5-13:変わらないようにと
整理して、飲み込む。
俺はべつに、自分の日常について書き起こそうなんて考えたことはないし、できるとも思っていない。
でも、先輩に会って、あの時の、楽しかった過去を思い出して───少し、懐かしい気分になった。
もうキッパリと別れの言葉を言って、見送ってもらったと言うのに、俺は何故か、今でも記憶に残してくれていたらと考えてる。
だから、高校生活を共にした友人達が、きっと、俺と同じ目に逢うことがないようにと。
そう願っているけど、生憎、叶った経験は少ない。
「・・・あーあ」
ベッドに倒れ込んで、声を漏らす。
心の奥底に封じてあったはずの感情が、漏れ出てくるのを感じる。
「・・・・・」
合わせる顔がない、と言うなら、そうだ。
でも、両親は俺を責めることはない。
あの人達は、俺の味方だ。
どんなに人を殺したって、手を汚したって、それがやるべき事だと判断したが故の行動なのであれば───そして、俺が確固たる意思でそれを実行したのなら、父さんと母さんは肯定してくれる。
だから、俺が気に病む必要は無い・・・はず。
もう会えないから、考えたところで無駄だけど。
「・・・汚れたなあ」
天井の明かりに右手をかざしながら、そう呟いた。
いやはや、俺も相当な大量殺戮者になったものだ、と。
「・・・・・はーあ」
正しいことをしたつもりは毛頭ない。
でも、だからといって間違った道を歩んだつもりもない。
誰かのためじゃなく、自分のために判断して、人を殺した。
仕事だからと割り切って、沢山の命を、同郷の転生者すらも手にかけた。
「・・・それこそ、なあ」
ここで、少し疑問に思う。
今まで七人の転生者を葬ってきたが、それらは例外なく、数多の命を奪ってきた様子だった。
俺を殺そうとすることに躊躇いはなく、まるで、ゲームのように戦おうとしていたと記憶している。
『───片手で数えられるくらいしか居なかったんだ。
純粋に、この世界を現実だと認識している転生者が』
ふと、ナギの言葉を想起する。
確かアイツは、その能力を用いて転生者と相対する際、その転生者が抱く妙な「非現実的な思考」に悲観的な感情を抱いていた。
だから俺も、あの時は、最初の出来事がなければこの世界を現実だとは認識できなかっただろう・・・と考えた。
でも、今思えば少し違うように思う。
きっと、根本から違っていたのだとすら思っている。
『お前のどこが例外なのか。
それは、そう簡単に表せるものではない』
暇神様にこう言われた時、俺は情報が足りなかったがゆえに、単に「存在に付随する思想に影響を受けないことは稀有なのだろう」と考えた。
だが、今ここで振り返ってみれば、暇神様のその言葉の真意は、もっと根本的なモノを指しての発言だったのだろう。
「・・・だからこそ、気をつけないと」
俺は、決して踏み外してはならない人間だ。
何らかの役割をもって導かれている以上、俺は絶対に、どこかにふんぞり返って他人を見下すような存在になるべきではない。
俺は絶対に、中立でなくてはならないのだ。
「・・・・・」
望んで協力することはあっても、敵対するべきではない。
与することはあっても、肯定するべきではない。
甘えることは構わないが、依存してはならない。
「ふー・・・」
言い聞かせて、その通りにする。
それだけだ。
俺は、ただの人としてできることを最大限にやるんだ。
「・・・・・」
ゆっくりと上体を起こし、ベッドの縁に座る。
そして俯き、呼吸を整える。
「はー・・・・・」
右手を少し握り、魔力を充填。
どうせそこに居るのなら、せめて今は。
「・・・え」
驚き、声を上げるティア。
魔力探知などは一切せずに、扉の外に居た彼女の存在を感じ取ったことに、とても驚いている様子。
でも、俺は構わず彼女の、立ったまま固まっている彼女の胸に、ゆっくりと体重を預けた。
「っ・・・」
さっきから盗み見をしていたんだろう。
なら、このくらいは許して欲しい。
「・・・うん」
思考を見て、返事をすると───ティアは俺の頭に手をまわし、優しく抱いてくれる。
「・・・・・ありがとう」
もう、このまま眠ってしまいたいとすら思う。
今日は、本当に疲れたから。
「・・・・・」
あわよくば、もう少し、ほんの少しだけ。
この平穏と安寧が続くことを願って。
以上で、二章は終了です。
次章の書き始めについては、まあ、近いうちに。
新しい作品の方についても、書き進めてはいるのですが、いかんせん自分の頭の中で優先されるのがこっちの方でして。
思ったように執筆が進まないのが現状です。
ですが、その分こちらは三章の大まかな内容まで決まっていますので、読者の皆様方は是非、このまま待機していただければと思います。
では、私からは以上です。
どうか、これからも、この作品をよろしくお願いします。