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愛され気質な逸般人の異世界奮闘記  作者: Mat0Yashi_81
三章:災禍を滅ぼす虚無の躍進
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閑話:やっと言えた

 彼女はもう、油断しない。

 彼が認めるその瞬間まで。




 



 ───テグラの街・そこそこ値が張る宿屋───


 …ボスン


「・・・それで、俺を拘束してなにを───っと」


「・・・・・なんなんだよホントに」


「ねえ、グレイア」

「・・・なに」


「・・・・・きみって、話すのが好きなの?」

「なんだ唐突に・・・」

「心の中で話してたやつ。議論が云々って」

「ああ・・・・・」


「あれは・・・その、なんだ。

 古い友達との繋がりで、その・・・・・」


「・・・ある意味、ちょっとしたストレス発散だった。

 あいつがどう思っていたかは知らないが」


「・・・・・ふうん」


「じゃあそれ、私にもやって」

「・・・いいけど、じゃあなんで拘束を」


 ギシッ


「・・・・・なんだよ」

「私じゃ駄目なの?」

「駄目じゃないけど・・・」


「そう」


「・・・・・さっきからなんなんだ。

 暴力女って言ったことは謝るから・・・」

「ううん、私が怒っているのはそこじゃない」


「きみは私を裏切った。

 依存するって、言ったくせに」

「それは・・・」

「わかってる。悪意でやったことじゃないんだって」


「だから、好機だと思った。

 きみをより深く知るための、良い機会だって」


「えっちなやり方でお灸を据えるのもやぶさかではない・・・とは思ったけれど、それじゃあきみのためにはならないとも思った」


「それに、私の立場も変わっていく。

 今までと違って、きみだけを見ていればいいわけじゃない」


「・・・・・見る対象ね」

「そう。逆に、きみは何を見ていたのか・・・とか」


「何を見ていたかなんて、そんなもん単純明快だけどな」

「・・・?」


「・・・愚かしくも、俺は可能な限りの全てを見ている。

 どうすればいいのかわからなかったから、とりあえず全てを。

 そうしたら上手く行ったから、流れで続けていたんだ」


「昔取った杵柄・・・なんて言うには若すぎるけど、俺は舌なんて何枚でもあればいいと思ってる。

 それをこの世界で最初に暴いたのは、たしかキクさんだったか」


「今思えば、俺はお前との初対面から既に危うかった」


「でも、お前は違ったから・・・すごいヤツだと思った。

 今でもそう思ってる。

 俺の後ろで、ずっと構えていて。

 いざとなったら、一緒に戦ってくれて。

 心が壊れた時は、寄り添ってくれて。

 すごく強い・・・女性だと」


「だからひとつ、気になることもある」


「・・・お前の目には、俺はどう映っているのかということを」


「私から見たきみを知りたい?」

「・・・・・そう言ってる」

「ふうん」


「そう・・・ね」


「やわらかくてかわいくて、可哀想な人。

 いつもぐらぐらと不安定で、危うい人。

 私の負担を絶えず軽くしてくれる、心の拠り所」


「あとは・・・かなり、度し難い」

「・・・どこが」


「私が後ろで構えて居られるのは誰のおかげ?

 一緒に戦う理由をくれるのは誰?

 寄り添うくらいに好きにさせてくれたのは誰?」


「すごく強いだなんて、全てはきみのためなのに。

 それをさも、私一人の評価みたいに言って」


「私はそれが、とても我慢ならない」


「・・・・・そうか」


「グレイア、知ってる?」

「・・・何を?」


「きみって、こういう時───心と言動が噛み合ってないの」


「正確に言い表すなら、心と言動の食い違いを思考で補正しようとしている。

 それも、心の方じゃなくて言動の方に」


「きみは私の事を手放して賞賛するけれど、きみがした行動は違った。

 あの時、きみは最も適するはずの私ではなく───自分を汚れ役に、相手から情報を抜き取る役に割り当てた。

 思考を読み取るという能力を持つ私が、最も役割に適していたにも関わらず」


「それだけじゃない。

 いつもきみは、私を前には立たせなかった。

 叡智の寵愛者が相手の時も、独善の寵愛者が相手の時も」


「奇しくも私を後ろに置くことによる利はあったことも確かだし、自分で考えても、前に出るには未熟な部分もあった。

 でも、きみは何かを恐れてるように見える。

 言葉や思考には出さない、心に深く刻まれた何かを」


「・・・・・」


「教えて、グレイア」


「きみが一体、なにを怖がっているのか」


「・・・・・ああ」


「・・・簡単だろ、そんなの」


 ブチッ…


「!」


 グイッ…


「失うことだよ・・・っ!

 何があっても、失いたくないに決まってる・・・!

 自分の周りにいる人間は、誰一人な・・・・・」


「・・・でも、俺の過去はお前の過去に比べたらちっぽけだ」

「・・・・・は?」


「少年期に数人と数匹、死ぬ前に一人?

 そんなの、お前と比べたら───」


「ふざ・・・けるなッ!」

「───っ」


「私は確かに、価値観が違うと言った。

 きみの過去がその世界においては普通でない出来事なのに対して、私の過去はこの世界において珍しくはないもの。

 命のやり取りが普通なこの世界では、幼少期に家族全員を殺されるというのは、そんなに珍しい過去じゃない」


「でも、きみは違う。

 私は復讐できたけど、きみはできない。

 その傷を和らげることは、決してできない」


「・・・・・その過去のどこが、ちっぽけだって言うの」


「振り返ることしか出来ない過去のどこが、ちっぽけだと!」


「・・・っ」


「私はきみに救われた。

 きみがきみで無いのなら、今の私は有り得ない」


「そんなにすごい人を作った過去を、決して貶すべきじゃない過去を、他でもないきみ自身がちっぽけだなんて言わないで」


「・・・ッ」


「・・・・・あはッ」


「・・・・・あ〜・・・はは」


「・・・ぐすっ」


「・・・・・っ」


 ギュッ……


「・・・・・ぐすっ」


「・・・ティア」


「なに、グレイア」




「・・・大好き。愛してる」





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