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愛され気質な逸般人の異世界奮闘記  作者: Mat0Yashi_81
一章:正義が統べる正義の王国
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3-5:異世界らしい移動法

 高揚する気分。







 王都正門。

 はじめてここを通った時は馬車の中だったから、あまり全体を見ることはできていなかった。

 だから、改めてここを見て───思う。

 でかいと。

 めちゃめちゃでかいと。

 高さは前世で有名だった観光名所の門と同じくらいだと思われ、それに合わせて扉もクソでかい。

 この世界の常識を鑑みるに、恐らくは魔法を用いた開閉を想定しているのだろうが、それにしてもデカいし、迫力がある。

 人通りも凄いし、なんなら「馬車駅」というタクシー乗り場のようなものが存在していることも、案内用の看板を見て知った。

 とても興味があったが、今はキクさんと合流することを優先しているため、見に行くのはまた今度にするしかない。


「・・・ニア、キクさんは」

『はい。門のそばで、憲兵の隊長らしき人物と会話をしています』


 ということで、俺とティアの2人はキクさんと合流するため、徒歩で正門へと移動していた。

 流石に首都ということで、人の数も決して少なくはなく───魔力探知による互いの位置把握はできるが、離れて歩くことになるのは不安になって嫌なので、俺とティアは手を繋いで歩いている。


「・・・きみが隣に居てよかった」

「どうして?」


 ふと、ティアが噛み締めるようにそう言ったので、俺は気になって聞き返してみた。

 すると、周りに聞かれることを嫌ったのか、ティアは通信魔法で返答してくる。


『きみだけに集中していれば、沢山の人の中にいても煩くないから。

 きみが隣にいるだけで、もう頭が痛くならなくて済む』


 そういえば遮断することはできなかったな・・・と、先日に説明されたことを思い出す。

 それも踏まえると、俺のワガママで言ったことは、結果論で言えば良い事だったのか。


『なら、ずっと俺の頭の中を見てたのはそれが理由か?』

「・・・・・びっくりした」


 そう控えめに言うティア。

 その驚いたというのは、俺が唐突に通信魔法を使ったことに対してだろうか。


『うん。きみが私に頭の中を見られていることを前提に動いていることは、色々と判断材料があったから察していたけれど・・・・・』

『頭の中でイメージできたから真似してみた』

『・・・凄い。ちゃんと私だけに聞こえてると思う』


 今は暗号化だとか、その辺の技術についてはさっぱりだが───いずれ、ちゃんとした書物から学んで身につけたいと思っている。

 そうすれば、こうした秘密のコミュニケーションみたいなのが、もっと楽しくなると思うから。




 〇 〇 〇




 そして、数分が経ち。

 人混みを抜けた俺とティアは、憲兵隊の隊長らしき男の人と談笑しているキクさんの目前までやってきた。

 すると、キクさんは何らかの手段で俺に気づき、はっとしてこちらを向くと、かなり大きな声で俺の名前を呼んだ。


「グレイアくん〜!」


 キクさんと話していた男の人もこちらを向き、微笑ましそうな表情で俺たちを見つめる。

 近づきながら何故だと思ったが、そういえば今、俺とティアは手を繋いで歩いているんだった。


「なになに〜?2人して、すっごく尊い登場の仕方するじゃん〜!」

「はぐれたら困りますから。

 俺だって、見た目はまだ子供ですし」


 うだうだ理論建てて言ってはいるが、まあ、包み隠さずに言えばこれは照れ隠し。

 正直に言おうと嘘をつこうと、結果はあまりかわらないのだけど。


「2人の関係を知らなかったら、幼馴染とか姉弟とかに見えちゃうよ〜!」

「そうですか。で、こちらの方は?」


 限界化しているキクさんを冷たくあしらいつつ、俺は視線を男の人に向けた。

 格好をざっと見てみると、身につけているのは帽子に制服、胸にはバッジ、近接武器は固有武器を使用するためか、武器はスリングで肩にかけてあるフリントロック式と思しきライフルのみ。

 パッと見、よく想像する「憲兵」って感じの格好をしている。

 帽子がちょっと高めなのを見ると、なんとなく偉めの人なんだなって印象を抱いた。


「あっ、紹介しなきゃね〜。

 ほらほら、ノアくんもこっち来て〜!」

「はい、騎士団長」


 ハッキリと返事をして、こちらに近づくノアという人。

 見た感じでは25歳には届かないくらいに見えるが、日本人を基準にしてはいけないから、もっと若いと予想してみる。

 ざっと見積もって18歳弱ってところか。


「お初にお目にかかります、グレイア様。

 私は王都警備編成隊第1隊隊長、ノア・ジャスタと申します。

 以後、お見知り置きを」


 テキパキとした動作で自己紹介を終え、こちらに向き直るノア。

 流石にティアと手を繋いだまま挨拶を返すことはできないので、一旦手を離してから口を開く。


「うん、はじめまして。この前の配信は?」

「はい。僭越ながら、参考にさせて頂きました」

「そう。なら良かった」


 お世辞か事実かがわからないが、まあ、俺みたいな手合いを相手取るような職業なんだから当然か。

 ・・・と、そんなことを思っていると、キクさんが口を挟んできた。


「ホントにさあ〜・・・?

 このノアって子ね、妹ちゃんも含めて私が担当してるんだけど、本当に覚えが良くて〜。

 きみの戦う姿を見てメモとかもしてたくらいだから、実際にきみとも戦わせてあげたくて───」

「騎士団長殿」

「あ〜ん、怒んないでよ〜」


 あまりにお喋りすぎて子供に嫌われるタイプの親みたいなムーブをして、しっかりと怒られるキクさん。

 なんというか、仲がいいんだなってことがわかる。


「・・・なんか、姉弟みたいに見える」

「わかる」


 そして、追撃とばかりにティアがそんなことを口走るものだから、俺もノータイムで同意してしまった。

 これを聞いたキクさんは顔を綻ばせ、ノアは唇をきゅっとしている。

 こんな姉なんて居てたまるか・・・とでも言わんばかりの表情だ。


「でへへ〜・・・」


 先程も限界化していたし、なんだか今日のキクさんは情緒が不安定だ。

 何かあったかと聞きたい・・・のはそうなのだが、聞いたら聞いたで長くなりそうな感じがするし、俺は放置を選ぶ。


「・・・キクさん、今すぐに出発するんですか?」


 ただ、このまま崩れきったままでいられても困るので、ある程度は直った姿勢でいてもらいたい。


「ん〜? もう出発するよ〜?」


 おっと、意外とメリハリはあるようだ。

 まだ少しだけ表情が崩れているが、コミュニケーションに支障がないなら問題はないな。


「そうですか」

「あら〜。もしかして、初めての依頼をこなすのが待ちきれないの〜?」

「・・・そうです」


 違う。

 でも、初めての依頼が楽しみなのはそうだ。


「じゃあ〜・・・もう、行こっか〜?」

「そうしてくれると」


 思っきし伸びをしながらそう言うキクさんに、俺は真顔のまま返答する。

 キクさんは俺の言葉を聞くなり、ふっとノアの方を向くと、にっこりと笑ってから口を開く。


「うん〜。てことだから〜・・・ノアはいつもの仕事に戻っていいよ〜」

「・・・承知しました。それでは」

「ありがとね〜!」


 事務的な挨拶をし、どこかへと去っていくノア。

 キクさんは笑顔で手を振って彼を見送り、ちょうど彼が見えなくなったところで、こちらに向き直った。


「じゃあ、行こうか〜」


 微笑んだままでそう口にし、門の外へと歩いていくキクさん。

 俺とティアはそんな彼女の後ろをついて行き、門の外まで出ていく。


「今のうちに身体強化魔法をかけちゃってね〜」


 途中、キクさんは俺たちに対して、予め身体強化魔法を付与しておくよう言ってきた。

 普通なら、ここで俺とティアのそれぞれが身体強化を行うところなのだろうが───生憎、さっきの待ち時間で、俺たちは天才的なアイデアを思いついている。


「はい。ニア、頼んでいいか」

『了解です。マスター』


 ニアをバッファーとし、俺とティアにバフを配るやり方。

 戦闘で有利に使えそうなフォーメーションだと話していたことだが、それなら当然、こういう「複数人にバフを配る必要性がある場面」でも使えるだろうと思ったのだ。

 実際にこれが有効なら、このやり方は俺たちの手札の中に組み込まれることになる。


『───マスターとティアさんに、俊敏特化型の身体強化魔法を付与しました。

 移動用に倍率を調整したため、コントロールには気をつけてください』

「了解。助かる」


 しっかりと付与できたようだ。

 身体強化が付与された時特有の如何とも表現し難い感覚があったため、とりあえず使えそうではある。

 あとは実際に移動してみて、俺とティアがどう感じるかだ。


「・・・ふたりとも、準備は〜?」

「OKです」

「はい。できました」


 くるりと半回転し、こちらを向いてキクさん。

 準備はできたかと聞いてきたので、俺とティアは肯定し、立ち止まる。

 すると、キクさんは珍しくキリッとした顔になり、また半回転して向こう側に体を向ける。


「了解だよ〜。それじゃ、しっかり着いてきてね〜?」


 キクさんがそう言った次の瞬間、彼女の体が一瞬にしてその場から消えた───かと思えば、上空で何かを蹴るような音が聞こえ、HUDのコンパスが示す「西南西」の方向に向かって飛んでいく姿が見えた。


「・・・・・早くね?」

「言ってる場合じゃない。早く着いていかないと」

「それはそう」


 そんなことを言いながら、俺は飛び上がってから出現させたバリアを蹴り、ティアは空中で飛翔魔法を一瞬だけ使うことで加速する。


「ニア、キクさんの位置をHUDにマーク」

『了解』


 キクさんがどういう動きで目的地に向かっているかを知らないので、俺はニアに彼女の位置をHUDに表示するよう命令。

 すると3秒も経たないうちにHUDの中に新たなマークが出現し、彼女の位置を俺に教えてくれる。


『ティア、向こうに見える山を超えたら高度を下げて、地上を移動する感じだ』

『わかった。それまでは空中を移動すればいい?』

『ああ、そういう軌跡を辿ったように見える』


 通信魔法で情報共有をしつつ、俺は空中を駆ける。

 HUDの情報を見る限り、キクさんが居るのは俺たちより500メートルほど先であるらしく、無理に追いつくのはやめておいた方がいい距離だ。

 ここは大人しく、同じ軌跡を辿って目的地へ向かうことにしよう。


『・・・・・』


 そこから1分と経たずに山を越えた俺とティアは、高度を下げて移動を続ける。

 山を越える前は深い森が広がっていたが、越えた先はだだっ広い平原だったため、空中で辺りを把握しながら進む必要がない。

 たまに歩いてるデカめの牛とか羊みたいな魔物は避けつつ、地上をひたすら走るのみ。


『対象が移動を停止。目的地までもうすぐです』

「わかった。この距離なら走る必要はないな」


 制動をするのも面倒だし・・・ということで、俺は速度をそのままに飛び上がり、反転してティアの方を向く。

 そして手を伸ばし、名前を呼ぶ。


「ティア! 手ぇ取って!」


 すると、俺のやろうとしていることを察してくれたのか───ティアは俺の目の前まで瞬間移動してきて、俺の手をぎゅっと握った。

 距離はあと300。

 軽い時短になる。


「姿勢もやってくれる?」

「任せろ」


 ティアの言葉に、俺は素の感情のままに笑いかけると、そのままキクさんの位置を基準にして瞬間移動魔法を起動する。

 2人分の瞬間移動は初めてだが、姿勢制御の仕方は変わらない。

 気をつけるべき箇所があるとすれば、姿勢を変えた時に体と体がめり込まないようにするという所だけ。

 準備が出来たら魔法を起動して、転移する。

 俺がイメージした通りなら、俺は下側でティアを受け止め、ティアは仰向けで俺の上側に出現するはず。


「─────」


 転移してすぐ姿勢を確認し、調整し、上から落ちてくるティアを両腕で受け止める。


「っ・・・・・」


 高さがあるためか、両腕にずしんと重さを感じ、少し空中での姿勢制御に苦労した。

 だが、結果としては成功だ。

 転移後の姿勢もイメージ通りだったし、受け止める位置にもズレはなかった。


「どうだった?」

「・・・次からはもっと優しくしてほしい」


 なら、もっと練習を重ねる必要があるな。

 でなきゃ、下手したら俺とティアが()()()()()()することになりかねない。


「2人同時の瞬間移動、それもグレイアくんが全部やっちゃうなんてね〜。

 やっぱり、凄いとしか言いようがないかな〜」

「もっと褒めてくれてもいいんですよ」


 キクさんの賞賛に対して自画自賛をしつつ、俺は着地してティアを下ろした。

 そして軽く伸びをして、キクさんの言葉に耳を傾ける。


「褒めるのは依頼が終わってからかな〜。

 まだ私達、依頼主の人にすら会ってないしね〜」


 しっかりとお預けを食らった。

 べつに2重で褒めてくれたっていいのに。


「それじゃ、着いてきて〜?

 依頼主との会話が済んだら、私がきみ達のことを見守っていてあげるから〜」


 ニコニコしながらそう言うキクさんは、向こうの方に見える大きめの民家に目をやった。

 村から少し離れたところに着地したのだが、ここから見てもなんか、村が村している(?)感じがする。

 どう表現していいのかわからないが、すごく想像していた通りの景観だ。


「グレイア、行こう」


 キクさんが歩き出したので、ティアは俺の手を引いて歩き出す。

 はてさて、楽しみだ。

 どんな風にこなそうか、わくわくする。




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