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愛され気質な逸般人の異世界奮闘記  作者: Mat0Yashi_81
三章:災禍を滅ぼす虚無の躍進
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2-8:親睦を深めて

 だんだんと馴染んでいく。




 



 服を受け取り、最後にそれぞれのアクセサリを手渡しされた後、俺達はニアとグリムがどこにいるのかと歩いて探し回っていた。

 腕を組み、あれやこれやと話しながらてくてく街の中を歩いては、二人が行きそうなところを手当たり次第に訪問してみる。

 建物の中に入る度に尋常じゃなく驚く人達を見て、内心で面白いなあと思いながら歩き続けること三十分弱。

 近くで戦闘の音がし始めたので、そこに向かおうと決めたのがちょうど今。

 魔力の反応からしてグリムがその場所にいると思われる。


「人がかなり集まってるな」

「皆からしたら新参者だろうしね。

 ニアさんもグリムも、私達と同じように注目の的だから」


 そんなことを話しながら、俺達は道を逸れて街を抜け、ちょっとした平地に出つつ足を進めていく。

 土地の関係上、仮に音と魔力が集まる場所に二人がいなかったとしても───クレーターのようになっている斜面から見てみれば、魔力探知で居場所が掴めるのではという算段だ。

 たぶん、そんなことする必要ないだろうけど。


「うん? アレじゃね?」

「あっ、グリム」


 キョロキョロと見回し、おおよそ左手奥の方。

 割と登ったあたりの場所で、グリムと誰かが戦っている。

 見たところ、ニアの姿はないようだ。


「ニアさんは・・・」

「グリムの中だろ。たぶん」

「そっか」


 一緒に戦っていないということは、ほとんどの場合頭の中でサポートに回っているのがニアという女。

 状況判断に振り切ったあいつのことだ、ただ戦闘のサポートをしているわけではないだろう。

 大方、フェアリアの人達と交流するついでにグリムを鍛えていたりするのだ。

 もしくは、グリム自身がそうしたいと言ったのか。

 まあ、これについてはどっちでもいい。


「・・・・・この辺がギリか」


 立ち止まり、観察してみる。

 遠目から見るとわからなかったが、やはりグリムはニアの固有武器を使いながら戦っているようだ。

 そして相手は・・・女性で金髪で長髪のエルフ。

 特徴で言ったらあまりにもありふれていて困るが、固有武器がレイピアで特徴的な赤い結晶の耳飾りをしていることから、お洒落に気を使っている女子かなあと思ったり。

 服装はラフ、胸がでかいくせにノースリーブかつノーブラっぽいので、少年諸君が性癖を破壊されていそうな気がしないでもない。


「ほぼ透明なブラ、あるよ」

「マジで?」

「うん。私は着けたことないけど」


 いやでも、それはそれで性癖は破壊されるだろう。

 しかも人型形態のグリムを相手に互角・・・というか若干押しているし、かなりの実力者なのは間違いない。

 フェアリア国民の戦闘能力のアベレージはわからないが、たぶん上位の方だろうな。


「・・・グリム、さあ」

「グリムがどうした?」


 そんなふうに俺が下らない感想を垂れ流していると、ティアはグリムの思考を見たようで、ちょっと嬉しそうな表情をしている。

 ということはつまり、あの戦い方はグリムがやりたいと言い出したんだな。


「うん。ニアさんの固有武器、十本が目標らしいよ」

「へえ。十本ね」

「今は六本に挑戦中だって」


 ニアの固有武器は魔法で操作するものではないが、操作の仕方は魔法の発動方法に酷似しているため、攻撃魔法を並列思考して扱うためのトレーニングをするには最適な武器だ。

 それも「自分で戦いながら思考で武器も操る」という芸当をするとなると、この世界の実力を基準にすれば血の滲むような努力を必要とするわけだが───そこは流石のグリム、初手で高出力のビーム系魔法をぶちかましていただけはある。

 想像力の才能が申し分ないのなら、あとは俺と同じだ。

 戦いながら並列思考のトレーニングをして、それに慣れること。


「ただな・・・」

「うん。相手との相性が悪いかも。

 ニアさんの固有武器は近接主体の相手との相性が悪いから・・・」


 だが、グリムはそれを自覚している可能性もある。

 思考の表面しか分からない以上、グリム深層心理は現状把握できないが、今のあいつはきっと理解しているはず。

 よしんば、理解していなければニアが言うはずだ。


「・・・敢えてってこと?」

「チョロっと言ったんだよな。

 難しい方からやっていくと楽だって・・・・・」


 基本さえ理解していれば、あとは難易度が高い方からやっていけば勝手に実力は身についていく、というのが俺の持論。

 とはいえ、これは「リスクなしに何度でもやり直せる」といった状況によって限り使える手であるわけだが、今のグリムの状況はそれと合致している。

 むしろ、ニアが意図して利用した可能性すらあるかもしれない。

 転生直後のあたりで、俺がその持論の通りに成長したのはニアも見ていた事実だから。


「ある意味、きみに似てるかもね」

「精神性は違うけどな。あいつは純粋すぎる」

「私の読みが正しければ、きみにもそんな時期があったんじゃない?」

「・・・どうだか。あったとして、とっくに記憶の彼方だね」


 全力で図星を突かれながら、俺はグリムの方を見る。

 ティアに抱かれた腕が、強く締まる。

 それについては後で聞かせるから今はやめて欲しい。

 思考で墓穴を掘ったのは俺だけど。

 今は違うからやめて。


「・・・・・グリムのやつ、益々強くなってんだよ」

「知ってる。昨日きみと戦ってた成果じゃない?」

「ああ・・・それか」


 グリムは子供っぽい精神性ゆえか、学習からの応用が異様に早い。

 昨日の俺との戦闘において、グリムは地面から針を出す攻撃を単なる障害物や面制圧、または伸縮による刺突攻撃の用途として用いていたが、それでは無駄なリソースを使ってしまうという事実を学んだようだ。

 このエルフの女性との戦いにおいて、グリムはその針の攻撃の目的を「地面または低空域にいる相手の回避方向を制限する」ための手段として用いている。

 要するに、直接的な攻撃手段としてではなく、自分の間合いに誘い込むための間接的な攻撃手段として用いているのだ。

 学習と応用があまりにも早く、また、昨日の俺はグリムに対して何の解説もしていない。

 だとすると、ニアが何か吹き込んだのか?

 それとも、完全に自分で学んだのか?


「・・・私は後者だと思う」

「根拠は?」

「私達の関係に口を出してこないから」

「・・・・・確かに。あいつは何か、大人だな」

「そう。今のニアさんは、私達を包んで見ているみたい」


 概ね理解できる。

 ニアの思考はよく分からないが、俺達を成長させようとしてくれているという気持ちはなんとなく伝わってくるから。

 初期の人間味が薄いニアが嘘みたいだとすら思う。

 まあ最初から底知れない存在ではあったが。

 実際、今も暇神様と繋がっている気すらしている。


「有難いことだな。本当に・・・」


 とはいえ、これはガチで本心。

 色々と成長できた(主観)とはいえ、俺達は未熟である。

 上位の存在だろうとなんだろうと、いざと言う時のためのセーフティーネットとして機能してくれる人が居るのは非常に有難い。


「うん。昨日もそうだし、ニアさんには・・・っ?」

「ん? どした」


 話途中で口を噤んだので何事かと思い、死角となっているティアの身体の向こう側を覗き込んでみると、なんとそこには一人の男の子が立っている。

 いかにもヤンチャそうで鼻にテープみたいなものを貼っている男の子は、俺達と目が合うなり、ぱあっと生意気かつ嬉しそうな笑顔を浮かべて後ろを向き、叫ぶ。


「リゼルーッ! やっぱそうだぜェーッ!!!」


 うわすっごいクソガキ、なんて思っていると、彼が向いている方向から走ってくる一人の少女。

 彼によればリゼルという少女であるようだ。


「待って・・・待ってよお・・・・・」

「やっば言ったろ!? 王女様だってば!」


 彼はもう本当に無邪気すぎて眩しいくらいな素振りではしゃぎまくっていると、俺の顔を見て表情を険しくしたかと思えば、唐突に俺に向かって指をさしながら叫ぶ。


「じゃあ待って、お前は!? 隣の男の人は?」


 人に指をさすなとツッコミたい衝動を抑え、それは俺の仕事じゃないと口を噤もうと試みるが、我慢できないこともある。

 とはいえ、横柄な態度で印象を悪くすると大変なので、まあ、頑張って応対しよう。


「お前とは失敬な。我こそは王女サマの婚約者たるぞ」

「ええマジ!? 俺らと一緒じゃん!!!」

「キーノ・・・やめてってば・・・・・」


 キーノ、ようやく名前を聞けた。

 色々と聞きたいことはあるが、とりあえず子供らしい態度や諸々の目的を含め、基本的なところから質問をする。


「キーノにリゼル?

 二人は何しに来たのさ」

「えっ? 王女様に会いに来た!

 みんな見るばっかで確かめないから!!!」


 まあうるさい。

 好奇心旺盛かつ元気いっぱいでとてもすばらしいが、可能なら声のトーンをちょっと落として欲しいところ。

 言ったら聞いてくれるか?


「・・・ちょっと声のトーン落とそうか」

「わかった!」


 若干小さくなった。

 生意気なクソガキではないらしい。

 よかった、話が通じる子供で。


「キーノくん?」

「はい!!!」

「わざわざ会いに来てくれてありがとう。

 せっかくだし、私と彼が質問に答えてあげる」

「え、マジで!?」


 すると、なんとなく傍観していたティアが優しく対応を始めた。

 俺も答えるのか、なんて思っていると、二人は可愛らしくも顔を見合わせながらちょこちょこ動いている。


「え、え、リゼル、何聞く?」

「・・・えっと」


 可愛いなあと思いつつ待つこと数秒。

 リゼルは控えめな感じで口を開く。


「・・・・・魔力の色、とか?」

「じゃあ俺、王女様と婚約者さんの強さがいい!

 王様とどっちが強いの!?」


 対するキーノは素晴らしく男の子をしている。

 何歳かはわからないが、見た目で言うと小学校中学年くらいか?

 体力から何から真っ盛りな年頃だろうし、そりゃあもう強さなんて知りたいだろうなあという気持ち。


「魔力の色は・・・ほら、こんな感じかな?」

「すっげ! キレーだぜリゼル!」


 ティアが魔力を手に纏わせて差し出したので、俺も合わせて差し出してみると、キーノは派手に喜び、リゼルは控えめに俺達の魔力の色をじっと見つめた。


「強さはまあ、俺じゃ王様には勝てないかなあ」

「二人なら勝てるかもね。一緒に戦えば」

「マジで!?」


 続く「強さ」については、俺が正直に答えると、ティアはそれを補完するように妄想を駆り立てるようなことを言ってのける。

 めちゃめちゃ嬉しそうなキーノを見て、ティアはかなりの笑顔。

 少年の笑顔は健康に良いなあと思っていると、何かに気づいたようなキーノはティアの方を向き、叫ぶ。


「じゃあ王様って一人で超強えの!? スゲーじゃん!!!」


 凄まじい興奮の仕方だが───少年としての憧れを鑑みても、ここまで尊敬されるということは、少なくとも国民からの視点におけるセヴェーロは良き王なのだろうか。

 本格的に話していないから色々とわからないな。


「え、もっと聞いていい!?」

「・・・それより、他の友達は連れてこなくていいのか?」

「いいの! 同い年は俺しか男いないし!」

「へえ」


 世知辛いのかそういうものなのか、異なる常識をサラッと聞き流しつつ会話を続けようとしたところで、俺の頭の中で唐突にビープ音が響き渡った。

 喧しいなと思って右耳に指を当てると、思った通り、魔力の反応からしてニアの異常通知だ。


『マスター』

「・・・ん」

「え、何!? どしたの───」

「静かに。できるな?」


 異常事態を察知したのか、やたらテンションが上がっているキーノを抑え、横で大人しくしているリゼルに微笑みかける。

 とりあえずは静かにしてくれるなと判断したところで、俺は二人に背中を向けて立ち、ニアとの通信を始めた。


「どうした、ニア」

『マスターから見て二時の方向、一キロメートル付近。

 直下から熱源および魔力の反応を感知しました』


 つまり、地下から魔物が湧いてくると?

 掘っているのか、魔物が?

 モグラみたいに?


「ティア、聞いたか」

「うん。確かに」


 ティアもしっかりと通信内容を把握しているから、言葉で擦り合わせる必要はないと判断。

 しかし「地面から来る」となると嫌な予感がするので、先ずやるべき事は子供達の安全を確保すること。

 素直に従ってくれるかはわからないが・・・


「キーノ、リゼル、ちょっといいか」

「何! 王女様の婚約者さん!」

「俺がいいって言うまで伏せてろ。できるか?」

「なんで?」

「なんでも。とりあえず言うことを───」


 ああくそったれ、唐突すぎて間に合わない。

 渋々ながらも従ってくれた子供達が完全に伏せる前に地面が揺れ始めてしまった。

 しかもこの揺れ、かなり強い。

 短く強い揺れ、普通の人は立っていられないほどのものだ。


「・・・間髪入れずかクソッタレめ」

「グレイア、教育に悪い」


 思わず口からこぼれた暴言にティアからお咎めをもらうと、続いてニアからも通信が入る。

 緊急時ゆえか、対応が早いのは相変わらずだ。

 非常に頼もしい。


『マスター、今の揺れは・・・』

「穴が空いたか? どこに?」

『同じ場所です。魔物もそこから』


 とりあえずは想定外がなくて良かった。

 穴は一箇所のみで対処は難しくないはず。

 ましてやグリムに喧嘩を吹っ掛けられる(語弊)ような人がその辺にいる国だろう、自己防衛は可能だと見ていい。


「理解した。ニアは俺のところへ、グリムはティアと合流」

『承知しました。そのように』


 ただ、いざという時のための備えは怠らずに。

 そのうえで、俺は個人的に知りたいことがあるからニアと一緒に穴の近くまで行きたい。


「ティア、頼めるか」

「避難?」

「俺は必要だったら前に出る。その時は援護を」

「わかった」


 必要は無いかもしれないが、逃げ遅れる人のことを考えたらティアが最適であるために割り当て、あとは子供達。

 緊急時ゆえにさっさと帰って欲しいが、どう説得すべきか。

 生憎と俺はその方法がわからないから成否は微妙だ。

 最大限の努力はするが。


「キーノ、リゼル。

 俺達は街を守るから、お前達はパパとママを守れるか?」

「何があったの!?」

「魔物が出たんだ。ここは任せてくれるな?」

「なんで? 俺も戦いたい!」

「お前が離れてるうちに家族が怪我したらどうするよ」


 さっきは話が通じる子供だなと思ったが前言撤回、話通じないぞコイツ。

 気持ちはわかるがやめてほしい。

 対応による是非を決めるのは俺じゃないんだから・・・


「守らないのか?」

「パパは俺より強いもん!」

「ちょっと・・・キーノってば・・・・・」

「・・・はあ」


 ため息をつきながら頭の中で再構成。

 現状ならべつにティアを布陣から抜いても問題ないと判断し、申し訳ないがグリムには単独で行動するように指示してもらう。

 子供を野放しにするよりかは百倍マシだと考えればいい。

 ポジティブシンキングだ。


「ティア、予定変更。

 子供を預かっててくれるか。グリムは単独行動させて」

『わかった。きみも甘いね』

「時間が惜しいだけだ」


 わざわざ指摘してきやがるティアに言い返しつつ、俺はキーノ達に向き直り、真面目な表情で目を合わせる。

 そして興味津々に俺の顔を見るキーノに向けて、俺が言える最大限の譲歩を述べていく。


「じゃあ、王女サマと一緒ならここに居てもいい。

 くれぐれも、王女サマの言いつけは守るんだぞ?」

「マジで!? わかった!!!」


 嬉しそうにしているということで、とりあえずは問題ナシ。

 あとはティアに任せておけば、いい感じに守ってくれるはず。


「は〜・・・」


 俺は呼吸を整え、走り出す。

 身体強化をちょっとだけ盛りつつ、目指すは発生した穴を地上で見下ろせる位置。

 ここから少し走るが、時間は有効活用する。


「ニア、聞こえるか」

『はい。マスター』


 ニアに通信を飛ばし、合流するまでに指示を出す。

 今回の目的はあくまで「情報収集」であり、今までのような「自ら前に出て敵を殲滅する」という英雄ムーブではない。

 もっとも、必要であれば当該の動きをする準備はあるが。


「分析を優先する。詳細は質問を」

『把握しました』


 情報を整理しつつ、行動開始だ。

 王が自ら出張ってきた場合の前線はティアに任せた方が良くなるから、可能なら引っ込んでいて欲しいなあと思うのが正直なところ。

 はてさて、どうなるだろうか。









 キーノとリゼルはだいたい十歳児くらいの設定のつもりですが、私が直近で小学生と話したのは四年くらい前なのでクソガキ感とかが合ってるかはわかんないです。

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