45 違和感
――次の瞬間、誰かに口を押さえられ、窓から引き離される。
「……っ!?」
「――しっ。静かに」
聞き覚えのある品の良い声に振り返ると、そこに居たのはアルベルト様だった。
――まずい、見つかった。
いつの間にか、姿消しの魔法が切れていたようだ……。ドクリと跳ねる胸のあたりを、服の上からぎゅっと握りしめる。緊張で身体が強張り冷や汗が頬を伝う。
「大丈夫だから……あいつに見つかる前に、ここを離れよう」
「……ぁ……っ、の……」
「他のみんなも、僕の私室に居るから安心して。さ、行こう」
私は、アルベルト様に手を引かれ執務室を後にした。
三階にある部屋まで行き扉を開けると、先ほどまで一緒だった皆さん方が揃っていた。
「皆さん……!」
「コレル! 無事で良かった……」
扉の側に居たジェラルドさんが、一番最初に声を掛けてくれる。
「……ジェラルドさん。そちらも、ご無事で良かったです……」
安堵の笑みを浮かべるジェラルドさんに、泣きそうになる。
「皆さんも……でも、これはいったい……」
「みんなを集めたのは、僕だよ」
「……アルベルト様」
「……まったく、危なっかしいことをしてくれる……たまたまとはいえ、僕が見つけていなければ君たちは大変なことになっていたよ」
「「…………っ」」
何も言葉が返せず、全員が黙り込んでしまう。そんな私たちの様子を見て、アルベルト様が小さく息を吐いた。
「とりあえず、みんな座ってくれるかな?」
その言葉に、皆が静かに豪奢なソファに腰掛ける。私がシャーレ嬢の隣に座ると、優しく手を握ってくれた。
「……ご無事で良かったです」
「……シャーレさんも」
握ってくれた手の上に柔く手を重ねる。
「――それで、君たちが何をしていたのか聞いてもいいかな?」
アルベルト様の言葉に、それぞれが困ったように目を合わせると、意を決したようにサイラス様が口を開いた。
「――実は……」
これまでの経緯を、事細かに話されるサイラス様。それを、アルベルト様は静かに聞いていた。
「――なるほど。事情は理解したよ」
アルベルト様は、呆れたように息を吐く。
「そんなことで城に侵入するだなんて無謀なこと……よくできたものだね?」
嘲るような声。
「……確かに無謀だったかもしれませんが、このままにしておくことは出来ませんでしょう?」
「――そうだね。でも、結局は僕に捕まってしまっては意味がないんじゃないかな? サイラスさんとルークさんまで、こんなお仲間ごっこに一緒になって、バカなのかな? ……ふっ、ははっ」
「そ、そんな言い方……」
「事実だよね?」
――違和感……凄まじい違和感。
この方は、アルベルト様……だよね? 確かにゲームの世界とは、いろんなことが変わってしまっている。けど、それにしたってアルベルト様の変わり様は異常だ。あまりに、おかしい……なぜ、こんなにも彼だけが異常なのだろうか。
「……事実だとしても、言い方というものがございますわ」
「……アルベルト様……ひどいです……」
「ああ、少しは言葉を選んでほしいもんだな」
「……アル君、どうかしたの? 何かあった?」
「――何もありませんよ。僕は、もうずっとこんな人間です」
「で、でも……」
アルベルト様が、大きなため息を吐く。
「……どうせ、あと一年もすれば何もかもが無かったことになるんだから、どうだっていいじゃないか。君たちは、全て何事もなく何も知らなかった時に戻れるのだから」
(――ん?)
「あの、それはどういう……」
尋ねると、胡乱げな目で捉えられる。
よく見ると、彼は何というか……とても疲れた様子だった。美しい瞳は虚ろで、その下には隈がある。柔和な態度ではあるが、常に緊張した雰囲気を纏い他人と距離を置いている。
これは、今に始まったことではない……この世界のアルベルト・グランジェインという人物は、いつだってこのような感じだったと思う。
「……まあ、いいか。君たちは覚えていないだろうし、何百回のうちの一度くらい、こんな時があってもいいでしょ……」
アルベルト様が、どこか遠くを見ながら呟く。
「――教えてあげるよ。僕たちの生きているこの世界が、どんなふうに回っているのかを……」
――そう言うと、アルベルト様は静かに語り始めた。




