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愛され気質な逸般人の異世界奮闘記  作者: Mat0Yashi_81
一章:正義が統べる正義の王国
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2-2:初戦

 基本の理解と、ミスの許容。

 それこそが最高のシチュエーション。







『役立つかはわかりませんが、念の為に2人の会話を盗聴して繋いでおきます。状況の把握に役立ててください』

「わかった。ありがとう」


 ・・・なるほど。

 情報面でのサポートをしてくれるのか。

 この調子なら敵の位置把握とかもしてほしいが、今は自力でやることにこだわっている。

 知識を貰った事実は仕方がないと考え、俺一人でできる限り手助けをされずに戦う。

 状況適応能力の向上を図る・・・なんてご大層な建前はもとより、シンプルな、今持っている力だけで戦ったらどれだけ楽しいのかを知ってみたい。


身体強化・敏捷特化(アジリティ)


 当たらなければどうということはないの精神で、俺は敏捷性に特化した身体強化魔法を体に付与する。

 この辺りの基本的な魔法は、この体が覚えていてくれていたから活用出来ているものだ。

 もうこの世には居ないのだとしても、この体の主には感謝しなければならないな。


「千変万化───短剣」


 武器については大雑把に決めた、とりあえずのもの。

 妙に手に馴染む気がするのはさておき、こんなもので目の前の長剣を携えた騎士っぽい人形を相手にできるかと言われれば───ぶっちゃけ怪しい。

 しかし、こっちにはナギとキクさんサポート・・・もといコンティニューのようなものがあるため、何とかなるだろうと考えている。

 安全な環境でリトライがし放題ということは、同時に、俺が前世で掲げていたセオリーが使えるということでもある。

 基本ができているなら、難易度は高い方がいい。

 意欲や伸びしろがあるのなら、尚更そうだ。


「・・・」


 左手に持っていた石を構え、投げる。

 この体のお陰か、はたまた先程の資料のおかげかはわからないが、俺の投げた石は綺麗な放物線を描いて人形の胴体に直撃した。

 すると機械の起動音のような音が鳴り響き、人形がガクンと振動したかと思えば、色々な場所を光らせてこちらを補足したかのように体を動かしだす。


『・・・敵個体の魔力が動きました。来ます。構えてください』

「ああ・・・」


 構えろと言われても、そういう武術をやってきたわけでもないので構え方なんぞ知るわけがない。

 とりあえず刃を相手に向け、半身にして立っているが、果たしてどんな感じに───


「───っあぶね!」


 唐突な突進に続く下段からの一閃。

 悠長なことを考えている暇なんてない。

 瞬きをした一瞬の間に距離を詰められ、危うく上半身を斜めにぶった切られるところだった。


『近接戦闘は悪手だと判断します。今すぐに後方へ退避を』


 ニアのいう通りに後方へ跳び、地面を滑りながら着地狩りを警戒しつつ半身になって迎撃の構え。

 体を自由に動かせるようになったことに加え、相手が視界内に収まる範囲内で攻撃をしてくれているため、普通に攻撃を避けることはできる。

 だが、少しでも判断を間違えれば首を飛ばされかねない。


「〜〜〜ッ!」


 一瞬の接近、視界の外からの刃の雨。

 なんとか反射神経だけで受け止め、弾くことはできても、俺は剣術なんて一切わからない。

 ガチンガチンと刃が打ち付けられる度、かかる力が十分に逃せない度に、俺の腕に凄まじい衝撃が伝わってくる。


「くそったれ!」


 大抵こういう時はゴリ押しの理論で踏み込めば何とかなる───という浅はかな思考のもと、俺は身長差を利用して刃を下段から上へ目掛け振り抜き、一直線に切り上げる。

 相手がAIか何かであるとするなら、その超反応で防御に転じてもおかしくは無いと思ったのだ。


「!」


 結果は大当たり。

 イイ感じの一撃が入ったようで、人形には一本の切り傷が刻まれた。

 恐らくラッキーパンチだろうが、それは問題じゃない。


『・・・いいね』

『その調子〜』


 いい感じに自己肯定感も上がってきたものの、素人がハイになっている状態でこれ以上攻めるのはとてもリスキー。

 そのため、ここはニアの指示に従って後退すべきだという判断をした。


短距離瞬間移動魔法(ブリンク)


 視界から逆算して広さをなんとなく想像した後、人形の体勢が崩れていた隙を見て、イイ感じの距離の場所に転移。

 左手に近接戦闘用の魔法を準備しつつ、相手の動向に目を光らせる。

 しかし、ここで俺はひとつの勘違いをしていることに気がついた。


烈炎操槍(えんれつそうそう)


 人形の周囲に浮かぶ大量の炎の槍を見て、俺は冷や汗が止まらない。

 見た目は騎士の格好をしているものだから、俺はてっきり近接戦闘に特化した人形だと思い込んでいたのだ。

 よくよく考えれば、ナギの言葉からもそのヒントはあったが───俺は間抜けなことに、まったく気づくことが出来なかった。


『大量の熱源反応。着弾時に燃え広がるタイプの魔法だと推測します。

 安全のため、距離をとっての回避を───』


 でも、ここで引いたら面白くない。

 死にゲーよろしくの精神でやると心に決めたのだから、この程度で怖気付いては癪に障る。

 それに、単に瞬間移動魔法だけで距離を詰めるのも面白くない。

 これはゲームじゃあるまいし、単調な戦闘で初見攻略を目指すなものでもないのだから。


『飛び上がった? 何を・・・』


 強くなりたいなら、即興での創意工夫を可能な限りこなしていくべきだ。

 引きながら戦うという、よく言えば堅実、悪く言えばつまらない戦術は最低限。

 片っ端からリスクを取っていくつもりで行く。


「フィクス・バリア」


 空中で姿勢を調整し、ちょうど力が入りそうな姿勢になったところで、俺は足の裏にぴたりとくっつくようにバリアを展開した。

 それから、相手の魔法が起動し、攻撃が飛んでくるその瞬間を見計らい───全力でバリアを蹴る。

 瞬間的に加速したことで、目指すは相手にできるだけ近い範囲内。

 奴の背後に瞬間移動をするためのイメージをさらに確実に、俺の視界に映る構図の正確性を、さらに上昇させるために。


「千変万化───」


 あとはタイミングを見計らって、相手の視界から見て、俺と攻撃のシルエットが被ったタイミングで瞬間移動魔法を発動する。

 あらかじめ転移する位置を決めておけば、少しの間は視界から外しても問題がない───という事実に気がついた瞬間の俺を、これ以上ないほど素晴らしい天才だと褒めてやりたいところだ。


「刀」


 そして俺は手に持っている短剣を、丁度いい大きさの刀に変化させ、人形の首元目掛けて刃を振り抜こうとした。


 ───ガキン


 しかしまあ、物事はそんなに上手くはいかないもので。

 俺の刃は物の見事に奴の武器にぶち当たり、軽々と受け流されてしまう。


「ちいっ・・・」


 舌打ちをしたのも束の間、次の一瞬のうちに俺の腹にはクソ硬い質感の脚によるクソ重い蹴りが炸裂していた。


「また蹴りかッ・・・」


 おもっくそ痛い・・・どころの話じゃないが、問題はそこではないので冷静になりつつ、姿勢を整えて着地する。

 蹴られてから着地するまでの間で人形を見失ってしまったものの、焦るとまずいので、落ち着きながら周囲を見回す。


『敵個体、上です!』

「───っ!」


 ニアの報告の通り、人形は俺の頭上から迫っており、俺の脳天をかち割ろうと刃を振り下ろしてきていた。

 俺は急いで刀を頭上に持ってきて、少し角度をつけつつ両手で思いっきり支える。

 ぶっちゃけ固有武器のことはよく分かっていないので、壊れなかったらいいなあ・・・なんてことを思って無謀な賭けに出たのだが、どうやら賭けには勝ったらしい。


『マスター、追撃を』


 ぐらり、と人形が体勢を崩したタイミングで、ニアが脳内で俺を導かんと声を出す。

 その指示の通りに俺が刃を振ろうとすると、人形はひらりと身をかわした。

 悪役ならここで「ちょこまかと」なんて言ったりしそうなものだが、何を呑気なことを考えている暇はない。


「ああクソっ───」


 そして今度はカウンターをくらい、持っている刀を弾き飛ばされてしまった。

 ついでに姿勢も後ろへ仰け反った状態になってしまい、もはや絶体絶命。

 瞬間移動魔法で避ければいい話なのだが、俺にはまだ試してみたいことがあった。

 最適な判断を無視して、俺はその場に踏みとどまる。

 もちろん、人形はこれ見よがしに刃を高く掲げ、力任せに振り下ろさんという構えをとったが、その余裕が今はありがたい。


『僕が行くから、君はここで───』


 ナギは俺がまずい状況だと判断し、動こうとしてくれているようだ。

 しかし、俺はまだ終わるつもりは無い。

 ベタなセリフだが・・・まだ、これからなのだ。

 その上、相手自らがおあつらえ向きの瞬間をわざわざ用意してくれると言うのだから、失敗するわけにもいかない。

 人形のくせに機械的にトドメを刺すことを知らない、一丁前に立てたその鼻っ柱をへし折ってやる。


「───ストーム・・・プロテクション!」


 俺がそう叫んだ次の瞬間、体の中心から薄い灰色の淡い光が漏れだしたかと思えば、その光は白い雷を纏い、爆発的な輝きを見せた。

 爆発の範囲は、だいたい半径十五メートル。

 その範囲内の魔力はすべてジャミングされ、人体の魔力操作はもちろん攻撃魔法などもすべてかき消される。


「っは・・・」


 無論、俺の至近距離で余裕ぶっこいていた人形はその光の直撃をくらい、体内の魔力制御が滅茶苦茶になっているはず。

 俺はその隙を突くため、再度固有武器を───今回は短剣を呼び出し、逆手持ちをして刃を人形の首目掛けて振り抜く。


『直撃を確認、効いています。マスター』


 刃は目標から少しずれ、首元の鎖骨のあたりに突き刺さったが、特段問題は無い。

 そして俺はニアの報告と同時に、周辺に霧を発生させる魔法を使用する。


「デンス・フォグ」


 魔法の名前を唱え、濃い霧が人形を中心に発生したのと同じくらいのタイミングで、目の前の人形が蹴りを俺の腹に再びぶち込もうとしていたため、瞬間移動を使用して後方に回避。

 目視でこちらを認識されないように───という意図をもって展開した霧の魔法がしっかりと仕事をしていることを確認した俺は、爆発型の攻撃魔法を両手を突き出して展開しつつ発動する。


爆裂魔法(エクスプロージョン)


 短く詠唱をした後に発射され、1秒と経たずに着弾した魔法は、展開しておいた霧もろとも魔力操作に手こずっている人形を吹っ飛ばした。


『体内魔力、残り五十パーセント』


 魔力量が少なくなったという警告を聞き流しつつ、俺は目の前の敵を凝視する。

 爆裂魔法で吹っ飛ばした人形は、どうやら壁に背中を叩きつけられ、かなり破損したらしい。

 光っている箇所が先程とは違って赤くなっているうえ、その光もなんだかチカチカと点滅を繰り返している。


「・・・もう少しか」


 しかし、油断は禁物だ。

 敵方は明らかなピンチだが、余裕が無いということは中身がAIだとしても、それ相応にパワーアップしている可能性があるということ。

 ゲーム脳の患者が考えることではあるものの、気をつけるにこしたことはないだろう。


身体強化・俊敏特化(アジリティ)


 念の為に身体強化魔法をかけ直し、敵の行動に備える。

 次の手は幾つか考えているが、どれを選択するかは相手の行動によるうえ、そもそも戦闘慣れしていないため───今は仕方なく、消極的になるしかない。

 我ながら不本意だが、今はそれが最善なはず。


『敵個体、魔力回路が再起動したようです。間もなく行動を・・・』


 ニアの報告と同時に人形が立ち上がり───すぐさま剣を構え、俺を串刺しにせんと地面を蹴った。


『来ます。構えてください』

「千変万化、ガントレット───」


 人形の突撃に合わせ、俺は固有武器を呼び出してガントレット(籠手)に変質させる。

 思考ルーチンに砂でも詰まったか、馬鹿みたいに一直線に突撃してきた相手に対し、俺も馬鹿正直にカウンターをお見舞いしてやることにした。

 突き出してきた刃を拳で弾き飛ばし、そのがら空きの土手っ腹に手のひらを押し付けて俺は叫ぶ。


爆裂魔法(エクスプロージョン)ッ!」


 俺の手のひらと人形の腹の間からカッと光が漏れた次の瞬間、俺の右手もろとも巻き込んだ爆発が、満身創痍で武器も弾き飛ばされた、丸腰の人形の腹を襲った。

 わりかし小規模な爆発だったため、固有武器のガントレットで保護していた右手は無事だったが───相手の人形は、体のど真ん中にモロで爆裂魔法の直撃を食らったことになる。


「っは・・・」


 痛いのが怖くてチキってしまったものの、どうやら威力は足りていたらしく───人形は体のあちこちで点灯していたライトの輝きを失いながら、ゆっくりと地面に倒れ伏した。


『・・・敵個体、魔力反応の消失を確認』


 今までは感情が希薄だなと思っていたニアの声が、心做しか安心したような声色になっているな・・・と思ったところで、俺の体にどっと疲れが襲ってきた。

 俺はその場で情けなく尻もちをつき、固有武器をしまいながら乱れた呼吸を整えようと頑張る。


「はーっ・・・・・はーっ・・・・・」


 体を動かしている間は辛くなかったのだが、体が急に止まったのもあってか、普通より酷く辛いような気がする。

 感覚としては持久走の後の息切れのような、不快な血の味がするあの息切れ。


『・・・倒しちゃった』

『すごいねー。

 グレイアくんにとってはよっぽど、その資料とやらが凄かったのかなー?』


 ニアが盗聴した音声を共有してくれている。

 どうやら、あのズルを抜きにしても、俺はわりと凄いことをしたらしい。

 まあ、俺個人としても楽しかったし、とても良い運動だった気がするから満足だな。


「グレイア! 大丈夫? 怪我はない?」

「・・・ティア」


 ずーっと心配してくれていたのだろう。

 ティアが俺のもとへ駆け寄ってきて、息切れしている俺の背中をさすってくれた。

 心做しか楽になったような気もするし、そろそろニアも頭の中から出てきてほしいなと思ったその時───俺の頭の中に入ってきた時と同じようなエフェクトを出しながら、ニアが俺の目の前に降り立った。


「ニア、お前の───」

「動かないでください。

 今のマスターは肋骨を二本、内蔵を少し損傷しています」

「・・・まじ?」

「マジです。治療されるまでは動かないように」


 まあ、あれだけ強く蹴られれば当然か。

 むしろ、初めて戦闘をした結果の被害がこれだけなら上々だ。


「私が治癒する。痛いかもしれないけど、動くともっと痛いから動かないで」

「・・・わかった」


 驚いた。

 そんな軽々しく治癒魔法なんて使えるものなのか。


「・・・私はちょっとだけ魔法が得意。

 君には及ばないかもしれないけど」


 ティアは俺の思考を読み、答えを返してくれた。

 俺の記憶が正しければ、彼女は近接戦闘も強いはすだ。

 そのうえ魔法も得意となると、もう素晴らしい戦闘センスの持ち主というわけだな。


「冗談を。そもそも、俺と使う魔法のジャンルが一緒とは限らないだろ?」

「・・・ありがとう」


 本当にな。

 軽々しく治癒魔法なんか使っておいてよく言う。

 ・・・・・それにしても、今の俺が置かれている状況は随分と───色んな意味で贅沢すぎる気がするな。




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