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【完結】憧れの乙女ゲーに転生したのに悪役モブ令嬢!?~ギロチン確定で攻略キャラたちからの好感度最悪ですが抗い続けたら楽しい学園生活が待っていました~  作者: スズイチ
第一章 モブ令嬢の抗い

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8 思わぬ出来事・後


 ――ジェラルド様!?


 予想外の人物の登場に、唖然としてしまう。

 ジェラルド様は、すぐ側にいた男子生徒の首を片手で掴むとそののまま持ち上げる。


「……なっ、ぁ……が……ぁっ、……」

 

 ぎりぎりと首を締め上げられ苦しいのだろう。男子生徒は逃げようと必死に藻掻いている。

 その様子を見て、もう一人の男子生徒がジェラルド様に殴りかかろうとする。


「――そいつを放せっ!!」


 ジェラルド様は振り返ることなく視線だけ相手に向けると、首を締めていた男子生徒を放り投げ向かって来た相手の顔面を蹴り上げる。

 彼らが動かなくなったところを魔法の力で捕縛し、何処かに連絡し始めた。


 ――ほっと息を吐く。


 良かった。

 助かった。

 

「――コレルちゃん!!」

「……っ! キャロルさん大丈夫!? 怪我はない?」


 私の言葉にキャロルが泣きそうな表情になる。


「……っ、私より……私のことよりも、コレルちゃん自身の心配をしてよ!!」

「……ぁ、えっと……」

魔導書ブック!」


 キャロルは怒りながら魔道本を作り出し、怪我をした私の頬に手を添える。


聖なる癒しの風(ホーリーウインド)


 温かい。優しくて心地の好いエネルギーが頬の傷を癒して行く。


「……あ、ありがとう……キャロルさん」


 治癒を終えたキャロルは、涙目で私をじとりと見つめたあと胸に飛び込んでくる。


「……っ、ぐす……もう、絶対に……二度とこんな危ないことしないで……」


 しがみつくキャロルの手が震えていた。


「…………ごめん。ごめんね、キャロルさん……」


 キャロルは私の胸に顔を埋めたまま返事をしてくれない。

 困った私は小さな背中をそっと撫でる。


 ――心配させてしまった。ただ、彼女を守りたかっただけなのに。

 見栄をきって前に飛び出たのに、魔法の一つも発動できずに終わってしまうなんて情けない。


「――マルベレット」


 声を掛けられ顔を上げる。


「……ジェラルド様。助けていただいて、ありがとうございます」


 私の言葉にジェラルド様は眉根を寄せ難しい顔をしたあと、深く頭を下げられた。


「……すまなかった」


 予想外のことに驚いてしまい呆然としてしまう。


「……え!? い、いえ! ジェラルド様は助けてくださった恩人です! なぜ謝罪を!?」

「……以前から早朝にあまり評判の良くない生徒がたむろしていたことは知っていた。だが、何かを仕出かす様子もなかったので放置していたんだ。こんな閉鎖的な場所だしな。不満もあるだろうと……しかし、それが今回の事態を招いてしまった」

「……そう、だったんですね……」

「…… 前に一度、走り込みの最中に君と会ったことがあっただろう?」

「……は、はい」

「あの時、君にそれを伝えようとして止めてしまった」

「……え?」

「君は攻撃魔法に長けていると聞いていたのでな……。自己防衛や他者を護るためならば魔法を使ったとしても咎められることはない。なので、もしもの時は魔法を使って応戦するだろうと勝手に決め込んでいた。……これは、私の落ち度だ。すまない」

「……い、いえ。本当に大丈夫ですので!」


 実際、私があの時に魔法を使えていれば彼らは去って行ったはずだ。助けてもらったのに、こんな風に謝罪される謂れはない。


「……アレット嬢にも怖い思いをさせてしまって、申し訳ない」


 ジェラルド様の言葉に、キャロルはようやく顔を上げる。


「……いえ、怖かったのはコレルちゃんの方です。男の人に殴られるなんて……」

「…………そうだな」


 うっ……空気が重い。

 どうにかならないものかと考えていた時。


「ジェラルド様!」


 ――第三者の声に全員が顔を上げる。警護の人だ。


「――こっちだ!」

「ご連絡ありがとうございます。彼等のことはこちらにお任せください」

「ああ。頼む」


 警護の人たちは軽々と三人を持ち上げると一礼してこの場を去って行ってしまった。


「……あの、私たちも行きましょうか」

「そうだな」

「うん」


 ――へらりと笑って一歩踏み出した瞬間。

 上手く一歩を踏み出せずに転びそうになる。


「あっ、わっわ……」


 ――ふわり。


 だが、転ぶより先にジェラルド様に受け止められる。


「……え!? あ、あ、ありがとうございます」

「……いや」


 ジェラルド様は何かを考えるように眉根を寄せたあと、私の脇の下と膝裏に手を差込みそのまま抱き上げられる。


「……………………は?」

「わぁ!」


 ――え、待って。

 何これ? いや、これってあれだよね? 横抱き……別名、お姫抱っこってやつだよね?

 なんで、私は今ジェラルド様にそれをされているの?


「部屋まで運んで行こう」

「――え!? いやいやいやいやいや大丈夫です! 降ろしてください!」

「コレルちゃん! 送ってもらおう!」

「ああ。そうしろ」

「……ええ……」


 そこで、ふと我に返る。

 先ほどキャロルはあんな目に遭ったんだ。このあと授業が始まるまで部屋に帰って一人でいるのは怖いだろうし心細いに違いない。


「……あの、ガレルローザさんに連絡を取りたいのですが構いませんか?」

「……ガレルローザ? 構わないが」


 カイちゃんに連絡すると直ぐに来てくれた。そして、私たちの様子を見て唖然とする。


「……え? なに、この状況?」

「……えっと、実はね……」


 先ほどのまでの出来事をカイちゃんに話すと段々と表情が険しくなる。


「……そうか。話はわかった。んで、そいつらは今どこにいる?」

「警護の者が連れていった。それなりの処分が下るはずだ」

「…………そうか」


 カイちゃんが不服そうに呟くと、キャロルの側へと行き頭を優しく撫でる。


「怖かったな」


 その言葉に、キャロルの大きな目から大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちる。


「……うん……うんっ……」


 そのままカイちゃんにしがみつくと声を上げて泣き始める。

 カイちゃんは、そんなキャロルの頭を肩口に抱き寄せると私たちに目配せをする。

 私は頷き、ジェラルド様は視線を逸らせる。


「――行くぞ」

「はい」


 二人を残しジェラルド様は私を抱えて部屋へと向かう。

 カイちゃんに側に居てもらった方が、きっと私が側にいるよりも安心できるし心も許せるはずだと、ほっと息を吐く。


 それにしても、ジェラルド様は私をずっと抱えてくれているが重くないのだろうか? いや、どう考えても重いよね。最近、筋肉付いてきたし余計に重いはずだ。

 部屋に置いてある湿布を、お渡しした方が良いだろうか……そんなことを考えているとジェラルド様と目が合う。


「…………痛むか?」

「……え? あ、頬ですか? 大丈夫です。キャロルさんが治癒してくださったので」

「…………そうか」

「……は、はい」


 ジェラルド様は視線を逸らすと、ばつが悪そうに呟く。


「……もっと早くに駆け付けるべきだった。少なからずとも暴力を振るわれる前に……すまない」

「……ふっ、ふふふ」

「……? 何がおかしい」

「いえ、ジェラルド様が謝られてばかりだなぁと思いまして」

「……今回のことは私の落ち度だからな」

「違いますよ。ジェラルド様のせいではありません。あの男子生徒たちがキャロルさんに手を出したのが原因です。そして私が勝手に前に出てしまったこと……何の問題もなく魔法が使えると傲ってしまったことです。あの時、勝手な判断などせず助けを呼べば良かったんです……」

「……そうだな」

「……はい」

「あとで連絡先を教えろ」

「……は?」

「何かあれば私を呼べ。すぐに駆け付ける」

「は? え? い、いやいやいやいや! ジェラルド様を呼び出すなんて出来ませんよ! お忙しいでしょうし!」

「……なぜだ? 先ほどの話の流れはそういうことだろう? それに、助けに駆け付けるくらい何の問題もない」

「……え、いやぁ……」


 部屋の前に辿り着き、そっと降ろされる。予想外の優しさに思わず目を丸くしてしまった。


「端末機を出せ」

「あ、は、はい」

「……ん。これでいい。……では、失礼する」


 連絡先を交換するとジェラルド様は足早に去って行ってしまった。

 それもそうか。ここ女子棟だし居心地悪いよね。

 湿布は……必要ないかもしれないが、後でこっそり渡そう。


 私は部屋に入ると、勢いよくベッドにダイブする。


「はぁー…なんか、いろいろあったなぁ……」


 怒鳴られることも叩かれることも、前世では普通のことだった。さすがにグーで殴られたことはなかったけれど。

 最初の頃は怖くても、何度も行われるうちに麻痺してしまい慣れに変わって行く。

 そして、そんな恐ろしいことが日常になってしまうのだ。


「……少しだけ休もう」


 開けていた窓から爽やかな風がやってきて殴られた頬を労るように撫でてくれる。


 ――優しいな。

 この世界は私が思っているよりも、ずっとずっと優しい。

 私も大切にしないと。この世界と私自身を。

 そんなことを考えながら、暫しの眠りに就いた。

 


 

 

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