1-4:染色の塔
思いもよらぬ出会いと、発覚。
朝はおよそ六時半くらい。
とっても便利な自己証明によって設定した体内時計によって叩き起こされ、ぼんやりと目をこする俺の耳に、ニアのバカでかい声がかかる。
『朝ですよーッ! マスターッ!』
「・・・っあ」
物理的に聞こえるわけではなく、頭の中で響くだけの声。
だが、それゆえに一層キツく、ニアの苦労にも見合わないために明日以降は絶対に採用しないと心に決め、俺は上体を起こす。
がっつり起きた脳みそを働かせながら視線を動かすと、閉めたカーテンから零れる日差しが目に入り、防音魔法が施された木材越しに微かに聞こえる鳥のさえずりが耳に入った。
そんな情景に「エモいなあ」なんて薄っぺらい感想を抱きつつ俺はぐっと伸びをすると、ビジネスホテルくらいのクオリティのベッドの端に腰かけ、どこかに消えたスリッパを探し当ててから両足揃えてスッと履き、ベッドから降りる。
「ありがと、ニア。最悪の寝覚めだった」
『そうでしょうとも。
次からは是非、別の手段を取ることをお勧めします』
ニアとやり取りをしながら洗面所へと向かい、扉を開けて洗面台の前に立つ。
顔を洗うために蛇口をひねると、そこからは絶妙に深く青みがかっている水が出てきた。
「・・・ビビるなあコレ」
異世界らしいといえばらしいが、それはそれとして人体に有害そうで憚られる見た目の水を手ですくい、顔にパシャパシャとかけてすすいで、蛇口を逆にひねって水を止める。
なんとなく記憶している位置にあるタオルを取り、顔を拭くと、すっかり気分が良くなった俺はタオルを乾かすためにありそうな位置にある棒に使用済みのタオルをかけ、洗面所から出て扉を閉めた。
「ん、おはよう」
「うん・・・」
するとタイミングよく、着替えを抱えている寝起きでぱやぱやな雰囲気のティアと鉢合わせた。
眠そうに目をこすり、洗面所に向かっていく姿から察するに、どうやら俺が出した物音で起きてしまったらしい。
少し悪いことをしたなと思いつつ、俺は化粧台の傍の椅子を引いて横向きに座る。
そして、俺は視界外からインタフェースを持ってきて、メモ帳を開きつつキーボードをアクティブ化、入力は指圧接点方式。
インタフェースに表示されたキーボードのキーの位置で人差し指と親指を合わせると、確かにキーが入力されることを確認。
「ニア」
『はい』
さて、今日の予定を整理しよう。
『本日の大まかな予定は二つ。
内一つ、先に済ませるべきと判断する事柄は、昨日の移動時に処理した魔物の素材を換金することです』
「把握、ギルド支部の位置を確認してくれ」
『はい。調査します』
パチパチと指でメモ帳に内容を打ち込みつつ、ニアの調査の終了を待つ。
その間に俺は片手間にカレンダーも立ち上げて、今日の分の予定をコピペする準備を整える。
『位置情報を設定しました。
当該の座標にマーカーを設置しますか?』
「頼む」
『了解。設置します』
承諾と報告の数秒後、パッと表示されたマーカーに直線距離と施設名称が添付されていることを確認すると、俺は一旦マーカーを非表示に変更。
メモ帳に一時的に入力していた情報をおおよその時間配分と一緒にコピペしつつ、次の情報の入力に移る。
「次」
『はい。
予定の二つ目、今日この街でやりたいこととしてマークしている場所は、街の北川に位置する固有名称「染色の塔」の訪問です』
「把握した。位置情報と、内部の情報を可能な限り調べてほしい」
『調査します』
入力すべき事柄は幾つかあるが、重要なのは身分証の提示の仕方だとか、大雑把な情報だとか。
概要については名前から察せるし、後で考えればいい。
今はとにかく、円滑に物事を進める準備を。
『調査レポートを表示します』
「ありがとう」
ニアの報告とともに、俺の視界の左下あたりに小さなタブが表示された。
俺はそのタブを指でくいっと広げ、内容をスクロールしながら大雑把に頭に入れていくと、二週目で内容が適当になるように配慮しながら、要所要所の重要そうな情報だけを引用しつつ文章を構成していく。
この作業は、毎回二、三分もかからずに終わる。
彼女が調べてくれた情報は非常に簡潔に羅列されているため、こちらとしても纏めやすいのは非常にグッド。
「よし、完了」
『何か気になった事柄などは?』
「ん〜・・・」
簡潔に問われ、もう一度文章に目を通してみれば、引っかかった部分が一箇所だけある事に気がつく。
「・・・箇条書き六行目、施設そのものには金を積めば入れるって所。
それは、冒険者でなくとも入れるってことでオーケー?」
『はい。参照した資料の文脈からして、その通りでしょう』
「わかった。そしたら、またマーカーの設置をよろしく」
『承知しました。取り掛かります』
となれば、何か商品を売ったりもするのか?
まあ、これは行ってからのお楽しみだな。
「・・・よし」
『マスター、マーカーの設置が完了しました』
「ん・・・」
今日の日付に一通りの情報を入力し終えて、マーカーに添付された情報も確認。
二度の確認で間違いがないことを更に確認。
これなら、少なくとも「今日のうちにやりたいこと」は全て円滑にこなせるはずだ。
「オーケー、確認した。
いつも通りの仕事、ありがとうな」
『はい。じゃ、私は寝ますので』
「はいよ〜」
ニアを見送・・・ってはいない、なんというか、眠りへ送り出す?
とりあえずはルーティン通りに、そこそこな目覚めを得られた。
「・・・ふう」
インタフェースを整理し、最後にキーボードを解除。
すると、ちょっとした空腹感に襲われたため、俺は左側にある背もたれに上体を預けながら、魔法収納からパンが入ったひとつの袋を取り出す。
そこからパンオショコラをひとつ手に取り、齧る。
「・・・・・」
美味いなあと思いながら、なんとなくボケ〜っとしていると、洗面所の扉が開き、中からティアがゆっくりと出てきた。
すると目が合い、こちらに近づいてくる。
「もう終わったの?」
「ん〜」
そう問いかけてきたので袋を差し出すと、ティアは中からひとつ取り出してベッドの端に腰掛け、パンを齧る。
互いに口がちっちゃいため、ちびちびと食べていく時間、だいたい一分弱。
それぞれが完全に飲み込み、俺が袋を収納魔法の中にぶち込んだところで、ティアが口を開く。
「じゃあ、行くの?」
「ああ」
確かめるような口調で発された問に、俺は頷いて返す。
グリムはまだ就寝中だから、後で起こすとしても・・・・・
「ならさ、それまで・・・」
「朝飯をどこで取るか、だろ?」
「うん」
予想通りではあるが、実際、どうしようか。
時間はあるから、決めようはある。
「朝はサッパリしてるのがいいよなあ」
そうボヤきながら、考える。
可能ならば、辺りの店を引けるといいな───なんて、切実な願いを抱きながら。
〇 〇 〇
そんなこんなで時刻はとっくに午後にかかり、現在時刻は十四時ちょっと。
テキトーに魔物狩りを済ませ、すっかり暇を持て余した俺達は「染色の塔」の麓に来ていた。
青い湖から流れる川の向こうにある塔は、なんだか妙な神々しさを纏い、独特な幾何学模様を輝かせている。
「・・・目測は百五十くらいか。初見の目測より高かったな」
「なんできみは魔法を使わないで高さがわかるの・・・?」
「地元にこんくらいの建物があったんだよ。
通りかかるばっかで、中に入ったことは殆どないけど」
千葉ポー〇タワーが身近だったせいで高さの目測ができていることをティアに突っ込まれつつ、俺達は橋を渡って建物まで歩いていく。
人の気配はあまりしないが、数人のボディーガードでも雇っているのか、明らか強そうな魔力反応が四つほど。
あまり穏やかではない。
もしくは、それほど守る必要性があるのか。
はたまた、別の理由か。
金積んだら入れるし、貴族へのアピールとかだったら面白い。
「・・・相変わらず、きみは結構ありそうな予想をするね」
「違ったら恥ずかしいけどな。
ぶっちゃけ、これしか思い浮かばない」
因みに、さっきから全く喋らないグリムはというと、現在進行形で俺に抱っこされたまま爆睡している。
午前中にどうせならとグリム主導で魔物を狩っていた都合上、俺に頼られたせいか彼女は色々と張り切りすぎて、疲労が先に来てしまったらしい。
それと、サイズ感が五キロくらいある猫と同じくらいの彼女を抱えて歩かなければならなくなった俺は、ついさっきからデカい状態になっている。
ちっちゃい状態では流石に、彼女を抱えたままの移動はできなかった。
「お、人が出てきた」
「・・・あそこに微弱な魔力の反応が見える」
「ほー」
橋を渡り終えたところで、入口からホテルマンみたいな格好をした一人の男性が出てくる。
男性はこちらを一瞥すると、入口の横に立って待機。
それと同時に、ティアが入口横の壁あたりに魔力反応があると言った。
恐らくは警備系統の魔力反応だろう。
「埋め込み式の監視カメラかね。
随分とまあハイテクな」
「やっぱり、きみの思った通りなんじゃ・・・」
思った通り・・・とは、つまり「来訪する貴族へのアピールで過剰な防衛機能を演出している」という疑念。
たぶん当たってるとは思うが、まだ重要な研究施設の可能性が無きにしも非ず。
・・・まあ、あの男性が俺達を迎えるための役割だとするのなら、たぶん当たっている、のではなく───ほぼ確実に当たっている、になるのだが。
「グレイア様にティア様、ようこそお越しくださいました」
「・・・へえ」
思わず感心した。
そのための期間と判断材料があるとはいえ、まさか俺達だということを断定してしまうとは。
これにはティアも驚き、絶句。
対して俺はというと、さっきティアが見つけた隠しカメラにどんな機能を持たせているのかが気になって仕方がない。
「よく俺達だって分かったな」
「そのための情報は揃っております。
白銀に記す書庫たる我が主が、貴方々の情報を間違えるわけがありません」
「ふうん」
メインは自己証明?
もしくは副次効果を用いた変態的な努力?
まあ、どちらでもいい。
「要件・・・は、聞くまでもありませんか」
「そ。白銀に記す書庫に会いたい」
「承知しました。では、こちらへ」
彼は表情を変えずに振り返り、歩き始めた。
俺達はそれに続いて中に入る。
すると、中には両側にずらりと扉が並ぶ廊下が現れた。
「・・・これは」
「貴方々とは違う目的でやって来る訪問客のための部屋です。
本来はこのような対応も、単なる茶番に過ぎないのですが」
ティアの言葉に、彼は淡々と答えながら進む。
表情は見えないが、言葉の節々から感じるように、そこまで芳しい感情を抱いているというわけではなさそうな雰囲気。
大方、先程の予想は大当たりと言ったところだ。
貴族を相手とした何らかのビジネス、特殊な湖という環境、それから無駄に高い技術力。
ますます興味が湧いてくる。
「こちらへ」
そこから更に奥へ行くと、今度は現代チックな両開きの扉。
案内されて前に立ってみると、チーンという聞き覚えしかない音とともに扉が開き、見覚えしかない景色が広がった。
「え、すご。エレベーターじゃん」
「どうぞお乗り下さい」
「へえー・・・」
白を基調とした内装に、カクカクとした照明、それから謎に配置されている鏡まで。
全てが見知った景色の中、俺達は上層階へと上がっていく。
「私はここまでです。
扉が開けば、少し奥に主が」
「わかった。案内、ありがとう」
「・・・当然のことです」
さて到着。
なんだか社畜な雰囲気を感じる彼に見送られて、俺達はエレベーターから出て上層階に踏み入った。
すると、入った瞬間に凄まじい花の香りが俺の鼻腔を刺激し、思わず口周りを手で塞ぐ。
「・・・!?」
「あ、きみって強い匂い・・・」
そう、俺は強い匂いが・・・とくに香水などに使われる、強い花の匂いが苦手だ。
前世でもそうだったから、これは身体というより頭に染み付いている苦手意識だと言ってもいい。
あとはアルコールの匂いも苦手だったりするが、それはさておき。
何らかの花の匂いが充満する部屋には、色々な資料やらなんやらが散乱していて、様相としてはまさしく実験室といったところ。
ただ、一定のラインを超えると書類っぽいモノはなくなるので、たまたまエレベーター付近が置き場なのだと推察してみたり。
「まあ、べつに我慢できないほどじゃ───」
匂いについては特段気にかけるような問題はなし。
今はとりあえず、その丸いテーブルの周りでテキパキと何かをこなしている女性に目を向ける。
「お、来たねえ二人とも!
いらっしゃい!」
近づくなり、彼女は───白銀は笑顔でそう言った。
・・・のと同時に、俺の目に入ったのは部屋の奥、木を基調とした部屋で行われている不明な実験。
淡く青に輝く液体が結構な量あり、件の湖の色と結びつけて考えられないこともない。
とはいえ、先ず持って抱く感情はとにかく・・・・・
「・・・凄まじいな」
「あ、やっぱりそう思う?
転生者目線でもこういうのって馴染みないのかなーって思ってたんだ!
さ、早く座って座ってー!」
俺の一言に対してかなりの応酬。
特徴的な白い長髪を高い位置で一本にまとめて後ろに垂らしている彼女の背丈は、おおよそ百六十センチ後半だと思われ、服装は白衣と魔女っぽい服装の混合。
全体的に白基調のデザインで、多少ばかり水色のアクセントが入っているためか綺麗めな印象を受ける。
「・・・ありがとう」
「ありがとうございます・・・」
指示された席に座り、差し出された紅茶を受け取る。
あまりに唐突すぎて反応が遅れたが、さっきテーブルの周りで何かしていたのはコレか。
「いいのいいの!
Sランクが来るのなんて久しぶりだからさあ・・・腕が鈍ってないといいんだけどね?」
期待の眼差しを向けられた状態で、俺とティアはティーカップに入った紅茶をすする。
するとまあ、驚いた。
俺はあまり紅茶を飲んだことがない(あったとしてもペットボトル)が、それでも理解ができるほど美味しかった。
言うなればそう、高いやつやん・・・という具合。
「・・・!」
「おいしい・・・」
「王都の貴族階級で流行している茶葉らしくてね。
貰い物ではあるけれど、口にあったなら何よりだ」
それに、ここでやっていることも俺の予想通りだと断定できた。
奥にある実験器具から感じる魔力と、液体の色、それから貴族からの貰い物という単語、極めつけは一階での職員らしき男性の言葉。
とりあえず、モヤモヤが晴れて良い気分だ。
「・・・それで、なんだけどさ。
キミ達がここに来た理由って、ただの興味なのかな?」
「まあ、そう。純粋な知的好奇心」
「え、じゃあさ。質問していい?」
「いいけど」
元より手ぶらだし、返せるものは情報くらいしかない・・・なんて考えていると、そわそわしていた彼女が急にハッとした。
なんだと思って彼女の方を見ると、妙におずおずとした態度で口を開く。
「・・・あ、まず自己紹介しなきゃか」
「・・・・・どうぞ?」
律儀なことだ。
ちゃんと座って目線を合わせて、姿勢は正しく。
要するに、彼女からは育ちの良さが伺える。
「・・・コホン。
私の名前はリーデ・メイニィ。
ちょっとした冒険者で、ただの本の虫さ」
「本の虫か。だから魔法が得意だと?」
「そうなんだよ。よく知ってるね」
「同格なら覚えておくべきだろ、白銀」
俺がそう返すと、情報よりも「同格」という言葉に食いついたのか、リーデは急に妙な表情になってしまった。
「・・・もしかしてキミって、強さに拘るタイプのヒューマン?」
「あるだけ損はしないとは思ってる」
「そうかあ・・・」
「心配するな。無闇に拳は振るわない」
どうやら、物理は苦手らしい。
インタフェースには絶妙に恐怖があるとの表示。
本の虫だという自称の通りの魔法を主とした戦闘スタイルをしているのか、もしくは俺がとんでもないヤツだと思われているのか。
「それより、質問したいことがあったんじゃないのか?」
「・・・ああ、そうだね」
まあ、おおよそ前者だろう───と思ったところで、俺の予想はあえなく撃沈した。
言葉の続きを催促したところで、彼女が抱く「恐怖」の割合が目に見えて増加したのだ。
「・・・・・キミは、自由の暴君を知ってる?」
かと思えば、聞き覚えのない単語。
恐らくは自由の寵愛者の二つ名か何がなのだろうが、如何せん字面が暴力的すぎる。
というか、自由と暴君は概念として両立するのか。
自由なのと身勝手なのは似て非なる概念だろうに。
「・・・いいや、知らないな」
「そう・・・か。意外だね」
「正体は予想が着くがな」
なんて、ちょっと頭良さそうな言動をしつつティアの方を向いてみれば、ティアは小さく頷いた。
ということは、俺の予想通りだということ。
「・・・資料を見た限り、キミの戦い方は全盛期だった頃の自由の暴君に酷似している。
別の言い方をすれば、もっと昔───集団の強さよりも個体の強さが重視された時代の戦い方に」
「ナギもそんなこと言ってたな。
確か、昔の戦い方だ・・・って」
つまり、俺の戦い方は自由の寵愛者───ティアの祖父にあたる人物のものと酷似している、というわけだ。
当該の人物についての知識があるかと質問する気持ちも理解できるし、意外だと述べた心境も察せられる。
だが、先程からやたらに恐怖心を抱いていることだけは引っかかる。
心当たりは幾つかあるが、何がそんなに怖いのだろうか。
「だからひとつ、聞きたかった。
今ここで話していても、疑念は私の中で強く渦巻くから」
「・・・好きに聞けばいいじゃんよ」
その恐怖が向けられているのは、果たして俺か、もしくは別の誰かか。
どちらにせよ、現状のままでは紅茶が美味しくない。
「虚無の寵愛者に・・・問う」
極度の緊張と恐怖。
声が震えるほどに抱く感情と、それでも進む意思。
真っ直ぐな眼差しで俺を見つめ、口を開くリーデ。
そんな彼女が口にした問いは───
「・・・虚無と自由には、どんな繋がりがあるのかを」
───これまた、答えにくいものだった。
「・・・うーん」
思わず、唸る。
繋がりがあるか否かで言えば、ある。
だが、どんな繋がりかと問われれば───困る。
「上ではそこまで関わりはないっぽい・・・か?
繋がっているとは言っても、利害の一致という側面が強い気がする」
そのため、どうしてもこの程度の説明になってしまう。
あとはこちら側だが、これについては単純明快。
「こっちだと懇意にしてる、っていうかここにいるけど」
「・・・ここにいる?」
疑問符を浮かべるリーデの視線を、身振り手振りで横にスライドさせる。
そんな彼女の視線の先には、紅茶を片手に控えめなピースをするティア。
「・・・・・えっ? キミが?」
「うん。私は自由の系譜、その末裔」
困惑に染まるリーデに追い打ちをかけるように、ティアはあっさりと自身の身分を明かしてのけた。
まあ、言ったところでもう問題は起こらないのだろう。
何せ、事の元凶は今頃、水星よりちょっと内側の軌道をぐるぐると回っているのだから。
「じゃあ、キミが・・・いや、貴方が・・・・・」
「・・・・・あ」
ふと、リーデがティアの呼び方を変えた。
それと同時に、ティアが声を上げる。
「・・・?」
状況を全く理解できていない俺は疑問符を浮かべるばかり。
次の言葉を、じっと待つ。
「エルフの国の王女様・・・なのですか」
その結果がこれ。
「・・・・・は?」
思わず声が漏れた。
そして、思考が固まった。
なんとなく可能性としては有り得ると思っていたが、そこかと思った。
「・・・マジで?」
まさかの王女。
予測なんてできっこない。
死角ど真ん中からの、パーフェクトな豪速球だった。