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愛され気質な逸般人の異世界奮闘記  作者: Mat0Yashi_81
二章:運命を壊すは世界の奔流
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5-6:達観冷徹

 不器用なこって。




 



 時刻は午前十時、場所は正義の寵愛者の執務室。

 静かな部屋の中で、変わらずの業務を片付けているナギは───すらすらと走らせていたペンをぴたりと止め、机の上に転がす。

 次に左手を机について席を立つと、右腕に魔力を込め、吹き出した魔力を刃のように形作りながら後ろを向いた。

 そして窓の方まで歩いていき、換気のためにと空けておいた窓に向かい、彼はおもむろに右手を突き出す。

 瞬間、迸る旋風。

 部屋に響く、風切り音。


「・・・・・」


 それらが落ち着いたかと思えば、彼は静かに口を開く。


「親しき仲にも礼儀あり・・・」


 語りかけるように、しかし明確な威厳は以て。

 目の前に居るはずの存在に、彼は問いかけた。

 すると現れる姿形を確認しながら、彼は続ける。


「そうだろう?」


 窓に腰掛け、不敵な笑みを浮かべる少年。

 顔の横を掠めた刃には一切の興味を示さず、白銀色の瞳は彼に向けたままで。

 いつも通りの姿形だが、しかし何も感じ取れない。

 そんな不思議な少年の名を、彼は呼ぶ。


「・・・グレイア」

「・・・・・っは」


 すると、グレイアは静かに笑った後、瞬間移動魔法を用いて執務机の前に転移した。

 それからナギは魔力を解き放って武装を解除すると、振り返ってグレイアと視線を合わせる。


「悪い、ちょっと急ぎの用事で。

 どうしてもアポを通す時間が惜しかった」


 先に口を開いたのはグレイア。

 彼はナギからの追求に対して簡潔に理由を述べ、言葉を続ける。


「それから、今日、俺がここに来た理由は───とある未来を、他でもない友人であるお前に、当事者である俺自身の口から教えるためだ」


 ───とある未来。

 その言葉に、ナギは己の記憶から誰の仕業であるかを察することはできたが、しかし疑問の方が勝ったため、そのまま聞き返す。


「・・・・・未来だって?」

「そう。今から三日後に俺が起こす、確実な未来だ」


 ナギが聞き返すと、グレイアはノータイムで肯定した後、己がその事象を起こすのだとも宣言した。

 先程からの異様な雰囲気から、いつもとは確実に違う態度。

 彼の中で、嫌な予感が膨らんでいく。


「・・・続けてくれ」

「ああ」


 これから起こりうる可能性の数々に頭を抱えながらも、ナギはグレイアの話に耳を傾けた。

 対するグレイアも、先程から変わらない冷徹な面持ちのまま、淡々と言葉を続けていく。


「俺は三日後、独善の寵愛者および独善教所属の転生者三名を殺害する」


 瞬間、ナギの中で加速する予感。

 念の為と、彼はグレイアに向けて問う。


「・・・戦争かい?」

「いいや、そんなに高尚なモンじゃない」


 しかし、帰ってきたのは否定の言葉。

 そこに追い打ちをかけるように、言葉は続く。


「ただ、これだけは確定事項なんだ。

 俺は三日後、四名の転生者を手にかける。

 これだけは、確実に起こりうる未来」


 これだけは・・・と。

 そんな保険をかけている時点で、彼の頭に思い浮かぶのは「自由」の二文字。

 かつて独善と相対し、無惨にも葬られた男の背中。


「・・・・・やめてくれよ、死ぬなんて」


 能力なんて関係なく、純粋に心の底から、彼はグレイアに告げる。

 しかしグレイアの態度は変わらず、淡々と言葉を続けるのみ。


「だから策を練った。これはその一環」


 その理由は、単純だ。

 彼に言わせれば、俺は自由でなく虚無であり、未来は違うのだと。

 正義を背負うナギに、この件については関与の必要は一切ないと告げるため───彼はそのために、ここにやってきた。


「これは?」


 グレイアから投げ渡された、ひとつの結晶。

 ナギは詳細を問うが、彼は答えない。


「・・・お前はせめて、友人の無事を祈っているといい」


 それどころか、一方的に会話を終え───散りゆく草花のように、霧散していってしまう。


「・・・・・」


 まさしく台風一過、パッと来てサッと帰ってしまった友人に振り回され、ひとり託された情報と結晶を握り、ナギは立ち尽くす。


「無事・・・か」


 静かに呟き、結晶を握り込む。

 時間にして数分もない、僅かな再開であった。




 ▽ ▽ ▽




 さて、色々な理由でトリッキーになってしまった訪問を済ませた後、俺は物流ルートの被害状況を確認しつつ、都まで戻ってきた。

 時間には余裕を持たせていたから、これからのスケジュールに何か問題が発生することはない。

 ひとつ気がかりなことがあるとするのなら、それはティアに監督を任せたハルトと都防衛メンバーの模擬戦だが・・・・・

 効果については期待できないとニアからも断言されていたから、結果については期待しないでおこう。

 ティアのやつ、かなり辛口で評価するだろうし。


「ただいま」


 ともかく、俺は都の近く───丁度よく模擬戦が出来そうな平原の近くの小高い場所に転移してきた。

 瞬間移動の精度は概ね良好。

 慣れるしかないと使い続けてきた一人での瞬間移動も、ようやく、ニアに頼らずとも日常使いが出来るようになってきている。

 ゆくゆくは、ニアをティアに預けたままにすらできるかもしれない。


「・・・おかえり、グレイア」


 振り返って俺の名を呼ぶティア。

 俺はそのまま歩いていき、隣に並んで静かに問う。


「状況は?」

「悪くはない。けど良くもない」


 帰ってきた答えは微妙な雰囲気。

 俺は顎に手を添え、もう片方の手は腰に当てて思考をめぐらせる。

 やっぱり、弱いのをぶつけるのは失敗だったか・・・と。

 すると、ティアは俺の顔から向こうの上空で視界をリモートしてくれているグリムに視線を移しつつ、俺の思考を補完するように説明を始めた。


「失敗、だけど仕方ない。

 きみが居ない状態だった以上、どうしてもニアさんと私の二人だけだと有効なアドバイスができないから」

「んー・・・・・」


 確かに、ニアは理論的な物言いはできるものの、表立って戦うことが少ないせいで感覚的なアドバイスは難しいからアイツ(ハルト)に対してアドバイスはできない。

 それから、ティアは能力の都合上、アイツ(ハルト)のように自分の意思で用いるタイプの自己証明を持った人間とはどうしても相性が悪いから、こっちもアイツ(ハルト)に対してのアドバイスは不可。

 だから苦肉の策として、わからん殺しをされる戦いよりも、自分の強さを実感できる戦いを選んだわけだが───まあ、普通に失敗だ。


「現状、あの子の目標はきみになってる。

 確かに都の防衛隊は軍人だから強いけど、それでも冒険者に当てはめたらBランク上位くらいが限界」

「・・・・・相手が弱すぎて、俺に勝てるビジョンが見えないか」

「うん。今の彼は、自分より戦力が劣る複数に対する立ち回りを磨いている傾向にある」


 だとするなら、今のアレ(模擬戦)は俺が目指す教育方針からズレまくっている。

 苦肉の策だから仕方がなかったとはいえ、個人的な感想を述べるなら、まさか都の防衛メンバーがあそこまで実力不足だとは思ってもみなかった。

 あの体たらくでは、いざと言う時の保険にすらならない。


「でも、居ないよりはマシ。でしょ」

「・・・まあ、居ないよりはな」


 俺たちがやろうとしていることを鑑みれば、彼らは俺たちにとっての足手まといにはならない。これは断言できる。

 だからまあ、居ないよりはマシ・・・なのだが。

 居たところで肉壁にするわけでもなし、本当に「マシ」程度の扱いだ。

 なんなら、べつに居なくても構わない。

 というか、可能なら居ないでほしい。


「・・・・・はー」


 面倒だ、色々と。

 無駄な事ばかり考える。


「あー・・・・・」


 時間なら取ったろう。

 さっさと本題に入らないと・・・


「・・・珍しいね」

「ん?」


 と、まあフツーに勘づかれた。

 次にくる言葉も予想できる。


「きみが変に葛藤するの」

「・・・あー」


 その通りではあるが、まあ、図星ぶちこまれたところで返答に困るのは変わらない。

 どうしてもデリケートな話題だし、口に出すことも・・・・・


「独善の寵愛者のことでしょ」


 はばかられる・・・なんて。

 ああ、そういえばそうだったな。


「・・・価値観が違う、か」

「きみは絶対に気を使うと思ってた」

「ああ・・・」


 こちらを向き、微笑みながら俺の思考ルーチンを言い当てるティア。

 彼女の顔にはすっかり、いつもの意地悪な微笑みが張り付いていて、全くもって予想通りだったと言わんばかりの雰囲気。

 俺はどうしても、こういう時に思考が固くなりがちだ。

 慣れと経験が足りない以上、仕方のないことではある・・・が、まあ、今はいい。


「それで、どうなんだ。お前は独善の寵愛者を殺したいか?」

「別に。殺すことには興味はないかも」


 即答するまでは予想通り。

 だが、答えを濁したのは予想外だった。


「・・・かも?」

「相対してないからわからない。けど、確実なことはある」


 そう口にしたティアの表情が、暗くなる。

 俺から顔を背け、真っ直ぐと正面を向いて。

 少し高い身長を使って、俺から顔を隠しながら言葉を続ける。


「私は、あのクズ女が絶望して、きみに恐怖する顔を見たい。

 この目で、確実に、絶対に見てみたい」


 冷静に、だが確実な怒りを込めて。

 ここ一ヶ月半ほど一緒に居て、今まで一度も見たことがない、ティアの憤怒の感情。

 俺は他には何も言わず、間を開けて相槌を打つ。


「・・・・・なるほど」


 余計なことは言わなくていい。

 簡単なことだ。

 奪われた側の人間の感情は、俺には決して理解できないのだから。


「わかった。それだけ把握できれば十分だ」


 俺は静かに告げ、視線を前に向けた。


「・・・・・」


 遠くから聞こえる戦いの音。

 それ以外は僅かばかりの風の音ばかりが聞こえる平原の真ん中。

 そのまま暫く沈黙していると、突然、俺の視界が・・・というか、俺が居る空間そのものが真っ黒に染まる。


「んあ」


 なんだなんだと困惑し、けれども魔力の雰囲気で敵の攻撃ではないことは十分に把握できたため、俺は両手を前に広げて待機。

 すると次の瞬間、俺のことを誰かが抱きしめた。


「・・・・・」


 ()()()()()強く抱擁され、ちょっぴり息苦しい。

 だが、俺は何も言わない。

 ただ只管に、目の前の人物を抱き返す。


「・・・ありがとう」


 僅かに震えた声。

 だが、俺は何も言わない。

 何も言わずに、そのままの姿勢でいつづける。


「・・・・・」


 今ここで、やるべきことはそれだけだ。

 時間は十分に取った。

 であれば、決して、何も、気にする必要はないだろ。









 まっこと申し訳ありません。

 毎日爆睡三昧でした。

 そろそろ二章も佳境です。

 ティアの過去については・・・グレイアが彼女の祖母に会いに行った時にでも話しましょうか。

 現時点でも、その辺まではストーリーを考えてあるので。

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