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空を飛ぶ夢

作者: 辛口カレー

学生の頃、よく空を飛んでいる夢を見た。


最近はほとんど見なくなったが、それでもごく稀に空を飛ぶ夢を見ることがあって、そんな時は、「あ、そういえば昔よくこんな夢を見ていたっけ」なんて、懐かしく思い出している。


……夢の中。


最初、僕は夜の公園に立っている。

ヒザを曲げて「えいっ」と飛ぶと、僕はそのまま30メートルくらい上空へ飛び上がる事ができてしまう。


そして空中をフワフワと漂いながら、徐々にゆっくりと降下していく。

地上へ降り立つまで、だいたい一分くらいだろうか。


着地した僕は、またヒザを曲げて「えいっ」と飛び上がる。


以下同様で、僕はこの体感で一分くらいの空中浮遊を目が覚めるまで数回繰り返すのだ。


ただ垂直上昇と垂直落下を繰り返すだけだったら、たとえ夢の中でも次第に飽きてしまうだろうが、どういうわけか僕は浮遊しながら空を泳げてしまう。

楽しくて仕方がない。


身体の向きを変え、平泳ぎをするように手を動かすだけで、僕は進みたい方向へと進むことができる。

さすがは夢の中である。


空中に飛びあがった僕は、いつも近くに見える大きなマンションを目指す。

夜の空に浮かんでいると、そのマンションだけがひときわ明るくオレンジ色に光っているのが見えるからだ。


夜に、虫が街灯の光に集まってくる気持ちがよく分かる。


空中をゆっくりと泳ぎながらマンションに近づくと、それぞれの部屋にはオレンジ色の照明が明るく灯っていて、そこに住んでいる住民の姿がはっきりと見えてくる。


そして、宙に浮いている僕は、彼らが部屋で思い思いに過ごしている様子を窓の外から眺めるのだ。


家族で食事をしている者。

一人で宿題をしている者。

テレビを見ている者。

ベッドで寝ている者。


一人一人の顔の表情まで、ちゃんと見えている。

知り合いがいたら面白いのだが、いつもみんな知らない顔だ。


夢の中でも、僕は若くて可愛い()の様子が気になる。

中にはパジャマ姿の娘もいて、そんな時はずっとその娘を見続けている。


そのうち、どんどんと僕の高度は下がっていき、やがてゆっくりと地面に着地する。

楽しくてやめられない。


だが何回かこれを繰り返すと、突然僕は飛び上がることが出来なくなってしまう。

さっきまでは空を飛べたのに、どうしても飛び上がれないのだ。


そうして、空を飛びたいのに飛べなくて焦っているところで目が覚める。

不思議な夢だ。


「……それって、お前に(のぞ)きの願望があるからじゃないの?」


この夢の話をした友人に、そう言われた事があった。

まぁ否定はしない。


おそらく自分の中に渦巻く様々な欲求不満と願望とが、ごちゃ混ぜになって夢として現れたのであろう。

僕はそんな風に漠然と思っていた。


ところがそれから何年かして。


偶然、「空を飛ぶ夢を見ている時って、その人がヒザを曲げて眠っている時なんだって」と、近くにいた女の人が話しているのを耳にした。


なぁんだ。

僕が空を飛ぶ夢を見るのは、僕がヒザを曲げて眠っていたからだったのだ。


「僕に覗きの願望があるから」なんて、とんだ言いがかりだ。

たまたま空を飛ぶ夢を見て明るい方へ進んだら、偶然マンションの中の様子に目を奪われただけじゃないか。


これで疑惑は晴れたと思った。


でも……。あれ?

ちょっとおかしくないか?


僕は空を飛んでいる時だけでなく、着地する時も夢に見ているのだ。


もしも「空を飛ぶ夢を見ているときはヒザを曲げて眠っている」というのが本当なら、着地している時は空を飛んでいないのだから、「着地する夢を見ている時はヒザを伸ばして眠っている」はずである。


しかも僕は、空を飛ぶ夢と着地する夢を、何度も繰り返して見ているのである。

ということは、僕は「ヒザを曲げたり伸ばしたりして眠っている」ことになる。


要するに、僕は「ヒザの屈伸をしながら眠っている」ことになる(わけ)だ。


なるほどー。

僕はヒザの屈伸をしながら眠っているのかぁ……。


って、おい。

そんなヤツいるかよ。

読んで頂き、ありがとうございました。

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