1-2:気ままな道中(上)
自由だからこそできること。
旅行をする上での前提として、俺はわりと寄り道が好きな方であるということを周知しておきたい。
目的地に一直線で向かうのではなく、目に付いた面白そうな所に寄り道をして、良さげなものを物色して散財しつつ、道中を楽しんでいく。
例えば、道中で見かけたパン屋に入ってみたり、道の駅で安そうな野菜やら果物やら名産品やらを探してみたり、それはまあ色々と。
蛙の子は蛙とはよく言うが、これは本当にその通りで。
今回、俺が朝早くに家を出たのも、両親の行動に影響されたものだったりする。
『マーカー地点到達。王都に到着しました』
さて、ここでニアのアナウンスが俺の脳内にこだまする。
朝早くに出発し、適度なダッシュで道を駆けてきた俺達は、だいたい四十分弱で王都に到着。
ここなら良い区切りになるということで、俺達は休憩がてら、適当なレストランで朝食にしよう・・・と、考えていた。
だが、門の近くに来てみると、なんだか様子がおかしい。
「グレイア・・・」
「んー、見えてる」
ティアが俺の名前を呼びながら視線を向けている先では、人や馬車が門に列をなしている。
近付きながら観察していると、どうやら検問をしている様子。
「穏やかじゃないな」
「・・・お腹すいたっす」
不満げにぼやくグリムを横目に、俺はあそこで検問をしている理由について考える───までもなく、ある程度の予想はつく。
まあ、ここ一ヶ月は外部の情報を殆ど入れてなかったし、もしかしたら別の理由かもしれないが。
「・・・・・意外と」
「進むのが早い・・・ね」
それと、俺とティアが呟いた通り、わりかし列の進みが早い。
感覚的には空港の手荷物検査みたいな。
というか、そんなに重くない空気感から察するに、内容も概ねそんなものなのだろうという気はする。
「まあ、五分あれば通り抜けられそうだな」
「・・・ホントっすか?」
「このまま行ければ。たぶん」
「じゃあ時間かかるじゃないっすか・・・」
ご機嫌斜めなグリムの問いに答えてみれば、悲観的な受け取り方をしたうえ、かなりしょぼしょぼした姿勢になってしまった。
まあ、心外ではないが・・・確かに、このまま通り抜けられはしないだろうという予感はしなくもない。
何より、件の仕事が終わってからというもの、俺は一度もナギに会いに来ていないのだ。
それ関連で何か言われるかもしれないし、言われないかもしれない。
「すっかり信用なくなっちゃったね」
「・・・リンとの一件がトドメだったか」
俺とやり取りをしつつ、しょぼしょぼしているグリムを見ながらくすくすと笑うティア。
グリムが俺に言葉を天邪鬼に受け取ってしまった事については、一ヶ月前の件が原因なのは、当事者である俺自身が一番よく理解している。
もう無理はしないと言ったのにも関わらず、俺は感情の赴くままに無茶な戦闘をした挙句、ニアの警告すら突っぱねて戦闘を続けたことで、普段は静観しているティアを動かすまでに至った。
その結果グリムはブチ切れ、あれから一ヶ月が経過しても尚、俺が口にする「大丈夫」や「たぶん」などの楽観的かつ曖昧な推察を信用しない。
我ながら残当である。
「というか、ず〜っと聞こうと思ってたんすけど」
「ん?」
なんて軽く反省していたら、後ろから声がかかった。
相槌を打ち、内容を聞くために振り返ろうとすると、グリムは俺の前に移動してきて言葉を続ける。
「アニキが戦ったアレ、なんなんすか」
怪訝そうに問いかけてくるグリムが言う「アレ」とは、十中八九リン先輩のことだ。
まあ、確かに先輩はこの世界の人間とは根本から構造が違うようだったし、目に関連した特殊能力を有するグリムが「アレ」呼ばわりするのはよく分かる。
それと、回答の内容に「俺の知り合いである」という情報は主にすべきではない、ということも。
グリムは単に、先輩がどういう存在なのか、という点において疑問を持っている。
「・・・人じゃなくなったナニカ?
まあ昔の友人ではあるけど、詳しいことは何も知らない」
「転生者じゃなかったんすか」
「うーん・・・・・」
だが生憎、俺は現状の先輩についての知識が殆どない。
強いて言えば、先輩が人ではないナニカになってしまった元人間であり、今は暇神様と対になる神様のもとに所属している・・・ということくらいしか知らない。
あとは、前世からは見違えるくらい健康そうになっていたな。
・・・だが、それはグリムの問いとは関係がない。
「転生者・・・ではないんだよ、恐らく。
存在としてはもっと上で、それこそ神とかに近しいカンジ?」
「容姿から推察するとしたら、そのまま行くと天使。
それから、少し前にきみが呼ばれていた名前を踏まえて考えれば、彼女はその逆の単語が当てはまる・・・のだと思う」
すると、ティアが記憶から情報を引っ張ってきてくれた。
そういえば、あの時の「自由の神」は、ティアのことを「お嬢」と呼び、俺のことは「忘却くん」と呼んでいたな。
なら、暇神様の神様関係(?)に絡めて考えると、ある程度の輪郭が見えてくるような気がしないでもない。
「・・・忘却の逆か。
忘れることの反対ってことは───さしずめ、想起?
いや、うーん・・・・・?」
だが、これはあくまで推測。
暇神様のことだから、たぶんヒントも兼ねて色々伝えた結果、俺がこうして気付けるようにしてくれたのだろうが───にしても、だ。
あまりにも、先輩のイメージとかけ離れている。
俺には、先輩がポジティブでキラキラと輝いている姿がどうにも、とてもじゃないが想像できない。
「・・・きみって結構ひどい時あるよね」
「いやあ。なんかこう、もっと適任あったろって思うんだよ俺は」
まあ、うん。
個人的な感情で言ってるのは重々承知だ。
それに、思い出すということがポジティブな場合ばかりではないのも知っているし、それを踏まえたのなら、まあ先輩が適任なのではないかという可能性も無くはない気がしなくもないこともない。
ただ、どうせ決めたのは暇神様と対になっている神様なのだろう。
もしかしたら、真面目な理由ではないかもしれないし。
なんとも言えないな。
「それにしても、想起の天使・・・っすか。
なんか凄そうっすね」
「思い出す事そのものを司ってるとか、そんな辺りだろうな。きっと」
だから、あの時の先輩は、その気になれば俺を速攻で無力化することだってできたのだろう。
それをしなかったのは、あの何も考えていなさそうな頭の中にも多少の情は残っていたか、もしくは別の理由か。
冷静に考えてみると、あの時の俺はかなり危ない橋を渡っていたな。
「・・・それじゃあ、アネキの言う通りに、アニキが忘却って呼ばれていたとしたら」
「・・・・・俺は恐らく、その名の通りに「忘却の天使」なんだろう」
とまあ、そんな考察をしてみるものの、この「忘却の天使」については自由の神が口にした俺の二つ名(?)以外の情報がない。
そもそも先輩の「想起の天使」から既に考察だし、正解である確率はゼロではないにしても、あまり高くはないだろう。
・・・もしかしたら、俺がこの思考をすることを含めてレールが敷かれているのかもしれないが。
「ともあれ、先輩はひとまず無害のはずだ。今のうちはな」
俺から何かしない限り、あの人は無害だと思う。
・・・と考えるのは俺の個人的な感情であるがゆえに、グリムの手前、あまり断言はしたくないから濁しはしたが、きっと。
もしくは、立ちはだかる時があったとしても、先輩は何らかの理由を引っ提げて来る。
たぶん、そんな日は来ないだろうが。
「それより、今は楽しいことを考えようぜ。
俺だって無策で移動してるわけじゃない」
「でも~・・・」
「検問は手早く済ませる。
よしんば時間がかかりそうだったら手を打つから大丈夫だ」
「・・・ホントっすか~?」
グリムからの疑いの眼差しを受け流しつつ、俺は収納魔法から身分証のカードを引っ張り出し、ティアとともにサッと確認をしてから、目の前に並んでいた旅人らしき人が門へと呼ばれていくのを見送る。
「ほら、会話してるうちに次だぞー」
「思っていたより、検問の内容は簡素っぽい・・・かな」
「な」
未だに疑いの目を向けてきているグリムに言葉を投げ、思っていたよりも早い進みにそれとなく感想を述べるティアに相槌を打ち、俺は身分証のカードを指で挟んでピラピラ動かしながらぼけ〜っと待機。
するとそのうち、二十秒もしないくらいで声がかかる。
「次、前に進んで下さい」
一人だけ立っていた誘導係っぽい人に声を掛けられ、門へと進む俺達。
即席っぽい幌の中に入っていくと、そこには見た事のある顔が。
「んあ」
「お久しぶりです。グレイア様」
「ノアだっけ。久しぶり」
ノア・ジャスタ、確か警備隊の隊長だかをやっている人だ。
随分前にキクさんから紹介されて、それっきり。
自分でもまあよく覚えていたなと思いながら、ティアの分も含めて二枚の身分証を彼に手渡した。
すると、入国審査とかによくある、ちょっとした雑談が始まる。
「本日は、どんな御用で?」
「遠出するから休憩がてら。キクさんとかナギに会う予定はないかな」
「なるほど」
簡単な会話を済ませ、右手でペンを、左手で謎のパソコンらしきデバイスを操るノアを眺めること数秒。
作業はすぐに終わったようで、身分証が差し出される。
「・・・はい、確認が取れました」
「うん、ありがと」
「それでは、ご協力ありがとうございました。良い旅を」
受け取りながら例を言うと、ノアは頭を下げながら、定型文らしき言葉を述べ、俺達を送り出す。
「ああ。お前も頑張ってな」
俺も去り際に激励の言葉を伝え、仮設であろう検問所の外に出た。
取り敢えず大通りに出るため、二人と一匹で歩き出す。
予定より多少ばかり時間を食ったが、これでようやく朝食を取れる・・・のはそうなのだが、ここでひとつ懸念点が。
「・・・・・さて」
「呼ばれたね。これ」
「?」
ティアと顔を見合わせ、予感が的中しそうなことを再確認。
思いっきり蚊帳の外なグリムを横目に、ティアが思考を始めたところで、珍しく焦り気味な俺達を見たグリムが不思議そうに質問を投げかけてくる。
「何か・・・あるんすか?」
「ちょっとな、避けられないことが」
「避けられないこと・・・?」
俺の曖昧な回答を聞いて更に疑問符を浮かべるグリムはさておき、概ね状況を整理し終わったティアが俺の手を取り、口を開く。
「目的地は?」
「だいたい目星をつけてる」
「わかった。じゃあ少し早めに歩こう」
「それがいい。あの人、すーぐ俺らのこと補足するだろうしな」
「・・・?」
唐突に恋人繋ぎで早歩きをし始めた挙句、先程とは打って変わって俺達が明らかに「何か」に対処しようとする素振りが見え始めているこの状況───グリムからしてみれば、かなり謎で困惑しかできないだろう。
まあ、当人からしてみれば困惑でそれどころではないだろうが、一応、この先の予定には支障がないと言うことだけ伝えておかなくては。
「ああグリム、安心しろ。飯の時間が遅くなる訳じゃないから」
「え、ああ・・・はいっす」
そうじゃないけど、とでも言いたげなグリムを引き連れ、俺達はそそくさと脚を進めるのだった。
〇 〇 〇
はてさて、時間はちょっと進み、朝食を取るために目的のレストランに到着した少し後。
今は頼んだ料理が到着し、グリムが早速食べ始めたところだ。
「・・・毎度のことだけど、よく食うなあ」
「私、きみに対しても同じこと考えてるよ?」
ぼやく俺と、さりげなくツッコミを入れるティア。
ゆるい空気が流れる中で、只管に、だが妙に上品に食べるグリム。
「自己証明の性質上、エネルギーをかなり使うからな。
グリムは普通に胃袋がでかいだけっぽいが」
「・・・・・失敬っすよ、アニキ」
「じゃあ、単に美食家なだけか?」
「美食家ではないっすけど、食べるのは大好きっす」
「ふうん」
テキトーに話しつつ、グリムは食事を続け、俺達はそれをにまにまと見つめている。
頼んだ料理は殆どが温度が関係ないサンド系のものだから、俺とティアはキクさんが来るまで待つつもりでいるのだ。
まあ、グリムは本人の意向で海鮮のピラフを頼んでいたため、冷めないうちに食べさせているというのもあるが。
ニアは最近、俺の頭の中にずっといるせいで食事をあまり取っていないが、どうせ余ったら俺が食べるため、ニアの分も頼んである。
ちなみに、飲み物は俺がオレンジジュース、ティアがクラフトコーラっぽい炭酸飲料、グリムが紅茶をそれぞれ頼んだ。
余談だが、俺は人生で初めて「紅茶のカップにストローを刺して飲んでいる光景」を見た気がする。
「・・・・・」
ここでふと、ひときわ強い視線を感じた。
先程まで薄らと感じていたモノとはかなり違う、覚えのある気配と視線。
「ちょっと失礼・・・」
そう呟きながら立ち上がり、辺りを見回してみると、レストランの入口の方にキクさんが見えた。
後ろに纏めた髪に、動きやすそうな服装、ほんの少し乱れている呼吸。
恐らく、訓練か何かを切り上げてから来たのだろうと推察できる。
「・・・あっ!」
俺が控えめに手を振ると、キクさんは嬉しそうに声を上げ、迷惑にならない程度の早歩きで向かってきた。
それを確認した俺は席に座り、ひとつ空けておいた席を引いて彼女を待つ。
「ひ、久しぶり〜・・・」
「はい。久しぶりですね、キクさん」
遠慮しつつ話しかけてくるキクさんに言葉を返しながら、俺は椅子に座ってくれと手振りで伝えた。
すると、キクさんはゆっくりと椅子に座り、俺の顔をまじまじと見つめ始めた。
突然の妙な対応に、俺は困惑する。
「・・・?」
脳裏にハテナを浮かべ、周囲からの視線とキクさんからの視線を受けていると、彼女がふと、口を開く。
「グレイアくん、変わったね〜」
「なんですか唐突に」
なんだか含みがある言い方。
どうにも、俺の事ばかりを見て言っているわけでもないようだ。
「さっきノアくんから聞いた通りだからさ〜
なんというか〜・・・雰囲気が柔らかくなったみたいなね〜?」
「・・・色々ありましたから。
それで雰囲気が柔らかくなるってのも変な話ですが」
「お仲間も増えたみたいだし〜」
「?」
グリムの方を見ながら、笑顔で話すキクさん。
対するグリムは黙々とピラフを食しており、興味はあまり無さげである。
まあ、もしかしたら千里眼で既に知っていたりとか・・・・・
「グリム、この人はスネス王国の騎士団長のキクさん。
ワンチャンお前なら知ってそうな・・・」
「知ってるっすよ。千里眼でちょいちょい見てたっすから」
「・・・へえ〜」
なんて思いながら一応紹介してみると、やはり既知であったようだ。
そうなると、より一層こいつの過去が気になってくるが───今は関係ないので置いておいて、目の前の会話に集中する。
「なんだか、すっごい子だね〜」
「・・・まあ、そこそこ強いヤツですよ。こいつは」
とはいえ、グリムについてはとくに言えることもないので、当たり障りのない言葉で紹介するばかりなのだが。
「そういえば、あの子は居ないの〜?
もう一人の、ちょっと大人びた子はさ〜」
「ニアならここに」
キクさんの問いに、俺は頭をコンコンと叩く。
というのも、最近のニアはあまり実体化しないのだ。
これが省エネ形態だから(本人談)なのか、周囲の警戒とかデータの採取に集中してくれている。
本人曰く、食事はとる必要がないそうなのだが、俺としてはもう少し一緒に過ごしてくれたらと思ったり。
「・・・グレイア」
「あ、悪い」
と、すっかり朝食のことを忘れていたところで、ティアが俺の肩を叩いて引き戻してくれた。
「うん? どうしたの〜?」
「いえ、そろそろ食べようって話です。
キクさんも、テキトーに頼んでるんで好きなのを選んでもらって」
「いいの〜?」
「はい」
まあ、軍人だから好き嫌いはないだろうと思いつつ、俺とティアは食べたいものをテキトーに選んで包装を剥く。
因みに、俺が選んだのはエビカツバーガー。
タルタルがカツにかかってるタイプの、ちょっと大きめなバーガーだ。
「んじゃ・・・いただきまーす」
朝から重いなあと思いつつ「いただきます」を言い、バーガーを口に運ぶ。
久しぶりに俺達以外の人物を含めての食事だ。
相変わらず周囲からの視線は感じるが、まあ、楽しく食べられることを願おう。
umm...
キクさんの造形が・・・霞んで・・・・・




