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幸子と舎弟と愛人と

作者: 後藤章倫

幸子


サチコは決して万人に好まれるような容姿はしていない。大柄で太っているし、歳も五十路に近い。顔だって……そして独身である。

そんなサチコなのだけど、彼女のまわりには男が寄り付く。サチコは会社を立ち上げていて社長をやっているのだけど、サチコのまわりの男達は仕事の関係ではあるのだけど、そればかりでは無い理由のが二人ばかり居る。


舎弟


ヤスオはサチコの舎弟だ。ヤスオがどんな経緯でサチコの舎弟になったのかは分からないけど、サチコに忠実で、そしてサチコを愛している。ヤスオはサチコの為に良く働く。小太りの身体にタンクトップを着用して、顎髭をたくわえている。頭には汗がよく染み込んでいると思われる臭そうなタオルが巻かれ、サチコの指示通りに材料を運んだり、ゴミの運搬、現場の清掃と雑用を何でもこなす。ただ、ヤスオのサチコへの想いは一方通行だ。


愛人


サチコの片腕とも言われる優れた頭脳を持つ望月さんは既婚者なのだけど、サチコの愛人である。サチコは物事を決める時には何かと望月さんに相談してから、それを決定する。サチコと望月さんは愛人関係にありながら、どっちかと言えばサチコの方が望月さんに熱を上げている感じだ。望月さんには妻と子供が居て、もしサチコとの関係がバレたら望月家は破綻を免れない。


それはお客様との打ち合わせの為に訪れた現場だった。現場にはサチコが到着する前からヤスオが片付けなどをして清掃に努めていた。

約束の時間の少し前にお客様が到着され、約束の時間ピッタリにサチコは望月さんを伴って現れた。直ぐにサチコはお客様との細かい打ち合わせに入っていった。


舎弟と愛人


望月さんは、かなりのやり手で経営やマーケティング等には優れていたものの、現場の事はサッパリなので、打ち合わせには加わらず、外でサチコを待っている。そんな望月さんの事を良く思わない者がいる。言わずもがなヤスオである。


ヤスオは現場一筋で来ているのだけど、仕事が出来るのか?と問われれば、誰もが口を噤む。ヤスオは一生懸命働くのだけど、やれる事が限られていて、そしてサチコにイチから十まで指示して貰わないと動けない。

そんなヤスオだったけど、机の上でしか仕事をやらない望月さんの事を小馬鹿にしている。それは望月さんも同じことで、自分一人では動けないし、何より雑用くらいしかやれないヤスオの事を見下していた。


現場の入り口付近で望月さんはサチコを待っていると。

「ちょっと、そこ邪魔だから」

望月さんが声のする方を見るとヤスオが歩いて近付いて来ていた。

「なんだ、舎弟かよ」

望月さんの声は漏れていた。

「おい、オマエ、ヒモ野郎なんつった?」

ヤスオは早歩きで迫ってきた。望月さんの表情が強張る。

「誰がヒモだ?なぁ舎弟よ」

それを聞いたヤスオは、中に木屑などが入った土嚢袋を望月さんへ投げつけた。舎弟にそんな事をやられて引くような望月さんではなかった。会社のトップは社長であるサチコなのだけど、愛人関係に発展してからの望月さんは、なんというか、権力を得ていた。望月さんは土嚢袋を拾い上げると、それをヤスオへ投げ返した。土嚢袋はヤスオに当たり、そして中身の木屑などのゴミが散乱した。

ヤスオが望月さんを睨む。望月さんも臨戦態勢だ。二人は同時に動きだし、取っ組み合いへと雪崩れ込んだ。

「てめえコラ、計算しか出来ねぇくせに」

ポカっ

「なんだコラ、舎弟の分際で」

ポカっ

「社長を何だと思ってんだコラ」

ポカっ

「オマエなんかにサチコが振り向くかコラ」

ポカっ


幸子と舎弟と愛人


ポカっ、ポカポカ、ポカカカカ、ポカっ、ポカっ

小学生の喧嘩みたいに手足をパタつかせ、相手をポカポカと叩きあう二人。はっきり言ってみっともない。そこへサチコとお客様が、打ち合わせを終えて談笑しながら建物から出てきた。目の前には、変な喧嘩をしている二人がポカポカやっている。

「なにやってんの?」

サチコは心がカサカサしてきた。

「すみませんすみません。直ぐにやめさせますから」

サチコはお客様へ頭を下げた。それから二人と向かいあったけど、サチコは知っていた。ヤスオが自分に気があることを。でもサチコは望月さんを愛している。

「喧嘩をやめて、わたしの為に争わないで、もうこれ以上」

そう言ったところで、アレ?このフレーズどこかで聞いたことあるぞ。昔の歌謡曲にあったよな?と要らん事を思い出した。その間もヤスオと望月さんはポカポカやっている。そのうちお客様は、どうして良いのか分からない感じになり、そそくさと現場をあとにした。

サチコは意を決して二人の間に割り込んだ。ヤスオと望月さんは何か知らんけど二人とも目から涙を流している。サチコも何だか感極まって訳の分からない声を出し始めた。顔は真っ赤に紅潮し、至るところから変な汁みたいな汗が吹き出している。サチコが持てる声を全て出して最後の雄叫びを上げると、ヤスオと望月さんは我に返った。


そこにはこの世のものとは思えないような、男なのか女なのかもわからない、獣のような、しかも全身が汁まみれの醜い生物があった。


サチコだった。


ヤスオは百年の恋が秒で覚めた。望月さんは速攻で退職を決めた。


 あとにはサチコだけがポツンと残った。


            〈了〉



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