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愛され気質な逸般人の異世界奮闘記  作者: Mat0Yashi_81
三章:災禍を滅ぼす虚無の躍進
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2-3:推し量る

 偉大な過去、希望の未来。




 



「本当に良いのですか、マスター」


 ベイセル邸、俺に用意された仮の寝室。

 そこで俺とニアが今後について話していたのだが、なんだかニアが心配そうな表情ばかり浮かべている。

 本当に良いのですか・・・なんて、俺が不調の時にしか言わないような言葉選びまでして、何がそんなに心配なのか。

 心当たりはあるものの、流石に平和な時にまで心配されるほど情けなくはないと思うのだが。


「うん。それとも、実体化はダルいか?」

「いいえ、そうではなく・・・」


 茶化してみると否定されたので、やっぱり心配されている。

 なんというか、きちんと突き放した方が良さそうだ。


「ならヨシ。流石に心配しすぎ」


 心外とは言わないが、流石にこれからは大丈夫。

 自分から奈落や絶壁に突っ込んでいくほど馬鹿ではない。


「俺が脳筋じゃないってのはお前もよく知ってるだろ。

 仮に万が一、億が一があったとて、俺なら軽く捻ってやれる」


 得意げにそう言うと、ニアはとても怪訝そうな顔をした。

 そういえば、最初の頃もこうして───否、その時は自己防衛のような思考回路がゆえのものだったが、似たような自己肯定感ばかり抱いていた気がする。

 それで不測の事態があったから躓いて、自分で修正しようとしたら空回りして・・・と。


「・・・マスター、調子に乗ってますね?」

「否定はしない。というか、前世ならコレが本調子なのよ。

 少しくらい調子に乗ってる方が上手くいくもんでね」


 ニアはきっと、俺がまた同じ轍を踏むんじゃないかと心配しているのだろう。

 正直な話をすれば、それは杞憂だ。

 転生当初の俺と今の俺では、周りを見る力から身の振り方まで何もかもが違う。

 今はもう、警戒ばかりの思考をする必要はない。

 己の行動を補正するために、自己暗示で傷を増やす必要もない。


「さては、心配性が移ったか?」

「そうかもしれませんね。本当、誰のせいでしょうか」

「相当な無茶をした誰かさんだ。それも仕方なく」

「・・・ええ。本当に無茶ばかり」


 噛み締めるように呟くニアだが、俺としてはニアがきちんとリスクをリスクとして認識してくれるなら万々歳だ。

 余計に気を張らなくて済むし、独立したユニットとして動いてくれるのであれば、会話や戦闘という場におけるセキュリティがひとつ増えることになる。

 布陣としては完璧に近いものになるだろうな。

 まあ、それによる負担を勘定に入れなかったらの話だが。


「・・・・・ん、来たな」


 なんて会話をしていると、足音が近付いてきた。

 使用人や義祖母のものではない、聞き慣れないが分かる。


「入るよ、グレイア」

「うんー」


 ティアにしては珍しい入室確認の言葉に反応すると、部屋の扉がゆっくりと開き、見慣れない服装のティアが入ってきた。


「・・・どう?」


 若干よそよそしい態度に、あんまり見たことがない「かわいい」に全振りしたような系統の服装。

 新鮮だなあと思いつつ、俺は率直な感想を述べる。


「めっちゃかわいい。

 というか、わりとラフでいいんだ」

「うん。私服だから」


 俺の言葉を聞いて満足気に微笑むティアは、暫くすると一転、不思議そうな表情をしながら俺の方を見つめてきた。


「・・・きみは着替えないの?」


 そう言われるが、全くもって着替える気なんてなかったので、俺はどう言葉を返そうかと固まってしまう。

 だが、いや、うん。

 なんで着替えないかと言われれば、拘りがないからだな。


「・・・・・いや、俺はべつに。

 前世からだけど、あんまり服こだわる質じゃないし・・・」


 べつに貧乏な家庭で育ったから、とかではない。

 むしろ一般家庭としては恵まれた環境であったからこそ、好奇心が向かなかったがゆえに頓着していないのだ。

 身長が高いからコンプレックスを隠す必要も無いし、合うサイズさえ見つけてしまえば「なんでも似合う」のだから。

 モデルをやらないのが本当にもったいない・・・なんて、友人の息子として多少の補正はあったろうが、アパレル業界の人間に常々言わせたくらいだ。

 自慢してもいいのだろうと思える。


「・・・・・なら余計に勿体なくない?」

「お前も言うか」


 思考を覗き見たティアが怪訝そうな顔でそう言う。

 べつに不快ではないが、俺にとっては高身長が当たり前。

 活かし方なんて知らないし、能動的には動けない。


「・・・うん、やっぱり勿体ない。

 案内がてら、ちょっと服を作りに行こう」

「はいよ。じゃあ行こうぜ」


 ということで、俺はティアと一緒にエルフの森の街を歩くことになった。

 そのため、外で使用人さん達と一緒にいるグリムの面倒は、ニアにしてもらうことになる。


「てことで、グリムのことよろしくな」

「はい。マスター」


 事前情報は一切なし、完全に初見の街だ。

 どんな場所に行くのか、今から楽しみだな。




 〇 〇 〇




 さて、場面は変わり街の通り。

 相変わらず視線が凄まじい道を、俺達は堂々と、しかし仮面はきっちりと被って歩く。

 ベイセル邸を出る直前、ティアが「大きい方で出かけて欲しい」と言った理由がよく分かった。

 ある種、誇示するような目的もあるのだろう。

 街の紹介は魔法通信で済ませ、表向きには「婚約者を侍らせて街を練り歩く王女」として認識させる・・・みたいな。

 真意はわからないが、そんな感じなのだろう。


「・・・・・」


 向けられる視線に片っ端から笑顔を返すティアの後ろを、俺は手を後ろに回した状態で歩く。

 持ち前の視野の広さで色々と見ながら歩いている訳だが、どうにもこの街には「男性」が少ない気がしてきた。

 歩行者のなかでも全体の一割ほど。

 他種族が居ない関係なのか、とても少ない。


『グレイア、あそこのお店ね』

『ああ』

 

 とは言われたものの、正確にどの店なのかはわからない。

 まあ、そろそろ着くってことが分かればいいが。


「・・・ここね」


 そこから少し歩いた場所にあった店の前で立ち止まったティアは、ひと呼吸を置いてからガラス張りの扉を開けた。

 続いて俺も入ると、そこはまあ随分と洒落たお店。

 服飾の専門店なのか、雰囲気的にはお高めっぽく雰囲気が特殊。

 なんて感想を抱いていると、入店したことを察知したのか、慌しい足音が近づいてくる。


「はいはいどちら様・・・・・ってェ!?」


 そして、その慌しい足音の主はこちらを見るなり尋常じゃなく驚いた表情をした。

 恐らくはオーバーリアクションをするタイプのヒューマン・・・いや、エルフなのだろう。


「エッ・・・本物ぉ?」

「うん。久しぶり、ラクネ姉さん」


 ティアの慣れない口調に違和感を覚えながらも、俺はそれを出さないように務める。

 まずは、この人が誰か。

 それを教えてもらう。


「・・・ティア、この人は?」

「ラクネ・スレード、王家公認の服飾屋さん。

 私も幼少期にお世話になってた」


 お世話になっていた、とティアが口にし、俺が相槌を打とうとした次の瞬間、ラクネという女性の表情が変わった。

 なんというか、恐縮してるわけではない。

 絶妙に照れているような焦っているような、よくわからない表情をしながら彼女は口を動かす。


「お世話に・・・なんて、とんでもない!

 ティア様のお召し物を作れたこと、一生の誇りとさえ───」

「ラクネ姉さん、もう何度も聞いた。

 それより、今日はひとつ依頼したいことがある」


 流石のティア、余計な話題は一切構わない。

 だが、ラクネも我が強い人であるようだ。

 視線をこちらに合わせ、食い気味で言葉をねじ込んできた。


「隣の、男・・・でございましょうか」

「男だなんて失敬な。この人は私の婚約者」

「こッ・・・婚約者ァ・・・・・!?」


 そこから繰り出される、ノータイムでのオーバーリアクション。

 と思ったが、そこまでオーバーでもないか。

 失敬な、とは思うが。


「・・・騒がしい人だな」

「腕は確かだから。そこは安心して」


 少しだけ悪態をついてみれば、ティアは表情を崩さずにラクネを擁護する。

 内心ではバチクソに苦笑いしていそうだ。


「えと、お名前は・・・?」

「グレイア。転生者だ」

「あ、リヴィル様と同じ・・・・・」


 そんなオーバーリアクションばかりの彼女でも、やはり仕事をする時はスイッチが入るようで、つい数秒前までとは一転した態度でカウンターに行き、なにかを帳簿の様なものにメモをし始めた。

 転生者であることに驚かないのは当たり前として、まだ会話したことのある人達が少ないからなんとも言えないが、今のところは自由の寵愛者であったティアのお爺さん(リヴィルさん?)のイメージは良好、とても「暴君」と呼ばれるような声色ではない。


「それで、ティア様。

 今日はどんなご要件で?」

「この人に私服と装飾品を用意したい。

 任せてもいい?」


 まあ、閉鎖的で英雄的な偉業を成し遂げた人間というのは、往々にして悪い噂が立ちがちなのだろう。

 そのためにプロパガンダの類があるし、逆にそういったイメージの扇動をしなければ、悪い噂ばかりが増えて生物濃縮のように集まり固まることで色濃く染み付く毒となる。


「勿論です。貴方の頼みとあらば喜んで」


 まあ、実際に話さないことにはわからないものだ。

 身内からのイメージだって、多少の色眼鏡はある。


「さ、どうぞグレイア様。こちらへ」


 が、どうにもこういった「様」という敬称がつくのは慣れない。

 自分がそういった立場にある・・・と自覚できたのは良いものの、育ちの位が違うからか、妙な気持ち悪さが背中を這う。

 きっと俺は、こうして「グレイア様」と呼ばれる度に、少し顔を顰めているのだろうな。


「慣れない?」

「・・・慣れるようにする」


 ふと、そんな俺を見かねて、ティアが背中を撫でてくれる。

 今は強がることしかできないが、いずれは。

 もう少し見て、考えて、時間はかかるだろうが。


「敬称を付けて呼ばれるの、あまり好きではないのですか?」

「この人、あまり威張るような質ではないの。

 でも、自分が持っている力をしっかりと自覚していたりするから、そういう所は抜け目がなくて好きだったりして」

「なるほど。こう見るとやっぱり、血は争えませんねえ」


 彼女について行って裏に行くと、ティアとの会話を聴きながら縦鏡の前に立たされ、ジェスチャーでポーズを指示された。

 その間、俺は久しぶりの採寸に暇だなあと思いつつ、彼女の話に耳を傾ける。


「時折、セリア様の屋敷に呼ばれることもありますが、その時の惚気話の具合といったらもう・・・

 惚気話の相手が私くらいしかいないとはいえ、随分とまあ引き出しが多いこと多いこと」

「お祖母様・・・」


 腹回りの採寸をされながら、ちょっとした愚痴っぽい話。

 惚気話・・・というと、デジャヴというか、される側としての気持ちはよくわかる。

 仲が良いのはよろしいが、惚気話を聞く身にもなれ、なんて。

 愚痴を聞くよりはよっぽど気持ちが良いのだが。


「それと、リヴィル様もですね、あまり良い顔はしなかったのですよ。

 自分が「様」と呼ばれるほど高尚な人間には思えない・・・なんて言ってたりもしましたかね。

 まあ、皆は無視してリヴィル様と呼んでましたけど」


 既に死んだ人間と会話することはできないが、経緯はよくわからないが、死したあとでさえ神に対して「自分の子孫の幸せ」を願うような人だ。

 こうして民衆から尊敬されるというのは、当然なのだろう。

 はてさて、どうしてこうも、俺の前に立っていた人はやたら背中が大きいのか。

 前世然り今世然り、偉大な人間が身近に居すぎだ。


「・・・そうなのか」

「ええ。今の御二人は当時のセリア様とリヴィル様にそっくりです」


 つーか何歳だこの人。

 三桁は確実だとして、どのくらい生きてるんだろうか。


「さて、終わりましたよ。力は抜いてください」


 なんて考えていると採寸は終わり、メジャーをピンと張って微笑む彼女と目が合う。

 正直、何を考えているのかがわからない。

 だけど、それを表に出しはしない。

 何らかの要素が見抜かれた結果がこれなのだとしても、否、邪推するのはよろしくないか。

 どちらにせよ、悪い印象ではないと願いたい。


「次は・・・そうですね、アクセサリーを選びましょうか。

 グレイア様は何か、お好きな石はありますか?」


 次いで飛んできた質問は、宝石?

 アクセサリーに関連した何か、選ぶモノを・・・


「好きな石・・・は、アメジストかな」

「アメジストですか、承知しました。

 少々お待ちください、いちばん綺麗なものを持ってきますので」


 思いつきで、自分に最も近い石を選んだが、この世界にも普通に存在しているようでよかった。

 ニアがいれば、その場で調べてもらって・・・なんて。

 無い物ねだりをしても仕方がないな。


「・・・・・ふー」

「頑張って。今日はまだまだ、行きたい場所があるから」


 慣れない環境、慣れない扱い。

 自分の周りにあるものがクソ高いものだらけ、というのも妙な疲れの原因なのだろう。


「・・・オーケーだ」


 まあ、慣れるしかないし、そのうち慣れる。

 よしんば慣れなかったとしても、そういう判断をするのは、全てを見てからでも遅くはない。

 時間はある。

 決断を先延ばしにするのではなく、選択肢を増やすこと。

 結果は決まっているが、過程はどうなるか。

 そのくらい、決めていい余地はあるはずだ。










 どう進めればいいのかが思いつかない今日この頃です。

 結論だけ見えてるのが気持ち悪かったり。

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