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愛され気質な逸般人の異世界奮闘記  作者: Mat0Yashi_81
三章:災禍を滅ぼす虚無の躍進
101/129

1-10:帰省のついでに

 小遣い稼ぎの一環。




 



「本日はよろしくお願いします!」


 元気で真っ直ぐな挨拶、ぴこぴこと揺れる耳と揺らめく尻尾。

 曰く鼠の獣人だという彼女は、子供の状態の俺よりも小さい体躯に似合わず、そこそこの大きさの木箱を背負っている。


「よろしく。コシュカさん・・・だったか」

「あっ、敬称はいらないですよ?」


 その辺のベンチで軽食をとっていた俺達の前に現れた彼女は、やたら元気でテキパキした態度で接してくる。


「えっと、グレイアさんにティアさん、使い魔のグリムさんに───あれっ、ニアさんという方は何処に・・・」

「俺の頭の中にいる。

 ニアは扱いが特殊だから、緊急時以外は顔を出さないものと思ってくれて構わない」

「把握しました! では、依頼内容を軽く確認しますね」


 慣れているのか、淡々と話が進んでいく。

 互いにカードを見せて本人確認を済ませると、次に彼女は背負っている木箱の蓋を開けて書類(恐らくは依頼書の写し)を取り出し、ペラペラと捲ってから確認を続ける。


「依頼の発行者は私が所属しているカラル商会。

 内容の分類は護衛で、護衛対象は私が背負ってる木箱。

 依頼完了地点はフェアリア王国の国境検問所です」

「相違はない。記憶している通りだ」


 二重チェックなのか、提示された写しに俺も目を通して確認したところで、彼女はふっとため息をついた。

 忙しい人だなと思いつつも、とりあえずはグリムとティアが食べ終わったのを確認したくて二人の方を一瞥。

 それから視線を戻すと、彼女はぐい〜っと伸びをしていた。

 身体中からパキパキと異音が聞こえる・・・


「何か質問とかあったりします?」

「べつに。強いて言うなら、接敵した時は迎撃するかを聞きたい」

「無傷で処理できそうな方をお願いしたいです」

「じゃあ迎撃するから、そのつもりで」


 無傷で処理、という要求なら迎撃一択になる。

 どうせ一回は接敵するだろうし、俺が出張らない場合の戦い方の練習も兼ねて賊は迎撃する構えで行こう。

 依頼書には「配達物:交易品・貴重品」とあったから、軽く見積って一回、酷かったら三回くらい襲撃されると見積もっておけば問題は生じなさそうだ。

 それに、ニアに頼んでギルド側の記録を漁った感じでは、この辺・・・というかこの国の治安はかなり悪めなので、今の見積もりは妥当だと信じたい。


「ティア、グリム、今の聞いてた?」

「うん。大丈夫」

「敵は迎撃するんすよね?」

「そう。理解してるならヨシ」


 グリムについてはキチンと不殺してくれるか微妙だが、考えてみれば、今回は殺さなかったら殺さなかったで処理に困る。

 仕事の最中だから戻る訳にも行かないし、エルフの国・・・フェアリア王国は規模が小さいから犯罪者を押し付けても報酬は貰えない。

 となると、今回は殺してしまっても構わないか。

 向こうだってそのつもりで来てるんだろうし。


「・・・うん。オーケーだ」


 ということで、方向性は決まった。

 大まかな傾向と内容はグリムも把握、ティアは俺の思考を通じて事細かな内容までを把握、ニアはいつも通りの臨機応変なサポート。

 あとは接敵した時に戦ってみて、新しい戦い方がどうなるか。

 とりあえず動いてみて、確かめてみよう。


「じゃ、行くか」


 そう声をかけ、ぐぐっと伸びをして準備完了。

 さあ、仕事の時間だ。




 〇 〇 〇




 さて、内容は移動の時とあまり変わらない。

 走って走ってまた走って───ひたすら森の中を進み、だんだんと高さを増していく樹木のグラデーションに感嘆しながら足を動かす。

 先導するのは俺、真ん中にコシュカを置き、その上をグリムが飛んで後ろをティアが追う。

 雑談なんかは一切ない、完全に仕事モードの移動中・・・ではなかったりするが、今のところは平和。

 特筆すべき事があるとすれば、爆速で移動しすぎてドップラー効果が体験し放題なことくらい。

 とにかく虫の音がうるさい。

 恐らくは樹木の大きさに合わせて虫もデカくなってるんだろう。

 確実にキモイだろうから絶対に出会いたくない。


『・・・きみの身長の二倍くらいあるハエの魔物とか?』

『なんでチョイスがハエなんだよ』

『肉食だし飛ぶし、厄介だと思って』

『脳裏に浮かぶの嫌すぎる』


 めちゃめちゃくだらない会話だが、表だと表情をほとんど変えずに頭の中だけで会話しているので、裏の方はわりかし賑やかである。

 まあ、他二人が俺とティアの会話を感知してるかは知らないが。


『ん・・・』

『どした?』


 ふと、ティアが通信魔法の中で声を漏らした。

 ということは何か気がかりな事があったのだろうということで、俺は軽い魔法なら直ぐに発動できるようにと不自然でない程度に魔力を練っておく。

 それから少し走ると、状況を把握したであろうティアから報告が入る。


『グレイア、前』

『見えたか』

『うん。でも、そのまま進んで』

『合図頼む』


 検問までの残り距離はだいたい五キロほどしかない。

 随分と大胆かつ間が悪い襲撃者だが、結構な距離を移動してきたわけだし、油断させるという意味では正解か。

 どちらにせよ、位置のチョイスからして素人ではないな。


『初撃たぶん地雷。接触まで・・・さん、に、いち───』


 ティアのカウントを聞き、ちょうど発動しそうな(コシュカが魔法らしき反応の上に来た)タイミングで俺も魔法を発動。

 くるりと反転しつつ指を鳴らし、半径七メートルほどの平べったい円柱型のバリアをコシュカを中心として生成。

 魔法が仕掛けられているであろう地面に蓋をするように設置して、爆風で吹き飛ばされないように魔力で固定した。

 すると次の瞬間、足元から閃光が走り───馬鹿みたいに煩い爆発音とともに、バリアより下の地面が大きく消し飛ばされる。


「ひえっ!? きゃあっ!」


 驚いて転びかけたコシュカを受け止めた俺の横で、ティアは魔力を大きく放出して爆風を吹き飛ばし、グリムは変身してデカく───ならずに人型のスゴい細くて翼っぽいデザインのマントを羽織った何かになった。

 なんだそれ。

 急に知らんモンに化けるな。


「ショアッ!」

「いただきいッ!」


 ・・・なんて気を取られている隙に飛び出してきたヤツらは五人ほど。

 そんな襲撃者にティアは一切目を向けず、右手の人差し指と中指をぐいっと上に向ける。

 すると次の瞬間、五人の襲撃者はまとめて空中に浮かび上がった。


「アニキ、敵は・・・」

「始末しろ」

「はいっす」


 抵抗できずに上方向へ直滑降な襲撃者に対して、グリムは何らかの魔法を発動。

 それと同時に空が暗くなったので見上げてみれば、なんとまあ大きな目玉が───それも瞳が七つ目玉がぐりんと動き、それぞれの瞳が何かを捉える。

 すると次の瞬間、五つの目玉が追尾方の魔力光弾をいくつも放ち、他二つは細いビームを照射し始めた。


『なんだのこの目玉ァッ!?』

『しまっ、避けられ───』


 空が下にあるという突飛な状況でも必死に飛翔魔法で回避行動をとっていた襲撃者達は、絶えず追尾してくる魔力光弾と絶妙な起動で薙ぎ払ってくるビームには耐えられず、次々と爆殺されていく。

 俺はニアから会話の盗聴と遠隔視界の共有をしてもらっているが、聞こえてくるのは焦り喘ぐ悲鳴と断末魔ばかりだ。


「グリム、森の中の敵の位置を共有する。

 逃したら私がやるから、大雑把に攻撃して」

「わかったっす」


 こっちはこっちで後ろに待機している襲撃者───というか盗賊の位置をティアが割り出したようで、グリムに位置を教えている。

 共有なんてどうするんだと思っていたところで、上空にある目の中に瞳がひとつ増えた。

 そうなるんだ・・・なんて感想を抱きつつ、俺は引き続き状況を見守る。


「・・・今っすね」


 浮き上がった襲撃者を殲滅し終えた瞬間、グリムは小さく呟いて魔力を紛らせると、上空の目玉から一気に攻撃を放った。

 それでは回避されるのではないか、なんて思っていると、今度は翼ともマントともとれるモノをぎゅっと握り、上空からの攻撃が着弾したであろうタイミングから少しずらしてから解放。

 翼っぽい何かは一本一本が独立して地面に突き刺さり、次の瞬間には幾つかの断末魔が響き渡った。


『マスターに報告、周囲に人間の生命反応はなし。

 襲撃者の殲滅は完了。状況は終了です』

「・・・把握した」


 そしてニアからの報告によって束の間の平和が告げられ、とりあえず周囲の安全は確保したことになる。


「一先ず、安全は確保だ。

 襲撃者は全員くたばった」

「わかった。グリム、撫でてあげるから戻って」

「えっ、あっ、はいっす・・・・・」


 グリムの細い姿が気に入らなかったのか、ティアはグリムにいつもの白くて翼が生えたちっちゃい狼みたいな形態に戻るよう指示し、元に戻ったグリムをこれでもかと撫で回す。

 全くもって殺しをした後の状況ではないが、俺も仲間のことは言えないので今更か。

 ちなみに、コシュカはというと・・・


「えっと・・・・・?」


 これでもかと目を丸くし、表情がとても鼠っぽくなっている。

 俺としては、そりゃまあ驚くかという気持ちが半分、他だったらどんな対応をするんだろうという好奇心が半分。

 彼女からしてみれば、今の状況は感嘆するばかりだったりするんだろうなとも思う。

 それはそれとして放心は少し大袈裟じゃないかと思ったり。


「・・・まあ、いいか」


 どちらにせよ、荷物は無傷だ。

 結果には何ら変わりないし、問題は無い───


「ん?」


 瞬間、ぴくりと感覚が震える。

 検問の方から何かが来る。


「・・・・・あー」


 人が三人、それも大きな魔力の反応が近づいてきている。

 それらをきちんと認識してから気がついた。

 そりゃ来るわ、と。


「ティア」

「任せて」


 名前を呼んで意図を伝え、交代の意志を示すと、ティアはグリムを抱っこするように促してきたので受け取った。

 それからティアは一歩進んで立ち、迫ってくる三人に手を振る。

 じわじわと薄く、しかし確実に魔力を全身から滲ませながら。


「どうも、この辺では見ない・・・顔・・・・・」


 すると、着地して声をかけてきた真ん中の人はすぐに気がついた。

 魔力の色の使い方からして、知ってる人は扱い方を知ってる色、ということなのだろうか?

 もしくはティア個人を受け入れるために・・・とか?


「・・・・・ご無礼をお許しください。

 お帰りなさいませ、ティア様」


 今はわからないが、どちらにせよ扱いはよさそうだ。

 それで無礼だなんて、随分とまあ硬っ苦しい。


「楽にして。それより今は、仕事を済ませたい」

「承知しました。そちらの獣人の方ですね?」

「そう。襲撃で疲弊しているから、検問所まで運んであげて」

「仰せのままに」


 仰々しく礼をすると、三人のうち二人はそれぞれコシュカの荷物と本人を運び、ティアと会話していた女性は俺の方を向いてふっと微笑むと、そのまま飛んでいった。

 妙に情を感じて内心の表情はキュッとなったが、まあ表の表情に出さなかっただけマシだろう。

 なんだあいつ、普通に怖い。


「・・・すごいっすね、アネキ」

「不本意だけど、利用できるなら」


 グリムの感嘆に、ティアは冷静な返し。

 王族としての扱いではなく、扱われること自体が不満げっぽい。


「・・・・・まあ、行くか」


 急ではあるが、状況は片付いている。

 あとは入国するだけということで、俺達は歩き出した。

 残り距離は五キロ、そこまで遠くはない。


「・・・・・」


 今回は色々と収穫があった。

 それを整理することも含めて、時間を取りたい気分だ。









 かなり雑な扱いになっちゃったコシュカですが、もしかしたら再利用するかもしれません。

 出身地もなんとなく決めちゃったので使い捨てにするには惜しかったり。

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