表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛され気質な逸般人の異世界奮闘記  作者: Mat0Yashi_81
二章:運命を壊すは世界の奔流
54/142

3-1:問答

 才能と幸運。







 世の中、色々と運が絡みがちだ。

 身近なところで例えるなら、単に生まれる環境だったりとか、その身に宿る才能だとか、どんな人と出会えるかとか。

 もっと思想を強くするのであれば、先ず、無事に五体満足でこの世に誕生できたことが幸運である、とも言えるだろう。

 逆に、俗っぽく表すのであれば、ソシャゲで単発ガシャを引いたら欲しかった限定キャラが出た、とかも幸運のうち。

 人としての根本から、べつに無くたって困らない娯楽にまで、運というものは必ず絡んでくる。

 それはもちろん、俺の人生だって例外じゃない。

 なんの特徴もない人生を歩み、想い人に感情を乱されたまま死を引き摺り、何も考えずに娯楽を享受しつつ、いい感じのタイミングで死のうと思っていた前世と───一度命を失い、転生して、新しい力を得てから、色々と苦労しながらも幸せに生きている今世。

 無辜の人々の犠牲があったり、自分の命を狙われたりなど、まあまあ危機感を抱くべき課題は色々とあるものの、それはそれとして、こんな価値観の世界で五体満足のまま生きていられるのは幸運と言って差し支えないだろう。

 まあ、概ね幸運だ。

 それらの9割くらいが、仕組まれたものであろうことに目を瞑れば。


「ふむ、よく理解しているな」


 頭上から聞こえた、わりと聞き覚えのある声によって俺は目が覚めた。

 朦朧とする意識のまま目を開け、俺の枕元に立っている、先程の声の主に目を向ける。

 きっちりと整えられたスーツ、これ以上ないほど完璧な立ち姿、まるで人形のように冷たいまま変化しない表情。

 間違いない。

 俺は起床して早々、暇神様に呼び出されたのだ。


「・・・・・暇神様のモーニングコールとは、随分と贅沢なもんで」

「お前は起き抜けから口が達者だな」

「これが俺の長所ですから」


 上体を起こしながら言った言葉に、皮肉めいた感想を述べる暇神様。

 いつもはゆっくり起きる時間帯でも、今回は随分とまあインパクトのある起床だったため、初っ端から俺の脳ミソはフル回転だ。

 それに、声だって満足に出る。

 少なくとも、寝ぼけてはいない。


「まあいい。心配には及ばないようで何よりだ」

「・・・・・ああ、アレですか」


 心当たりがあり過ぎる。

 十中八九、ティアと懇ろしていたところを見られていた。


「いやはや、驚いたぞグレイア。私は今まで、関係を深めるために性的接触を行う転生者を幾人も見てきたが・・・まさか、不死の能力のために自分を殺させるとは。本当に予想外だった」

「・・・あの、本人の前でレビューするのやめてもらっていいですか。普通に恥ずかしいんですけど」


 本当に勘弁してほしい。

 いくら価値観が色々と違うとはいえ、プライベートのイチャイチャを目の前でレビューされることの恥ずかしさくらいは、普通に察しておいてほしいものだ。

 それとも、察して尚、こうして話したのだろうか。

 だとしたらマジで酷いぞ。


「・・・ただ、お前の言葉から確認したいこともある。場所を移して、少し話をしようではないか」


 あ、今あからさまに俺の思考を見て見ぬ振りしたな、この神。

 いくら恩神(?)とはいえ怒るぞホントに。


「・・・・・まあ、いいですよ。そんなに長話されなきゃ、こっちだって嫌じゃありせんからね」


 とはいえ、ここで怒っていては仕方がない。

 どうせ言うタイミングはあるだろうし、とりあえずは話を聞こう。






 ─────3節:動き出す独善の影






 そこから俺と暇神様は部屋を出て、少し歩いたところにある崖のところまでやってきた。

 相変わらず世界の彩度が限りなく薄く、この崖の下にある街だって、お世辞にも煌びやかには見えない。

 とまあ、要らない感想を述べているが・・・それはそれとして、暇神様に促されて崖際に座らされたところで話は始まった。


「用意した話は3つ。1つ目は、お前が殺した叡智の寵愛者について。2つ目は、お前が生かした女について。そして3つ目は、お前が幻滅していると吐露した、エルネ・ルング───もとい、天沢(あまさわ) (りん)についてだ」


 天沢(あまさわ) (りん)

 まさか、この名前を今になって聞くことになるとは思わなかった。


「先ずは1つ目。叡智の寵愛者について話そう」


 俺の横に立ち、腕を組んで街を見下ろす暇神様は、表情を変えないまま淡々と言葉を続ける。


「前提として、叡智の神が属するコミュニティは、決して私と良い間柄だとは言えない。

 あれは私が唯一、()()()()()()によって距離を置いているコミュニティだ」

「珍しいんですか、それ」

「私の交友関係から鑑みれば、これは他に類を見ないほど特異な例だと言っていい。なぜなら、私は管理者であるが故に、全時空において基本的に中立の立場に居るからだ」


 個人的な嫌悪で距離を取る、か。

 これが人間社会であれば、相手側は相当にタチの悪い組織ということになるが───彼が居るのは上位存在の社会だ。

 きっと、人間の基準なんて比じゃないくらいクソッタレなことをしているに違いない。


「概ね肯定しよう。彼奴等は、お前の予想通り、お前達の想像の遥か上を行く事件を何度もしでかしている」


 うーん正解。

 なんなら、俺が想定していた以上にクソッタレらしい。


「そして、今回の叡智の寵愛者については、あくまで彼奴等の()()()に過ぎないのだと、私は推測している」

「・・・あれがですか」

「そうだ」


 流石にドン引きだ。

 確かに、特定の分野に一定以上のめり込んでいる人間が、現時点で行っている分野とは違う分野の内容を少しだけ「息抜き」と称してやることはあるだろうが、これがか。

 本当にどうしようもないな。


「そもそも、彼奴等がお前を狙うよう指示した理由は、「虚無」の名を冠する者に付随する戒めにこそある」

「・・・戒めって。初耳なんですけど」


 そんな戒めがあるのなら、最初に教えてほしかった。

 暇神様はめちゃめちゃ真面目な表情で街を見下ろしているが、そんなクールぶったところで誤魔化せないぞそれは。


「───虚無に手を伸ばすとはそれ即ち、自死と同義なり」


 そんでもって、確かに、興味を持たれても仕方がない内容だった。

 否、戒めというものは往々にしてこういう代物ばかりなのだろうが、全時空とかいうスケールクソデカなものを統べる概念にそんな戒めがあったら、確かに興味が湧くのも納得できる。

 だが、手段が問題だ。


「恐らく、彼奴等は、お前にも当該の戒めが当てはまるかどうかを確かめたかったのだろう」

「そいつらは、俺に殺させる為だけに・・・?」

「肯定しよう。そして、これで私が以前伝えた言葉の意味が理解できただろう?」

「ええ。可能なら一生理解したくありませんでしたがね・・・!」


 どうして、そいつらは場所を用意するのではなく───ああやって、大着して解決しようとしたのだろう。

 叡智を探究してるんじゃないのか。

 それとも、息抜きだから手を抜いていのか?


「思想に汚染され、神の思うままに動き、神の思うままに殺された。それが叡智の寵愛者という男の真実であり───哀れな、絶対の被害者の結末だ」

「・・・巻き込まれた人達だって、無視できないんですよ」

「そうだな。だが、彼奴等は違う」

「・・・・・ちっ・・・ああもう、マジでクソばっか。控えめに言って死ねばいいのに」


 ムカついて思わず、罵倒が口から出てきてしまった。

 こんなに罵倒の言葉が色々と出てくるのは、前世ぶりだろうか。

 久しく悪口なんて言っていなかったから、かなり語彙が鈍っている気がするな。


「閑話休題。次だ」

「・・・ルネについてですか」


 話が少しズレてきたところで、暇神様が手を叩き、話を次に移す。

 ある程度は俺の思考を読んでいただろうし、俺が懸念していた「叡智の寵愛者が他の転生者と結託していた」という線はない、ということで良いのだろう。

 どうやら、本当に、ただ神に焚き付けられてこき使われただけっぽいし。


「先ず、結果論で言えば・・・お前は、あの女を生かして正解だった。あの女には、かなりの利用価値がある」

「伊達に転生者の運命力じゃないってことですかね」

「そうなるな。ある意味、幸運だと言えよう」


 あんな可哀想なヤツでも、ある程度は転生者としての運や実力があったらしい。

 ・・・まあ、そうでもなければ、力が衰えたっぽいとはいえ、世界中に対しての影響力を持つ転生者を打ち倒した転生者を真正面から殺しに行かないか。

 自己証明も、本人の性格が一歩ズレていれば手がつけられなくなっていただろうし、そういう点で言ってもポテンシャルは十分だったのだろう。

 ただ、馬鹿みたいに詰めが甘かっただけで。


「人との繋がり、魔法の技能、自己証明、性格に由来する扱いやすさ。それら全てが上澄みであり、非常に優秀な人材だ」


 性格が穏やかで命令に従順なオールラウンダー。

 心の中で叡智の寵愛者をめっちゃディスった余韻があるせいか、いかにも転生者が引っ張ってそうな人物像に聞こえる。


「ところで、お前はルネとかいう女を正義の寵愛者の傘下のもとへ送ろうとしているようだが・・・・・その後はどうするつもりだ?」

「べつに。どうもしません。いい感じに飼い殺しにします」

「ほう、その心は?」

「単に邪魔だからってのと、どこかに置いておくには信用がゼロだからですね」


 まあ、元から利用するために生かしたわけじゃないし、今ここで優位性を話されたところで、俺はべつにどうもしない。

 というか、俺は彼女の仲間を殺しているし、本人を生かした理由も鑑みれば───別段、仲良くなれるとも思っていない。


「なるほど。用心しているな」

「ここで服従しているフリをされても困るので」


 ティアが居るおかげで保険はあるが、読心術は一定以上の技術があれば無力化ができる。

 もっとも、彼女にできるとは思えないが───念の為だ。


「まあいい。次で最後だ」

「はい」


 今度はあれだな。

 昨日の夜に俺が口走った、あいつ───天沢(あまさわ) (りん)に幻滅したという台詞についてだ。


「お前は昨日、エルネに幻滅したと言っていたな。それは何故だ?」

「・・・いつから、って聞いたほうがいいんじゃないですかね」

「では聞こう。何時からだ?」

「ずっと前。狂豚病の感染を診断されて、終活を始めたタイミングですよ」


 終活とはいっても、当時は病院側が家に返してくれなかったうえ、俺としても帰る方法がわからなかったから、病室でできたことしかしていない。

 友人に別れを言ったりとか、アカウント全消しとか。

 できることなら最後に旅行を・・・とかもしたかったのだが、如何せん病気が特殊だったため、何もできなかった。

 なんなら最後の方は指1本動かせなかったし。


「・・・まあ、簡単に言えば()()が許せなかったんです。

 あいつは残される側の心情を理解しようとしなかった。だから、死ぬって決まったらやけになって、俺の感情を乱すだけ乱していった。

 それを、その時まさに人間関係を片付けている自分と比べて考えてみたら、あいつがこれ以上ないくらいサイテーに見えたんで・・・あいつに恋してた自分が普通に嫌になりました」

「なるほど。把握した」


 俺が赤裸々に事情を述べると、暇神様は感想を述べるでもなく、淡白に相槌を打った。

 このままでは何も言いそうになかったため、俺は暇神様の方を向いて質問を投げかける。


「・・・・・それで。こんなこと聞いて、どういうつもりですか」


 今までの傾向から鑑みても、暇神様が俺個人の事情に対してここまで深入りしてくるのは珍しい。

 ましてや、前世の交友関係についてぶり返せなどと言われては、何があるのかと疑問に思うのも仕方がないだろう。


「お前とエルネの仲が悪いのは、こちらとしては不都合なのだ」


 ・・・存外、単純なことだった。

 俺とあいつが不仲だと不都合がある、と。

 恐らくは、以前に暇神様と対になる神様云々の話をされたから、これと関係した話なのだろう。

 というか、何らかの不都合が発生するのは理解したとして、現状は暇神様が思うほど深刻じゃない気がするのだが。


「・・・両片想いの片方が冷めたってだけです。べつに、コミュニケーションに難があるわけじゃない」

「お前の視野が狭くなるとは。珍しいことだな」

「あー・・・」


 そういうことか。

 俺の心情を知らない向こう側からしたら、自分の生存を知っててなお他の女に靡いた尻軽男・・・ってことになるのか。


「・・・・・まあ、言い訳は考えておきます」

「それが懸命だ」


 暇神様はそう言うと、コツコツと足音を立てながらどこかへと歩いていく。

 急になんだと思いながら音がする方を向いてみると、暇神様はそのまま歩いていったので、俺は立ち上がって後を追うことにした。


「・・・・・」


 来た道とは逆に、上へと進んでいく暇神様。

 俺はそれを小走りで追いかけていく。

 そして暫くすると、平坦な道が出てきたところで暇神様が立ち止まった。


「最後にひとつ、言っておこう」

「?」


 暇神様が振り返り、向こう側から後光が差し込んでくる。

 どうやら、そろそろ時間らしい。


「エルネは近いうち、「理想の寵愛者」として世界に降りるつもりだそうだ。気に留めておけ」

「・・・・・まーじですか」


 わりかしキツい予告に俺が顔を顰めたところで、後光はどんどんと光を強め、腕をかざさなければ目を開けられなくなっていく。

 そして、辺り一帯が光に包まれるほどの非常に強い輝きが見え、ついに腕越しでも目が開けられなくなったその時───



「・・・・・んあ」



 俺は、ベッドの上で目が覚めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ