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愛され気質な逸般人の異世界奮闘記  作者: Mat0Yashi_81
二章:運命を壊すは世界の奔流
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2-5:戒め

 つまらない決着。







 実のところ、叡智の寵愛者の言い分というのは───あながち、完全に間違っているとは言い難い。

 例えそれが、叡智の神によって歪曲させられた「戒め」のことだったとしても。


 事実、現時点のグレイアでさえ、戦闘ごとの休憩を挟むことができれば「世界を滅ぼす」こと自体は普通に可能だ。

 全世界の人類のコミュニティを例外なく機能停止にまで追い込み、インフラを含めた活動ネットワークを復旧不可能な状態まで破壊することは、本人の意思に関係なく、可能か不可能かで言えば()()だと言える。

 だから、本人もそれは否定しなかったのだろう。

 実際に言われてしまうと、どうにも頭に来るというだけで。


 となると、叡智の神は何を意図して火ノ宮 日向(ひのみや ひなた)を唆すという愚行に走ったのだろうか。

 単にグレイアを怒らせたかっただけか、はたまた、本気で殺す気でいたのか。


 ・・・まあ、前者しかないな。


 ()()()()()()()()()に関する戒めは、知識のツリーに所属している存在どもが一番よく理解していることだ。

 今回もどうせ、ただの知識欲だろう。


 ・・・・・本当に度し難い。




 ▽ ▽ ▽




光明せし烈火(ルーグニクス)ッ!」


 凄まじい熱量を帯びた光線が、奴の右の掌から放たれる。

 あんなものを食らえば、俺は十中八九、跡形も残さず消し炭になることだろう。

 だが、速度は遅い。


『敵、視界の範囲外です。奇襲可能』


 俺は飛翔魔法のコントロールをギリギリまで捨て去り、速度に重きを置いて移動を極限まで加速する。

 この状態、光線との距離がほぼゼロに近い状態で俺を守るのは、俺の身体から吹き出した魔力と、身体強化によって漏れ出た薄い魔力の膜のみ。

 つまり、少しでも動き方を間違えれば、俺の足は即お陀仏となる。

 はっきり言って、些か不安が残る戦法だ。


「ぎゃっ!?」


 しかし、奇襲は成功。

 魔力に満ちた拳は女の顔面を捉え、確実な一発を叩き込んだ。


「くっ、こんの・・・!」


 流石のタフネスといったところ。

 俺の拳によって多少は仰け反ったものの、あまり効いてはいなかったらしい。その証拠に、竜の亜人は魔法を放っていた反対側の掌から魔力を放出して俺を攻撃し、カウンターを見舞おうとした。

 だが、そんな安直なカウンターを食らう俺ではない。

 予め予測していた反撃であった故、俺はその攻撃の兆候すら確認することはなく、瞬間移動を用いて彼女の背後へと移動。

 姿勢をちょっとミスったため、俺はくるりと回転して姿勢を調整しながら、反撃を空ぶったバカの背中に蹴りを叩き込む。


「い゛ッ・・・・・」


 そして、俺はすぐに瞬間移動をして先回りを行い、彼女の腹に圧力魔法をぶち込んでやった。


「うがっ・・・!?」


 ろくな抵抗もできず、無様に吹っ飛んでいく竜の亜人。

 数秒後、だいたい3桁メートルと少しくらい吹っ飛んで行った辺りで姿勢制御を取り戻した彼女は、魔力を凝縮し、何らかの魔法を構築し始めた。

 それを確認した俺は魔力を解き放って飛翔魔法にブースト効果を付与。

 速度を増し、真正面から攻略しにかかった。


「───滅せよ! 竜王獄炎牙(キルクムド・イグニス)ッ!」


 相手が放ったのは、少し前に誘拐犯どもと対峙した時と同じような、弧を描く無数の炎の矢を呼び出す魔法。

 初見ですら回避が可能だった代物だ。

 多少速度が増しているような気がしないでもないが、そこまで脅威じゃない。

 それに、どうせまた、追尾だとか爆発だとかの小細工が施されているのだろう。

 それなら、俺だって考えがある。


「っは───」


 いったん減速し、一秒ないくらいの間で諸々の準備を整えた俺は、足元にバリアを展開しつつ全身から魔力を紛らせた。

 そして、高まった魔力を解放して飛翔魔法にさらなる加速を付与しながら、足元のバリアを全力で蹴り飛ばして移動をさらに加速。

 音速なんて目じゃない速度にまで一瞬で到達した俺は、自身の加速によって振りまかれたソニックブームが魔法に仕掛けられた爆発魔法を発動させるのを尻目に、えげつない速度で竜の亜人の眼前まで迫る。

 そう、俺の考えとは、超ゴリ押しの正面突破である。


「っ・・・だあっ!」


 しかし、腐っても竜だと言うべきか。

 物凄い反応速度と身体能力によって、俺が彼女の目の前に到達したタイミングで彼女は魔力を一閃。

 もし、あのまま突撃していたのなら───俺の体は、今の一閃によって串刺しになっていたことだろう。

 だが、そこはやはり瞬間移動魔法。

 速度帳消しとはまた、無法な副次効果である。


「くっ、後ろか───」


 目の前から俺の姿が消えたことで、後ろから攻撃を仕掛けようとしている───と、彼女は判断したのだろう。

 そうして拳を振るう彼女だったが、残念ながら、俺はそこにはいない。


「がっ・・・!?」


 次の瞬間、彼女の横っ腹に俺の足が突き刺さった。

 竜の亜人の表情が苦痛と困惑に歪む。

 そう、今のは完全なる二重のブラフ───魔力探知ができない状態の人間には絶対に回避ができない、初見殺し率100パーセントの必殺技である。


「くっそ・・・!」


 そして、そう吐き捨てられながら放たれた反撃の右ストレートは、俺の頭の上を通り過ぎ───今度は逆に、俺の右手が彼女の腹に突き刺さった。


「ぐっ・・・」


 だが、この程度ではダメージが少ないことは十分に理解していたため、俺は間髪入れずに右の拳から魔力を放出。

 彼女をぶっ飛ばして距離を離すとともに、腹筋を血が溢れ出るくらいに大きく抉ってやった。


「───がふっ」


 衣服はボロボロとなり、腹と口周りは血に塗れている。

 そして、俺の魔力によってついた傷のせいで痛みが体を蝕み、マトモに動くことすらままならないのだろう。

 彼女は腹を押さえ、こちらを睨んだまま動かない。


『マスター』


 と、ここでニアが端的な通知を俺に送ってきた。

 ヒナタが傷を完治させ、戦線に復帰してきた合図だ。


「・・・終わりだ」


 俺は時間稼ぎの意味も込めつつ、静かにそう告げながら、右の掌を相手に向けてわざとらしく魔力を溜め始めた。

 これから放つ魔法は、この戦いを終わらせるための一手。

 先程と同じ、単なるブラフである。


「死ね」


 詠唱すらせず、多大に消費する魔力すら厭わないと───そう演出しながら、俺は極大の炎魔法を彼女の方向へ放った。

 その瞬間、あの竜の亜人の口元が歪むのを俺は見逃さない。

 だってそうだろう。

 ようやく、散々コケにしてきた輩にお返しができるのだから。


「あはっ・・・あはははははっ!!!」


 瞬間移動からの奇襲。

 視界内に居たから当然とはいえ、ここまで気分が乗っているとは───我ながら、ものずこく一方的な戦いだったのだなと反芻する。


「ようやく・・・っ! ようやく隙を晒してくれたわねっ!」


 俺の首を右手で引っつかみ、脅しとばかりに魔力を輝かせながら、彼女は叫ぶ。

 よほど、ボコボコにされたのが頭に来たらしい。


「───待つんだユスティ!」


 ようやく追いついてきた叡智の寵愛者。

 だが、もう間に合わない。

 彼の警告は結局、泡沫と消えることになる。

 なぜなら、今ここで彼女が引っ掴んでいる俺は偽物で───彼女の後ろで刃を構え、振り下ろさんとしている俺こそが、本物の俺なのだから。


「なんでよ! こいつはもう・・・」

「違う! 彼は───」


 次の瞬間、俺が逆手持ちの状態で振り下ろした刃が竜の亜人の右肩にぶっ刺さり、そのまま進んで心臓を貫き、肺にどデカい穴を空ける。


「───あ」


 本人が気づいたところでもう遅い。

 俺は武器から手を離すと、お間抜けな面を浮かべているであろう竜の亜人の頭を両側から掴み、そのまま180度回転させて首をへし折った。


「───ッ!?」


 戦闘不能なんて生易しいものじゃない。

 心臓に首、肺すら再起不能になるまで破壊した。

 どんな間違い(奇跡)が起こったって、こいつが息を吹き返すことはありえない。


「・・・・・」


 俺は死体から刃を抜き、無惨に落下していくモノには視線を向けず───ただじっと、自身の間違いを悔いる間を与えられていることに気づかないバカを見る。


「・・・ユスティ」


 今死んだ奴の名前を呼び、肩を震わせる叡智の寵愛者。


「・・・・・くそっ───」


 5秒くらいの間が空いた後、彼は俺の方をキッと睨むと、翻して全力っぽい速度で戻って行った。

 恐らくは、あの非戦闘員っぽい少女のところへ行くのだろう。


『マスター、非戦闘員はどうしますか』

「殺さない。が、情報はもらう」

『承知しました。では、盗聴を行います』

「ありがとう」


 場所は予測できているし、その場所は覚えている。

 ここからでも、瞬間移動は可能だ。


『───はあっ・・・はあっ・・・』


 目的地に到着したようだ。

 叡智の寵愛者は息を切らしている。


『・・・ユスティさまは』

『・・・・・死んだ』


 事実確認。

 言葉の尻に疑問符らしき発音がなかったのを鑑みるに、どうやら少女の方は、魔力の反応が消えたことを理解していたようだ。


『ルネ、君は早く逃げるんだ。僕が時間を稼ぐ』

『・・・そんな』


 そうなるだろうな。

 とはいえ、ほぼ全ての自己証明を失った今、こいつがそう長く時間を稼げるとも思わないが。


『・・・急ぐんだ。でないと君も、あの悪魔に殺される』

『でも・・・・・』


 心外とは言わない。

 それだけの事はしたつもりだ。


「・・・ふう」


 ため息をつき、頭に景色を思い浮かべる。

 あとはあのクズを殺すだけ。

 何も、特別なことはしなくていい。


「───ッ!」

「・・・・・!」


 瞬間移動によって現れた俺に対し、2人ともたいそう驚いている。

 叡智の寵愛者はわからないが、それこそ少女───ルネの方なんかは魔力探知をしていたのだろうし、俺の遠距離瞬間移動に驚くのも無理はない。


「・・・別れは済んだか」


 俺はそう告げ、足を踏み出す。

 足場の悪いクレーターの中を、一歩、また一歩と。


「くっ・・・・、はああああああっ!!!」


 瞬間、叡智の寵愛者が気合いを解放し、全身から魔力を迸らせた。

 薄く白い魔力が吹き出し、乾いた音を立てている。


「ルネ、早く行くんだ」


 俺がゆっくりと脚を踏み出す間に、叡智の寵愛者は少女の背中を押し、逃走させた。

 それなら、話は早い。


「っ!?」


 突然、叡智の寵愛者の視界から俺の姿が消える。

 となれば、当然、彼は魔力探知を用いて俺の位置を特定しようとすることだろう。

 堂々とした状況だったはずなのに、あれだけ殺気を放ちながら近づいていたのに───と、極限まで焦りながら。


「・・・まさか!」


 そうして、彼は大事な所を見落とすだろう。

 自分の大切な仲間に迫る危険にしか視線が行かず、己の背後にある、小さな小さな魔力の反応に気が付かないのだ。


「危ない! ルネ───」


 身体強化、0パーセント。

 一切合切魔力を放出しないように隠蔽した俺の、たったひと振りの刃によって、この殺し合いは決着する。


「────」


 汚い音を立てて、泥の中に突っ伏す叡智の寵愛者の亡骸。


『・・・魔力反応、消失。

 叡智の寵愛者は死亡しました』


 続く、ニアの報告。

 完全に首を落としたうえ、こいつの2つ名は「叡智」だ。

 流石に生き返るようなチート能力を持っている、なんてことは無いはず。


「・・・・・」


 俺はひと呼吸ほど余裕を空けて、ルネという少女が逃げていった方向を見る。

 魔力探知に引っかかったために動きが見えるが、どうやら絶望しているのか、全く移動をしようとしていない。

 そのため、今度は魔力の反応を基準として位置を決め、瞬間移動を行った。


「ひっ・・・・・」


 現れるなり、情けなく悲鳴を上げる少女。

 尻もちをつき、まともに動くことすらままならないようだ。


「嫌・・・いや・・・・・!」


 ただひたすらに俺の顔を見て、恐れるだけ。

 俺は動かず、何も喋らない。

 なぜなら、この状況でこの状態の相手にかける言葉など───今までの人生で一度だって、見たり聞いたり、知ったりする機会がなかったからだ。

 まあ、そんな機会あってたまるかという話だが。


「こっ・・・殺さないで・・・・・っ」


 しかし、このままでは埒が明かないというのもまた事実。

 なんだかもう、倫理観とか気にするのも今更だし、ぶっ叩いてでも眠らせて運んでしまおうかと考えていた、その時だった。


「・・・グレイア」


 もはや慣れ親しんだとまで言える声が、後ろから聞こえてきたのだ。

 俺はそっと振り向き、そこに立っていた人物を見て安堵する。


「大丈夫。こういう時にするべきことは───」


 と、ティアはそう言いながら俺の横を通り過ぎ、木を背にしたまま怯えている少女の所まで行くと、拳を振り上げて一発。

 魔力が籠った一撃を脳天にぶち込んだ。


「こうやって、黙らせることだから」

「・・・ワイルドだな」


 余計に精神が削がれないように・・・と言えば合理的なのだが、いかんせん絵面が物理的すぎる。

 とはいえ、助けられたというのはそうだ。


「・・・まあ、ありがとう。助かった」

「どういたしまして。それより、怪我は?」

「いいや、傷一つない」

「・・・よかった」


 安堵するティア。

 だが、俺はここで、少し気になることがあった。


「・・・ニア」

『はい』

「こいつの監視を頼む。俺は少し、ティアと一緒に頭を冷やしてくるから」


 頭を冷やしてくるというのはあくまで建前。

 念には念をということで言った、ちょっとした嘘。


『・・・承知しました』


 戦いが始まった直後の異様な圧力。

 あの状態を、説明してもらわなくては。




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