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愛され気質な逸般人の異世界奮闘記  作者: Mat0Yashi_81
三章:災禍を滅ぼす虚無の躍進
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4-6:元となるカタチ

 基本は引き出しを開けて、取り出して、組み立てて。

 今度はアイデアを書き出して、くっつけて、新しいカタチに。




 



 何かを作りたい時、俺は真っ先に骨組みを作る。

 誰からかは忘れたけど、そう学んだはず。

 だから今回も同じように、しかし今までとは違って、ほんの少しだけ鮮明に組み立てる。

 その理由は、今の俺が作ろうとしているのは、単なる創作物じゃなくて命を預かる技術だから。

 中途半端な状態で肉付けの作業にGOしてしまった場合、後でミスや変更したい点を見つけたら面倒なことになるうえ、変更したらしたで芋づる式に噛み合わなくなった点が出てくる可能性だってある。

 俺はそれを避けたい。

 だから少し鮮明に骨組みを作る。


「一応聞くけど、実戦経験は?」

「あります」

「詳しく」


 ということで、世間話がてら経歴を聞いてみることにした。

 これからのことを考えれば、実戦経験の有無は過程のスムーズさに強い影響をもたらす。


「帝国の憲兵隊に五年、南部諸島群の北西部にて剣闘士を一年弱、西部大陸群にて冒険者を三年強です」

「把握した。となると、経験はかなり豊富な方か」

「はい。割合で言えば対人の方が豊富ではあります」

「なるほどね・・・」


 なんのために経験を積んだのかは聞かないでおきつつ、俺は考える。

 基礎の基礎、技術の集合体として───すべての行動の起点になり得る選択について。


「・・・じゃあ、それを踏まえて聞こう。

 お前は人とサシで戦う時、まず何がしたい?」

「足元、行動範囲の阻害です」

「俺と同じか」


 意見を聞いて相槌を打った俺は、何もない方向に的となる分身を召喚して剣を構え、いつも通りに魔力を充填してから軽く振ってみる。

 そうすると、剣の軌跡のままに放たれた飛ぶ斬撃が殆ど速着弾な速度で分身に直撃し、ダメージをくらった分身は霧散して消失していく。


「これは俺が比較的よく使う手だ。

 始まった瞬間にこいつを放つか、爆破魔法で取り囲む」

「読まれる可能性は?」

「俺は考慮して撃ってるが、初心者はそうはいかない」


 多少の問答の後、空気を固めて棒を作ったオルディは空中に棒をかざすと、棒全体に魔力を纏わせてひと呼吸。

 ビジョンが見えたのか、次の瞬間、綺麗な太刀筋で一閃。

 空気を割くような音が聞こえた後、地面が少し割れた。


「・・・一応、私にも真似はできます。

 威力は調整・・・というか、出力と発生速度の兼ね合いですね」

「出力はさておき、見た目は派手な方向で調整するつもりだ。

 実戦での目的と大衆にウケそうな要素が噛み合ってるわけだし」


 用済みになった棒を握り潰したオルディと多少の意見交換をしつつ、魔力を刃に纏わせて維持したままでいると、オルディの視線が俺の顔から刃の方へと移る。

 なんだろうと思いながら言葉を待つと、再び俺の方へと視線を戻したオルディが疑問げに口を開く。


「殿下はこれを・・・」

「基本の型にしたい。

 こいつを起点に、他の技に繋げられるようなものだ」


 飛び道具が基本というのも変な話だが、まあ本質が技術の集合体なので目を瞑る。

 ブランドを剣術として売り出すとしても、俺がやりたいのは「俺の戦い方を理解しやすく、使いやすいように落とし込むこと」なのだから、これで間違っていない。

 しかし、オルディの視線が先程から俺の目と剣を行き来しているのが気になる。


「・・・・・となると」

「うん?」


 と思えば、なんだか唐突に口を開き、言葉を探す。

 何を言いたいのだろうと待っていると、暫くしてからもう一度、オルディは言葉を続ける。


「防御と兼用してみるのはどうでしょう?

 魔法で防御しながら、攻撃用の魔力も兼ねて・・・というふうに」

「・・・なるほど」


 刃に魔力を纏わせたままなのを見て思いついたか、淡々とした態度で良さげな提案をしてくるオルディ。

 そんな提案を聴いてから、俺は魔力を纏わせたままの刃を構え、斜めにして防御の体制を取ってみると───存外、しっくり合うような気がした。

 飛ぶ斬撃を放つのに多少の遅延は出てしまうが、恐らく、初心者にとって「攻撃の準備をしながら防御もできる」というのは良いアドバンテージになるだろう。

 初っ端からガンガン突っ込む俺でも流石にわかる。

 落ち着けるという事実そのものが良いものだ。


「・・・・・防御姿勢で構えて、他の型に繋げるか」

「そうなると、他の型の自由度が課題なのでは?」

「そいつは問題ない」


 他の型は元より「戦いの補助」としての立ち位置として設計するつもりでいる。

 詳細をオルディに話すのはそれぞれの型を設計する時だが、元々のコンセプトが明確なので、そこは揺らがないだろう。

 基本を自由に使い、他の「補助」へと繋げる。

 また、独立させた「補助」から「基本」に繋げることも、また別の「専門性のある技」に繋げることもできる構造。

 俺はそういうのを求めているのだ。


「元より俺の戦い方を落とし込むことが目的だ。

 役割を明確にしつつ、手段にも結論にもできること。

 それが、今の俺が求めるカタチなんだからな」


 とはいえ、オルディに口頭で全て説明する訳にもいかない。

 だからここは我慢して、突出した課題の時に要点をかいつまんで、適切な説明をする必要がある。

 忘れるなよ、俺。

 思考を見れる能力持ちなティアが特別なだけで、本来、人というのは多数の情報を一気に理解できるわけじゃないんだからな。




 〇 〇 〇




 そんなこんなで続けること二時間くらい。

 だいたい形になってきたなあと思ったタイミングで、オルディが休憩中の俺の肩をトントンと叩いた。


「殿下、ひとつ質問が」

「うん?」


 振り返って反応すると、オルディ目を合わせ、言葉を選ぶ。

 目の動きで悩んでいるのはわかるが、もうちょっと気楽でもいいのになと思う反面───威厳だって大事だから、みすみす「肩の力を抜いて」なんて言えないのももどかしい。

 まあ、変に緊張されてないだけ良いんだけど。


「剣術というのは、基本的に『奥義』が付き物です。

 剣術の形態そのものの顔にもなり得ますし・・・」

「俺がこの剣術における『奥義』をどうしたいかってこと?」

「はい」


 言葉の途中でモヤっとしたので、食い気味に言ってみると嫌な顔ひとつせず肯定された。

 正直なのか、隠すのが上手いのか・・・

 経験豊富っぽいし、たぶん後者だろうけど。


「・・・まあ、元よりコンセプトそのものが異質だから。

 その点についてはこう・・・・・なんというか」


 色々と考えつつ、俺も説明をしようと試みる。

 奥義という存在がぶっちゃけ邪魔なのは黙るとして、その奥義の代替となる存在をどうするか。

 思いつきではあるが、問題はない。


「・・・・・やった方が早いか」


 しかし、口で説明するのは無理だった。

 アレコレ言おうとしても、元があまりにもシンプルすぎる。


「少し離れますね」

「そうしてもらって・・・」


 ということで剣を取り出し、ちょっと空中に浮いてわりかし本気めな魔力量を刃に込めると───俺はそのまま、くるっと回転しながら直下の地面に向けて斬撃を放つ。

 爆発音かと聞き違うほどの音が響き、土煙が舞う中に着地した俺は、地面に走った亀裂に目を向ける。


「───五、六メートル。こんなもんかね」


 縦幅は三十センチもなく、横幅は十メートルに届くかといった具合で、深さはおおよそ五メートル強。

 範囲を絞って真下の近距離に撃ってこれだから、たぶん真横に長い距離で範囲を絞らずに今と同じ勢いで放ったら───それこそ、魔物なんて一網打尽だろう。

 威力を絞らずに撃った場合は、きっと山くらいなら中腹より上を切り取れると思う。


「出力の調整による威力および範囲の増大ですか?」

「そ。パッと見で『奥義』としては地味だけど、使い方としては順当なとこかなと思って」


 だが、やってる事と言えばオルディの言った通り。

 単に出力をノリで弄って派手に威力を高くするけだけだ。


「・・・手段にも結論にもなる、ですか」

「そう。その通り」


 オルディが強みを分析した通り、これは何にでも使える。

 その「何にでも使える」という事実こそが強みであり、言わば「どんな媒体でも、どんな状況でも、どんな相手にも使える」といった具合なのだ。

 レイピアだろうが槍だろうがなんだろうが、魔力を込めることさえできれば使うことができる技術。

 そして、誰を相手にしても有効打になり得る。

 ブラフにするもよし、誘導に使うもよし、決め打ちに使うもよし。


「ぶっちゃけた話、こいつはお前が最初に抱いたイメージの通り、技術の集合体としての側面が強い。

 あとは俺の技術を落とし込むという目的がある以上、最も使う可能性のある『基本』は、俺の精神の具現そのものとなるわけで」

「人の精神性というと、固有武器の特性ですが・・・」

「俺の場合はこういうカンジ」


 説明がてら、俺は固有武器を元の黒い結晶の状態に戻してから、いつもの短剣にする様子をオルディに見せてみた。

 するとオルディは頷き、顎に手を当てて思考する。

 まじまじと俺の短剣を見て、ひたすらに考えて。


「・・・・・理解しました。そういうことですか」

「千変万化。こいつは俺が武器と定義するモノに限り、この世に存在するありとあらゆる物体に変化することが可能だ」


 いつもは速攻で決まった武器にしてしまうが、本来の強みはガントレットや槍を即興で「壊れない武器として作れる」という点。

 固有武器の強みを活かしたまま、相手に押し付けられる所だ。

 まあ、そんなのはどうだっていい。

 暇神様が設計したと言っていたのは自己証明とこの体と名前の無い能力だったから、たぶん素の精神性だったりするだろう。

 よしんば違うかったとしても、何ら問題はない。


「基本を忠実に、基本で応用も、決着もできるように。

 込める魔法だって自由で、悪さは幾らでも効く」


 相手にとって嫌なことをしつつ、勝利の条件を達成する。

 そのためにできる「悪さ」の選択肢は多ければ多いほど良いが、設計をするうえで、ひとつ気をつけるべきことがあると俺は思う。


「・・・だからこそ、ある程度は型にしておく必要があると」

「Exactly。何もわかんないのに自由でも困るしな」


 これは短時間とはいえ、俺が最初に悩んだことだ。

 自由にやれ、何をしてもいい。

 それだけで目的を見繕えなんて、とんだネグレクトだろう。

 きっかけとなる要素くらいは作っておくべきだ。


「どうだ? 何か、こいつで悪さをするビジョンは浮かんだか?」


 とりあえず、オルディは優秀だから問題はない。

 たぶん、取っ掛りがなくたって思いつくだろう。


「・・・・・はい。幾つか、試してみたいことが」


 少し悩んで言葉を選び、剣を取り出すオルディ。

 まだ基本しかできていないが、そのひとつでどれだけやれるか。

 テスターの志願者は、どうにもやる気がある。

 とても喜ばしいことだ。




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