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愛され気質な逸般人の異世界奮闘記  作者: Mat0Yashi_81
二章:運命を壊すは世界の奔流
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4-6:意企

 企みと、失敗。




 



 あれから数分後、俺達は現場検証・・・をアイツ(合縁の寵愛者)らがするかは知らないが、とにかく色々な手間を省かせてやるために、とりあえず死者数の計算を済ませておくことにした。

 一方、簡易的に死体の位置を整理することは、逆に現場の状態をその目で把握したいアイツらからすれば迷惑なことだろうと、今回は省くことにして作業を進めている。

 俺とニアは幻惑の寵愛者とその部下を、ティアは殲滅した魔物の中に人間が混ざっていなかったかを確認していく。


『建物内に残存している生命反応を除けば、ここで死亡した人数は最初に観測した生命反応の数と一致します。数は男性が二十八人、女性十四人です』

「把握」


 とまあ、ニアの協力によって計算は済んだため、俺は服と身体を魔法で綺麗にしつつ───本気でやるときは脱ぐことにしているぶかぶかのジャケットを、収納魔法から取り出した。


「・・・・・じゃあ、死者数のカウントは終わりか。そっちは?」

「幸い、人間は混ざっていなかったみたい」

「そうか。なら良かった」


 歩いて帰ってきたティアと話をしつつ、俺はジャケットを羽織っていつもの通りに崩して着る。

 やっぱりこっちの方が安心するなと思っていると、何やらティアが俺の肩を叩き、ふと話を振ってきた。


「人を殺すの、慣れたんだ」

「・・・まあ、あまり肯定したくはないが」


 慣れたと言えば慣れた。

 言い換えれば、前世との価値観のギャップに慣れたというか。

 べつに殺人を肯定するわけではないが、「生きる人間すべてが生まれながらに武器を持っている」という、前世から見たら相当イカれてる世界に慣れたがために、殺人への躊躇が無くなったように思う。

 敵を相手に罪悪感なんて一々抱いていたら、それこそ参ってしまうと。

 完璧に割り切れるようになったと言えば聞こえはいいが、要は殺人の判断を下すトリガーが緩くなっただけであるため、これからは相応に自分を制すことを意識しなければならなくなるだろう。


「そう思えるなら大丈夫」

「・・・断言するかあ」

「でも、気をつけることは大切だから」


 ・・・まあ、なるようになるだろう、きっと。

 その辺は気の持ちようだな。

 今までだって、そうやってのらりくらりと生きてきたわけだし。


『マスター、残存する生命反応の位置を特定しました。HUDに表示します』

「・・・ああ」


 ニアの通知を聞いて、俺は視線を建物の方向に向ける。

 すると、建物の地下に当たるであろう位置にぼやっとしたシルエットが三つほど映っていた。


『建物内に魔力隠蔽や生命隠蔽の痕跡は存在していないため、これらの生命反応が残り全ての生命反応で確定しています』

「了解。武装はしてないっぽいが」

『全員が人質であると推察します』


 シルエットのうち、一つは件の重要人物だろう。

 あと気がかりなことがあるとすれば、建物の中にトラップがある可能性についてだが・・・それは警戒しておくとしても、存在している可能性そのものは低いと考えて良さそうだ。

 幻惑の寵愛者達はガチで俺に勝つつもりだったようだし、実際、俺が容赦なく人員を削りに行った攻撃をするまでは、こいつらはかなり勢いづいて俺を殺しにかかっていた。

 警戒はすれど、軽度でいい。


「じゃあ、行こう?」

「ああ」


 差し出された手を取り、観測した生命反応の位置から概算して地形把握のための探知魔法を展開すると、俺は壁に埋まらないように気をつけながら地下室へと瞬間移動した。


「・・・」


 辺りを見回し、全体を大まかに把握する。

 明かりが少ないせいで室内は足下がギリ見えるくらいには暗いが、瞬間移動する前に把握しておいた地形情報が視覚情報として入ってくるお陰で、この部屋の全体像を把握することは容易いものだった。

 この部屋の印象・・・というか使用用途を簡潔に述べるのなら、片側にしか牢屋がないタイプの刑務所、あるいは収容所と言った感じ。

 牢屋のデザインは全体が鉄格子になっているタイプのもので、村木町の冒険者ギルドが保有していたタイプの牢屋(出入りが格子窓付きのドアのみで、基本は外が見えないもの)とは全く違った牢屋となっている。


『一番奥の部屋に一人、次いで牢屋ごとに一人づつです』


 そして最後、この廊下の一番奥に扉があり、その奥が普通の部屋のような間取りになっているのが見えた。

 これがどんな部屋なのかは定かではないが、一人の反応が確かにあることを鑑みるに、それほど件の重要人物というのは、奴らにとっても相当な重要人物だったのではないかという疑いがかかってくる。


「お、おい! 誰か・・・そこに居るのか・・・・・っ!」


 爽やかな声質の男の声、だが弱々しく滅入っている様子。

 俺が思考をぐるぐると回している間に、奥から二番目の牢屋に入っている人は俺達の存在に気がついたらしい。


「・・・ああ、居る。確かにな」


 俺はそう言いながら、ティアを連れてゆっくりと、わざと足音を鳴らしながら廊下を進んでいく。

 コツコツと音を立て、少しでも印象に残るように気を使いながら。


「上で何があった・・・? 奴らは一体、何をしてるんだ・・・?」

「いいや、お前は気にしなくていい」


 男の問いに、俺は格子を掴みながら返答する。


「奴らは全て殺した。ついさっきの騒ぎを起こしたのも俺達だ」

「・・・・・あ、あんたは・・・?」


 無表情で冷徹な雰囲気を纏う少年と、その奥で腕を組み、退屈そうに体重を壁へと預けている少女。

 抱いている感情は困惑と、僅かな恐怖。

 だが、少しだけ緩和できる。

 仲間だとさえ、理解できれば。


「虚無の寵愛者、グレイア。合縁の寵愛者からの依頼を受け、とある人物を回収しに来た」


 そう、話した瞬間、()()()()()()の名前を口にした瞬間、この男が抱く感情に大きな変化が生まれた。

 困惑は依然としてあるものの、その裏に大きな安心と、それから納得という感覚が存在し始めている。

 まるで、()()()()()()の実力を知っているかのように。

 そして同時に、彼は俺の「とある人物」という言葉に反応し、ため息をついてから口を開く。


「・・・ああ、()()のことか・・・・・」

「知ってるのか」


 俺がそう問うと、男は視線を落とし、弱々しい声で言葉を続ける。


「知っているも何も、彼女の護衛を任されたのは俺達だ。隣で死にかけてる男も同じ。彼女の護衛を任されて、失敗した」


 瞬間、ほんの僅かだが、俺は彼の言葉の中に心当たりを感じた。

 そのため、()()()()()()と思った俺は───右手で物体を移動させる系列の魔法を使用して鉄格子をまるまる取り外しつつ、最早牢屋として機能しなくなった部屋の中に入って男の目の前まで行ってから、問う。


「・・・所属と名前を」

()()()、合縁の寵愛者直下組織「盾」所属。山本 アキラ」


 三和町(みつわまち)

 それは、今回の襲撃で最初に壊滅した町だ。

 夜のうちに襲撃され、俺達が襲撃に気づいた頃には、さらなる攻撃によって現場に行くことすら困難だった町。


「そういうことか・・・・・」


 思わず、口から言葉が漏れ出てくる。

 たった今、俺の頭の中で、点と点が線となり───同時に、奴らが画策していたことと、実際の出来事。それから、件の重要人物がどんな意味合いで重要なのかが推察できた。

 何故、奴らは三和町に対して、今朝の襲撃と同じような巨大な破壊攻撃をせず、静かに騒ぎを避けるように壊滅させたのか。

 また、この男の「彼女」という呼び方と、確定した生存。

 少し前の事件のせいで、嫌な予感が止まらない。


「隣のやつは?」

「所属は同じ。名前は中山 タケシ」

「把握した」


 だが、とりあえず、情報を引き出せそうな人間が生きていることは大きな収穫だ。

 隣の男は重症らしいから、ニアに治療をさせればいい。

 あとは奥の部屋にいる「彼女」とやらの状態を確認してから考えなければ最適な判断は出来ないだろう。


「・・・アキラ、お前は俺の仲間と一緒に隣の牢屋で待機を。治療はその仲間にさせるから心配しなくていい」

「あ・・・ああ。わかった」

「ニア、実体化して隣の牢屋の男を治療してくれ」

『承知しました。実行に移します」


 俺は彼とニアに指示をしてから立ち上がり、ニアが確かに実体化して行動を始めるのを確認すると、ティアに視線を向けてから歩き出す。

 そして扉の前に来ると、ゆっくりと冷たいドアノブに手をかけ、静かに扉を開こうと手首をひねろうとしたその時───ティアがすっと俺の目の前に腕を出し、静止してきた。

 どうやら、何かがあるらしい。


「・・・警戒されてる。攻撃が飛んでくるかも」

「まじで?」


 まあ、こんな環境なら仕方がないかと考え、ティアが前に出てくることに従って後ろに下がったが、どうやら理由は少し違うらしい。

 ティアは首を振り、俺の身体を室内からの射線に被らない位置まで移動させると、俺の耳元に顔を寄せて、小さな声で言葉を続ける。


「幻惑の寵愛者が殺されたことに関係してる。思考の中で、「あの人」とか言っているから・・・」

「・・・・・まじかあ」


 やられたな、これは。

 相当にまずい状況だろう。


「思考が幻惑の寵愛者で埋まってて、狂ってるようにしか見えない。だから、瞬間移動をして無力化するのが安全かも」

「・・・了解。そうしよう」


 ティアの提案に従い、俺は探知魔法を展開。

 室内にいる女性の位置を把握すると、ちょうど真後ろに現れるように瞬間移動を使用し、現れた瞬間に女性の首を締め上げる。

 また、同時に強制睡眠の魔法を顔に押し当てることで反撃を許さない。


「・・・・・クリアだ」


 脱力した女性を支えつつ、ゆっくりと地面に寝かせながらそう呟くと、ティアが扉を開けて部屋に入ってきた。

 そして部屋を見回し、口を抑えながら怪訝そうに呟く。


「・・・臭い」

「わかる」


 なんだろうな、この匂いは。

 とにかく甘い匂いというか、例えるなら、観光地で外国人とすれ違った時に臭ってくるタイプの香水の匂いみたいな。

 非常に甘ったるく、臭くはないはずなのに嫌になる匂い。

 原因は予想がつく。

 それと、さっきの嫌な予感がおおよそ当たったことも。


「・・・趣味の悪い部屋だな」

「でも、広い。家具も安くはなさそう」


 妙に煙っぽい部屋を彩る、全体的に桃色がかった内装。

 壁紙から天井、床、光源、家具に至るまで、全てがひとつの一貫したクソほど趣味が悪いデザインで統一されている。

 ハートとかスペードとか、おおよそトランプをコンセプトにしているであろう内装は、行ったことはなくとも、なんとなくのイメージで「安っぽいラブホテルみたいだ」と思わせるくらいには趣味が悪い。

 というか、間取りがほぼホテルだ。

 部屋が縦向きじゃなくて横向きなことを除けば、ほぼホテルの間取り。

 入って右方向にトイレやらなんやらがありそうな部屋があり、左にはこれまた悪趣味な模様のシーツが乱れに乱れたベッド。

 散乱する衣服に、ゴミ箱の中に見える物体。

 そして、この女性の格好。

 なんで誘拐されてる立場の人間がバニースーツなんて着てるんだ。

 緊張感がゼロだ本当に。


「・・・・・捌け口?」

「にしては丁寧が過ぎるだろ・・・」


 とにかく、無事・・・ではないが、出てきている情報から察するに、重要人物とは彼女で間違いはない以上、生存は確認できたと言っていいだろう。

 帰るまでは眠って貰うものの、とくに外傷はなさそうだ。


「少し漁るか」

「何か道具とかあったら証拠になるから?」

「そういうこと」


 というわけで、俺達は部屋を見回り始めた。

 ティアはしゃがみこんで女性を観察しているが、対して俺は部屋を歩き回り、ベッドの周辺を探索している。


「いや、バニースーツ好きすぎだろう・・・」


 ふと、呆れた声が漏れ出てしまう。

 というのも、半分くらい開いているクローゼットの中に、これでもかって位のバニースーツと、ついでみたいな感覚でディーラーの衣装がかかっている。

 この部屋の仕様なのか、それとも奴らの趣味なのか。

 まあ、どっちでも良いが。


「・・・中身は一杯みたい」

「・・・・・何を確認してんだお前は」


 かかっている魔法を調べているのかと思ったら、身体の中を見ているだけだったようだ。

 その行動に意味があるかは知らない。

 何故それを俺に報告したのかも知らない。


「・・・ん」


 と、困惑しながら辺りを見回していると、ベッドの横のテーブルの上に、何やら怪しげな瓶がいくつか転がっていることに気がついた。

 色はピンクと紫で、手に取って振ってみると、中身はサラサラで粘性は有していなさそうな雰囲気。

 きっと媚薬的な何かなのだろう。


「・・・・・これ以上、何かありそうな感じはしないか」


 元あった場所に瓶を置き、辺りを見回してからそう呟く。

 大雑把に情報を整理すると、この部屋は、幻惑の寵愛者らが何らかの目的を以て彼女を性的に搾取するための部屋だった、という所か。


「はあ」


 とりあえず、これ以上この部屋について考えるのはよそう。

 まだ、やらなければならない事は沢山ある。

 こんな下らないことに思考のリソースを割いている場合じゃない。


「よっと・・・」


 魔法で女性を持ち上げ、移動を始める。

 ティアはどうやら風呂場の中にいるようで、何か適当に物色をしているようだ。


「先、部屋出てるぞ」

『わかった』


 大着した返事を聞きつつ、俺は甘ったるい匂いがした部屋を出て、ニア達がいる牢屋へと歩いて入っていく。

 するとそこでは、現在進行形でニアが男性の治療をしていた。

 血に塗れた敷布団の上で寝ている男性を、ニアが回復魔法で治療しており、その魔法から発せられた光で部屋は明るく照らされている。

 どうやら、だいぶ大怪我らしい。

 かなり時間がかかっている。


「無事・・・だった」

「いいや、正確には無事じゃない。アタマがやられてる」

「・・・そう、か。間に合わなかった」


 落胆し、視線を落とすアキラ。

 俺は慰めの言葉が特に思いつかなかったために余計なことは言わず、黙って壁際にへたりこんでいる彼の隣に女性を寝かせた。

 取り敢えず、彼女の処置は都に帰ってからだ。

 ここで余計なことはできない。


「・・・・・」


 ティアが戻って来たら、先ずは都に帰って軽く報告を済ませる。

 それが終わったら村木町に報告をしたり、ナギの所に行ったりしなければならない。

 とくにナギへの報告は急務だ。

 俺が余りにも急いで動きすぎたせいで、王国側が今朝の襲撃以降、殆ど情報を得られていない。

 可能なら今日中に、それも日が落ちる前には済ませたいことだ。


「・・・はあ」


 さあ、まだ終わらない。

 むしろ、これからだ。

 合縁の寵愛者───ユカリからの依頼だって未だに全貌は明らかになっていないし、この「重要人物」の件だって疑わしい所は多い。

 なんというか、もっとこう、緩く行けると思っていたんだが。

 想像以上に過酷だ。


 ・・・しかし、今日はあとひと仕事。

 報告だけ済ませて、さっさと休んでしまおう。




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