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狐の恩返し  作者: 養生
第3章 心の在り処
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3-5. 心の在り処

「……そうですか」


 週明けの月曜日。今にも日が沈みそうなこの時間に内線で呼び出された私は、他には誰もいない休憩室で青山さんに頭を下げた。

「あの……本当に、すみません。青山さんに誘ってもらえるなんて、すごく有難いとは思ってるんですけど」

 顔を上げると、青山さんはひどく戸惑ったように落ち着きなく視線をさまよわせている。

「有難いって……何ですか、それ」

 どうやら言葉を間違えたようだ。でもこの場合、他に何て言えば良かったんだろう。考えあぐねていると、青山さんは腕組みをして小さくため息をつく。

「嬉しい、とかじゃダメなんですかね」

「……あの」

「違うんですか」

 分かっていた。明らかに違っている。でも、そんなことを言える立場じゃないし、そこまで無神経な女ではないつもりだ。

「……すみません。私」

「里村さんって、普段は落ち着いてるのに意外と思ってること顔に出やすいんですね」

 どう答えていいのか分からず、青山さんの視線から逃げるようにうつむく。自分でも自分のしていることが信じられない。もう私には何かを選択する自由なんてないと思ってたのに、まさかこんなことが起こるなんて。少し前の私だったら、断るなんて選択肢はなかったはずだ。嬉しい、と素直に思えたと思う。

 だけど、そうじゃないんだ。前の私だったらとか、そういうことは今になって考えてもどうしようもないことなのだと、私は知っているから。


『もしあの時、神社に入ってきたのが悠子じゃない別の人だったらとか、そういうことって今になって考えてもどうしようもないだろ。だってもう、俺は悠子と会ったんだから。今の俺には悠子しかいないんだから』


 どんな選択肢も、選ぶのは今の自分しかいない。そんな当たり前のことを私は今までずっと知らずに生きてきた。あの時こうすれば良かったとか、どうしてもっと早く起こってくれなかったのとか、そんなことばかり考えていた。選ぶことができるのは今の私だけなのに。


「なんか俺、よく『あっさりしてるね』って言われるんですけど、全然そんなことないんですよ。むしろ真逆」

 窓の向こうの空には深い藍色が広がり、その下には燃えるようなオレンジ色がわずかに輝いている。その微かな残照が青山さんの顔を横から照らし、窓に面していない側の顔に暗い陰りを落としていた。

「めちゃくちゃ諦め悪いんですよ、俺。好きでいるだけなら俺の勝手ですよね?」

「そんな……もったいないですよ。青山さんなら、もっと若くて可愛い子が」

「やめてください、そういうの」

 ビクッとして顔を上げる。青山さんは少しも笑っていなくて、ただじっと私を真っ直ぐに見ている。

「だったら、どうして里村さんはダメなんですか」

「……」

「他に好きな人、いるんですか」

「そうじゃ、ないけど……」

「じゃあなんで俺じゃダメなんですか」

「ダメだなんて、そんなこと」

「断っといて何言ってるんですか? ダメじゃないなら、ちょっとメシ食いに行くくらい構わないでしょう」

「それは……」

 さっきから歯切れの悪い返事を繰り返すばかりの私に苛ついているのか、青山さんの語気はだんだん強くなってきている。

「俺、振られたんですよ」

 何故か一言ずつ確かめるように言われて、言葉に詰まる。

「しかもそれだけじゃなくて、振られた相手に慰められるとか……どれだけ惨めなことか、本当に分かってますか?」

「……」

「里村さんのこと好きだけど、そうやって誰にでもいい顔しようとするところは嫌いです」

 青山さんは軽く頭を下げて、休憩室から出て行った。


 そう見られていたことは意外だったけど、全く心当たりがないというわけではない。自分を卑下して相手を持ち上げていればいいと、私の卑屈な態度が周りの目にはそう映っていたとしても何らおかしくはない。私に真正面から向き合おうとしてくれた青山さんに対してすごく失礼なことをしたのだと、今になってやっと気付く。こんな私を好きになる人なんているはずがないと、いつもそれを前提にして人と接しているから、気付かないうちにきっとたくさんの人に嫌な思いをさせてきたのだろう。青山さんにも、あいつにも。


 好きな人がいるのかと聞かれた時、咄嗟に頭に浮かんだのは何故かあいつの顔だった。でも今の私のあいつに対する気持ちは好きと呼ぶにはあまりにも頼りなく、まるで薄い霞のようにほとんど見えないものだった。それなのにどうしてだろう、あいつの顔は事あるごとに私の頭をちらついて離れない。

 あいつは青山さんと違って働いてないし、私のお金で飲み食いするし、気が向いた時だけ会いに来るし、口悪いし性格悪いし、女の人に対して節操なさそうだし、こうやって欠点をひとつずつ挙げていくとキリがないくらい事故物件の典型みたいな男だ。一緒にいても私にメリットなんてひとつもない。まともな思考ができる女なら、迷う余地もなく青山さんを選ぶだろう。私だって少し前だったらそうしてた。

 ここであんな奴さっさと捨てて青山さんの気持ちを受け入れられたら、きっと私の人生は今とは正反対のものになっていくはずだったと思う。若くもないのにこんな食べていくだけでやっとみたいなジリ貧の毎日じゃなく、何年先もしっかり考えながら地に足のついた生活を送れる自分に、少しずつでも変わっていけると思う。青山さんを選んだらそうなる、という意味ではなくて、そういう生き方を選べる自分に変われる、という意味だ。

 あいつと一緒にいるとついだらだらと過ごして時間を無駄に浪費してしまうし、将来のことなんて考えようとも思わないし、そうやって自分がどんどん楽な方へ流されているのは分かるんだけどそこから抜け出すのは容易なことではなくて、このままでいいか、なんて思ってしまう。良くないことだと分かってる。あいつといると、私はずっと真っ当な人生を歩むことができない。ちゃんとした大人として生きていきたいなら、あいつを手放せるようにならないといけない。

(手放す……か)

 いつかあいつは、自分は私の所有物みたいなものだと言った。あの時は自分のことを物みたいに表現するあいつの真意が分からなくて違和感を感じていたけど、あいつと過ごす間にいつからか私もそんなふうに思うようになっていたのかもしれない。手放すだの、捨てられたらだの、あいつとの関係のあり方をそう表現することに何の疑問も感じていない自分に気付いて、あいつに対して悪いと思うより先にただ戸惑っていた。あいつは物じゃないのに。でもそれは決してあいつの存在を軽んじているということではなくて、むしろその逆なのだ。

 他の誰にも代わりはできない、それを私はよく分かっている。だから手放せないし、捨てられない。それは好きだなんて耳触りの良い言葉で言い表せるような気持ちではなくて、直視するのが憚られるほどあまりに幼稚な執着心でしかなかった。私に生活のほとんどを頼っていながら私に何かしてくれるわけでもなく、用が済めばふらりと帰っていくあいつは、常に私の手元にいるようで気が付くといつもいない。だからと言って鎖や紐で繋ぎとめようとしたら、きっとあいつはもう二度と戻ってはこないのだろう。目に見えているのに手で掴もうとしても触れることのできないあいつの存在に、『俺には悠子しかいない』というあいつの言葉に、私はいつの間にかこんなにも依存していた。誰かに必要とされたり、頼られたり、そんなことで自分の存在している意味を保とうとしていたのだ。それがあいつである理由はきっとなくて、本当は他の誰かでも良かったのかもしれない。でももう、あいつでないとダメなんだ。私はあいつと会ったんだから。今の私にはあいつしかいないんだから。


 時計を見ると、もうすぐ終業時間だ。席に戻る間もあいつの顔が頭をちらつく。今すぐ、無性にあいつに会いたくてたまらなかった。


 *


 アパートへ直行せず、神社への道を急ぐ。あいつは私が実家に帰る土日は必ず部屋にいてくれるけど、その翌日の月曜日は来ない。そう決めたわけでもないのに、それだけは何故か毎週決まっていて、月曜日はいつも憂鬱だった。一週間の始まりが憂鬱なだけだと今まで思っていたけど、それだけじゃないんだと今ははっきりと分かる。

 あいつとはまだ会ってそんなに経ってないのに。

 あいつのことはほとんど何も知らないのに、名前だって知らないのに。

 逸る気持ちに急かされるように、早足で歩いていた足はいつの間にか駆け出していた。


 夜の帳が下りて、あたりはひっそりと静まり返っている。まだ新しい家ばかりが並ぶ中、ぽつんと取り残されたようにその空間はあって、生い茂る木立に隠れているみたいだった。

 鳥居の前からそっと中を覗き込むと、奥にある社の階段にあいつが座っていた。手すりに背中を預けて、目を閉じている。その姿を見つけた途端、ほっと息がこぼれてくる。

「……何か用?」

 眠っているのかと思ってたのに、目を閉じたままあいつは口だけを動かした。鳥居をくぐって境内に踏み込み、狐のすぐ前で立ち止まる。狐の瞼がゆっくりと上げられ、やっとこっちを見た。

「今日は悠子んとこ行かない日だけど」

「そんなこと決めてないでしょ」

 チッ、と小さく舌打ちして、狐はまた私から顔を背けてしまう。

「……帰れよ。勝手に入ってくんな」

「人の部屋に勝手に上がり込んでるくせに、よくそんなこと言えるわね」

「何だよ、言いたいことがあるならさっさと言えって」

 露骨に不愉快そうな目で見上げてくるその目に一瞬怯んだものの、ごくりと生唾を飲み込んで何とか堪えた。

「断ってきた。青山さんに」

 狐の目が少しだけ大きく見開かれたように思ったのは一瞬のことで、瞬きした後にはもういつもどおりの興味なさそうな表情に戻っている。

「だから何」

「あんたのこと、ほっとけないの」

「俺を理由にするな。悠子の人生だろ」

「私の人生だからだよ。私はあんたを捨てられないの」

「……何言ってんの、お前」

 自分でも何を言ってるのか分からない。

「私は私のしたいようにすればいいって、あんた言ったじゃない」

「俺は、悠子が不幸になる理由にはなりたくない」

「今あんたを捨てたら、私は絶対に不幸になるの」

 いつかも同じことを言ったような気がする。その時あいつは確か、何て言ってたっけ。

「……悠子、バカだよ」

 そう、あの時もバカって言われた。だけどあの時は、こんなに優しい『バカ』じゃなかった。狐は私を見ないようにしているのか、視線を落として自分の上着の裾を指でいじっている。

「せっかくの処女卒業できるチャンスだったかもしんないのに。大体お前、自分が相手選べる年じゃないって分かってんの?」

「うるさい」

「悠子のためを思って言ってんだよ。悠子を好きだって言ってくれる人間の男がいたら、俺みたいなのに構ってないでそいつと一緒になるべきなんだって、どうして分かんないかな」

「分かってるよ」

「分かってないから怒ってんの。いい加減にしろよ、お前」

 狐は突然立ち上がり、私のすぐ目の前に立った。

「お前みたいな女、今まで数え切れないほど見てきたよ。みんな将来のことなんてまるで考えてない、今のことしか見えてない、頭が空っぽの女ばっかりだった。俺がどんなに説得したって『私にはあなたしかいない』とか言って聞く耳持たなかった。それなのに決まってみんな、後になって絶対に後悔するんだ。あの時ああしてれば良かった、こうしてれば良かったって」

「……」

「悠子にはそうなってほしくないんだよ。ちゃんと先のこと考えれば、今どうすればいいのかなんて簡単に分かるだろ。もっと真面目に考えろよ、自分のことだろ? なんでお前分かんないの?」

 狐は今、何を見ているんだろう。その目は私を見てはいるけど、ここではないどこか遠い記憶の向こうを見ているような気がした。きっと、今までこいつが関わってきた女の人たちとの記憶を。


 こいつは今まで、どんな気持ちで生きてきたんだろう。想像することならいくらでもできるけど、きっと私にそれが分かる時は来ないのだろう。本当の自分を打ち明けることもできず、相手からも本当の自分を見てもらえず、長くは続かずにいつかは終わる関係を繰り返しながら百五十年も生きてきたこいつの胸の内を、こいつがその中でどんなことを思ってきたかを、理解することなんて私にはきっとできない。

 だけど、それはこいつも同じことなんだ。私がこいつを理解することはできないのと同じように、こいつも私を理解することはできない。それなのにこいつは、さっきから私を理解しているような言い方ばかりしてる。今どうすればいいのかだの、もっと真面目に考えろだの、もっともらしく聞こえるけど、こいつに何が分かるというのだ。


「あんたを今まで飼ってきた女の人たちが本当はどう思ってたかなんて、あんたに分かるわけないんだよ」

 決して彼女たちを擁護するつもりではない。だけど、こいつはきっと気付いていないんだ。こいつの思う幸せと彼女たちにとっての幸せが、必ずしも一致するわけではないことに。

「後になって後悔したかもしれないけど、『あなたしかいない』って思ってた時は確かにあったはずでしょ。あんたといて幸せだった時は確かにあったんだよ。それでもあんたは、その人たちがみんな不幸だったって、そう思うの?」

「……何が言いたい」

 低く、冷たい声が降ってきた。狐は今まで見たことがないほど冷めた目で私を見ている。夜風に揺れる金色の髪が、白く冷たく光っているように見えた。その姿も表情も人ではない異様な雰囲気を纏っていて、それ以上言葉を続けるのがためらわれたけど、今言わないといけない。

「あんたに誰かの幸せを決めつける権利なんてないってことを言いたいの。あんたといて幸せだって言ってくれた人たちの気持ちを、あんたは最初から聞く耳持たないで無視してたんだよ。気持ちを受け止められないならそれをちゃんと答えてあげなきゃいけなかったのに、それさえもしないで」

 何故か指先が震えてる、寒さのせいかもしれない。ぎゅっと指を握りしめて狐の目を真っ直ぐに見る。狐は何も言わなかった。ただ、その表情は明らかに動揺している。まるで考えたこともなかった、みたいな顔をして、その場に突っ立っている。

「私も同じだよ。あんたから見たらどんなに不幸な人生でも、私にとっては幸せなことだってあるの。あんたにああしろ、こうしろって言われる筋合いないの。私はあんたじゃないんだから」

 本当はこんなこと言うつもりじゃなかった。こんな説教じみたこと、こいつに言ったって無駄だと思ってた。それに、分かってもらおうなんて思ってない。こいつと私はただ一緒に住んでるだけ、それだけなんだから、こいつにどう見られようとどうだっていいと思ってた。独り身でモテない可哀想な女だと思われてたってどうでもいいと。

 だけど、どうしてだろう。そうじゃなくて、今こいつに言わないといけないような、そんな気がしたのだ。こいつの考える幸せだけを世の中で『幸せ』と呼ぶんじゃないってこと。それに気付かないとこいつはきっと自分を責めるのをやめないような、そんな気がした。


 不意に視界が暗くなった。

 驚いて顔を上げようとすると頭を後ろから大きな手で包み込まれ、そのまま狐の胸に顔を押しつけられてしまう。狐の腕の中に閉じ込められていた。


「……悠子には幸せになってほしいんだ、俺」

 耳のすぐ近くで囁くような声がする。今まで冷たい夜風にさらされていた頬も肩も髪も、全てが狐の胸の中で少しずつ熱を帯びていく。

「だから、その邪魔にはなりたくない。……なあ、俺なにか間違ったこと言ってるか? 俺、今までずっと間違ってたの?」

 泣いているような声だった。胸の奥をぎゅっと握りしめられたような感じがして、すぐには言葉が出てこない。狐は私の言葉を待っているのか、そのままぴくりとも動かなかった。

「あんたがどうしたいか、それだけ考えればいいんだよ。私がどう思うかなんて考えないで」

「俺は……」

 きっとそんなこと、今まで考えたこともなかったんだろう。いつも自分勝手に振る舞ってるように見えるけど、本当はいつも相手の顔色を気にしてることなんて、私はとっくに知っている。こいつは今まで相手がどう思うかばかりを気にして、自分がどうしたいかなんてまともに考えたこともなかったんだと、何故か手に取るように分かる。こいつのことはほとんど何も知らないけど、今まで一緒に暮らしてきた中で分かったことはいくつもある。


「俺は、悠子がいい」


 ほとんど聞き取れないほど小さかったけど、その声は確かに私の耳に届いた。

「……どういうこと?」

「言葉のまんまだよ」

 背中に回された手にぎゅっと力が込められて、さっきまでよりも狐の身体に密着してしまう。手で胸を軽く押して離れようとしたけど、狐は力を緩めようとはしなかった。

「悠子が、いい」


 冷えた身体に狐の体温は温かすぎて、あまりに心地よくて、思わず泣きそうになった。狐の服をぎゅっと掴んで何とか堪え、その胸に顔を埋める。狐の手が私の頭を優しく撫でて、いつかここでお父さんの実家の記憶を見せられた時のことを思い出した。あの時も狐はこうやって、私の頭を撫でてくれた。ほんの数か月前のことなのに、何だかずいぶんと前のことみたいだ。それはきっと、今の私はもうあの時の私ではないということの何よりの証拠なのだろう。自分が今までずっと独りだったことを、私はこいつとの生活で初めて知った。そしてもう、独りには戻れないことも。

 もっと器用に、もっと上手く生きていける人だったら、もっと賢くて論理的なものの考え方ができる女だったら、こいつの言うとおり今すぐこいつを捨てていただろう。そもそも最初からこいつを拾ったりはしなかっただろう。でも、そんなのきっと私じゃない。私は何度人生をやり直したとしても、きっとこいつを拾うし、きっとこいつを捨てられない。だって私はそういう人間だから。私はそういう女だから。


「悠子じゃなくても良かったのかもしれないけど、俺は悠子がいい。今はそう思う」

 その声は私を閉じ込めて、決して逃がそうとはしない。いつものこいつからは想像できないほど、狐の声はまるで縋るように弱々しく感じられた。

「……結局どっちなのよ」

「だから、悠子のしたいようにすればいいんだって」

「卑怯者」

「うん。そうだな」

 喉の奥で笑うように言いながら、またその腕に力が込められる。狐の服からは微かに私の服と同じ匂いがして、それはひどく不思議な、そして懐かしい感覚だった。

「でも俺、悠子がいい」


 不幸になりたい人なんているはずがない。みんなきっと幸せになりたくて、そのためにはどうすればいいのか迷いながら進んでいる。それでも時には明らかに不幸へと続く道を選んでしまう時もあるかもしれない、今の私みたいに。でも、たとえその先に不幸が待っていると分かっていても、その道を選ばずにはいられないんだ。


『今あんたをほっといたら、きっと私は後悔するの。後悔するのが分かってるのに、来るか来ないかも分からないような自分の将来のためにあんたをこのまま放り出すことなんてできない』


 あの時からずっと分かってた。今の自分の歩いている道が、幸せな将来には続かないこと。それでも引き返すことなんてもうできない。私はこいつを手放すことなんてもうできない。だって、今の自分が本当に望んでいることに気付いてしまったから。もし世の中の人がみんな私を不幸だと言っても、この気持ちはきっと変わらないだろう。たとえこれが好きだとか愛してるとかじゃなくて、ただの執着と依存だったとしても。

 過去に何があったとか、将来どうなるかとか、そういうことはどうでもいい。

 いつかの将来じゃなくて、今こいつと一緒にいたい。

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