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愛され気質な逸般人の異世界奮闘記  作者: Mat0Yashi_81
間章:ひとつの時代の終わり
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2-1:筋を通して

 受け入れる意思があるか。

 幸い、信用は勝ち取れる。




 



 ヴィレンス連邦での一件から一か月ほどが経過した。

 今日から数えて二週間前、ナギは俺を仲介して「虚無の荘厳を見上げる会」から人手を拝借し、そこから三日ほどで簡易的な開拓班を組織しつつ土地の開拓と整理を続けている。

 曰く、しっかりとした土台が出来上がるまでは民間組織やナギを慕う組織に依頼はしないとのことで、俺としてはそれ以上は何も聞かなかったものの、あいつの性格からして色々と配慮をしてくれているように思う。

 先の内戦で天涯孤独になったサキについても、本人の意向とナギへの要請によって、村があった土地に内戦終結の慰霊碑を建築したことで話は落ち着いている。

 これについては首都でたまたま知り合ったアリーナの協力もあり、ヴィレンス連邦とナギ個人を主軸にした啓発活動としても声を響かせることに成功したようだった。

 ナギはこの件でサキに謝罪をしていたが、本人としては気にしていない様子。

 むしろ蔑ろにされず、誠実に対応してくれて感謝しているとすら述べた。

 その発言が気がかりで調査をしてみれば、彼女は齢十四───つまり、この世界の成人にも満たない子供である。

 悲劇が成長させたか、にしては出来すぎた子供だ。


「これ、よろしく」

「あいよー」


 カウンターにカゴごと商品を持って行って、声をかける。

 店主はすぐに商品をレジに通すと、商品に付与された魔力に即した値段がレジのモニタに淡々と表示されていき、値段が少しずつ積み上がっていく。

 それから十秒と少しが経つと店主は商品をレジに通し終わり、カゴをカウンターの奥に置きながら、店主側にあったトレーを俺の方に持ってきた。


「グレイア様、今日は非番ですかい?」

「平和だからな。仕事が少ない」


 何気ない問いかけに答えつつ、モニタに表示された金額と同額のカルをトレーの上に置く。

 店主はトレーごと手に取り、レジの中に放り込んでテンキーに何かを打ち込みながら、再び質問を投げかけてくる。


「最近はスパーリングしてないみたいですが・・・」

「それは・・・味変がてら外でやってるからだな、たぶん。

 それとも、頻度が減って惜しむ声でも出たか?」


 レシートを断りながら質問に答え、問いを返す。

 商品は浮遊魔法でぱっと収納魔法の中に放り込んでおく。


「・・・・・少なくとも、うちの女房はぽろっと零してましたな。

 アレがあると曜日が分かりやすかったとかなんとか」

「あー・・・そういう」


 ストレス発散と腕が鈍るのを防止するため、俺とティアは定期的に身体強化を縛った殴り合いをしていたのだが、どうやら配慮の必要がないからと派手にやりすぎたらしい。

 この店一帯はフェアリアのわりと端の方にあるから、あまり気にかけてはいなかったが。


「・・・まあ、必要そうなら確認しておくか」


 もし需要がありそうなら、別枠で何かを用意しておこう。

 労力をかける必要がなさそうなら保留ということで。


「ありがとう。また来る」

「へい。今後ともどうぞご贔屓に」


 とはいえ、お世辞を言われた可能性も否めない。

 この店にはわりと最初の方・・・王配になってから一ヶ月した辺りから通ってはいるが、べつに関係性としては国民と王配だし。

 気を使われているような気はする。


「・・・・・どっちでもいいか」


 まあ、どちらにせよ需要は確認する。

 それに、ここに来るのは人との触れ合いが目的じゃない。


「・・・」


 店から出て道を跨ぎ、路地に入り、道なりに抜けて正面へ。

 世界中と中央の市街地がある一帯から見て十時方向くらいにあるこの場所は、わざわざ小さめの展望台が設置されているくらい、景色がとても良い。

 フェアリアは巨大樹の森に囲まれた巨大なクレーターの中に位置した国だから、こういう場所から見る世界樹と市街地は、他では見られない趣というか・・・なんか、良さげな感じがある。

 さっき買ったブロック型の携帯食料を取り出して齧りつつ、鼻歌混じりに街を見下ろす。

 世界樹というファンタジーな物体の周りにカクカクとした背の高い建物が連なり、魔力と喧騒がそれらを包む。

 商業施設や民間人のための居住施設なんかはカクカクとしたエレベーターやエスカレーター付きの建物なのに、権力を誇示するための屋敷はしっかりと西洋の雰囲気を漂わせているところが、俺はいつも面白いと思っている。

 魔力を使えばさっきのレジみたいに色々なことができるから、そうなるのも当然なのかもしれないけど。


「・・・・・ん」


 三口目を齧ろうとした時、ふと魔力の波動を感じた。

 知り合い、というか部下の魔力───それも、誰かを探している。

 魔力の雰囲気と放射状の使い方からして、確実に探知魔法だ。


「・・・オルディか」


 質と絶妙なニュアンスから誰かを割り出し、今日のスケジュールをなんとなく思い出してみると気がついた。

 ティアは俺と反対方向の区域に出かけていて、ニアはグリムと一緒に国境警備隊の訓練をしている。

 つまり現状、ある程度の権力を持った人間が王宮にはいない。

 そりゃ探すわけだ。

 なら仕方がない。


「だれ探してんの」

「殿下・・・」


 瞬間移動で目の前に現れてみると、オルディはあからさまに怪訝な顔をして近寄ってきた。

 割と街中で探していることから、探し始めて───もしくは何らかの事象が起こってから、そう時間は経っていないのかも。


「どこに行ってたんですか」

「秘密。でも、ちょうど手が空いた」


 三口目を齧りながら、俺は暗に任せろと告げた。

 幸いにも彼は、俺が時折見せる無茶に晒されている身。

 こういう時にどうしたら一番早いのかは、そろそろ分かり合えてきた頃合いだと思う。


「・・・共和国からの使者だと名乗る集団が国境に」

「言い分は?」

「筋を通すため・・・と」

「ふうん」


 そもそもフェアリアは国の立場と在り方の都合上、外交官に相当する役職が存在しない。

 だからこういう時はトップが直に出張る他はないのだが、しかしまあ言い分が「筋を通すため」なんて疑ってくれと言っているようなものだろうに。

 いくら今まで転生者のお陰で外交が意味をなしていなかったからといって、やり方というものがあるだろう。


「人数は」

「目視できたのは三人、魔力探知による推定で二人が目視圏外に」

「乗り物の中?」

「はい。四輪車の中かと」


 武装した人員か、もしくは単に運転手か。

 飛行機じゃないのはこちら側を刺激しないためだろうし、にしたってフェアリアと接触するためには必然的にヴィレンス連邦の土地を踏まないといけないし。

 というか、そもそも俺やティアも「もう少ししたら調査しよう」くらいの意識で、あまり共和国のことは頭に入れていなかった。

 つまり、接触してみないことにはわからない。


「・・・概ね把握した。そしたら俺が出る」

「陛下への連絡は?」

「すぐに。返答は追って連絡しろ」


 定期的に動向は確認していたし、こちら側に攻撃を仕掛けてくる道理も何も見当たらない。

 流石にあれだけ連邦の前身がボコボコにされてるのを見て刃を抜くとは思えないから、本当に「筋を通すため」なのか、他に何か腹黒いことでも考えているのか。


「あいつなら、俺がすることを察してくれる」

「承知しました」


 とりあえず俺が出て、必要そうなら呼ぶ。

 どうせ俺が初手で行くことなんて想定内だろうし、判断は独断、報告と整理は後からでも構わない。






 ───── 二節:静かに覗く新時代






「殿下」

「お疲れ様です、殿下」


 整列して深々と頭を下げる国境警備隊に対して、俺は身振りで下がれと命令しつつ、国境となっている森の出口に立った。

 目の前には三人の要人、時代と雰囲気に似つかわしくない四輪の自動車には映りこんだ影からして二人、魔力探知は使わない。

 視線を向けると三人の要人は恭しく頭を下げ、膝をつく。

 国境警備隊が俺から距離をとったことを確認しつつ、服はとりあえずそのままで、頭を垂れさせたままなのも可哀想だしで簡単な質問を飛ばしてみる。


「所属と目的を述べろ。端的にな」


 仕事をしていたわけじゃないから正式な服ではないが、まあ国境警備隊のお陰で立場ははっきりしてるし、問題はないと思っていい。

 あとはこの三人、共和国の要人達が俺に対してどんな台詞を用意していたか、もしくは即興でどんなことを口にするか。

 真ん中の要人が顔を下げたまま、静かに答える。


「セルシア共和国、外務大臣のジュリアン・ルフェーヴルと申します。

 此度は、弊国が総力を挙げて設立いたしましたレコール魔法学園にて、ぜひ貴国の知見を賜りたく・・・臨時講師としてお力添えをいただきたく存じ、参上いたしました」


 このやり取りだけで全てを理解した。

 しかし、俺は対応をするために出てきたのだから、個人の嫌悪感によって対応を変えるべきではない。

 変えるべきではないが、かといっていつも通りの対応をしたらしたで塩対応に見える気がする。

 まあ、俺の方が立場は上だし、気にするだけ野暮なのかもしれないけど。


「・・・・・事情は把握した。頭を上げろ」


 形式ばったのが好きそうなので座っててもらって立場を明確にしながら、俺は視線を向けて三人の様子を伺う。

 脇の二人は真ん中の外交官の部下か、少し若い。

 真ん中の外交官は中年にはギリ行かないくらいの年齢に見える。


「・・・講師として誰か寄越せと?」

「はい。無論、単なるお願いに留めるつもりはございません」


 向こうさんの用件は、端的に言えば「魔法学校に臨時講師ちょうだい」というシンプルなもの。

 なんで初手でうちの国に来たのかがわからないくらいシンプル。

 ただし、頼む相手がうちの国になると話はシンプルじゃない。


「申し訳ないが、ここフェアリアには役割がある。

 先の内乱の件は例外だし、そう易々と技術を広めるのは難しい」


 このフェアリアという国は、世界樹という名の絶対的なブランドと威厳を抱えている。

 世界中からの「神秘」の羨望を一身に受け止め、聳え立つ。

 もちろん、それを抱える国が世界樹の威厳とブランドを毀損する要因になるなんてことは有り得てはならないのだが、問題はまさにそこにあるのだ。

 正直な話をすれば、べつにエルフの魔法技術が飛び抜けてすごいとか、そういうことはない。

 とくに戦闘分野においての知識は微妙。

 なんてったって平和に自給自足するための技術ばかりだから、とんでもない圧縮率の畑とかは作れても、街ひとつを少量の魔力で消し飛ばす技術なんかは持っていない。

 確かに食料という観点で見れば作物系の古代魔法は凄まじい有用性を誇るが、そんなものを世に出せば貿易という概念が死ぬ。


「・・・・・ただ、協力できる可能性はある。

 その場合、講師として出るのは俺ってことになるが」

「ごもっともでございます。

 技術の秘匿こそが国家の安寧の要であること、新参者の我々とて重々承知しております」


 そして何より、フェアリアは「神秘」でなくてはならない。

 魔法学校に技術を伝えるという行為は、その内容がどんなに有用であれ、神秘的であれ、フェアリアや世界樹のイメージを民間人の理解の範疇に近づけてしまう要因になる。

 イメージを下げることはなくとも、それは致命的。

 言うなれば浪漫の塊なのだから、理解が及んではならない。


「その上で、ご自身が教壇に立つという、最大限の譲歩をいただけましたこと。

 弊国にとりまして、これ以上の光栄はございません」


 とんでもない持ち上げ方をされたが、俺としてはあまり素直に頷けないというか、それでいいのかという気持ち。

 共和国側としては「フェアリアから協力を得られた」という名目さえ立てば構わない、といった具合なんだろうが、こうなると実質的に転生者の技術を広めることになる気がする。

 技術というより考え方、と言った方が正しいけど。

 そもそもフェアリアじゃなくてよくないかとも思うし。


「とはいえ、最終決定権は俺にはない。

 部下によれば、筋を通すために来たらしいが。その実は?」


 個人的に気になったので、予防線を引きつつ質問してみる。

 よく考えてみると、オルディから伝えられた目的と本人から聞いた目的が異なっているような気がしたのだ。

 めっちゃ突き刺すような質問で申し訳ないなとは思ったものの、元はと言えば身から出た錆だし、ちゃんと答えてくれるといいなあと思いつつ視線を向ける。


「左様でございます。

 建前を抜きに申し上げれば、今の国際情勢において弊国が最も優先すべきは、歴史的観点からも貴国以外には有り得ないという結論に至ったからです」


 歴史的観点とはまあ、良い落とし所を見つけたものだ。

 俺ですら知らない、というか転生者が出てくる以前のことなんて遠い昔過ぎて調べたこともないし、指摘しにくいところを利用してくる。

 となると、こっちから避けられなさそうなことを要求しても、常識的な範囲内なら構わなさそうな気がしてきた。

 さっき「ただのお願いにはしない」って言っていたし、多少の要求くらいなら飲んでくれるだろう。


「そう。こちからから条件を提示しても構わないか?」

「はい。できる限りの対応を約束いたします」


 こっちは濁してるって言うのに一方的な宣言だなんて、随分とまあ誠実というか、真っ直ぐというか。

 だからといって馬鹿正直に言質を掴ませはしないが、手ぶらで帰らせるのも癪なので希望は見せておく。

 板挟みになってて大変だろうし、せめてもの手土産だ。


「・・・把握した。これらは女王とともに協議し、対応する」

「感謝いたします」


 相手国の王配が初見の説明で前向きな姿勢を示した、というだけで外交官としては最大限の収穫と言っていいはず。

 何より連邦政府のようなガッチガチに警戒した対応じゃなく、ちゃんと目の前まで来て誠意を示してくれたわけで。

 共和国としても、そこそこの賭けをして、彼らに利益を期待しているはず。


「フォル」

「はい、ここに」

「あとは任せる」

「承知しました。殿下」


 敵対するつもりがないのなら、減るもんじゃないし与えておく。

 俺やティアとしては、自分達のフットワークの軽さが役に立つのだからちょうど良い機会だろう。

 もしかしたら、サキが興味を持つかもしれないし。

 どうせ拾ったのだから、彼女の意思に賭けてみるのも悪くはない。




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