42 反省
週明け、カイちゃんに少し早めに教室に来てほしいと連絡をもらい、いつもより三十分ほど早く部屋を出る。
教室に着き中へ入ると、そこにはカイちゃんの他にキャロルとシャーレ嬢……それから、ジェラルドさんがいらっしゃった。
「……あれ? 皆さん、どうされ……」
「コレル!」
言葉の途中で、ジェラルドさんが駆け寄って来る。
「怪我をしたと聞いたが、大丈夫なのか?」
「え?」
思わずカイちゃんの方へ視線を向けると、申し訳なさそうに手刀を切る。
「悪い、コレル。全部バレた」
「……あっ……あぁー……」
そ、そっかぁ……バレちゃったのかぁ……どうしよう、何だか気不味いな……。
「……す、すみません、ご心配をお掛けして。怪我は、もう何ともありませんので!」
私は、腕を大きく振って伝える。
「そうか、良かった。……君が怪我を負ったと聞いた時は心配と後悔でいっぱいになった。あの時、無理にでも事情を聞き出して君の側に居るべきだったと……。頼むから、もう二度とこんな危ないことはしないでくれ」
「は、はい」
「君にとっては、ガレルローザの方が気安い相手だろうから仕方がないのかもしれないが、何かあれば誰よりも先に私に話しをしてほしい。いつだって相談に乗るし、君のために尽力する」
「――あ、ありがとうございます……次からは、ちゃんとジェラルドさんにもご相談します」
「ああ、そうしてくれ」
真剣な眼差しで言ってくれるジェラルドさんに、やはりあの時にお話すれば良かったかもしれないなどと今更なことを考えてしまう。
「――コレルちゃん」
私とジェラルドさんの話が終わるタイミングをみて、キャロルが声を掛けられる。
「怪我したところ、見せてもらってもいいかな?」
「は、はい」
右腕の裾を捲り上げると、少し大きめに貼られたガーゼが顕になる。
「ガーゼ、取ってもらってもいい?」
「うん……わかった」
言われた通りガーゼを取ると、僅かに赤く腫れていた。それを見てキャロルが悲しそうに目を伏せると、魔導書を作り出し治癒魔法をかけてくれる。
あっという間に腫れも赤みも引き、やっぱり彼女の治癒魔法は凄いなぁと感心する。
「ありがとう、キャロルさん」
キャロルは小さく首を振ると、両手で私の手を握り込んだ。
「……私……たまたま、カイちゃんの端末が目に入って、二人のやり取りを見ちゃったの。それで、カイちゃんに全部教えてもらって……とてもショックだった。何よりも、大切なコレルちゃんが怪我しちゃったことが……すごく、悲しくて……いっぱいカイちゃんのこと、怒って、泣いて……」
握り込こまれた手に力がこもる。
「コレルちゃんが、無事で良かった……本当に……ほんとに、よかっ……ぐす……」
「……キャロルさん」
私は空いている方の手で、キャロルの背中を優しく撫でた。
「ごめんなさい、心配をかけてしまって……」
キャロルが首を横に振る。
「……でも、どうか……危険なことはしないで」
「……うん」
カイちゃんに目配せすると、こちらに来てくれる。そっと優しくキャロルの肩に手を置くカイちゃん……その手の上にキャロルは自身の手を添えると、二人は教室の隅へと移動する。
私は小さく息を吐くと、まだ一言も発していないシャーレ嬢に気付く。
ぱっと彼女の方へと振り向くと、真っ赤な顔をして涙目でブルブルと震えている様子が目に入る。
「……し、シャーレさん?」
名前を呼ぶと、涙目のまま睨まれてしまう。
「……っ、あなた……どれだけ、わたくしっ……わたく……っ、心配したと……っ、キャロ、さんから……はなし……っ、聞いて……っ……怪我をしたっ……て……ぐっ……」
「あ、あの、大丈夫……ですか?」
私が尋ねると、我慢していたであろう涙がボロボロと零れ落ちる。
「大丈夫なわけないでしょう〜! なんなんですのよ、もお〜! 怪我なんかして〜! おバカ〜! わたくし心配で心配で……うぅ〜……」
シャーレ嬢が、見たことのない泣き方をしている。いつもの凛とした美しい彼女とのギャップに思わず、きゅんとしてしまう。
「ちょっと、聞いていますの!? もお〜!」
「ご、ごめんなさい! 聞いています!」
「また同じようなことをしたら、絶交ですからね!」
「は、はい!」
「もし次に何かあった場合には、わたくしにも話してくださいます?」
「はい!」
「……でしたら今回、お話ししてくださらなかったことは水に流しますわ」
そう言うと、シャーレ嬢が私の右腕に手を伸ばしてくる。
「……もう、痛くはありませんの?」
「は、はい! ちゃんと処置をしてもらいましたし、先ほどキャロルさんにも治癒魔法をかけてとらったので、もう何ともありません!」
「……そう。良かった」
ほっとしたように、シャーレ嬢が呟く。
皆さんに、たくさん心配をかけてしまった。私は何も深く考えていなかったんだ。
犯人を捕まえて、二人が悪意に晒されることなどなく平穏で安心した毎日を送れたら、それでいいと思っていた。少しでも辛い思いをしてほしくなかった。
……ただ、それだけのつもりだったのに。
私も私を大事にしようとしていたはずなのに、全然できていないなぁ……と悲しくなってしまう。
私が、しょげているといつもの調子を取り戻したシャーレ嬢が声を上げる。
「――では、この話はここまでにして、作戦会議とまいりましょう」
「……え?」
「ここから先は、わたくし達みんなで犯人を見つけ出しましょう」
「ん?」
「そうだね! これからは、みんなで一緒に犯人探しだね!」
「微力ながら、私も助力しよう」
「――だってよ、コレル」
「え? え? で、でも、相手は平気でマジックアイテムを人に向けて来るような人で……」
「だからこそ、皆で協力し合うのですわ。ねぇ、皆さま?」
私が慌てて止めようとするが、皆さんはもう決めたことだと、譲る気はないようで……。
どちらにしろ、このままというわけにはいかないのだと私も腹を括ることにした。




