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愛され気質な逸般人の異世界奮闘記  作者: Mat0Yashi_81
二章:運命を壊すは世界の奔流
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4-5:幻惑

 希望と絶望。




 



 たった今到着した、幻惑の寵愛者率いる軍勢。

 そんな彼らを待ち受けていたのは、先に出撃して時間を稼いでいた部隊のものだったであろう血に塗れた地面に立つ、一人の少年の姿であった。


「よう」

「・・・虚無の寵愛者」


 まるで少女のような容姿をたたえ、この薄暗い結界の中でなければ綺麗に輝いていたであろう銀髪をゆらめかせながら、少年───グレイアは、右手に握る刃を虚空へと消失させつつ、見た目に似合わぬ声色で嘲るように言葉を吐き出した。

 それを聞き、幻惑の寵愛者は恐怖と憤怒に体を震わせる。

 彼の、グレイアの肉体から放出され続けている魔力に気圧され、冷や汗が止まらない。

 否、幻惑の寵愛者だけではない。

 グレイアが放つ、禍々しくも輝かしい黒銀色の魔力と、ただ純粋に輝かしさを誇示する白銀色の魔力のコントラストは莫大な威圧感を生み出し、相対する敵をひたすらに萎縮させる。

 そんな重い空気の中、グレイアは()()()()()()()()()()()()()()()()()無表情を顔に貼り付けたまま、冷徹に口を開く。


「そんな馬鹿みたいに睨まなくたっていいだろ。お互い、殺しまくってるのは変わらないんだから」

「・・・軽薄だね。お前は」

「こっちの方が強く見えるだろ? 手前らみたいにガチ警戒で、如何にも罠を仕掛けてますよって雰囲気を出すよりは」

「・・・・・なんだって?」


 ひたすらに嘲るように、怒りを誘うように。

 例え誘いに乗らないとしても、ほんの少しだけでも相手の判断や感情を乱すことが出来れば、それ即ち彼の狙い通り。

 この場合、普通の判断をするのであれば、幻惑の寵愛者がするべき命令はたった一つなのだから。


「俺としても丁度よかったんだ。何せ───」

「・・・アルファ、爆破を」


 転移阻害とバリアで囲み、回避には必ず数瞬を要するように図られた状態での爆破。

 一瞬で避けることはもちろん、瞬間移動で回避することもできない。

 地面を大きく抉るほどの爆発魔法を発動させた以上、バリアで受け切ることは懸命ではないだろう。

 仮に魔力量や防御力がバカな転生者であれば、そのまま受け切ることもできるのだろうが、しかし幻惑の寵愛者からしてみれば、相手は近接を主軸とした機動力特化のアタッカーである。

 普通なら避けられまいと、そう判断するのも仕方がないことだ。


「直撃です。手応えあり」

(・・・なんだ? 奴は、何が狙いだ・・・・・?)


 だが、仕掛けていたのは彼らだけではない。

 当たり前だが、グレイアも本気で殺し合いをしている。

 ただ単に、敵を嘲る為だけに突っ立っていたわけではない。


「がっ!?」


 しばしの沈黙が続いた次の瞬間、彼らの頭上で巨大な爆発魔法が幾つか起動し、彼らを取り囲むバリアを初めとした陣形構築のための魔法をことごとく吹っ飛ばす。


(なんだっ!? 何が起きた・・・!?)

「所長、次が来ます!」

「ッ・・・総員! 防御魔法を展開しろ───」


 そう命令するが、遅い。

 今更ここで爆発魔法の魔力を探知したところで、それはブラフ。

 上方向への防御に魔力を集中させたタイミングを狙い、突然、地面が大きく輝いた。


(しまっ・・・)

「・・・連鎖岩釘(れんさがんてい)


 動揺に重なる詠唱が響いた次の瞬間、今しがた輝いた地面から無数の釘状の岩が出現し、幻惑の寵愛者を除いた軍勢を尽く貫き、貫いた先で枝分かれを起こし、確実に彼らを死へと導く。


「ぎゃっ!」

「があっ!?」

「ごぼっ───」


 響き渡るのは悲鳴だけではない。

 何らかの臓器が潰れる音、何処かしらの骨が砕け、それによって生まれた天然の刃によって肉が抉られる音。

 一撃で死ねなかった人々が奏でる、まるで肉をこねているかのような不快な肉の音。

 そして、形成された血溜まりに零れ落ちる肉や臓器が、この場の地獄絵図の度合いをさらに加速させる。


「痛い・・・痛いぃッ・・・」

「し、所長・・・助け・・・・・」


 何人かは逃れ、何人かは死にきれず、大多数は即死。

 そんな地獄が窮まった最中、さらに追い打ちとばかりに、また地面が大きく輝いた。


「ッ、総員散開! 少しでも損害を最小限にしろッ!」

(次は・・・何が───)


 大きく叫び、飛び上がる幻惑の寵愛者。

 しかし、これはまた罠である。


「ぐごっ!?」

「所長ッ!!!」


 次の瞬間、飛び上がった彼の腹に、グレイアの肘が突き刺さる。

 そして、大きく振りかぶった拳が次に彼の顔面を捉え、確実なエネルギーを以て彼を大きく吹き飛ばす。


「ぐああっッ!!!」

(気づけなかった・・・ッ! どうして・・・!?)


 何故かと問われれば、これは所謂「チート能力」であると言える。

 幻惑の寵愛者である彼が、限られた範囲内であれば無条件で敵の認識を阻害することができるように───また、既に死した狡猾の寵愛者が、謝罪の言葉を口にするだけで任意の相手を拘束できるように、グレイアにも同じような能力があるということ。

 これは、グレイア本人が確実な殺し合いだと判断しない限りは使用されることがない能力であり、本人が最も忌み嫌っている「つまらない戦い」が起こせてしまう能力。


「くそっ・・・着地場所が魔物の軍勢に近い・・・・・」

「まずいぞ、俺たちからじゃ距離が遠い!」

「いいから構わず所長を助けろ! ここは俺が持たせ───」


 魔法の対策で防御の膜を纏い、集合して状況の整理をしていた三人の背後から一人の首を飛ばして殺害したグレイア。

 この三人は無論、身体強化ではなく魔力探知をしていたわけだが、全く持ってグレイアの位置を探知できなかった。

 あれほど、馬鹿みたいに目立つ魔力の放出の仕方をしていたのにも関わらずだ。


「なっ、野郎───」

「くそっ・・・ぉっ・・・・・」


 一人は瞬時に斬り伏せられ、もう一人は幻惑の寵愛者のもとへ向かおうと彼に背を向けた瞬間に背中を撃ち抜かれた。

 この場にいる全ての人間は、彼の生命力、魔力、はたまたそれ以外の人体から放出される全ての情報を探知することができない。

 声であろうと、息遣いであろうと、なんだろうと。

 言わば、世間一般で言う透明人間の逆であり───要は、己の姿形以外の全てが消えるという、ただそれだけの能力なのだ。

 他人に影響を及ぼしたり、空間を作り替えたりするわけでもない。

 ただ単に「感知できなくなる」という、それだけの能力。


(・・・・・魔力を感じない。だから攻撃を・・・)


 他のチートな能力と比べれば初見殺しとしての性能も薄く、インパクトにだって欠ける。

 そのくせ能力の効果を勘づかれやすい。

 だが、単純であるが故に使い手の技量がそのまま強さに直結するため、先程のように完璧な不意打ちを決めることすら可能となる。


「所長、命令を・・・!」

「ああ、わかっている・・・」


 そして、ここで幻惑の寵愛者は大きな賭けに出る。


「・・・総員、僕に身体強化魔法を付与しろ」

「なっ!」

「所長、本気ですか・・・?」


 どうせ探知できないのであれば構わないと、身体気能力に全振りした作戦を取り始めたのだ。


「命令だ。早くしろ」

「・・・了解。皆、急ぐぞ」


 確かに、仮に()()()()()()()()()なのであれば、この作戦はベストに近いものだと言っていいだろう。


(身体への負荷はこの際無視だ。

 必ず、あの虚無の寵愛者を仕留めないと・・・。でなければ、虚無の寵愛者は将来必ず、あの人にとっての脅威となる!)


 だが、彼らはグレイアに意識を持っていかれたことで───完全に頭から抜けてしまっているのだ。

 ティア・ベイセルという、虚無の寵愛者が有する中で最悪の性能を誇るカードの存在を。


(ここで・・・絶対に決着を着けるッ!)

「・・・・・ふん」


 まるでアニメ作品の主人公のように仲間の力を集結させている幻惑の寵愛者の姿を遠目から見つめながら、グレイアは気だるげに鼻を鳴らす。

 というのも、既にティアは魔物の殲滅を終え、何時でも死角から奇襲をかけることができる状態にある。

 そのため、彼に言わせれば、この戦いはもう決着が着いたも同義なのだ。

 たった一人に戦況を乱された上に意識を奪われた挙句、戦いの基本すらも忘れてしまった幻惑の寵愛者達。


「・・・あほくせ」


 大方、一度も追い詰められたことがないのだろうと───そんなことを考えながら、グレイアは纏っていた魔力を解き放ち、無駄な身体強化を削ぎ落とす。

 すると、彼が纏っていた魔力のうち、白銀色の魔力はすべて霧散して消失し、周囲には自己証明の身体強化によってのみ発生する黒銀色の魔力だけが残った。

 そして最後に、グレイアは右手で握っていた武器を収納し、自然体で構える。


「───行くぞッ! 虚無!」

「・・・・・」


 幻惑の寵愛者がそう叫んだ瞬間、グレイアの眼前に彼の刃が迫り、次の瞬間には振り抜かれた。

 だが、そこにグレイアは居ない。

 刃は、当たっていない。


「後ろっ・・・があっ!?」


 グレイアの姿が視界に写っていないことから、己の後ろにいるのだと判断した彼が振り返りながら刃を振り抜いたところで、その刃を振り抜きながら振り返るタイミングとピッタリ同じ瞬間に瞬間移動をしたグレイアの脚が、彼の背中に突き刺さる。

 そして、正義の寵愛者の時と同じように、肉体は丈夫になっていても肉体の重さは変わっていないため───グレイアは、彼を蹴り飛ばして体勢を崩す。


「くっ・・・効かないなッ!」


 ぶっ飛ばされながら反転して着地した幻惑の寵愛者は、魔力の放出でビタリと止まると、そのまま刃を構えて地面を蹴って加速する。

 狙いは一閃、音速に迫る速度で繰り出す、超速の一閃。


(外からの大振り。マジで経験ないんだな)


 対するグレイアは、今度は避けることはせず、むしろ逆に音速近くの速度にまで加速しようとしている彼に真正面から突っ込んでいく。

 ここでグレイアがそんな行動をする理由は、至って単純。

 あと少しでぶつかり合うと、そんな緊張が走ったその瞬間───幻惑の寵愛者の身体から、力が大きく抜けた。


「は───があっ!?」


 すると、丁度のタイミングでグレイアの左手が彼の右腕を受け止め、右手が彼の首を引っ掴んで地面に叩きつける。


「ま、待っ───」


 そして、最後には彼の命乞いすら口にさせないまま、グレイアは右手から放った魔法によって幻惑の寵愛者の首を切断し、殺害した。


「・・・・・」


 びたびたと血が飛び散り、小さな血溜まりを作り出す。

 切り離された首がゴロリと転がり、血に塗れて冷たく変化していく。

 しかし地面の惨状とは裏腹に、幻惑の寵愛者が殺害されたことによって能力が消失し、この空間を囲う結界が剥がれていくと───清々しい青空が出現し、血に塗れた地面を明るく照らす。


『幻惑の寵愛者および、駐屯していた兵力の魔力消失を確認。状況は終了です。お疲れ様でした、マスター』

「・・・ああ」


 ニアからの冷徹な報告に、グレイアは小さく返事を返す。

 そして手を離し、能力を解きながらゆっくりと立ち上がって顔を上げる。


「お疲れさま。グレイア」

「・・・ティア」


 すると、どこからともなくティアが彼の隣に瞬間移動でやってきて、両手を広げて彼に視線を向けた。

 その視線に求るものを察したグレイアは、無言で彼女に歩み寄り、抱きつく。


「・・・・・」


 血に塗れて穢れた二人の、確かな愛の抱擁。

 命を奪い合った後に感じる、人の温もり。


「いいタイミングだった。ありがとう」

「どういたしまして。きみも上手く敵の裏をかいてた」


 互いに褒め合い、肯定を続ける。

 殺した敵の、その死体の傍で。

 見せつけるように、勝利を噛み締める。


「・・・・・」


 ひとつの村が消えてから、約十時間。

 あまりにも早く、そして呆気ない決着であった。









 一段落ついたので、書いた内容の整理がてら、真面目な独り言を書き連ねます。

 興味が無い方は読み飛ばしてくださって構いません。


 先ず、グレイア達が勝利した理由は、事前に確実かつ詳細な情報を入手する手段があったことと、敵の能力の対策を練る時間と余裕があったこと。そして、それぞれが戦力として自己完結していて、他に仲間が必要なかったことが大きな要因です。

 対して、幻惑の寵愛者達が負けた理由は、最初に狡猾の寵愛者の独断専行を許してしまったことが大きな要因になるでしょう。

 彼らは決して弱くないですし、むしろ手練の軍隊くらいなら軽々と殲滅できるほどの能力を有しています。

 私個人としても、彼らの能力はお気に入りでして、それこそ一方的な無双のシーンを書いている時は楽しかったのですが・・・・・どうしても、今回は相手が悪かった。

 複数人で戦うことが前提の戦場に、完全に独立した状態で戦える個がタッグを組んで攻め込んできた挙句、こちらの能力の対策まで備えているというのですから。

 翻弄されて手も足も出ないというのは仕方の無いことだと思います。


 全体で見ても、やはり情報というのは大切なのだと再認識させられる話でした。


 以上です。

 ここまで私の独り言を律儀に読んでくださった方はありがとうございます。

 引き続き、「愛され転生者」をよろしくお願いします。

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