノベルの類をいくつか買ってきて、暇な時は趣味に打ち込んでいればいいと釘を刺されてしまった。

 曰く「きみは暇さえあれば考え事をしてるんだから」と。

 つまり、もっと脳を休めろとのお達しだ。


「グレイア」

「うん?」


 ふと、頭にぽんと手を置かれたかと思えば、名前を呼ばれて頭を優しく撫でられる。

 なんだろうと思って耳を傾けると、ティアは優しく言葉を続けた。


「きみはさ、なにも忘れっぽいわけじゃない。

 整理するならニアさんが居るし・・・」

「うん」


 どうやら、また俺が一人で色々と考えていたことを気にかけてくれているようだ。

 そうやって素早く行動に移せるのは少し羨ましい。

 先ず最初に思考がルーチンに挟まる俺にはない特色。


「だから、ゆっくり噛み砕いて納得していけばいいと思う。

 早くから結論を求めるのは、きみの悪いクセ」


 いつも後ろに居てくれる彼女だからこそ見えている、客観的な評価。

 その指摘の通りに思考や行動を起こすことができれば、きっと同じようなミスは犯さなくなるのだろう。

 だから、ゆっくり噛み砕いて・・・納得を。

 ・・・ああ、そうか。


「・・・納得ね」


 納得してないのに、行動したからか。

 だから、頭の中でキャッシュが詰まってしまって、あんな事に。


「・・・・・腑に落ちた。ありがと」

「どういたしまして」


 ずっと、急いでいたからな。

 悪いクセが抜けきらなかったのか。


「・・・・・」


 なんか、腑に落ちたら急に眠くなってきた。

 文字通りに憑き物が落ちたようで、気持ちがいい。


「・・・おやすみ、グレイア」

「うん・・・」


 ゆっくりと頭を撫でられながら、すとんとアッサリ寝落ちする。

 こういうのが、いちばん気持ちいいものだ・・・・・




 〇 〇 〇




「・・・・・」


 妙な感覚で目を覚ます。

 背筋が恐怖に似た感情にねっとりと撫でられ、全身を形容しがたい感覚が包む。


「・・・ん」


 ぱちりと目を開け、横を向いて寝ていた身体を起こし、上半身をひねらせて周囲を見回す。

 俺はてっきり、妙な感覚を暇神様───虚無が由来のものだと考えたが、どうやら別口の何からしい。

 それを裏付けるように、俺の周囲には爽やかな景色が広がる。


「どこだ・・・ここ」


 どこまでも続く青い空、周囲に浮かぶ岩の数々。

 地面を彩るのは鮮やかな草花と、静かに流れる小さな川。

 地平線より手前で地面が途切れているのを鑑みるに、ここは所謂「空島」の類の場所であるのだと察した。


「はー・・・」


 どうせならパッと出てきてくれればいいのに、と思う。

 でも、この空間の主が予想できないわけではない。


「理想の神・・・・・」


 虚無と似ているが、違う。

 しかし同じくらいの威圧感や妙な感覚から考えれば、この空間の主は理想の神である・・・か?

 あとはまあ、俺に直でコンタクトを取りそうな肩書きの神が、先輩の上司(?)な理想の神しか居ないってのも根拠のうちの一つ。


「探さないとダメかあ・・・?」


 なんか、とても面倒くさい。

 はよ顔見してくんないかなと思っている。

 ・・・が、じっとしていてもどうせ姿なんて見せてくれないのが神様なので、俺は重い腰を上げて動き出すことに決めた。

 女々しい座り方をしていた状態から勢いをつけて起き上がり、手頃に他の場所へ渡れそうな足場を見つけて歩いていく。


「ん〜・・・」


 歩いていて身体強化がそのままなことに気がついた俺は、そこそこの速さで走っていくと、宙に浮いている岩を飛び移りながら移動していき、目に付いたところで一番大きい浮島に降り立つ。

 まあだいたい景色が同じなので感想は省くとしても、収穫は遠くに見える謎の屋敷がひとつ。

 その環境で柵いるか? なんてツッコミをしたくなるくらいポツンと建っている屋敷は、近くにある森・・・というより林と、敷地内に生えているデカい木くらいしか特徴がない。

 屋敷そのものもデカいはデカいが、サイズ感は田舎の二階建て小学校。

 インパクトはあんまりない。


「アレが当たりだといいけど」


 そんなことを呟きながら、俺は走る。

 どのくらいの速度かは知らないが、とりあえず走った。

 すると一分もかからずに屋敷の前にたどり着いたので、急停止しつつ身体強化の段階を落として余計な力を使わないように調整。

 夢の中っぽい空間で必要かはさておき、念の為。


「・・・さて」


 一旦呼吸を整え、めっちゃでかい柵の門に手をかけたその瞬間だった。

 皮一枚触れたかどうかもわからないタイミングで突然、俺の周囲の環境が外の平原から、室内のよくわからない部屋に移る。

 目の前には暇神様と、女性の神様がテーブルを囲んでお茶会の真っ最中。

 瞬間移動させられたと見るのが妥当なのだろうが、どうにも───


「・・・・・ッ!?」


 また・・・頭痛。

 頭を抑え、キリキリと痛む脳みそに嫌気が差しながらも我慢。

 もう三回目なのに慣れないものだ。


『理想』


『想起』


『忘却』


『虚無』


 端的な概念と、それに即した細かな情報。

 それらが俺の頭の中に直で流れ込んできて、それはまあ痛い。

 胃の中に手で食い物をぶち込まれるくらいの痛み・・・と言えば理解がしやすくなるだろうか。


「・・・はあ」


 ため息が出る。

 後ろにあった扉にもたれかかり、ずりずりと背中を擦りながら腰を下ろす。


「・・・・・減るんですよ、俺の精神は」

「それが言えるようになったのなら上々だ」

「ちぇっ・・・」


 苦し紛れの嫌味は痛いところをつかれ、このやり取りを見た女性の神様───理想の神、イデアルはくすくすと笑う。

 俺の考えは間違っていなかったうえ、呼び出した理由に深い意味は無い。

 ただ、喋りたかっただけ。

 そのために、記憶を直にぶち込む苦痛を・・・か。

 神様とはそういうものだと思っているとはいえ、少し解せないな。


「不服ですよ、俺は」


 ぶっきらぼうに言いながら立ち上がって、二人のところまで歩いていく。


「ふむ。では・・・」


 すると暇神様はテーブルの上から皿を一枚手に取り、何かを乗せて俺に差し出してきた。

 ・・・その皿の上には、いくかのル〇ンド。


「お前の世界の菓子を用意していると言ったらどうだ」

「・・・・・許してあげないこともないですね」


 解せない、解せないが仕方ない。

 俺は決して、お菓子に釣られたわけではない。

 そうだ、俺は運動してエネルギーが必要だから甘いものを食べるだけだ。


「あらあら・・・」

「・・・なんでふか」


 皿を受け取り、促されて席に座り、お菓子を頬張る。

 するとイデアル・・・さん? は俺の姿をまじまじと見ていた(ずっと目を閉じているから、見ているという表現が正しいかはわからない)が、何かを面白いと感じたのか再び笑う。


「可愛いわね。あなた」

「・・・・・ありがとうございます?」


 何かと思えば、可愛い・・・と。

 褒められてはいるっぽいので咄嗟にお礼が出てきたが、まあ、ちょっと考えればそこまで意味はなさそう?

 そのままの意味で言われてる気がする。


「律儀で有能、察しもよくて担力も十分。

 いざ対面してみれば可愛くってもう・・・」


 やたらめったらに褒められて、頭をすごい撫でられる。

 俺はそれらの肯定を、唐突になんなんだろうと思いながら甘んじて享受しつつ、お菓子を口に放り込む。

 少なくとも、今は相手の意図やらなんやらを考えるのは無駄だと判断した。


「グレイア」

「はい」


 ふと、暇神様に名前を呼ばれて顔を上げる。

 錯覚か、暇神様の無表情の中に、いつもとは違う感情が見える。


「気付いていないかもしれないが、お前は既にレールから外れている」

「はい?」

「私はお前を導いていない、ということだ。

 ある種、思想の有無も含めて自由だと表現して差し支えないな」

「ああいや、そういうことではなくですね?」


 どこか感じる違和感。

 いつもの暇神様ではない、何か、おかしい様子。

 俺は言葉を強く重ねて話の腰を折り、ひと呼吸を置いて問う。


「・・・いつからですか?」


 すると、暇神様はいつものように直ぐさま回答するのではなく、少し逡巡したような間の後、口を開く。


「トリガーとして設定したのは、お前がエルネと接触する瞬間。

 これはエルネにも伝えていない、機密事項だったものだ」


 となると、凛先輩───エルネがあのタイミングで俺と接触したのは、完全に先輩自身の判断なのか。


「エルネに伝えなかったのは、タイミングのズレによって起こりうるバタフライエフェクトを防ぐため。

 お前の精神は、適切なタイミングで破綻しなければならなかった」

「ああ・・・そういう」


 納得した。

 色々な可能性を考えたら、そうだよな。

 人間である俺自身でさえ「踏み外してはならない」と自戒するくらいなんだから、そりゃ上位存在の方々も気にする。


「となると、ですよ」

「肯定しよう」

「・・・まだ何も言ってないんですがね」


 感じた違和感について口にしようとしたのだが・・・

 どうにも、俺にそういった文言を話させたくないように見える。


「お前は律儀に役割を果たし、それ故に壊れかけた。

 精神が破綻するその時まで、己の意思で助けを求めることは一切なく」


 第三者目線から見るとそうなるのか、なんて呑気に思いつつ、頭の中に浮かんだ可能性に目を向けた。

 この夢の中の世界(?)に呼び出されてからの暇神様の態度や口調、いつもとは違う感情が見えた違和感。

 もしかしたら、暇神様は・・・・・


「そうだ。ある意味で言えば、私はお前を突き放している。

 言い方を変えれば「選択肢を与えている」とも」


 ・・・言い換える必要はないだろうに。

 だが、これは確実だ。

 今この場で「自由になりたい」とさえ言えば、俺は転生者としての運命から解放されて、好き勝手に暮らせるようになるのだろう。


「ただの転生者として、自由に生きてもいいと?」

「そうだ」


 これから相対する運命から逃れて、辛い思いをしなくて済む。

 ティアと一緒に逃げられる。

 今までの全てを、俺の意思で捨て去って。


「あんたから受けた恩を忘れて、身勝手に生きろと?」

「・・・何?」


 ああ、駄目だ、怒るな。

 認識がズレてしまうのは仕方ないことなんだ。


「・・・・・なんか、いや、優しくしてくれてるのは分かります。

 ただ、俺は強迫観念ばかりで恩義に拘っていたわけじゃない」


 これは、善意なんだ。

 感じた違和感、違うと思った感情。

 今になって、ようやく理解できた。


「俺は・・・未来を見たんですよ。

 ティアと一緒に、世界の頂点に立つ未来を」


 だけど、その善意は余計なんだ。

 俺はもう、既に決意している。


「アレがあんたらによって仕掛けられた代物でないのなら、俺はその未来から目を背けることは決して有り得ない。

 仮に目を背けたとしたら、俺は自分の信念をへし折ったことになるから・・・!」


 感情のままに本心を吐き出して、夢の中なのに顔が熱くなって。

 そんな様子の俺を見ていた理想の神様は、優しく微笑んで頭をゆっくりと撫でてくる。


「・・・勇ましいわねえ」


 少し恥ずかしいけど、おかげで思考は冷静になれる。

 だからこそ、いっそのこと全てを伝えてしまえと自分で背中をぶっ叩く。


「いいえ。俺はただ・・・・・」

「ただ?」


 俺の信念を、行動指針を。

 心が壊れても尚、変わらなかったモノを。


「ちょっとばかし頑固なんです。

 やりたいと思ったから、知りたいと思ったから。

 そして何より、癪に障るから」


 今までもこれからも変わらない全てを、微笑みながら伝えた。

 すると、暇神様と理想の神様はそれぞれ真反対の反応をする。


「・・・そうか」

「あらあら・・・」


 暇神様は少し渋い顔をして、理想の神様は嬉しそうに笑う。

 でも、俺はまだ満足できないから言葉を続けていく。


「単純だと思いませんか。

 少なくとも、俺はこのやり方で楽しくやれている。

 だからまあ、そんなに気遣いは要らないです。

 嫌になったらなったで、その時はまた壊れますから」


 ひと通り口に出して、大きく息を吸い込んだ。

 ここまでの本音を口に出せたのは、まったく何時ぶりだろうか。


「・・・ならば、私から言うことは一つだけだ」


 やれやれ・・・とでも言いたげな様子の暇神様は、仕方なさそうにひと呼吸くらいの間を開けると、真剣な表情で言葉を続ける。


「───ディメンション・レイ」

「はい・・・?」


 次元の、ビーム?

 何かの攻撃手段だろうか。

 ・・・と、聞きなれない単語に俺が聞き返したところで、ようやく表情を崩した暇神様は口を開く。


「なに、単なる謎掛けだ。

 もう導かれるばかりのお前ではないのだろう?」


 つまり、この単語に関連したモノ、またはこの単語そのものが俺または世界に対する脅威になる可能性が・・・ということだろうか。

 であれば、暇神様は引き続き俺のことを見ていてくれるんだな。

 少し、安心できる。


「・・・そうですね、期待してくださるのなら結構です。

 それが何だかは知りませんが、堂々と真正面からぶち抜いてやりますよ」

「よろしい。ならば行け、グレイア」


 俺が啖呵を切るなり、暇神様はすっと俺の後ろに現れて、くしゃりと俺の頭を撫でた。

 すると、いつものように視界が光に染っていく。

 そろそろ目覚める時間だ。


「どうやら、外で何かが起こっているようだぞ」

「まじですか」


 またゴタゴタするのだろうなと思いつつ、身体から力を抜こうと思ったその時、ふと謎の使命感に駆られた。


「・・・あ、暇神様」

「どうした」


 視界は潰れていても何となくで暇神様の位置はわかるので、俺は頭を撫でられながら振り返り、何となく言いたくなったことを口に出す。

 表情を取り繕うことなく、ただ、単純に。


「これからも、お世話になりますね」


 そう言った俺に、返事は帰ってこなかったが───しかし。

 ただの自己満足だ。

 これでモヤモヤしなくて済む・・・




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