53 決着
衝撃が来るよりも先に、誰かに抱き込まれる。驚いて目を開けると、私を庇うようにジェラルドさんが正面から抱き締めてくれていた。
「ジェラルドさ……」
クロエ姫の攻撃が止むと、ずるりと私の胸の中に倒れ込んでくる。
支えるために背中に手を回すと、ぬるりとしたものが手に付く。恐る恐る確認すると、掌が血塗れになっていた。
「――ジェラルドさん!? ジェラルドさん! ジェラルドさ……っ!」
「…………コレル……無事、か?」
「わ、私は大丈夫です! でも、ジェラルドさんが……!」
「……君が……無事、なら……それでいい……」
ジェラルドさんは僅かに微笑むと、目を閉じてしまう。重さが一気にきて彼を抱き込んだまま、その場にしゃがみ込む。
「ジェラルドさん! ジェラルドさんっ!!」
何度名前を呼んでも、目を覚まさない。
……どうしよう……どうしよう……。
「……わた……私のせいだ……私が護ってくださいなんて言ったから……ごめっ……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんさなさい……あなたが死んじゃったら、わた、わたしは……っ……お願いっ……死なないで……」
私がジェラルドさんに、しがみついて泣いていた時――。
「コレルちゃん!!」
目の前にキャロルが飛び込んでくる。
血塗れの私の手を気にすることなく両手で握り込んでくると、真剣な面持ちで口を開く。
「大丈夫だから! ジェラルド様は、私が絶対に助けるから!!」
「…………キャロル、さん……」
「こう見えて、私の治癒能力って凄いんだから! だから、安心して。もう泣かないで……ね?」
……知ってる……私、前世であなたが主人公だったゲームをプレイしたもの。
キャロルの治癒能力が凄いことは、誰よりも一番私がよく知っている。――聖女にだってなれるくらいの素晴らしい能力なんだ……。
私は涙を拭うと、キャロルに微笑みかける。
「ありがとう、キャロルさん。――ジェラルドさんのこと……どうか、よろしくお願いします」
「はい!」
ふっ、と息を吐くとキャロルにジェラルドさんを任せて立ち上がる。
すると、カイちゃんが正面にいた。
「ここは俺たちに任せな。こいつとキャロルは命に替えても絶対に護ってみせるから、安心しろ」
そう言って私の肩に柔く手を置く。
「ありがとう、カイちゃん。お任せするね」
「ああ。……無理はするなよ」
「ふふっ、ここは無理をするところでしょう?」
「……まあな」
苦笑するカイちゃんに、笑いかけると小さく深呼吸をする。
もう一度くらいなら上級魔法を使うことができるはずだ。――確実に魔力切れを起こすだろうが、仕方がない。やるしかないのだと、防御魔法を掛けてから詠唱するために口を開く。
「――っ、させるものですか!!」
私の詠唱に気付いたクロエ姫が攻撃を仕掛けてくる。数発は防げたが、さすがに次は無理かと思われた時、シャーレが防御魔法を使ってくれるが間に合わずに吹き飛ばされる。
「…………うっ……ぁっ……」
飛ばされた際に服が破けて、師匠に貰ったペンダントが弾き飛んでしまう。
破壊されたペンダントトップの中からマジックアイテムが飛び出すと、うねうねと奇妙に形を変えてクロエの心臓であるペンダントの方へと物凄いスピードで突撃する。
「!?」
ガギィン、ガギィンと凄まじい音が数回続いたあと、ペンダントに掛けられていた防御魔法が破られた。
「……こんな……ことって……」
思わぬ出来事に一瞬呆けたあと、私はアルベルト様の方へと振り向く。
「今です、アルベルト様!! ペンダントを破壊してくださいっ!!」
私の声にアルベルト様が、すぐさま反応する。急いでペンダントの方へと駆け寄るが、クロエ姫に邪魔をされる。
「ふざけるな! ふざけるな! ふざけるなっ!! 下民如きが、どうやって防御を破った!? それは幾重にも魔法を掛けて、絶対に破れないようにしておいたものですのよ!! それを……それを……ふざけるなぁぁぁ!!!!」
全員がアルベルト様の前に立つ。
「アルベルト様、ここは私たちが何とかしますから、早くペンダントを!!」
「……っ、わかった!! これで、終わりだ、クロエーー!!!!」
アルベルト様が、ペンダントにナイフを突き立てると真っ赤な宝石が粉々になる。
「やめて、やめて、やめてぇぇぇ!! いやぁぁぁぁぁ!! お兄さまぁぁぁぉぁぁ!!!!」
――泣き叫んでいたクロエ姫の動きがピタリと止まる。
「……っ……あぁ……ぁ……っ……」
少女の着ていた白いワンピースの心臓の辺りから、じわりと血が滲み始める。
小さな赤い染みが胸いっぱいに広がる頃、クロエ姫が後ろに倒れそうになるのをゼノが抱きとめた。
「約束通り、この肉体と魂は私が貰い受けるよ。――なかなか、楽しい見世物だった。また何処かで会えるのを、楽しみにしているよ」
またね、とにんまり笑う悪魔は、クロエ姫を抱き抱えると最初に出てきた真っ黒な渦の中へと戻って行く。
――これ、は……。
「終わったの、か……?」
アルベルト様が、ぽつりと呟くと皆さんが一斉に声を上げる。
「やった! 勝った!!」
「わたくし達、勝ちましたのね!」
「はぁ〜……さすがにダメかと思った」
「……何とか、なったね」
本当に良かったと、胸に手を当てて、ほっとしていた時。
「コレル」
名前を呼ばれて勢いよく振り返ると、ジェラルドさんがそこには居た。
「ジェ……ラルド、さん……」
「ああ」
「……ジェラルドさん……ジェラルドさ……っ」
ぼろぼと泣き始めた私を見てジェラルドさんが、おいでと両手を広げる。
「……っ、……」
私がその胸に飛び込むと、柔く抱き締めてくれる。
「……っ、無事で……よかっ……」
「――すまない、心配を掛けてしまって……君を護ることに精一杯になってしまった……」
「……わたっ……私が、護ってください、なんて……言ってしまったから……」
「それは違う。君が言おうと言わまいと、俺は君を護るつもりでいた。……なのに、こんな実態を晒してしてしまって、恥ずかしいものだな」
「そ、そんなことないです! 私のために、あんな……護ってくれたことは、凄く嬉しくて……でも、あなたが傷付いくとこは見たくないです……死んじゃうんじゃないかって……怖くて……怖くて……っ……」
「ああ……どうか、もう泣かないでくれ」
私が泣き止むまで、ジェラルドさんは優しく背中を叩いてくれていた。
「……す、すみません。もう大丈夫です」
「そうか」
「……あの、傷の痛みは?」
「全く無い。アレット嬢の治癒能力は、本当に凄いな」
その言葉に、キャロルの方へと振り返る。
「――キャロルさん。ジェラルドさんを治癒してくれて、ありがとう!」
サイラス様の傷を癒していたキャロルが顔を上げて、にこりと笑う。
「ふふっ言ったでしょう、私すごいんだって。 良かった……コレルちゃんが元気になってくれて」
「……うん……うん! 本当にありがとう」
キャロルとシャーレ嬢が皆さんの治療を終え、一段落ついた時――。




