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愛され気質な逸般人の異世界奮闘記  作者: Mat0Yashi_81
一章:正義が統べる正義の王国
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1-2:正義のお膝元

 彼を待ち受けるのは、果たして友好的な歓迎か否か。

 どちらにせよ、今の彼には回避する手段はない。







 ライ・スネス連合王国


 世界の中心に位置するこの王国は「治安・経済・文化が世界トップクラスの国」であるらしく、その背景には転生者の存在があるとかなんとか。

 曰く、他の国が転生者を取り入れることに対して消極的な中、この国だけがその特異性を理解し、文化圏に取り入れたそうだ。

 今この馬車から見える景色も、どちらかと言えば中世と言うより近代に近い印象を受ける。

 シルクハットの紳士が歩いていたり、銃っぽい装備を持った憲兵が立っていたり。

 街灯は塗装がされた金属製で───中身はやはり、ここはファンタジーの世界だし、魔法か何かを使ったものなのだろう。

 時間があれば、夜に街を歩いてみたい。


「かなり見入ってるね。気に入ったかい?」


 ナギが笑顔で話しかけてくる。

 ちなみに、軽く自己紹介を済ませた後に彼から、自分のことは()()と呼ぶようにと言われたので、そうすることにした。


「最高すぎて怖いくらいだ」


 彼の問いに、俺は笑いながら返答する。

 ここまでの体験があまりに印象的すぎて、個人的には疲労感でいっぱいだったが───それも、少しはマシになったような気すらしてくるほどだ。


「そう。それじゃあ、まずはあそこの───僕らの権力の象徴、王城に向かおうか」


 できれば穏便に、かつ楽しいことが待っていると俺としても嬉しいのだが、そう易々と楽なことばかり舞い込んでくるわけがないだろう。

 どちらにせよ、これから起こることが楽しみだ。




 〇 〇 〇




 王城内部に到着した俺は、色々と案内をする前にと、応接室のような部屋に案内された。

 見るからに豪華そうな内装に少しだけビビりつつ、用意されたお茶をすする。


「・・・・・」


 そういえば、こうして何かを摂取するのはいつぶりだろうか。

 生前で死ぬ直前は、筋肉が硬直したおかげでロクに食べ物も飲み物も摂取できなかったし、最後の方は意識すらなかった。

 辛くなかったと言えば聞こえはいいが、動くことができなかったので娯楽や趣味はもちろんできず、なんとなく書いてみたかった遺言すら一文字も書けていない。


「───ふう」


 前世のことが気がかりでないと言えば嘘になる。

 だが、気にかけたところで何かなるなんて都合のいいことはないし───そもそも、過去を振り返るのは性に合わないと自覚している。

 さっさと割り切らなければ。


「グレイア、入ってもいいかい?」

「・・・ああ」


 ノック音とともに、ナギの声が扉の外から聞こえてきた。

 俺はカップを置いてから返事をし、なんの用かと扉の方を見て───呆気なく絶句した。

 身長は目測でも二メートルを越すだろうか。

 ぱっと目につく肩幅は、同じ種族であると疑ってしまうほど広く、まるで壁のよう。

 よく想像する「王」のような装束を着てはいるものの、その服装のデザインはどこか戦闘に重きを置いているようにも見える。

 そして、ぐるぐると思考していた俺に答え合わせをするかのように、ナギはその口を開く。


「紹介するよ。

 この国の王、エドワルド・カルヴィンだ」


 彼の口から飛び出した、国王という肩書き。

 その二文字に気圧されてしまいそうになるが、冷静に頭を回転させてみる。

 転生者の特異性を理解し、文化圏に取り入れたという文言を聞いた時点で、初手の謁見が来る可能性はうっすらと視野に入っていた。

 相手が交流に意欲的なのであれば、国のトップが自ら出向いて信頼を得ようとするのは必然。

 もし、俺のことを「リスク」として捉えていないのであれば、ともすれば───むしろ、今は驚くのではなく、喜ぶべきだろうか。

 否、もしかしたら、ただ単に留意すべき存在ではないと思われているだけなのかもしれないが。


「君が新しい転生者か。よろしく頼む」

「・・・よろしくお願いします」


 差し出された手を取り、握手を交わすとわかる。

 これは、強い大人の手だ。

 俺には縁のない、大きく、硬く、健康的な色合いをした手。

 瞬時に感じ取った要素自体、それだけではないのかもしれない。

 だがしかし、一瞬触れただけでも、目の前に居る男の肩書きが決して───どこかからでっちあげたような、ハリボテの代物ではないと理解できる。


「礼儀正しい。それとも、理解したのか?」


 重厚な、明らかな強者の声。

 しかし不思議と、圧倒されることはない。

 疑問を持ったような表情でナギの方を向いた彼は、そのまま質問のために口を開く。


「お前曰く、人殺しを為せるほどの胆力も有していると」

「それに関しては、さっき説明した通り。

 彼は状況の流れに身を任せたのだろうけど、やったこと自体は変わらないね」


 かたや歩く核爆弾、そしてもう片方は、()()と懇意にしているととれる王。

 このふたりの関係性がどのようなものであったとしても、俺の感覚が正しければ───ふたりは確実な強者である。

 本来なら、畏怖なりなんなり感じるはずだ。


「前、座らせてもらおう」


 用意された椅子に、堂々と、しかし気品の感じられる所作で腰掛ける王。

 その彼の表情から察せられる感情は「好奇心」のみで、どこにも雑念はなく、シンプルな感情のみが感じ取れる。


「さて、君は───私が要求する事柄を、果たして察することができているだろうか」

「・・・・・察する、ですか」


 いくつかの予測は建てられているものの、口に出すにはどれも決定打に欠ける。

 ここは、大人しく話を聞くべきだろう。


「ナギが説明した通り、この国は転生者を利用することで地位を確立した国である。

 もっとも、所属してくれている転生者自体はそこまで多くはないのだが───()()()()という条件に目を向ければ、世界中に協力者は多数存在している」


 協力するか、否か。

 これからされるであろう提案を、もし拒否した場合のことは定かでは無いが、ここまで囲いこんでから提案をしてくるのであれば───それはもう、選択肢は「はい」か「YES」の二択だと言っているようなもの。

 威圧感たっぷりに提案してくるというのは、シンプルにタチが悪い。


「所属してくれている転生者は、ここにいるナギを含めて四人いる。

 ナギ、名簿を」

「はいはい」


 王に命令され、ナギが亜空間から紙の束を取り出す。

 手渡しで受け取り、内容をサラッと見てみると、どうやら一枚ごとに各転生者の情報が書いてあるようだった。


「情報の開示。

 私にとって、それは信用を得るための手段のひとつだと思っている」


 俺の方を真っ直ぐに向き、じっと見つめられる。

 それと同時に、何かを要求されているような気がするのだが、生憎と察することはできない。

 (まつりごと)なんて門外漢だ。

 ここはひとつ、穏便に否定したい。


「・・・べつに、決断は焦りませんよ」

「というと?」

「信用云々は別として、まあ、はい。

 こっちだって手一杯なんですから、あんまり急かされると嫌な気分になります」

「───ふむ」


 俺がなるべく角が立たないように言葉を選び、口にした瞬間、目の前の男の顔が変わった。

 何かを確信したような、好奇心が次のステップに移ったような顔に。


「・・・?」


 そして、俺が困惑して何も言わないでいると、彼は急に頭を下げた。


「・・・すまなかった。君を試すような真似をして」


 予測ができていなかった訳ではない。

 こうして試される事そのものは、いわゆる「転生もの」のテンプレのようなものだろうから。

 でも、それが、こんなにも「微妙にわかりやすい」としか言えないものだとは思わなかったが───もしかしたら、理解できただけマシかもしれない。

 俺には、彼が何を求めているのかが分からないが。


「普段はこいつの目を疑う・・・なんてことはしないのだがな。

 少しでも君を、常識のある人間だと確かめたくなってしまった」


 常識のある人間、と彼は言った。

 ここまで強調されてしまうと、どうしても気になってしまう。

 先程の俺のように、転生して何分もしないうちに人を殺すことはあるのだろうかと。


「・・・殺人が理由、ですか」

「肯定しよう。

 転生して間もない、()()()()()()が不安定であろう状態で、迷いなく人を殺す転生者など・・・今までは居なかった」


 状況に身を任せただけだと、そう説明(言い訳)をしたくなったが、よく考えてみれば前例がないのは当然かもしれない。

 あんな地獄みたいな状況に転生させた挙句、人殺しに導くような動線を引く神など───そうは居ないのだろうと思う。

 それに、好奇心のまま作り上げた代物を、ぽっと出の転生者にポンポン授けてしまうような存在が、そんなに居てたまるかとも思ってしまう。

 ・・・そうなると、あの神様はわりと異質なタイプの神だったりするのだろうか?


「判断能力が乏しく、息をするように人を殺す存在。

 君がその、我が国の驚異となる存在であったなら───私はここで、君を殺すつもりだった」


 随分と物騒だなと、あまりにも呑気な、そして淡白な感想を抱いた俺の横で───ずっと人形のように微動だにせず、大人しく座っていたニアが、突然に口を開いた。


「───否。

 マスターの自己証明に対しては、如何なる殺害方法も無意味です」


 まったく表情を変えないまま、ただひたすらに事実を吐き続けるAIのように。

 そんな彼女の言葉に対し、王は「面白い」と言わんばかりの顔をしながら言葉を返す。


「では、拘束して封印でもするとしよう。

 得体の知れない人工知能も合わせてな」


 今の言葉は、恐らくは単なるブラックジョークの類だろうが───しかし、彼の表情にはどうにも、それを実現せんとする凄みがある。

 が、反応の仕方がわからないので俺は依然として口を挟まなかった。


「・・・・・なるほど。

 冗談は嫌いか、君の相棒は」


 すると、しばらくの気まずい沈黙の後、彼は少し悲しそうに言葉を口にした。

 たしかに凄まじいベクトルの冗談ではあったが、この世界を基準とするならば───そこそこの愛想笑いができる程度の倫理観はあったのだろう。

 それがこうも火の玉ストレートで会話のキャッチボールをぶち込まれては、たしかに萎える気持ちもわからなくはない。


「いえ、まだ───」

「否定します。

 私が会話に介入した主な理由は、マスターの疲労が限界に近いため」


 俺の言葉の上から、ニアは言葉を被せてくる。

 一体どこからその情報を仕入れているのかを聞き出したいが、どうせ後で説明してくれるだろうから黙っておく。


「それゆえ、これ以上の会話や、判断能力を必要とする行動は控えるべきだと判断しました。

 今のマスターには、()()()()()()()()()()


 要は「無駄話ばかりしてないでさっさと休ませろ」ということ。

 俺としても、たしかに休みたいとは思っていたが───どこをもって限界だと判断したのかを知りたい。


「・・・・・いいだろう。ナギ、案内をしてやれ」

「わかったよ」


 存外、あっさりと彼は承諾し、俺を案内するようナギに命令する。

 まるで友達を相手にする時のような返事をしたナギは、扉を開いてから振り返り、手招きしながら俺の名前を呼ぶ。


「グレイア、案内するから来て」

「・・・ああ」


 言われるままに俺は席を立ち、歩きでゆっくりと部屋を出る。


「失礼しました・・・」


 そう挨拶をして部屋から出ると、俺はナギの後ろをついて行く。


「今の時刻は午後四時。

 君の睡眠時間によっては、こちらから夕飯を準備する必要はないかな?」

「・・・時刻はあっち(地球)と一緒なんだな」


 話をずらしてしまうが、それでも気になった一言が口をついて出てくる。

 こんなものも我慢できないようでは、たしかに疲れているというのは本当なのかもしれない。

 そしてナギは、話題を逸らしてしまった俺の言葉を受け止め、答えを返してくれる。


「基本的にはあっちと一緒だと考えてもらって構わないけど、季節だとかの地理に起因するものは違うから・・・それだけ覚えておいて」

「ああ、わかった」




 〇 〇 〇




「ここ・・・かな。君の部屋は」


 体感で五分ほど歩いただろうか。

 いくつかの廊下を通り抜け、角を曲がり、階段を降りてたどり着いたのは───まるでビジネスホテルのような顔をした、シンプルな扉。


「臨時で用意させた部屋だけど、室内の設備は十分なはずだから」

「・・・ありがとう」


 歩くうちに疲労を自覚してきたのか、俺はいつもより小さくなった声で礼を言い、部屋の扉を開ける。

 すると、ナギが何かを思い出したかのように話しかけてきた。


「ああ、それと」

「・・・・・何」

「気絶してた時に君の近くに居た少女だけど、今はこちらで面倒を見てる。

 君自身とは繋がりがないだろうけど、一応報告はしておくよ」


 ・・・あの時、この体の名前を呼びながら駆け寄ってきた少女のことか。

 そんな意識外のことまで面倒を見てくれるとは、随分と親切だな。


「把握はした・・・俺は寝る」

「うん。いい夢を」


 ナギに挨拶をして扉を閉じ、靴を脱いでベッドに向かう。

 するとそこには、既に待機していたニアがおり、正座でベッドの上に座ったままこちらを向いていた。


「さてマスター、血だらけの服のまま睡眠とはいきませんから、新しい服に着替えますよ」

「・・・ああ」


 言われてから気づいた。

 そういえばそうだった。

 こんな真っ赤に染まった臭い服で、よく違和感を感じなかったものだ。


「新しい服はここに。

 オーバーサイズが一着のみですが、とくに問題はないでしょう」

「ありがとう」


 渡された服は、恐らく大人用の寝巻きか何かだと思われる。

 べつに上だけ着てしまえば大事なところは隠れるはずなので、下半身は下着だけで寝てしまうことにして、俺は着替え始めた。


「ん・・・」


 服を脱ぎ、端のあたりに脱ぎ捨てる。

 そして渡された服の上だけを着て、下はテーブルの上に置いておいた。

 俺の着替えが終わったのを確認したのか、ニアはベッドの上でお姉さん座りになり、まるで猫を誘き寄せる時のようにぽんぽんと、かなりの太さと言って差し支えない太腿を叩いている。


「創造主より、疲労には膝枕が良いと教えてもらったのですが・・・如何しましょう?」

「・・・・・じゃあ、お願い」


 少し迷ったが、甘んじて受けることにした。

 俺ごときが───なんて無駄な自己嫌悪も頭を過ぎったが、ここには良い思いをしたところで羨んでくる友人がいる訳でもない。

 慣れ親しんだ状況の上位互換だし、それはもうひどく熟睡できるだろうという期待を抱えながら、俺はベッドに上る。


「それでは───」


 俺がニアの太ももに頭を乗せると、彼女は今までの無機質で感情が希薄な声質とはうってかわり、優しいお姉さん声で囁きかけてきた。


「おやすみなさい」




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