4-8:安堵する心
完全なるイレギュラー。
ライ・スネス王国、レヒト城の一室。
カリカリとペンを走らせる音のみが木霊する、正義の寵愛者の執務室。
今朝の事件から一気に忙しくなった彼の集中は、数秒後、人払いをしているはずの廊下から聞こえてきた足音とともに破られる。
「───ホトハラ様」
ノックを三回、からのワンテンポを置いてから聞こえた、彼にとっては聞き覚えのある従者の声。
彼はペンを走らせていた手を止め、扉の方に目をやった。
そしてペンを魔法で空中に固定しつつ、左手で眠たそうに眉間を抑えながら、彼は気だるげな声で一言、扉の向こうに向かって言葉を投げかける。
「・・・今は忙しいと、言ったはずなんだけど」
「虚無の寵愛者様がお見えです」
「・・・・・は」
しかし、扉の向こうからノータイムで返ってきた答えは───まさか、彼にとっては到底信じ難いものだった。
彼は一瞬だけ思考停止に陥った後、直ぐに気を取り直して表情を補正する魔法を自身に付与すると、そのまま扉の向こうへと返事を送る。
「・・・わかったよ。入っていい」
「承知しました」
すると再び瞬時に返ってきた返事とともに、扉がゆっくりと開かれる。
完全に開かれた扉の向こうに居たのは、慣れ親しんだ背格好の従者と、もう一人。
つい数日前に隣国へと送り出したはずの、友人の姿だった。
「お連れしました。虚無の寵愛者様です」
端的に告げ、一歩下がる従者。
その後ろから、数歩ほど前に出てくる虚無の寵愛者、グレイア。
「よう、ナギ。随分と久しぶりだな」
「・・・ああ。本当にね」
ポケットに手を突っ込み、なんとも言えない表情で挨拶をするグレイアと、彼の姿を見るなり椅子の背もたれに身を預け、安心したと言いたげな表情を浮かべて言葉を返すナギ。
方や友人の状態を心配し、方や友人の無事に安心している。
一見すれば微妙な沈黙であるために気を使ったのか、従者は音を立てずに扉の取っ手を握ると、ナギに対して一言。
「では、私はこれで」
「うん。ご苦労だった」
ナギは義務的に言葉を返し、従者が部屋から出ていったのを確認すると、背もたれから身体を起こし、伸びをしてからグレイアの方を見やる。
この人一人が扱うには完全に持て余してしまう執務室の中で、グレイアは「いつでもいい」と言わんばかりに後ろで手を組んだままの自然体で居るし、ナギは心配をはじめとした様々な感情がゆえに、焦燥に似た感覚に襲われていた。
無駄に広く、そのくせ来客用の備品なんてものはないし、逆に威厳を強調するための大きな窓すらある窮屈な執務室。
この部屋の沈黙を先に破ったのは、ナギだった。
「・・・・・さて」
「ん?」
訪問してきた側が先に口を開かないため、彼は推察から言葉にして伝える。
きっと、今しがた隣国から飛んできたと思われる男が言いたいことは、これなのだろうと。
「・・・・・今朝のことかい?」
「その通り。でも、もう終わった」
「・・・え?」
しかし予想外、正解してはいたが、まさかの解決済みであった。
先ほどまでの心配など全て吹き飛ばさんとするくらいの衝撃が、彼を襲う。
「敵は全部片付いた。指揮を執ってた転生者も纏めてな」
「・・・・・本当に?」
「ああ、悪いな。敵の行動で発生する犠牲を考えたら、順序なんて気にしていられなかった」
「・・・いいや、責めはしないけどさ」
そこではないだろうという言葉を、彼は必死に飲み込む。
また、現在進行形で自分のもとへ歩み寄ってくる友人に向けて、問題はそこではないだろうと、どうにかして言葉を選んで問おうと試みる。
「え、大丈夫なの? 色々と」
「何が?」
「怪我とか、損害とか。君だって無事じゃ済まなかっただろう?」
「いや別に。俺はほぼ無傷」
「・・・・・」
確かに、グレイアの肉体には傷一つない。
だからこそ、気を使って治癒してきた───などの可能性を彼は考えていたのだろうが、どうやらグレイアという人間の前では、ただの杞憂でしかなかったようだ。
そして同時に、彼は決意する。
この男をそのまま返してはならないと。
本人の意思なんて関係なく、自分が満足するまで情報を聞き出さなければならないと。
「少し、話を聞かないといけないみたいだね」
「そうなるか」
「・・・逆に聞くけど。これだけのことをして、すぐに帰れると思った?」
「そうなるといいなって思ってた」
「ちょっと正直すぎるな君は・・・」
あっけらかんと自身の楽観視を垂れ流すグレイアに安堵しつつ、ナギは部屋の端に積んである椅子を魔法で引き寄せ、机の反対側に置く。
そして自分の机の中をまさぐりつつ、グレイアに声をかける。
「・・・取り敢えず、ここに座ってくれ」
「ああ」
「携帯食料、要るかい?」
「ほしい」
「・・・ほら」
「ありがと」
グレイアは投げ渡された銀の袋に包まれたクッキー状の携帯食料を受け取ると、袋を開けて小さく一口かじって味見をした。
すると口の中に広がったチョコの味に気分を良くしつつ、ナギの方を見る。
「・・・・・話を」
「もちろん」
脚を組んで椅子に座り、腕は組み、もらった携帯食料は右手に握ったまま。
対してペンと紙を構え、緊張した面持ちのナギを相手に───グレイアは、ごく自然体のままで説明を始めた。
「先ず俺は、ここ数日で転生者を三人殺した。
それぞれの関係性は一応だが把握出来ていて、まず最初に殺した叡智の寵愛者は神々に唆されたのが理由の単独。んで今日まとめて殺した二人、狡猾の寵愛者と幻惑の寵愛者は両者ともに「善き御心の失楽園」とかいう組織の構成員であるのとが分かってる」
「・・・うん」
「ここまででなにか質問は?」
「・・・・・「叡智の寵愛者」が他の二人と繋がっていない証拠は?」
「ない。が、繋がっている証拠もない。
最も、俺がその判断をした理由は担当の神様が何も言わなかったからだが」
「・・・わかった。じゃあ、可能性は薄いってことだね」
「肯定はするが、あんまし鵜呑みにはするなよ」
説明がひと段落したところで、グレイアは右手に握った携帯食料を一口かじり、静かに咀嚼する。
そんな彼に対して、ナギは記憶した情報を紙に纏めていく。
暗に「そのための時間だ」と言わんばかりの沈黙が流れたのち、ナギの筆が止まり、再び顔を上げたところで、彼は説明を続けるために口の中のものを飲み込んでから口を開く。
「・・・んで、次。その「善き御心の失楽園」って組織に所属してる奴らだ。
こいつらは今朝からの襲撃の首謀者で、俺達が初撃の隕石と、最初に襲撃してきたフェニックスを討伐した後、都を包囲してた魔術師部隊を殲滅したついでに軍勢の残滓をぶっ壊したあと───」
「待った、ちょっと待った」
「・・・なんだよ」
急に説明を止められ、舌を嚙みかけたグレイアは怪訝そうな顔をナギに向ける。
だが、ナギの心情としてはグレイアの状態を気にしていられるほどの余裕はない。
なぜなら、彼にとっては到底無視できない単語が四つほど混入していたからだ。
(僕らに甚大な被害を及ぼした攻撃を耐えて、Sランクの魔物を倒して、少なくとも並以上の軍隊を無力化して、挙句には軍勢の残滓を破壊・・・⁉)
「ナギ? おーい」
(しかも普通に元気そうじゃないか・・・)
少なくとも、普通の人間が一日で行うタスクの量ではない。
仮に負荷の分散や魔力の補給をしたとて、この量のタスクを一日で、それも話を聞く限りでは短時間で済ませるなど、正義の寵愛者たる彼とて片手で数えられるくらいしか経験したことのない激務だ。
しかも、その後には転生者との戦いが待っているという。
あまりにも衝撃的であったため、ナギは記憶するのに間に合わなかった。
「もう一回聞こう。なんて?」
「いや、だから初撃の隕石をティアがぶっ壊して、その後に襲撃してきたフェニックスとかいう魔物を討伐した後、都を包囲してた魔術師部隊を殲滅したついでに軍勢の残滓をぶっ壊した。これでいいか?」
(あの魔法壊してるし、軍勢の残滓に関してはついでとか言ってる・・・)
再び聞いた内容に再び驚愕しつつ、彼はしっかりと間違いのないようにメモを取る。
そして一息つき、グレイアの目を向けて言葉を投げかけた。
「・・・理解できないことが理解できた。続けていいよ」
「了解。そんじゃ続きな。
軍勢の残滓をぶっ壊した後、魔力が尽きかけた俺は簡単な魔力の補給を受けてから合縁の寵愛者と会合した。そしたらなんか、狡猾の寵愛者が不意打ちで爆発魔法ぶちかまして来やがったから、対話なんか一切せずに三人いた仲間っぽい奴ら諸共ぶっ殺した。生かすのは危険だと判断したからな」
「・・・・・続けて」
「その後、魔力の痕跡から幻惑の寵愛者の存在を知った俺達は、魔力の補給を済ませた後に俺がなんとなく「アマチュアならここ選ぶだろうなあ」ってところに攻め込んだ。そしたらビンゴだったから、合縁の寵愛者から依頼された人質を気にしつつ、そのまま拠点にいた奴ら全員を殲滅した。以上」
「・・・・・うん」
どんなに衝撃的なことを言われようと、馬鹿みたいな強さがあってこその作戦にツッコミたくなりつつも、ナギはひたすらに黙々と筆を走らせていく。
本当に必死に、ただひたすらに情報を記すことのみに集中して。
だが、色々と聞いたり、感嘆したりするのは後でいいと思いつつも、彼の中ではどこか、非常に引っかかる部分があった。
「・・・グレイア」
「ん?」
それは、敵の強さという部分について。
確かに、グレイアの話す内容をそのまま取るのだとするのなら、敵は別れて行動していたことになる。
だが、仮にそうだとしても確かめたいことが、このナギという男には確実にあった。
「僕の記憶が正しければ、狡猾の寵愛者と幻惑の寵愛者は「最も警戒するべき転生者」という名前のリストに入っている。つまり、彼らは言わば、指名手配されているような存在だ」
「初耳だな」
「それを踏まえて、だ。君は奴らと戦ってみて、どう思った?」
「・・・えー」
リスト入りしている転生者の実力という、貴重な資料。
狡猾の寵愛者と幻惑の寵愛者の二人は、今の今まで資料に起こすことができるような戦い方をしてこなかった。
理由は単純で、彼らは勝てる戦いしかしてこなかったというのと、その勝てる戦いをするに当たって、彼らの能力の都合上、狙って生かさない限りは生存者が存在することは有り得ないからである。
「まあ、対処法を知らなかったらハメ殺しだよなって思ったくらい。それ以外はとくに何も」
「・・・本当に?」
「ほんとほんと。だってアイツら、近接戦闘の実力がマジでゴミカスだったし。なんか能力だけで戦ってるっていうか」
とはいえ、ナギの意図とは裏腹に、戦闘を戦いではなく殺し合いだと認識し、その通りに手段を選ばず行動していたグレイアにとっては、敵の感想なんて微塵も気にしないものだ。
本人は絶対に逃がさないという心持ちで行動していたわけで、事前に情報を仕入れなければ戦闘中に敵の能力のことを考えることはあったとしても、実際の彼にはニアという確実なソースから情報を提供してくれる仲間が居る。
そのため、彼の口から出てくる感想というのはあくまでカタログスペックを見た際に抱く感想であり、実際に戦った時に抱く感想とは似て非なるものなのだ。
「・・・本来はそれが転生者ってものなんだよ。君は知らないと思うけど」
「・・・・・え、マジ?」
「・・・大部分の転生者は「痛み」を嫌う。だから魔法や能力を使って実力を示そうとするし、当然、近接戦闘なんて以ての外だ」
「あー・・・・・」
そして同時に、グレイアは勘違いをしていた。
確かに、魔法を練習すればある程度の近接戦闘は可能となる。
肉体に付与すれば剣を勝手に振ってくれる魔法や、防御の行動が全て自動で行われるようになる魔法、飛び道具に対して回避行動を取ってくれるようになる魔法など、努力せずとも戦えるようになる魔法は多岐にわたる。
だが、そんな小細工が発動できない、または通用しないような状況を作ってしまっていたせいで、彼はそれを目にすることができていなかった。
「ただでさえ僕が目を見張るくらいには魔法のセンスが抜群だっていうのに、それに加えて汎用性の高い能力と、それを使いこなす意欲や想像力、さらにはそれらに見合った実力を備えるための努力を厭わないときた。普通に考えて、能力にかまけているだけの転生者が君に勝てると思う?」
「・・・肯定するが、お前にしては随分な熱弁だな」
「本来は「正義」としているはずの僕がそれほどまでに口調を乱すくらい、君は完璧な「例外」だってこと。君はそれを覚えておいた方がいい」
「・・・あね」
持ちうる全ての武器を使いこなす人間が、持ちうる武器で遊び呆けているだけの人間に負けるかと言われれば───それは無論、否である。
「・・・・・とまあ、色々言ったけどさ」
「?」
ただ、それはそれとして。
そんな規格外の人間でも、今回の出来事は明らかに激務であったことには変わりない。
「とにかく、本当にお疲れ様。まさか半日と経たずに全てを片付けてしまうだなんてね」
「正直、結構キツかった」
「・・・だろうね。でも本当、君には驚かされるよ」
ナギの労いに対しては正直に「キツかった」と告白しつつ、グレイアは残った携帯食料をまとめて口の中に放り込む。
すると、ナギはグレイアが食べ物を飲み込んだところを見計らい、再び質問を投げかける。
今度の質問は簡単なものだ。
「ちなみに、ミコト国の損害は?」
「町一つがほぼ壊滅したのと、国境の橋がぶっ壊されたせいで物流が大混乱してる。あとは都を守るバリアと城の上半分が消し飛んだことくらいだ」
「・・・そうか。やっぱり、君がいなかったらマズかったみたいだね」
「というと?」
グレイアの問いかけに、ナギは積まれた書類の中から一枚の紙を取り出して机の上に広げる。
すると、その上に幾つかのバツマークと、幾つかの斜線が現れた。
「これが・・・今朝の襲撃で生じた被害だ」
「・・・あー」
この紙の地図に表記されたバツマークは破壊を、斜線は経路の遮断を意味している。
グレイアはその惨状を見て言葉を選んでいるが、対するナギは淡々と説明を続けていく。
「国境付近で航空戦力を有している街が軒並み破壊された。本当に一瞬、一発での出来事だったそうだ」
「最初の攻撃でこっち側に被害が少なかったのは・・・やっぱり」
「奴らは本気でミコト国を取りに来ていた。その証拠に───君が破壊したという「軍勢の残滓」、あれは有限なんだ」
「・・・断言するってことは、お前、何か知ってるのか」
「知っているも何も、奴はもう死んでいるからね」
断定できるか怪しい根拠ではあるものの、しかしナギは自信を持って理由を述べて見せた。
しかし、グレイアはその思考には懐疑的であるらしい。
少し怪訝そうな表情を見せた後、言葉を選ぶような素振りをしてからグレイアは口を開く。
「・・・・・死んでるから有限であるはず、か。随分な推察だな?」
「でも可能性は限りなく高い。今までの傾向から鑑みても、軍勢の残滓は奴らにとってここぞという時にしか出してきていないはずなんだ」
「へえ」
(アレが「ここぞと言う時」か。確かに使い慣れてるようには見えなかったが)
設置する位置などを思い出しつつ、そんなことを考えるグレイア。
「まあ、気に留めておく。どちらにせよ、ぶっ壊すことは簡単なんだからな」
「魔法は効きづらいはずなんだけど、もしかして君・・・」
「正面から物理でぶち抜いた。魔法も内側からなら効くぞ」
「アレに初見で接近しようとするかな普通」
「俺は普通じゃないんだろ」
「・・・それもそうか」
無茶な理論でナギを納得させた(?)グレイアは、一息つくと、椅子に座ったまま思いっきり伸びをしてから、また一息ついて立ち上がった。
そして右手の上に魔法で方位磁針を生成し、方角を確認してから方位磁針を消してナギの方を向く。
携帯食料の包み紙は、どうやら収納魔法に入れたようだ。
「取り敢えず、要件はこれで終わりだ。細かな話は後で手紙やらなんやらで伝える」
「わかった。君はこれから何処へ?」
「家に帰る。仲間が待つ家にな」
「・・・もうマイホームが手に入ったんだ」
「まあな」
得意げに自慢しつつ、ゆっくりと歩き出す。
歩き出して、数歩ほど足を進めたところで、ある事に気付き足を止めたグレイア。
ふとナギの方に振り返ると、事も無げに口を開く。
「あと、最後に」
「・・・何か?」
「合縁の寵愛者から、「感謝してる」だとさ」
予想外の相手からの伝言。
ナギは数秒後固まってから、どこか、心底安堵したような表情を浮かべつつ返事をする。
「・・・・・わかったよ」
「伝言は伝えた。じゃあな」
「うん。また」
向き直り、扉へ近づき、扉を開け、後ろ手で手を振りながら出ていくグレイアの背中を見送ったナギ。
しばらくぶりの友人が立ち去り、パタンという寂しい音が鳴り響いたところで、彼は自分の隣に違和感を感じた。
「・・・レイナ、居るね」
椅子を回転させ、自分の右隣の方を向く。
すると突然、空間が歪み───一瞬だけ桃色の光を発したかと思えば、その光は花びらのように舞い散り、その中心に一人の女性が現れた。
かなりの長身で、桃色の長髪に妖艶な瞳をたたえ、白と赤を基調とした鳥居をモチーフとしているっぽい巫女服を着用している狐耳の女性。
彼女はナギと視線が合うなりけたけたと笑うと、彼の額をぺしっと優しく叩いた。
「いたっ・・・」
「まったく、まるで鋼のようにガッチガチに緊張しおってからに。あの虚無の寵愛者とやらは、わっちの存在に気付いておったようじゃぞ?」
「・・・何時から居たのさ」
顔を背け、不満気な表情で彼女に問うナギ。
しかし彼の様子とは裏腹に、彼女はどこからか取り出した扇子を口に当てると、またけたけたと笑いながら口を開く。
「それはもう、初めっからじゃ。わっちの愛しき旦那様がイヤそ〜にメイドの言葉に反応した辺りからだったかのう」
「・・・本当に初めっからいたんじゃん」
「そう言っておろうに。まったく、理解が足らんやっちゃのう。
・・・ま、そこも愛おしいのじゃがな♡」
と、恍惚に顔を染めながら、レイナはナギを見下ろす。
しかし、彼は何故か顔を背け、机に突っ伏してしまった。
「・・・・・一人にして欲しいんだけど」
「嫌じゃ嫌じゃ。愛しい旦那様が泣きよる際に傍らに居れんなど、嫁失格じゃろうて」
突っぱねるように言葉を投げかけるナギに対して、ベタベタと擦り寄って彼の身体を背にして空中に腰掛けるレイナ。
「・・・のう、わっちの愛しき旦那様よ」
「・・・・・何」
そして静かに口を開き、一言。
「よかったのう。今度は、失わなくて」
「・・・・・うん」
たったそれだけ。
過去を乗り越えはしなくても、ただ、感動と安心に包まれる。
それだけだ。
筆が乗ってしまいました。
あと、最後のは描きたかっただけです。
扱いか不憫なナギくんには、せめて個人的に一番好きなタイプの女性をくっ付けてやりたかった。
それだけの話でした。