3-3:不明個体
荒々しくも神々しい、純白の翼を生やした狼の化け物。
果たして、実力の程はいかに。
「アオォォォン!!!」
突然、狼の化け物が遠吠えをした。
ビリビリと空気が揺れ、化け物の魔力が高まっていく。
「・・・・・!」
次に口を大きく開け、魔力を凝縮させていったかと思えば───化け物が開いたでかい口の中に、純白なくせに魔力の密度が馬鹿みたいに高い、アホみたいな口撃魔法が生成された。
俺はそれを認識した瞬間、自己証明による身体強化と魔法による身体強化を同時に起動し、化け物のヘイトを受けるために魔力を放出して最大限目立つようにその場で待機する。
対して、ティアは無言のまま瞬間移動でどこかへ消えたため、恐らくは俺の行動に合わせられるように待機していると思われる。
「───ガアアアアァァァッ!!!」
悠長にしていたのかと思いきや、どうやら化け物は俺の気が抜ける隙を狙っていたらしい。
俺の思考がぐるぐると回り、ティアの行動を予想したその瞬間、化け物は大きく開いた口をこちらに向けて魔法を解放した。
「・・・」
純白で禍々しい魔力の塊は、開放された瞬間からソニックブームを産むほどの凄まじい速度で俺へと迫り、2秒と経たずに着弾。
流石に周囲への影響やらなんやらを考えると、このアホみたいにでかい魔力の塊を受け流すことは難しいため、俺はより強者感が出そうな「魔法をぶっ壊す」ことを選んだ。
俺は最大限に魔力を放出しつつ、左手だけで魔法を受け止め、迫る圧力に耐えながら左手へと魔力を集中していく。
「・・・・・っ!」
そして、なんとなく「行ける」と思ったタイミングで思いっきり左手から魔力を放つと、受け止めていた魔法は見事に弾け飛び、この場には純白に輝く魔力の残滓のみが漂った。
唐突に展開された馬鹿みたいな光景を目にして、困惑からかピクリとも動かなくなった化け物に向かって、これまた唐突にティアのドロップキックが重心ど真ん中にぶっ刺さる。
「!?」
抵抗なんて一切できず、何が起きたのかすらも分からずに斜め下方向にぶっ飛んでいく化け物の軌道上に瞬間移動で出現した俺は、両手から魔力をビーム状に放出して化け物に攻撃をぶちかます。
再び何がなんだか分からないままぶっ飛ばされた化け物は、俺の魔法が威力減衰を起こして消滅したところで体勢を立て直したが───今度は頭上からティアの踵落としが見事に決まる。
それに合わせた俺のアッパーカットも見事にクリーンヒットし、化け物は脳震盪か何かのせいで飛行の体勢が大きく崩れた。
「・・・!・・・?」
ぐらぐらと姿勢が安定せず、かなりの隙を晒している化け物に対し、俺は上から打ち落とすような魔法を構え、ティアは下から打ち上げるような魔法を構えた。
しかし、そこで化け物は異常な速度で体勢を立て直し、俺達が反応するよりも前に行動に移る。
「アオオオオオオオオ!!!」
再び化け物は遠吠えをしたが、今回は威力が尋常じゃない。
俺とティアが構えていた魔法が完全にかき消されたうえ、飛翔魔法のコントロールも乱れ、纏っていた魔力も吹き飛ばされかけた。
「・・・ガアッ!」
「───!」
続いて、飛翔魔法のコントロールが乱れた隙を突かれて噛み付かれたが、俺はギリギリのところで回避。
爪での斬撃や、さらなる噛み付き攻撃も飛翔魔法で回避し、ティアの蹴りが化け物の横顔にヒットしたところで、俺は瞬間移動を使って化け物の背後に回った。
そこで俺はティアが時間を稼いでいる隙を利用し、特大の魔法をぶちかましてやる為の準備を始める。
両手を頭の上に構えて魔法を生成し、そこへ有り余る魔力を可能な限り充填していって巨大な白銀色の球体へと成長させていく。
数秒後、目測で半径6,7メートルくらいになった魔力の塊を、俺は全力で化け物へと放った。
「!!!」
化け物は驚くが、時すでに遅し。
ティアが離脱し、俺のすぐ隣に瞬間移動してきたところで───魔力が俺のコントロールから解放されて魔力を放出。凄まじい規模の爆発を撒き散らした。
「・・・グレイア、剣」
「ん。了解」
だが、まだ終わらない。
俺はティアの要求に応え、自己証明で作り出した剣を彼女に手渡すと、彼女のヘイト稼ぎの邪魔にならないところで右手のひらの上に魔法を生成。
来たるタイミングに向けて、魔力の充填を開始した。
「ガアアア・・・ッ!!!」
爆煙を羽の風圧で吹き飛ばし、化け物が顔を覗かせた瞬間、ティアが目にも止まらぬ速さで化け物の身体を通り過ぎた。
すると次の瞬間、化け物の額から尾にかけてが一直線にぶった切られ、浅いながらもかなりの血が吹き出る傷跡を刻み込む。
「ギャアッ!?!?」
そこで激昂し、瞬く間に翻して飛翔魔法を起動した化け物は、これまた凄まじい速度で加速してティアを追随。
俺も化け物に悟られないように気をつけながら飛翔魔法を起動し、ほぼ音速行くんじゃないかってレベルのドッグファイトをしている現場に追いついた。
「ガアッ───」
「・・・・・」
小さな雲の湖が点在する空の上で、ティアと化け物は現代の戦闘機顔負けのドッグファイトを繰り広げている。
ぶつかる度に響く爆発音にも似た衝撃音と、斬撃を加えたことが分かるほどクソでかい化け物の雄叫び。
化け物がどんなに攻撃を喰らわそうと努力したとしても、絶対にその攻撃は届くことはない。
急に方向転換して上昇したかと思えば、唐突に翻した動きに反応した噛みつきをギリギリで回避しつつ顔面に斬撃をぶち込み、降下しながらも背中に斬撃を入れていく。
そして、そのまま攻撃を続けること十数秒。
『グレイア』
「・・・ああ」
視界に映る情報と、ティアからの通信が重なる。
ついに痺れを切らした化け物の、極限まで振りかぶった爪での斬撃を回避した彼女が放った一閃の斬撃が化け物にヒットした瞬間、俺は瞬間移動魔法で化け物の目の前に移動。
ぐらりと体勢を崩した化け物の頭上から、全力で撃ち落とすように特大の魔法をぶちかましてやる。
「───決死爆裂魔法ッ!」
一瞬、たった一瞬の煌めきから文字通り爆発的に輝きを増した魔法は、使用者である俺すら巻き込む勢いで馬鹿みたいな威力の爆発をぶちかまし───直撃した化け物を地面へと撃ち落とすと同時に、周囲の雲を纏めて霧散させた。
俺は爆発の威力によって多少吹き飛ばされたが、直ちに復帰。
瞬間移動魔法で返却された固有武器を受け取ってから虚空へと収納し、気ままに伸びをしているティアを横目に下を見ると、随分とでかいクレーターを作って地面にめり込んでいる化け物が目に入った。
「・・・・・ふう」
「どう? 楽しめた?」
横からひょこっと顔を覗かせてきたティアは、微笑みながら端的な質問を投げかけてきた。
そんなもの、心を見れば一発だと言うのに。
「十分だ。付き合ってくれてありがとうな」
「うん、どういたしまして」
満面の笑みを浮かべやがって。
そんなに嬉しいか。
「それじゃあ、目標の回収を・・・」
『───警告。依頼目標、不明個体は未だ健在です。
かなり魔力量が縮小しましたが、依然として殺人は可能なレベルの殺傷力は有していると推測。警戒を』
「・・・・・わかった」
と、ふわふわした空気を正すように、ニアからの警告が入った。
彼女の言葉をそのまま受け取るなら、とどのつまり、戦いはまだ終わっていないということ。
俺はどうやら、魔法の加減を間違えたらしい。
少しばかり弱くしすぎたようだ。
「・・・じゃあ」
「気をつけていくか」
とりあえずティアの手を取り、瞬間移動で地面へと降りる。
するとそこにあったのは、俺が思っていたのとは違う光景だった。
「・・・そういうカンジか」
ぶっちゃけた話、あんだけコテンパンにしておいてアレなのだが───どうにも、目に映る姿が可愛らしくなってしまうとトドメを刺したくなくなってしまう。
まあ、警戒しろと言われたため、普通に武器を構えて近づくのだが。
それとこれとは話が別である。
場所も山を越えた先の平原ど真ん中なため、再び戦闘が起こったとしても問題はない。
「・・・・・」
クレーターの中央へと滑っていき、真ん中に落ちているミニ狼みたいな感じの何かの首根っこを掴んで持ち上げる。
するとミニ狼(?)は目を覚まし、俺の顔を見るなりばたばたと暴れたが、無駄だとわかったのか直ぐにやめた。
「・・・しにたくない」
かと思えば、さも当然かのように命乞いをしてくるミニ狼(?)。
先程までの野生具合はなんだったのか。
「・・・・・どうすっかな」
「・・・ひぃ」
俺の心の底からの困惑を何か勘違いしたのか、ミニ狼(?)はきゅっと縮こまり、さらに大人しくなった。
そして、俺も困るわけである。
もう既に無力化はしたわけで、この先はどうしようと俺の勝手。
・・・はてさて、本当にどうすべきか。
もっと戦闘の規模をでかくしてもよかったと思ってる。
反省。