4-7:休暇への最短
役割分担、大事。
「よっ」
「・・・もう終わったの。随分と早いわね」
集団で建て替え中の大広間に、三人の行方不明者を連れて現れた俺に対する、もう慣れたと言わんばかりのお出迎え。
だが、随分と早い・・・と言いたいのは俺も同じだ。
あれだけ破壊されても尚、もう大広間は床が完全に修復され、壁も内側を整えるのみとなっている風に見える。
数十分で破壊をしてきた俺達に対して、同じ時間で修復を終えている職人さん達。
比べることすら烏滸がましいほどの差である。
「お前の望み通り、重要人物とやらを回収してきた。こいつだろ」
そんなことを考えながら、俺は大広間の奥に座っているユカリのもとまで歩いていって、彼女の目の前に件の女性を寝かせた。
すると彼女はその格好には目もくれず、座ったまま寄り添い、顔を確認してから抱きしめる。
どうやら、ちゃんと依頼は達成出来ているようだ。
「リオ・・・! やっぱり生かされてたのね・・・!」
「おっと、ここで起こすなよ」
「・・・どうして?」
しかしまずい、普通に危ない。
処置が終わるまでは、軽率な行動は控えるよう伝えなければ。
「アタマをやられてる。多分、洗脳の類だろうな」
「そんな・・・」
「相対した時の口ぶりから察するに、こいつの思考は幻惑の寵愛者で一杯なんだろう。だから俺に対して攻撃的になった」
「・・・把握したわ。このあと、直ぐに治療させる」
説明が矛盾しないように適度な嘘を混ぜながら、俺は現時点で持っている情報を遠慮なく、文字通り垂れ流していく。
今更ではあるが、俺達は基本的に、活動に支障が出るような情報でなければ取捨選択なんてせず、そっくりそのまま情報を伝えていくスタンスだ。
そのせいか、ユカリの隣で情報を筆記している彼女、シグレはとても忙しそうに見える。
俺としても、頑張れば取引とか言って利益を貪ることも可能ではあるものの───交渉が面倒なので選択肢には入らない。
だから、俺が彼女らに話すのは、マジで嘘偽りがない、ありのままの情報だ。
「取り敢えず、この襲撃の元凶であろう奴らは殲滅した。奴らがマヌケじゃなかったせいで敵の本部を特定するまでには至らなかったが・・・今のところは、脅威は去ったと言っていい」
「・・・そうなのね」
「ああ。もしかしたら、奴らが帰ってこないことを訝しんだ奴が調べに来たりするかもしれないけどな」
「それは仕方ないもの。貴方達が気にすることじゃない」
俺達が当該の事象に対しては真面目に取り組むスタンスを取っているせいか、彼女もある程度は寛容になってくれている。
責任の追求をされないのは有難いなと思いつつ、俺は収納魔法から一つの紙束を取り出し、彼女に手渡した。
「敵の拠点についてはこの紙に。こいつらを回収する時に多少ばかり地下室を漁りはしたが、それ以外は殆ど戦った直後のままだ。死体も処理はしてない」
「わかった。それじゃあ、私達の現場検証は・・・」
「自由にやるといい。俺達はとくに興味は無いからな」
「ありがとう。助かるわ」
簡単なやり取りの後、俺からの言質を隣のシグレに記させたユカリは、彼女の頭を撫でてから静かに頷く。
どうやら、それは何らかの合図であったようで、彼女はノートとペンを収納魔法に収納すると、静かに立ち上がってからユカリと俺に深々と頭を下げ、そそくさと大広間から出ていった。
恐らく、俺が現場検証の許可をすんなり出すことは想定の範囲内だったのだろう。
であれば、拠点へと向かう準備も済んでいると見た。
もう一人の側近が居ないのはそのせいだな。
「・・・それじゃあ、詳細はまた後日。正式に依頼の説明をするときにでも纏めて話す」
「貴方はこれから何を? 三人分の昼食なら用意できるけれど・・・」
「いいや、構わない。俺は直ぐに王国に戻って、今朝からの流れをナギに説明してこなくちゃならないからな」
「そう、ね。確かに、彼らは情報を持っていないわ」
「だろ」
気を使ってくれたのは嬉しいが、俺達はまだやるべき事がある。
ティアがこの場に居ないのはそのためであり、彼女は先ほど都に瞬間移動してきたタイミングで俺と別れて行動を始め、ニアとともに村木町へと戻っていった。
「だから、伝言の一つや二つなら伝えられる。何かあるか?」
「・・・特には無いけど、感謝はしてるとだけ伝えておいてくれるかしら」
「了解だ。そう伝えておく」
「お願いね」
故に、俺は今、完全に一人で行動をしている。
ナギと会うならニアが居た方がいいかな、とも思ったのだが、特別、必要性を感じなかったために別行動。
というか、むしろティア側にニアが居た方が色々と楽になるだろうと考えたため、ニアはティアとともに行動をしているのが現状だ。
どうせナギとの話は直ぐに終わるしな。
事細かな話は手紙でする予定だし。
「明後日あたりにまた来る。一応、覚えておいてくれ」
「把握したわ」
「じゃあ、またな」
「ええ。また」
俺は立ち上がり、軽く挨拶を済ませると、普通に徒歩で部屋を去る。
なぜ瞬間移動を使用しないかというと、瞬間移動は現状、ニアの不在によって位置を正確に把握することが難しいため、直接ナギの所へ転移することが不可能に近いからだ。
「・・・・・」
しかし、悪くはない。
大広間から出て、廊下を歩き、階段を降り、また歩き───ちょうど城から出たところで、なんとなく体が軽くなるような感覚がした。
ここ数日は忙しかったせいで単調な移動ばかりだったが、この襲撃という面倒事に区切りがついた以上、一瞬で移動しなければならないという半強制的な重圧は消え去ったことになる。
「・・・っし」
そろそろ、休めるのだ。
実感が身体を優しく覆うたび、疲れを感じなくなっていく。
俺は気分に従い、ゆっくりと空中に浮かび上がると───一定の高さまで行ったところで、魔力を解放して飛翔魔法を起動する。
そして一気に加速し、左手に出現させたコンパスを頼りに王都を目指す。
「・・・〜♪」
有り余った魔力を白銀色のオーラーとして軌跡を残しながら、俺は王都へと飛んでいく。
こういうのは、やはり良い。
だが、やはりというべきか───どうにも、イヤホンが欲しくなってしまうな。
▽ ▽ ▽
「アネキ〜っ!!!」
「・・・グリム」
グレイアと別行動を始めてから少し経った。
私はニアさんと一緒に村木町に戻って、サクラさん達に一連の出来事を説明しに行きたいのだが───戻ってきて早々、上空からグリムが泣きながら降りてきて、私に抱きついてきたのだ。
彼が言うには、彼女には千里眼という能力があるそうだから、きっと彼女は私達の行動を逐一見ていたのだろう。
それで、私達を心配してくれていた・・・と。
「無事で良かったっすアネキ・・・! 我、心配過ぎてずっと地面に降りれなくて・・・・・」
「・・・ありがとう」
確かに、彼との関係のように、完全な信頼の中に義務的な心配があるというのは気持ちがよくて好きだ。
でも、こうして一方的な心配をされるのも、悪い気はしない。
まだ私と彼のことをよく知らない存在が、全力で焦り、心配してくれるというのは、どこか心に来る。
上手く言い表すことはできない。
でも、悪くはない感覚。
「サクラさん達はどこに居るかわかる?」
「あっ、はい! やっぱそうっすよね!」
とはいえ、このままだと私の服が彼女の涙や鼻水(?)でべたべたになってしまう。
べつに魔法で綺麗にはできるけど、面倒くさい。
少し申し訳ないけど、取り敢えずは離れてもらった。
「案内するっす! アネキ、我に着いてきてください!」
「わかった。案内、よろしく」
「はいっす!」
そんな私の思考とは裏腹に、私達の無事を知って安心したのか、グリムは元気に空を飛びつつ、私を案内しようと町の中を飛んでいく。
ニアさんの自己証明でここが何処かを知っているし、たぶんサクラさん達は支部の建物に居るのだろうと予想はついているものの、それでもグリムが元気に案内をしているせいか、余計に口を挟む気にはならない。
きっとグレイアなら、何か話をしながら移動をしたりするのだろうけど。
「・・・ところで、アニキはどこにいるんすか?」
でも、グリムにとっては重要な質問をしそこなっていたようだ。
無言で後を着いていく私の方を向き、後ろ向きに飛びながら怪訝そうに質問をしてくる。
「正義の寵愛者に会いに行った。彼曰く、軽い情報交換をするだけらしいけど」
「そうっすか・・・。でも、もう何かと戦うことはないんすよね?」
「断言はしない」
「ううっ・・・」
表情が不安一色すぎて可哀想に思えてきた。
少し前、グレイアはこの子を家の守護に置いておこうかと思案していたけれど、それは悪手かもしれない。
というより、彼がニアさんの自己証明を見てグリムが抱く感情を知ったら、きっと、自己嫌悪混じりの葛藤の末に連れていくことに決めるはず。
変態的な行動を取るくらい猫が好きだという彼のことだ。
空を飛ぶことを除けば殆ど「人語を扱える小動物」であるグリムに、そう酷な役割を与える判断はしない・・・とは思う。
思案していた以上は断言できないけど。
『・・・ティアちゃん」
「はい」
と、今まで寝ていたはずのニアさんが、実体化しながら声をかけてきた。
これから報告に行くのに・・・と、私が思ったところで、なんとなく彼女が出てきた意図が読めてきた。
「資料の作成が完了しましたので、報告は私が行いましょう。ティアちゃんは家に戻って休息を取ってください」
「・・・うん、ありがとう」
ニアさんは私のお礼を聞くと、そのまま無言でギルド支部の方向へと歩いていってしまった。
その様子にはグリムも面食らい、初めて見るニアさんの姿を見つめながら浮き尽くしている。
対する私は、その他にも色々と気になることがありつつも、とりあえずは彼の善意が招いたことだろうと思考に見切りをつけ、お言葉に甘えて家に帰ることにした。
「え、アネキ、今のって───ひやぁっ!?」
そして、困惑したままのグリムを抱き寄せ、色々と話をしながら帰ることにする。
あれだけ色んな意味で暗い環境に居てからの、この白いもふもふ。
変態的だなんて思ったけど、クセになる気持ちは理解できそう。
「・・・・・」
あとはお昼ご飯を買って、家で食べる。
お風呂に入って、彼が帰ってくるまで暇を潰す。
その後は───夜に悪夢を見ることも踏まえて、色々と「お話」の準備をしなくちゃいけない。
もう少し、もう少しだ。
私が彼に対して、全てを打ち明けられるまでは。
唐突ですがこの作品、ちゃんと明確にビジュアルを決めているのは主人公であるグレイアだけなんです。
銀髪ショートボブにジト目気味かつ銀の瞳で、身長は147センチ。首に黒いチョーカーを付けていて、上はノースリーブの白いワイシャツに黒いジャケット、下は太腿が見えるレベルの黒い短パンにハイカットのスニーカーを履いています。体型は男の娘タイプで肉付きは良く、イチモツの大きさなんかも一応は決めてあるんです。
ですが、ヒロインであるティアは明確には決めておらず、挙句ニアやその他のキャラクターなんかは服装すら決めていません。
ティアの髪は金髪のナチュラルボブに猫目ぎみで金の瞳、身長は158センチでヒロインとしては少し高め。服装は明確には決めていませんが、肩とへそは出していて腕周りは緩め、短いスカートに片側だけベルト付きの長いソックス、もう片方は短いソックス、靴はハイカットのブーツを履いています。耳は猫耳とエルフ耳の両方があり、尻尾はなく、身体的特徴では長命種であるエルフの血が濃い傾向っぽい感じ。胸はC・・・ですかね。小さくはないです。
あとは・・・ですね、ニアの体型くらいですか。話せることは。
ニアの身長は176センチと女性にしては割と大柄なのですが、そこまで化け物ほど乳がでかいというわけではありません。あってDです。
ただ、初期の初期に主人公が言及した通り、身長が高いために下半身は全体的に太い(ように見える)ので、膝枕はガチです。
身長が高いとですね、健康的な人は太ももが太いんです。
いやまあ、当然だろって言われたらそうなんですが。
・・・なんの話をしてるんですかね私は。
まあ、とにかく。
挿絵なんかは期待しないでください。
以上、私でした。