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愛され気質な逸般人の異世界奮闘記  作者: Mat0Yashi_81
間章:ひとつの時代の終わり
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2-3:ステゴロの女王様

 必要なのは己の身ひとつ。

 そこに全てが備わっている。




 



 いくつか、私は彼女の特性について理解が及んだ部分がある。

 とくに、彼女が身につけている技術については。


「・・・うん。だいぶ見えてきたかな」


 少し準備運動をしながらサキの魔力の動きを見ていると、孤児院にいた時代に見てきた子供よりも、彼女はずっと洗練された魔力操作を身につけていることがわかった。

 その他には魔力の質、量、それから雰囲気。

 いま挙げた三つの中でどうにもならないのは量だから、他二つは適切に矯正していきたいと思っている。


「サキ。あなたは魔力量が多くない方だから、最初のうちは魔力が切れがちになるかも。

 最初の頃のグレイアもそうだったから、安心して使い切って」

「わかりました。ところでその・・・」

「グレイアにも未熟だった頃が〜って?」

「はい。ちょっと、気になってしまって」


 サキの思考にちらつくグレイアの姿は、どうにも私が見てきたような彼の過去とは合致しない、彼女の妄想で修飾されたような姿。

 期待に満ちた眼差しをしていることから、まだ彼女は他人の魔力の量や質を見定められる、または大まかに察することはできないのだとわかる。

 グレイアは自分の魔力をひけらかさないから、それもあるのかもしれないけれど───少なくとも、隠す必要はない。

 気にしているようだし、教えても構わないと判断する。


「あの人の魔力量も、あなたと同じで多いとは言えないの。

 だから最初の頃、まだ魔力操作に無駄が多かった頃は戦闘が終わった途端に寝ちゃったりとか、連戦に耐えられなかったりとか」


 とくにミコト国にて世界の奔流に巻き込まれていた頃は、相手方の物量とグレイア自身の心配性が相まって、ひとたび戦いが始まれば連戦は当たり前の環境にあった。

 彼も当時は「この国には現状、安全な場所はない」と説明していたし、戦いが続いてうんざりしている様子もあったはず。

 魔力量については、本人が気にしていないから私もあまり口には出していないけれど。


「対処法はないから、慣れていくしかない。

 それに、魔力欠乏症は無理さえしなければ軽度の症状で収まるし、少量でも補給をすれば回復は早い。

 この環境であれば、魔力欠乏症になっても咎めないから」

「むしろなった方がいい・・・?」

「とは言わない。経験は積んでほしいけど、だからといって魔力を使い切る方向性に走るのは無駄が多すぎる」


 ただし、グレイアの例は極度の例外であるということだけは、サキに教えておかなければならない。

 生き残るための最適解と言えば聞こえは良いけど、その実態は自傷行為にも近い努力の結晶だと私は解釈している。

 彼はきっと「ズルをした」とかいう苦しい言い訳をするが、私は断固としてその解釈を拒否したい。


「あの人は独学でやったけど、あなたには私がついてる。

 だからそう身構えなくても大丈夫」

「・・・ありがとうございます」


 何よりも、彼には魔法の師匠が存在しなかったのだから。

 あの正義の寵愛者が教えた概念と、本から得た一般的な知識、それからニアさんに調べてもらった知りたい分の知識。

 それだけでグレイアは、あれだけの技能を手に入れている。

 しかし一方で、彼が扱う技能が特殊だというのもまた事実。


「まず私が教えるのは、魔力の正しい纏い方。

 それと、体内に魔力を効率的に循環させる方法かな」

「はい・・・」


 教える経験は少ないけど、私とて彼の思考をただ指をくわえて眺めていたわけじゃない。

 大人しく座って勉強させることはできなくても、多少強引でも感覚を掴ませる方法は熟知している。


「説明するよりやったほうが早いから、魔力を纏ってほしい」

「わかりました」


 私の要求に頷くと、サキは目を瞑り、全身から魔力を湯気のように放出し始めた。

 全体的に変な癖はなく、澄んでいて、淡いけど色がある。

 これは恐らく、彼女が地道に努力をしてきた証。

 基礎的な魔力の鍛錬の結果は、こうした魔力の放出の際に強く現れることが多い。


「淡い青色かな。いい色をしてるね」

「・・・両親もそうだったんです。魔法が得意な家系で」

「なら有望だね。あの人が目をかけたのも頷ける」


 純粋で癖のない状態だから、知識と経験を積ませて感覚を掴ませることができれば、他には特別なことをする必要はないはず。

 そうなると、私が教えるべきなのは本当に「純粋な強さを得る」ために必要な基礎の魔力操作だけになった。

 きっと放出の感覚はすぐに掴めてしまうだろうし、時間が余るかもしれない。


「ただ・・・循環ができていないのと、魔力の纏い方が少しナチュラルすぎるかな」


 悪いことのように言ったけど、むしろ好都合なのは秘密。

 状態がゼロに近いということは、正攻法で行かせたい場所まで行かせられるということ。

 予定を調整する必要がないから、順調に進む。


「引っ込めるギリギリまで抑えられる?」

「・・・引っ込めるギリギリですか」

「そう」


 魔力を体に貼り付けるように指示すると、練度の関係上ほんの少し余白ができてしまったけど、彼女は殆ど指示通りに放出中の魔力を体のギリギリまで引き付けた状態を維持してくれた。

 ここまでできれば、あとは指示した基礎練を続けてくれれば結果は勝手についてくるはず。


「うん。それを部位ごとに、一瞬だけやるのがひとまずのゴール」

「・・・・・難しい、ですね」

「だから皆やりたがらないの」


 本人は難しいと零しているけど、私はお手本を見せてはいないし、先ず持って経験したことがないことをすんなり出来ている時点で彼女が有望株であることに変わりはない。

 むしろ才能を持っていて、グレイアに近い天才の枠組み。

 だけど、近いからこそ警告しなければならないことはある。

 私もそう呼ばれるからこそ、彼と共に生きて、経験したから。


「それができると防御と攻撃の瞬間に魔力の分だけ上乗せが効くから、魔力の節約をしながら身体強化と同じようなことができる。

 注意点があるとすれば、こういう魔力操作に関連した技術において、あの人を参考にはしないこと」


 決して、グレイアを参考にはしないこと。

 正確に言えば、彼のやり方を真似しようとしないこと。

 もし私が彼と一緒に師事をする機会があればと頭の片隅に置いておいた警告が───まさか、こんなにも早いタイミングで使うことになるとは思わなかったけど。


「えっ、ダメなんですか?」

「うん。だから私に基礎の教育を頼んでるの」


 きっと、この子はグレイアの結果を別のやり方で真似できる。

 私のように、時間をかければ正攻法で真似することもできるはず。

 だからこそ私は、敢えて彼女に警告をしたい。

 彼も同じような警告をするとは思うけど、念の為に。


「いま説明した技術も、これから説明する魔力の循環も、それから無詠唱魔法の軽量化も、補助がない状態での視界外への魔法使用も。

 これら全てを、グレイアは少しの情報と発想力、そして未知を既存の概念へと繋げられる応用力で習得してしまっている」

「・・・凄い、ですね。視界外の魔法なんて、魔法の本にも出てきませんよ」

「あの人は天才だから。とんでもない人なの」


 私は正攻法でこれらを真似して、習得できた。

 幼少の頃から持ち上げられてきた「天才」の肩書きを以て、今更こんなのを意識するとは思わなかったけど、全力で。

 けれど、これらの技術は今の彼女にとっては毒になる。

 変な癖を付けるわけにはいかないと、意見は一致している。


「さあ、続けるよ。ここからはちょっと難しくなるから」

「はい。わかりました」


 グレイアが何を教えるかはわからないけど、きっと問題はない。

 私もこれから、ちょっと面白いことをするつもりだから。




 〇 〇 〇




 それから暫くして、サキは魔力の循環の感覚を掴みつつ、移動の際に魔力を纏うタイミングを掴んできた。

 やはり予想以上のスピードで成長していて、見ていて面白い。


「自由に動けるようになったね」

「はい!」


 となると、私がやりたいこともできるようになった。

 立場上まだ実践できていないことを、教育という名目で試すことができる。


「じゃあ、試してみようか」

「えっ?」


 サキの困惑をよそに、私は地面から二つの土塊の塊を制御して、料理用の包丁よりも少し短い刃をふたつ作った。

 これはグレイアが得意とする戦法で、恐らくは最初の頃、まだ魔法を学んで一度も戦闘をしたことが無かった時から構想していた、自分だけじゃない何かを使って一人で複数人分の攻撃をする戦法。

 転生したての頃、グレイアは魔法実技試験を受けた際に、手を傷つけて流れた血を「血液操(ブラッディ・)作魔法(コントロール)」で分割して針状にし、それらを「物体飛(オブジェクト)翔魔法(・エアライド)」で的に命中させ、命中した血液を目印に爆発魔法を行使していた。

 今では何も無い空間から牽制用のビームをノールックで照射する彼だけど、元々のコンセプトはこの頃から変わっていないはず。


「この小さな刃の切っ先からは魔力が放出される。

 当たっても怪我はしないけど、不快な程度の熱さは感じるかも」


 だから私は、地面の土を「成分操(エレメント・)作魔法(コントロール)」で押し固めて刃にして、それらを「物体飛(オブジェクト)翔魔法(・エアライド)」で飛翔させ、その切っ先からビームを放つやり方で真似しようと考えた。

 これ自体はフェアリアに来た頃に「ひとりで複数人」の戦い方を───正確には「片手間にできる省エネな妨害の仕方」を模索していたグレイアが提示した案の真似事。

 探知は疎かになるけど、今回は問題ない。


「じゃあ、これを頑張って避けてね」

「えっ!?」


 とりあえず不意打ちで一発、サキは飛び上がって回避しつつ、後ろの土塊を振り向いて確認したところで正面から来ていた土塊のビームがヒット、顔を顰めて地面に着地。

 上から撃ち落とすように狙ったところで斜め方向に飛びながら土塊を視界に捉えたので、二方向から撃ち下ろすように射線を通すと、肩のあたりを軸にしてサキは逆立ちのような姿勢に変化。

 それを横方向から挟み込むように射線を通したところ、次は体を反らせて回避、上下から挟み込むように通すと大きく移動して、逃げ道を塞ぐように通すと回転しながら回避運動。


「・・・くぅっ」


 初めてなのに良い動きだと関心しながら、今度は速度を上げて斜めから射線を通すと同時に照射、回避運動を待たずに次を読んで照射すると、少し腕に掠ったようで顔を顰めるサキ。

 照射したビームが掠った痛みで思考が鈍ったようで、次に通した射線、その次に通した上下を挟むような射線はどちらも動きを大きくして回避。

 求める結果が得られなくなったので、今度はアプローチを変えてみようと私は判断した。

 片方の土塊を操作から解放して、少し待つ。

 ひとつの射線に彼女が違和感を覚え始めたタイミングで、私は仕掛けてみる。


「そこ」

「っ!?」


 回避に集中して力が入り切っていない脚を掴み、投げる。

 不意打ちながらも着地して顔を挙げた刹那、私の瞬間移動にも迫る高速移動によって、サキの目の前には私の拳がひとつ。

 すぐに魔力を操作して防御姿勢を取った彼女だったけど、流石に土壇場での安定した魔力操作はまだ身についていない。

 勢いを殺しきれずに滑る彼女の腕には、濃くて青いシミがじんわりと広がっていた。


「・・・〜っ」

「少しやりすぎたかな。ごめんね」


 近寄って回復魔法をかけながら、軽い謝罪。

 しかし、サキは私の言葉など気にも留めず、今の「結果」に深く興味を示しているようだった。

 目を見開き、どこでもない場所を見つめて。

 ただ、納得はできていない。


「まだ・・・上手くできませんでした」

「うん。でも、こればかりは経験だから」


 つくづく、彼が好きになる要素しかないなと思った。

 自分に似た、自分にはない可能性を持った存在として───この子はとても、彼にとっての「希望」になっている。


「焦らないようにするためにも、鎮痛魔法はなし。

 これはどれだけピンチでもそうだから、覚えておいて」


 たった一年前のことだけど、昔の彼を見ているようで面白い。

 彼の場合は、こういった事柄に自分でたどり着いていたけれど。


「痛みを増幅する自己証明とかでも・・・ですか?」

「例外はない。相手の能力が割れていない環境下においては、鎮痛魔法を使うことを想定して、相手側が何か別の手を仕掛けていたとしたら・・・私達はもう詰みで、打つ手はなくなる」


 出自を考えれば、私達で彼女に知識を教えておかないといけないのは必然なのだから、そう悲観するべきことでもない。

 守るために強者であろうとした転生者の彼と、復讐のために人生を使ってきた王族の私が、ただの村娘だった彼女と発想が異なるのは仕方のないこと。


「・・・・・生き残るため、ですか」

「集中を乱さないため。少なくとも私はね・・・」


 すっかり私も、彼女の成長が楽しみに思えてきた。

 最近は全力で戦える機会も減ってきたし、サキを学園に送り出して、色々と国際情勢が安定してきたら・・・・・


「・・・ティア様?」

「うん。大丈夫」


 今度は、西部大陸群に行っているのも悪くはないのかも。

 彼のためにも、盲目の聖女に会いに行きたいから。


「今日はここまでにしよう。

 少ししたら、リーレにお茶を用意させる」

「いいんですか?」

「あの人は外に出てるみたいだから、ね。

 メイド長は口が堅いから大丈夫」


 グレイアは甘いものが好きだから、お菓子はちょっとだけ残しておくけど。

 あとは、サキの服が汚れちゃったから換えを用意しないと。


「・・・じゃあ、先にお風呂に入っちゃって。

 ソフィあたりに世話をさせるから、浴場で待っててね」

「一人で入れますよ・・・・・」

「いいの。ただでさえ仕事少ないんだから」


 とりあえず、彼女の進捗に問題は見当たらない。

 基本はできるようになり始めているから、ここから地道に続けていけば順調に進んでいくはず。

 学園に入るまで、どれくらい成長するか。

 楽しみに思っている。




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