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愛され気質な逸般人の異世界奮闘記  作者: Mat0Yashi_81
間章:ひとつの時代の終わり
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2-2:積み重ね

 強くなるための遠回り。

 スタンドアロンというのは難しいもので。




 



「てことで、魔法学校に通ってみないか」


 朝方の平野部にて、魔法の鍛錬をしていたサキを捕まえてパッと説明を済ませ、そう提案してみた俺。

 めっちゃ端的に済ませて、事の経緯と諸々の事項を伝えた後に提案してみたのだが、どうにもサキの表情は芳しくない。

 自主練の邪魔をされたからか、そもそも少し不機嫌ぎみ。


「・・・今のどこに、私が魔法学校に通う要素があったんですか?」

「取引ってところ? なんか良さげなタイミングみたいだし」


 ちょうど一ヶ月後にレコール魔法学園・・・端折って魔法学校の長期休みが終わるから、そのタイミングで入学させたら丁度いいなあと思い、こんな提案をしているわけだ。

 しかし思いつきで行動した挙句、説明の順序を根本からミスったことで説得は難航。

 やらかしたなあと思いつつ、どうやってサキをその気にさせようか悩んでいたところ、俺の背後からぬるっとティアの気配が乗っかってきた。


「きみはいつも急すぎる。

 もっと細かく説明してあげたら?」

「陛下・・・」

「おはよう、サキ。精が出るね」


 あれ以降ずっと魔法の鍛錬ばかりしているからか、わりかしサキへの評価が上がりつつあるティア。

 前は「きみが拾ってきた孤児」程度の認識だったのに、今や体裁なんて無視してもいい場面でも笑顔で話しかける始末である。

 と、こんなことを考えていたらデコピンされた。

 相変わらず実力行使に躊躇がない。


「大方、きみのお節介が暴走したんでしょ?

 断られたらまた別の手を、なんて。この子の意見も聞かないで」

「悪かったって。楽しそうな話題だったからつい・・・」


 図星をつかれて何も言えなくなるが、べつにティアが相手ならそれでいい気もする。

 こういう場面で俺にはできない誘導の仕方ができるのがティアの強みであるわけだから、興味を持っていて、育てようと思ってくれたのなら俺は何も言うことはない。


「サキ」

「はい・・・」

「強くなりたい?」


 ティアの得意分野は人の気持ちを引き出すことにある。

 理論と利益で一方的に引っ張ることしかできない俺と違い、相手が欲しいと思っている言葉や情報を、的確に差し出せる能力と話術。

 こういう場面においては、やっぱり俺じゃない方がいい。


「・・・わかりません。でも、魔法は好きです」

「そう。強くなりたいわけじゃないんだ」


 距離を詰め、少しかがんで目線を合わせてみせるティア。

 迷っているだけで萎縮していないおかげで話しやすくはあるし、頭の出来はきっと俺より随分と良いかも。


「・・・・・強い、っていうのが分からないんです」


 少ない語彙で絞り出したような言葉に、俺は自分の心臓がひとつ、僅かに強い鼓動を走らせたのを感じた。

 この少女の言葉に、筆舌に尽くし難い感情を。

 僅かなノスタルジーに似た感傷を、抱いたのかもしれない。


「言葉に・・・しづらいんですけど」


 十四歳の子供がこんなことを言うのだ。

 言葉にしづらいなどと、それだけで十分なのに。

 それだけで、お前の葛藤は十二分に理解できるというのに。


「・・・二人って、強いんですよね?」

「うん」

「もちろん」


 揺るぎない答え、不安にさせてはならないと理性が警鐘する。

 しかし、俺の矜恃は誠実に振る舞えと背中を引っぱたく。

 次に来る質問はきっと、予測ができるものだ。

 どちらを優先するかは当然、決まっている。


「強かったら、失いませんか?」

「・・・場合によるかな」

「断言はできない」


 その「強さ」を持っているからこそ発してみせた言葉に、彼女は唇を噛み締め、俯いた。

 ティアは屈むのをやめて、自然体に。

 俺は自分の誠実さを優先したが、いや、違う。

 これで、この回答に間違いはなかったのだ。


「・・・・・怖いんです。失うことが」


 サキをここまで連れてきてみせると、俺は自分で決めた。

 その通りに行動して、責任を果たしてみせると、そのために必要なことを成して、道を示す。

 だけど、乗り越えたとはいえ苦しかった過去を掘り起こすのは、決していい気分とは言えない。


「・・・わかる。だから俺めっちゃ頑張ったもん」

「私に相談もせず、ね。武装中立だなんて馬鹿げたことを」

「毎度それ言うのやめてくんね?」

「やだ」


 無意識のうちに崩れてしまった口調に便乗するように、ティアがこれでいいかと言わんばかりに傷口をえぐってくる。

 躓いた俺へのサポートと、あとはシンプルに釘を刺すため。

 忘れるんじゃないぞと、さもなくば真正面から殴り倒される。


「グレイア様でも、怖かった時があるんですか」

「・・・あるし、今もそう。いつだって失うのは怖い」

「それについては私だって同じ。怖いものだよ、これは」


 半神にまで至ったというのに情けないことだが、俺が俺である以上はもはや向き合うことしかできない恐怖なのだ。

 しかし、恐怖と向き合っているからこそ見えてくる光があるというのもまた事実であって。


「だから正直な話、失うことが怖いって言うなら話は簡単」

「・・・そうなんですか?」


 今まさにサキがそういった迷いや葛藤を抱いているのだとすれば、俺が提示できるのは、隣に立っているティア含め、生きたサンプルとして吸収すべき情報を提供すること。

 貪欲になれと言ったのだから、これくらいしてもらわなければ。


「ここまで来ればいい。来れるだけのポテンシャルは保証する」


 何より、サキには初対面で殺意ゴリゴリだった俺に対して刃を向け続ける程度の気骨がある。

 そして魔法に対するモチベーションもばっちり。

 自己証明も有用で、俺と同じことができるかもしれない。

 何を取っても強くなれる要素しかないのだ。


「・・・・・二人くらい強くなれ、と」

「そう。早い話をすればその通りでしかない」


 全ての情報を精査して、分析して、対話をして。

 俺はこの四ヶ月弱の期間で、初対面でサキに抱いた評価を疑ったことは一度もなかった。


「・・・できますか、私は」

「ここで一歩を踏み出せるならな」


 だからこそ、俺は賭けようと思えたのだ。

 神から解放されたこの世界で初めて出会った偶然に。

 なんの確率も、操作もない、純粋無垢な可能性の原石に。


「・・・・・わかりました」


 静かに顔を上げ、俺達に視線を向けながら放った一言。

 関心を向ける俺たちに対して、サキは言葉を続ける。


「挑戦したいです。だから、手伝ってください」

「っは・・・」


 思わず笑みがこぼれてしまった。

 決意表明までは想定していたが、まさか堂々と「手伝え」と宣言してしまうだなんて、これっぽっちも想定していなかった。


「そう。言えて偉い」

「もちろん。手伝ってやるよ」


 ティアは女王で、俺はその伴侶。

 そんな二人に対して、ただの村娘が「手伝え」と言ってのけてしまったのだから、こちらとしては応えてやる他ないだろう。


「入学するまでは俺が手ずから育ててやる。覚悟しろよ?」


 俺もティアも、これ以上ないくらいに乗り気なのだ。

 満足いく結果になるよう、励まなくては。




 〇 〇 〇




 その日の午後、俺とティアは早速サキを鍛え始めることにして、色々と情報を叩き込み始めた。

 魔法の基礎はわりとできているし、ニアに頼んで調べたところ、魔法学校の入試は今のサキなら余裕でパスできそうだからその辺は追々で構わないと判断。

 当分は魔法というより戦い方の基礎に専念する。


「端的に言えば、魔力操作の練習と並行して筋トレをしろって話」

「・・・筋肉の?」

「そう。トレーニング」

「なんで・・・?」


 そのための第一歩、というより前提条件は「魔法を使わなくても一定以上の戦闘能力が確保されていること」なのだが、なんでこれが必要なのかと言われた時に具体的な説明はしにくい。

 何故なら、本来であれば魔法さえ使えれば生身での戦闘能力なんて評価されないうえ、こういう戦い方をしている人間がそもそも少ないから。


「なんでって言われるとな・・・」

「いいよ。私が説明する」


 なので、こういう時は近接戦闘に精通している人間であるティアの方が説明訳としては適任になる。

 趣味全開な俺とは違って、生き残るために全力を尽くして調べあげた人間なのだから、言葉の重みだって違う。


「肉体の強化が必要なのは、世間一般で使われる魔法を用いた戦闘は、決して伸び代がある戦い方だとは言えないから」


 ここで言う「世間一般」というのは、今までの俺では戦う機会がなかった層のことで、俗に言う「トレース魔法」というのを用いて戦う一般層のことを指す。

 本当に一般人、とくに対人戦なんて滅多にやらない層が取る戦法であるがゆえに、俺は今まで相対したことがない。


「脳内の動きをなぞったり、魔力で体を動かしたり。

 相手や肉体のコンディションに影響されることなく戦うことはできるけど、少しでも失敗すれば関節が変な方向に曲がったりするし、何よりも状況に対する対応力に欠ける」


 まあ、恐らくは試したことがあるのだろう。

 俺は趣味じゃないからやらなかっただけで、動くことが苦手であったり空間認識能力が欠如していたり、あとは自分で動くことが怖い人達にとっては有用な手段になっているはず。

 対人戦さえしなければ、その欠点に気づくこともない。

 あとは鎮痛系についても言及しておかないとダメか。


「・・・そのための脳内麻薬だったりするんだけどな」

「だからこそ禁止にしてる」

「俺はそもそも趣味に合わないし・・・」


 鎮痛系の手段、一般層でよく用いられるのは脳に付与するタイプの脳内麻薬型鎮痛魔法になるが、これはあまり好きじゃない。

 テンションが上がったりする効果もあるし、確かに戦いが好きじゃなかったりするタイプの人間には刺さるのかもしれないが、俺みたいなテンションが上がると逆にパフォーマンスが下がるタイプの人間にとっては相性が最悪。

 とはいえ、俺とティアはそもそも鎮痛系全般が好きじゃないため、使用するという選択肢は最初から存在しない。

 俺の場合は自己証明のオマケで感覚遮断が使えるが、それだって使いたくないから戦闘時は縛っているし。


「・・・・・痛い思いをしないといけないんですね」

「強いってのはそういうことだと、俺は思ってる。

 素の感知機能があるのなら、それに従うのがコスパいいし」


 俺達が鎮痛系を縛るのは、趣味が混ざりつつも大部分は「感覚が消えると回避や防御が難しくなるから」というのがある。

 とくに相手の懐に入りに行きたい俺とか、最近は俺が管理者になった影響で常時自動回避じゃなくなったティアなんかは、痛みというセンサーが消えると戦闘時の知覚能力の大部分を失ったかのような感覚に陥ってしまう。

 例えるなら、音がない状態でアクションゲームやシューティングゲームをやるようなもの。

 それでも戦えなくはないが、戦いにくいのは確実。

 しかも鎮痛系は往々にして「魔法」なので、余計に脳のリソースを食われるのもいただけない。


「素の魔力操作と放出だけで戦えるなら上々だろ」


 探知系はどうしても魔法を使わなければならないが、運動系は普通に瞬間的な出力が可能だったりする。

 もちろん身体強化魔法と探知魔法を併用することはできないが、素の魔力操作を応用して「殴る時はこう」「蹴る時はこう」みたいに瞬発力だけを上げることは十分にできるし、防御も同じ。

 だから魔力操作による倍率上げだけじゃなく、素の肉体の強化による基礎の強化も大切なのだ。


「それに、この人は例外だけど、私の場合は手伝えるから」


 あとはシンプルに、その分野はティアが強いというのがある。

 自己証明に頼っている俺とは違って、ティアの運動能力だったり筋力だったりは素の鍛錬によるもの。


「例外?」

「自己証明、あるでしょ。

 この人の自己証明、筋トレいらないの」


 どストレートに言われてしまったが、本当にその通り。

 戦い方こそ自前で拵えたものではあるものの、身体の作りや動かし方については借り物というか貰い物。

 知識を代償にして肉体を変質させる能力、だなんて言っても必要とする知識はすぐに調べがつくわけだし、あまり褒められたものではない。

 だがしかし、そんな褒められたものではない自己証明の効果は、サキが持っている自己証明でも真似ができる可能性がある。


「その点、お前の自己証明も使えるはずだ。

 筋トレの時に魔力を使うのは禁止だけど、自己証明なら使ったって構わないだろうし・・・」

「うん、大丈夫。練習にもなるから」


 サキが持つ自己証明は平たく言えば「血液の操作」なので、操作の仕方によっては疲労しない身体になったり、運動の力の底上げが見込める。

 血液を武器にしたりするよりも実用的で負担が少ない。

 強いて言えば血管にかかる負荷だが、そういうのは回復魔法でどうとでもなる。

 あとはそれらを踏まえ、ひとまずのゴール地点を設定すること。


「魔法学校に通うなら、卒業した後には最低限・・」

「身体強化をしてない時の俺を倒せるか、だな」

「・・・そう、だね。近接戦闘で私はちょっと荷が重いかも」


 たぶん四年後くらいにはなるものの、その頃には身体強化をしていない俺、つまり一般人くらいの肉体強度の俺に勝てるようになれれば上々かなと言った具合になっている。

 流石に自動回避が任意になったとはいえ、ゴリゴリの肉体派であるティアと戦わせるのは四年後じゃあ早いだろう。


「・・・・・えっ?」

「ん?」


 ふと、サキが間抜けな声を上げた。

 心当たりはひとつあるものの、一応耳を傾けてみる。


「グレイア様の方が強いんじゃ・・・」

「いや? 近接戦闘に限ってはティアの方が上だぞ」


 当然のように答えたものの、まあ、気持ちは凄くわかる。

 普通に考えて女王と王配だし、女王のほうが近接戦闘が上手で王配の方が魔法が上手だとは思わない。

 とくにサキの場合、俺との初対面は俺が近接戦闘で山賊をボコボコにしているシチュエーションだったから、とくに顕著だろう。

 仕方のない思い込み、というか罠に等しい。


「・・・努力が必要ない、とか」

「それは保持と変化が簡単ってだけだ。

 ぶっちゃけた話、俺は自分が思った通りに身体を動かせるだけ」


 正直に言えば、俺から見てティアの戦い方は相性が悪い。

 何故なら、最適解を求めて動いたり、過程をすっ飛ばしたりする俺の動きは、大抵ティアの想定にハマってしまうから。

 魔法で補助しないと捕まってボコボコにされてしまう。

 魔法を使わなかった場合、関節の類はきっと開始数分でバッキバキになる。


「対して私は、できる限りの武術を修めている」

「だから魔法縛ったら俺の方が弱いんだよ」


 その点、ティアが複雑な魔法を好まない性格で助かったなと思っている。

 これで空間認識能力が必要な魔法まで得意だったら、その時は俺の立つ瀬がなくなってしまう。


「・・・それで基礎が大切だって発想に?」

「半分はそう。もう半分はまあ、今は知らなくてもいいや」


 もう半分はガッツリ百パーセントの趣味。

 知らなくていいと言ったのは、たぶんサキの教育にノイズが入ってしまうから。


「じゃあ、そろそろ始めるか。

 ちょうど暇な時期だし、暫くは付きっきりになれるぜ」

「私は別の分野で。この人にはできないことを教えようかな」

「・・・・・お手柔らかにお願いします」


 ちょっとビビってはいるが、モチベーションは良さげ。

 楽しいレッスンになりそうだ。




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