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愛され気質な逸般人の異世界奮闘記  作者: Mat0Yashi_81
二章:運命を壊すは世界の奔流
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2-8:自己満足

 慈悲と償い。







空海(そらうみ)貪鯨(どんげい)?」


 唐突に現れた化け物をぶちのめしてから数分後、俺達は最初に叡智の寵愛者とエンカウントした場所に集合し、状況の生理をしていた。

 尚、先ほど回収しようとしていた、ヒナタ及びユスティ両名の死体についてはニアと合流するついでに回収してある。

 それによって、ニアに任せていたルネという少女が仲間の死体と対面したせいで泣き出してしまったが、今はそれどころではないので放置しておく。

 今処理しておくべき問題は、あの巨大な化け物についてだ。


『はい。マスターと合流したことで情報ライブラリへのアクセスが可能となりましたので調査したところ、あれは()()()()により顕現される召喚獣であるようです。詳細はHUDに』


 ニアがそう告げると、俺のHUDに件の情報が表示された。

 構成は論文の一節のような造りで、ヘッダの辺りには大きく「空海の貪鯨」という文字と、先ほど俺が風穴を開けた化け物と同じ姿かたちが写った画像がひとつ。

 詳しく読むのは一旦置いておいて、俺はティアと共有するために収納魔法から1枚の紙を取り出して印刷魔法で情報を印刷、ティアに手渡してからニアに言葉を投げかける。


「古代魔法・・・ってのは、ナギが使ってたアレ(防御魔法)と同じ類のやつか」

『はい。どうやら、古代魔法というのは一般的に、自己証明と同等の効力を得ることを目的に構築された理論的な魔法のことを指すそうです』

「・・・つまり、古代魔法の使用には、何らかのトリガーや代価になるものが必要だってことか」

『その認識で間違いありません』

「・・・・・」


 ということは、今回の古代魔法の代価かトリガーは「使用者の死」でほぼ確定だと言っていいだろう。

 事前に準備していたならまだしも、俺が叡智の寵愛者と戦い始めてから殺すまでの一連の流れで、アイツが攻撃と移動以外に魔法を使ったことはなかった。

 それに、事前に準備するにしたって───あんな堂々と正面からエントリーしてくる奴が、自分の死を予期していたかと言われれば疑問が残る。


「・・・・・はあ」


 擁護できないな。

 コンタクトは不意打ちとは名ばかりのゴミ攻撃で、強姦してまで手に入れた能力を備えた上での実力ですら俺には遠く及ばず、戦闘開始時は何故か馬鹿みたいに余裕綽々に構えていたせいで俺の攻撃をモロにくらい───挙句の果てには、道連れ覚悟で用意した保険すら、俺には全く通用しなかった。


「・・・・・」


 そして極めつけは、このルネという少女だ。

 俺は叡智の寵愛者が他でどんな活動をしていたのかを知らないため、とやかくは言えない。

 だが、ただでさえ転生者のお手つきだったというのに、その転生者は俺に殺されたのだ。

 言うなれば、今の彼女の立場は宙ぶらりんが過ぎる。

 残虐な転生者の元仲間の少女なんて、誰に何をどうされようが、助けてくれる存在なんてそうは居ない。

 ・・・ナギという例外を除いて。


「もう、預け先は決まったの?」

「・・・ん」


 物思いにふけっていると、ティアがずいっと顔を覗かせてきた。

 だが、俺には明確な回答が決まっていない。

 理想はあるものの、手段が微妙だ。


「・・・アリスに押し付ける。あとは知ったこっちゃない」

「五大侯の?」

「ああ。いくら敵の仲間だとはいえ、このままバイバイするわけにもいかないだろ・・・・・」


 とはいえ、ナギにどう説明するかという問題がある。

 最悪、「これが俺の正義だ」とか言っておけば思想フィルターがかかって通りそうな気もするのだが、これは普通に友人を裏切っている気がするので却下。

 そうなると、多少は虚無の寵愛者としての立場と権威を利用しなければならなくなるだろう。

 面倒だが、仕方ないと考えるか・・・・・


「・・・はあ」


 すごいため息が出てくる。

 そろそろ胃が張り裂けそうだ。


「・・・・・ニア、町のギルドに応援の要請を」

『承知しました』


 とりあえず、これで事件はひと段落。

 あとは、こいつらが他の転生者と結託していたかどうかという懸念だが・・・・・


「・・・・・」


 それはもう、後で考えればいいことだ。

 なんか面倒になってきたし、もう考え事をするのはよそう。

 ただでさえ人を殺して精神がすり減っているのに、これ以上精神的ダメージを負ってたまるか。




 〇 〇 〇




 それから少し後、現場に到着した応援部隊に諸々の事情を伝えた後に事の処理を全て任せ、俺達は町へと戻ってきた。

 あのルネという少女には逃げるなと念を押し、応援部隊の面々にも念のためにルネを拘束しておく場所と扱いについてを説明しておいたため、これで何も心配事はないはず。

 そうなると、俺が気にかけるべき事はあとひとつ。


「入るぞ」


 ギルド支部、医務室。

 VIPと書いてある扉をノックし、声をかけてから入室する。


「・・・・・あ」


 窓際に設置されたベッドに腰掛け、看護師らしき人物に診断をされているサクラが、俺を見て声を漏らした。

 看護師らしき人は俺に気づくなり壁際から座面が丸いタイプの椅子を引っ張り出してきて床に置き、どうぞと手を差し出しながら頭を下げる。


「ありがとう。だが、顔まで下げる必要はなかったな」


 そう微笑みかけながら椅子に座り、心配そうな表情でこちらを見ているサクラと向き合う。

 なんだか色々と聞きたそうな顔をしているが、それは俺も同じこと。

 生憎と、時間ならある。


「先ず聞こう。サクラ、お前は何が知りたい?」


 脚を組み、姿勢はよく。

 低身長ながらも雰囲気が出るように意識しながら、俺は彼女に問う。

 すると、まずひとつの答えが返ってくる。


「・・・叡智の寵愛者達はどうしたんですか」

「殺した。1人を除いて」

「・・・・・そうですか」


 俺が端的に答えると、サクラは俯いて事実を噛み締めた。

 そして、次の質問へと移る。


「・・・殺さなかった1人って誰なんですか」

「白い服の少女、ルネ。あいつは俺達を攻撃して来なかったから見逃してやった」

「じゃあ、捕らえたと?」

「そうだ」


 予想外、疑問、困惑。

 色々な感情が混ざりあった、複雑な表情を浮かべるサクラ。


「どうして・・・?」

「単に殺す理由がなかった。それとも、これじゃ理由は不足か?」

「・・・・・」


 そんな彼女の捻り出したような問いかけに、俺は淡白な回答をした。

 思っていたよりもシンプルな内容だったせいか、困惑する彼女。

 だが、先程のように自分を納得させることが目的ではなく、他人に説明することが目的であるのなら───これが、この言葉選びこそが確実であり、俺の思考回路を的確に表す言葉だ。

 複雑に理論立てする必要はない。

 なぜなら、俺は単なる快・不快のみで生殺与奪を判断し、ただ「攻撃してこなかった」という理由からルネを生かすという、自己満足と独善に満ちた決断を下したのだから。


「わたしは、例え戦っていなくとも・・・・・彼女を許せません」

「知ったことじゃないな。お前があの女を許せないからなんだ? もう戻らない命のためだと銘打って、無駄に命を奪うのか?」


 自分の仲間は全員死んだのに、相手側の首謀者の仲間は普通に生きている・・・となれば、確かに気に入らないし許せないのは理解できる。

 だが、許せないからなんだと言うのだ。

 心を折ってやりたいのか、無惨に殺してやりたいのか、それとも自分がされた以上に、ボロボロになるまで犯してやりたいのか。

 俺は威圧的に問う。

 彼女の意志を確かめるために。


「それは・・・・・」

「ハッキリ言ってやろう。ここで「あいつらも無駄に命を奪ったから」とかの台詞が出てこない時点で、お前は復讐に向いていない」


 だが彼女は迷い、答えに窮した。

 俺に言わせれば、これが全てだ。

 仮にティアが同じ状況であったのなら、あいつは説得の前に相手を殺し終わっているだろうし、俺だったら行動が間に合わなくとも「お前に止める権利があるかよ」と言って決意を押し通す。

 そこまで気が強いわけではなくとも、わざわざ俺が反論のために用意しておいた台詞すら思い浮かばないということは、彼女は根本から争い事に向かないのだろう。


「それに、元凶は俺が殺した。だから、今更お前がアレに危害を加えたところで何も変わりゃしない」

「・・・・・」


 ただまあ、無関係な人に当たり散らさないだけ偉いとは思う。

 それだけは褒めてやれる。


「仲良くしろだなんて言ってないんだよ。俺はただ、単に殺すのが癪だと思った奴を、自分で管理するのも面倒だからって理由で、俺のファンを名乗ってる物好きに押し付けてやろうとしているだけだ」


 故に、お前は関係ないのだと。

 これ以上、俺の決定に文句を言うなと。

 俺は、彼女に言い聞かせるように話す。


「・・・それで、他に質問は?」


 そして俺が話を切り上げると、彼女はどこか、複雑な感情を表に出さぬよう押さえ込みながら俯き、黙る。

 俺はそれを、姿勢と表情を一切変えずにじっと見つめ続け、彼女が話始めるまでの沈黙をただ待つ。

 彼女がやっとこさ顔を上げ、口を手で隠しながらこちらを向くまでは、恐らく1分ほどの間があっただろうか。


「・・・あなたが一瞬で倒してしまった、あのSランクを優に超える化け物は一体なんなんですか」

「・・・・・アレか」


 震える声で言われた質問は、やはり、あの化け物のことだった。

 空を海に変え、その辺の山くらいならかじり取れるくらいの巨体を有し、今まで出会った誰もが霞むくらいの魔力量を持った鯨の化け物。

 しかし瞬間的な魔力出力がカスすぎて楽に倒せてしまったため、詳細がよくわからないまま死んでしまった(のだと思われる)のが残念なところ。

 まあ、あれで手に負えない存在だったら、それはそれで困るのだが。


「アレは、叡智の寵愛者が最後の悪あがきとして、古代魔法を使って呼び出した召還獣だ。名前は「空海(そらうみ)貪鯨(どんげい)」と言うらしい」

「・・・その召還獣の詳細はわかりますか」

「不明だ。何せ、召喚したであろう本人が既に死んでいるからな」

「そうですか・・・」


 ニア曰く、ルネが「ヒナタ様の攻撃は」と言っていたらしいから、古代魔法そのものの使用者については叡智の寵愛者本人で間違いないだろう。

 死ぬ前の「逃げろ」に複数の意味があったことを、ルネが逃げていく方向を知っていながら見落としたのは個人的な落ち度ではあるものの、結果的に対処はできたので無問題。

 むしろ、周囲への影響に直接的な繋がりがある、召喚されてからの動きについては───余計な様子見なんかせずに初っ端から殺意全開で魔法をぶっ放した時点で、俺は褒められていい。

 あの場で見た感じ、あの化け物はそこそこ頭が良かったみたいだから、長引かせる前に仕留めるという選択は最適解だったのだろう。


「ただ、情報が欲しいって言うなら用意はできる。単にカタログスペックを記しただけのものだが」

「それでも十分です。取っ掛りさえあれば」

「了解だ、なら用意しよう。期日はどうする?」

「いつでも構いません」

「そうか。じゃあ明日か明後日にでも渡す」


 俺は口頭で受渡日の見通しを伝えつつ、収納魔法からペンとメモを取り出して必要な情報やら内容の構成やらを大まかに記し始めた。

 そこから十数秒、ガラスと紙が擦れる音だけが響く時間が続く。


「・・・・・あの」

「ん?」


 先に声を出したのは、サクラ。

 彼女は控えめな声で俺に話しかけてきた。


「わたしは・・・これから、どうすれば良いのでしょうか」

「・・・俺に聞くか」


 どうすればいい・・・か。

 残念ながら今の俺では、確実な根拠がある有力なアドバイスをすることはできないな。


「まあ・・・いい。俺は管理職になったことがないから働き方の立ち回り方は門外漢だが、とりあえずは口調を直しておけ。仲間が犠牲になった直後に口調が弱い方向に変わるなんて、付け込んでくださいって言ってるようなもんだろ」

「・・・この口調を出すのは、あなたの前だけです」

「ああそう。なら余計、ボロを出さないように気をつけろよ」

「はい・・・」


 弱々しい返事をするサクラ。

 俺からすると、その()()()()()()と会話している時の口調を知りたいのだが、まあ、使い分けるというのだから良しとしよう。

 今はべつに、そこまで深入りする必要はない。

 あと少し、自己満のために優しくしてやるだけでいい。


「あとは、そうだな。一つ渡せるものがある」

「?」


 俺は彼女にそう告げると、収納魔法からひとつのアイテムを取り出した。

 それは、淡く紫色に輝く縦長の八面体。

 少し前から試行錯誤して完成させた、通信に特化した性能を持つ魔道具である。


「ほら」

「なんですか? これ」

「俺を呼び出すためのツール」

「・・・え?」


 さらっと内容を説明すると、サクラは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。

 そこから俺は、詳しい説明に入る。


「単に俺の助けが欲しい時は、それに魔力を込めて強く握る。もし命の危機が迫ってるなら、思いっきりそれを叩き割れ。前者は応答の是非が俺の気分になるが、後者ならすぐに助けに行ってやる」


 王都にいた、店番の少女に渡したものとはまた別のものだ。

 あの時の俺は遊びで術式を組み込んだため、あれには俺に通知を飛ばす機能なんかは無い。

 それに対してこちらは、実用性を重視して作り出した、俺とニアに向かって通知を飛ばすシステムが組み込まれた魔道具。

 一応、HUDとの連携もできていて、使用者の魔力から個人を判別することだって、理論上は可能だ。


「助けにって、そんな・・・・・」

「いいから受け取れ。でないと、俺はお前らに迷惑をかけたままになってしまう」

「迷惑?」


 渋るサクラの手に、俺は魔道具を押し込んだ。

 でないと、この調子では受け取らなさそうだったから。


「今回、お前らに被害が及んだのは全て俺の存在が原因だ。だから、ある程度は責任を・・・って思ったんだが、如何せん手段がなくてな。このくらいしか思いつかなかった」

「・・・そう、ですか」


 何も気にしなくていいのなら、単に「俺をこきつかってくれ」とでも言えば良かったのだが、今回ばかりは言い方によっては彼女を傷つけかねない。

 故に俺は、間接的に意志を示しておこうという結論に至った。

 これなら少なくとも、言葉によって何か間違いが起こり得る確率も低くなるはず。


「・・・・・何より、叡智の寵愛者の死は、俺の実力と躊躇のなさを世界中に広める要因になるだろう。だから、もしかしたら───アレに似たような屑の手によって、この町やお前に、また危機が迫るかもしれない。

 その時は、絶対に俺を呼んでくれ。自分達の力で耐えようなんて考えるな。俺のせいで起こった事象は、俺が確実にカタをつける」


 俺は、彼女の瞳から視線を離さず、ただひたすら真っ直ぐに言葉を並べていく。

 嘘やハッタリの類ではない。

 これは単なる、俺の本心。

 ただ、寝覚めが悪くなりそうな要因を潰すためだけの───贖罪にも満たない、自己満足。


「・・・わかりました」


 少しの間の後、彼女は魔道具を胸に抱えながら頷いた。

 どうやら、素直に受け取ってくれる気になったらしい。

 嬉しい限りだ。


「それじゃあ、俺はここでオサラバだ。妹さんには、よろしく言っておいてくれよ」

「・・・はい」


 これ以上ここに居座っていてもあれなので、俺は立ち上がり、ノールックで座面が丸い椅子を隅っこに瞬間移動させてからサクラに別れの言葉を言った。

 彼女は少し口を噤んだが、何らかの言葉を飲み込んでから静かに返事をする。

 俺はそれが見えなかったふりをして、扉の方まで歩いていく。


「じゃあな。身体、ちゃんと休めろよ」


 そして若干重たく感じる扉を開けた俺は、淡白な挨拶をしてから部屋を出て、音がならないようにゆっくり扉を閉めた。









 なんだか、結局は優しい主人公になりますね。

 今の所は「愛され」ってより、また別の何かってカンジですが・・・・・

 まあ、良いでしょう。

 題名なんてのは飾りです。偉い人にはそれがわからんのです!


 次回:不平等な対価


 ティアちゃんとグレイアのしっとりイチャイチャです。

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