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愛され気質な逸般人の異世界奮闘記  作者: Mat0Yashi_81
二章:運命を壊すは世界の奔流
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5-7:決意

 報いるために。




 



 ミコト国、首都。

 江戸時代のような建築にガラスなどの近代的要素が組み合わさった、転生者が存在する世界としての歪さを、これ以上ないほど見事に調和させたこの街で───俺たちは、戦う。

 まあ、戦うとはいっても、戦争を名乗るわけではない。

 というか、この戦いを戦争と呼んでしまっては、回り回ってなんか色々とマズいことになりそうなため、むしろ、是非とも戦争と呼ぶことは避けたいところ。

 あと、単に宣戦布告されてないし。

 なんなら、迎撃できる状況にあるだけで、相手がしてることは普通にテロだし。


「・・・はあ」


 ため息をつき、空を見上げる。

 現在時刻は九時五十八分。

 来て欲しくはないが、時間的にも、そろそろ来てもらわないと困る。


「・・・ん」


 と、ここで俺の視界に異変発生。

 作戦会議をしている他メンバーのちょっと後ろあたりで気晴らしにストレッチをしていた俺の視界が、まるっとモノクロになり、うっすら白い霧と光る塵が舞い始めた。

 敵の攻撃かと問われれば、まあ確実に違うため、焦らない。

 それより、落ち着いて話を聞く体勢を整えておく。

 自然体で立ち、深呼吸。

 そんなことをして落ち着いていれば、直ぐに彼は来る。


「ついに決戦の時だ。

 気分はどうかな? 虚無の寵愛者、グレイアよ」


 虚無の神。

 彼は俺の目の前に瞬間移動してきて、俺の顔を見下ろしながら話す。


「合縁の寵愛者が推測した事象。それはお前と独善の寵愛者が衝突する未来であり、今まさに起ころうとしている事実でもある。

 そして同時に───今からお前は、世界の力的バランスを変える」


 今回はあまり悠長ではない。

 明らかに俺の話を聞いてくれるような雰囲気ではないが、俺はあえて、彼に、暇神様に言葉を返す。


「あくまで副次的な効果です。

 俺がアレ(独善)を殺す意志を持つのは、決して利己的な理由じゃない」


 だが、暇神様は何も答えない。

 答えず、淡々と話を続けるだけ。


「転生者という存在は、今まで数多の欲を露わにしてきた。

 不老、不死、知恵、名声・・・・・それから、純粋なる力」


 ゆっくりと歩きながらそう話し、俺が彼を追うように身体と視界を動かしてみれば、今度は背後に回って俺の肩に手を置き、言葉を強調する。


「これについては、独善の寵愛者───タカネも例外ではない。

 小さな力から始まった欲望は、同じはずの存在を虐げていくうち、次第にまるでブロイラーのように肥大化し、神にすら手を伸ばし始めた」


 俺の右側から前へと歩き、空を見上げながらそう話す暇神様。

 彼の言葉に感情はなく、ただ、俺に対して淡々と情報をくれているだけ。


 ・・・ではない。


 勝手な推測ではあるが、彼は、暇神様はきっと、俺に何かを求めている。


「お前は独善と戦うなかで、彼女が抱く、その歪な欲望を知る。

 私の友が殺せと命じた、その理由も知るだろう」


 だから、俺にこうして教えてくれる。

 全てを伝えることなく、ある程度の判断の余地を残して。


「自由の系譜、その末裔についてもそうだ。

 お前は憎しみを理解できないと考え、愛する彼女の過去と望みを割り切ったが、現実は簡単ではない。

 必ず、決断の時は来る」


 こちらを向き、漆黒の目で見つめ、話す。

 その、繰り返し。


「血に塗れた戦場の最中、お前は全てに終止符を打つ。

 お前が知らない悲劇も、事実も、因縁も」


 今、この場で考察をする必要はない。


「だが、お前はその中で、また一つ成長をする」


 だが、後で必ず、整理するべき時は来るはずだ。


「次に会った時、お前は一体、どんな決断を下すのか」


 次に呼ばれた時、その事柄は、きっと求められるのだろう。


「楽しみにしている」


 応えねばならない。


 俺を救ってくれた存在が、俺に何かを求めているのなら。

 恩をくれたのだから、返さなければならない。

 ましてやそれが───この命を以て、お膳立てされたものであるのなら。


「・・・尚更だろうが」


 静寂に満ちた空間に、俺の独り言がこだまする。

 机の上に広げられた書類をじっと見ていた皆の、困惑が混じった視線が俺に突き刺さる。

 ついさっきまでモノクロで静止していた世界は、既に色づき、動き出していた。


「アニキ・・・?」

「少し呼ばれてただけだ。気にするな」


 グリムが心配してくれている。

 でも、そろそろ来てしまう。

 現に───ユカリ達は何かを察したのか、既に身構えている。

 すると、次の瞬間だった。


「「「!!!」」」


 突然、俺達が居る場所が暗くなった。

 すると間髪入れず、ニアがティアの脳内から通知を飛ばす。


『上空から強大な魔力反応が接近しています。

 魔法の規模は、先日のものと同等かそれ以上だと推測───』


 ニアの通知を聴きながら、俺とティアは構え、右手に魔力を込めつつ上に向け、狙いが定まったら息を合わせて放出。

 いつもより気合いが入った二本の魔力の光線は、接近する隕石のような魔法をいとも容易く貫通し、内部で爆発───すぐさま魔法としての効力を喪失させ、被害を最小限に抑えてバラバラに落下させる。


「ふう」

「・・・・・」


 残骸を都に展開したバリアが弾いたことを確認し、構えを解く。

 次に、こちらを向いているユカリとアイコンタクトを取り、彼女が通信を構えて待機。

 前と同じなら、恐らく次にくるのは・・・・・


「!」


 なんて考えていたらドンピシャだった。

 都の前方で赤い雷が轟き、深紅のヘイローをたたえた、巨大な八面体が姿を現したのだ。

 あまりに読みやすい・・・と思ったが、流れから察するに、相手側はむしろ読まれることで絶望感を出したいのか、惜しみなく手札を切ってくるようである。

 俺にとっては、やりやすいことこの上ない。


『各員へ通達。

 状況開始。繰り返す、状況開始。

 即座に警戒態勢に入り、敵勢力を迎撃せよ』


 ユカリが防衛隊に指示を行い、戦いが始まった。

 実感が湧かないが、まあ、現実はそんなものだと思う。


「・・・・・ふー」


 呼吸を整え、目を閉じる。

 時間はないが、余裕はある状態だ。

 そこまでの緊張は、するべきでないと思う。


『こちら第一小隊、交戦開始!』

『第四小隊より本部へ、交戦開始の報告!』

『第二小隊、本部へ───』


 耳に入る情報が増えてきた。

 魔力の反応も増え、確実な、強大な、転生者であろう存在が、こちらへ近付いてくるのを感じる。

 ニアからの報告によれば、可能性が高いのは「獄炎の寵愛者」だったか。

 情報を聞いた時から思っていたが、俺の見通しが正しければあるいは、コイツはハルトにとって調度良い相手かもしれない。


「・・・よし」


 そう呟き、右手を耳に当てて通信魔法を遮断。

 今の俺は魔力探知を除き、ほぼ素の状態のままだ。


「・・・・・・」


 辺りを見回し、状況を確認。

 遠くで見える爆発と、都の真ん前にそびえる軍勢の残滓、とくに異常は見当たらない。

 それから、他のメンバーは既に行動を開始し、持ち場へと向かった。

 この場に残っているのは、俺と、ハルト。

 大きな戦いを受け持つ、重要な戦闘員だけだ。


「やるか」


 決意を固め、歩き出す。

 一歩、二歩、とそれぞれ足を進めるごとに、俺の身体は、まるで見えない何かを通り抜けたかのようなエフェクトを纏って、瞬く間に姿形が大きく変化していく。

 そして五歩ほど足を進め、ハルトの斜めちょっと前くらいまで歩いたところで身体は完全に変化し、昨日の夜、ティアとともに最終確認をした状態にまで持っていく事ができた。

 正確には体内の筋力やらを弄ったため、いつも通りの黒銀色に輝くオーラを纏っているが、些細なことは気にしない。


「ハルト・・・」


 最後に、俺は振り向き、ハルトの名を呼んだ。

 すると彼は俺の顔をじっと見つめ、言葉を待つ。


「何があっても、俺のことを信じていろ」

「・・・はい」


 俺の言葉に、ハルトは真っ直ぐな眼差しで答えた。

 そんな彼の、最初に会った頃とは比べ物にならないほどの正直さに感動すら覚えながら、俺は軍勢の残滓の方へ向き直り、歩き出す。


「・・・・・」


 一歩、二歩、三歩、四歩、なんて、着実に足を踏み出していくうち、自然と足の回りが早くなっていく。

 飼っていた犬とともに全力で走った、昔の感覚を思い出して。

 運動音痴ながらも全力で走った、あの頃とは全く違う速度で。


「・・・っはは」


 とても、楽しくなってきた。

 不本意ではあったが、奇しくも有効的であったアイスブレイクはこれで済み、これからは本格的な戦闘に移る。

 楽しい戦いではなく、本当の殺し合いへと。


「・・・・・ッ!」


 脚に力をめいっぱい込め、踏み込み、跳ぶ。

 それにより、俺の身体は瞬時に音速にまで到達し、ソニックブームを発生させながら軍勢の残滓へと迫っていく。


「パイル───」


 先ず行うべきは軍勢の残滓の破壊。

 次は敵本陣に攻め入り、戦力を可能な限り削る。

 あとは流れ。

 持ち前の手札と、フィーリングで解決していく。


「───バンカーッ!!!」


 魔法は構え、準備万端。

 さっさと事を済ませてしまおう。




 ▽ ▽ ▽




 ・・・とても、疑問に思う。


 自分が把握している限りでは、あの人は───グレイアは、偉い人が持っているようなズルい自己証明を持っていないはず。

 でも、あの人はボクを信頼しているらしく、ティアという人によれば、最初に襲撃をしたことも一切気にしていないそう。


「・・・・・」


 父さんと話していた時も、凄く気になっていた。

 あの人は話さないだろうけど、きっと、何か意図があったのかもしれない。

 ・・・いや、そうであってほしいなと思ってる。

 今は変わってしまった姿も、あれが意図しないものであるとしたら。

 あの小さな身体に、どんな人が収まっていたのかと聞いてみたい。


『───貴方の目には、そう映りますか』


 つい先日の言葉が、また聞こえる。

 あの人は、父さんに褒められた時、たぶん悪い気分になっていた。

 顔は見えなかったけど、声の雰囲気で察することができたから。


「・・・うん」


 答えを教えてくれることはない、あの人の考えを。

 ボクは、この戦いで知ることができるだろうか。


「行こう」


 頬を叩き、気合いを入れて歩き出す。

 この国を守るために、あの人の助けになるために。


『───何があっても、俺のことを信じていろ』


 ボクはやる。

 信頼を向けてくれたのなら、その通りにして返す。

 例えそれが、どんなに些細なことであったとしても。


 少なくとも、母さんはそう言っていたから。




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