表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】憧れの乙女ゲーに転生したのに悪役モブ令嬢!?~ギロチン確定で攻略キャラたちからの好感度最悪ですが抗い続けたら楽しい学園生活が待っていました~  作者: スズイチ
第一章 モブ令嬢の抗い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/57

3 あなたも前世の記憶持ちなんですか!?

 

 

 ――あれから数日が過ぎた。


 今のところ何の問題もなく、穏やかな毎日を過ごしている。キャロまほでも、かなりの序盤なので当然ではあるのだが。

 

「コレルちゃん、このあと時間があるなら一緒にカフェテラスに行かない?」

「アレットさん! う、うん。是非っ!」

「やったぁ! じゃあ帰りの支度してくるね」


 はしゃぐキャロルは、今日も可愛い。


「あ! フォルワードさんもご一緒にいかがですか?」


 帰り支度をしていたキャロルが、近くにいたシャーレ嬢に声を掛ける。

 おお! 3人でカフェテラスなんてドキドキしちゃうな。


「結構ですわ。失礼いたします」


 私のドキドキ虚しくキャロルの誘いをきっぱり断ると、シャーレ嬢は足早に教室を出て行ってしまった。


「……えへへ。振られちゃった」

「……そ、そうだね」

「クラスに女の子は三人しか居ないし、フォルワードさんとも仲良くしたいんだけどなぁ……」


 キャロルが少し寂しそうな表情で呟く。


「同じクラスになってまだ数日しか経っていないし、一緒に過ごしている内にきっと仲良くなれるよ!」

「コレルちゃん……うん。ありがとう」


 カフェテラスに着くとキャロルは、チェリータルトとキャラメルティーを。私はプティングとアールグレイをそれぞれ注文した。


「あの、アレットさ……」

「ねぇ、コレルちゃん。そろそろ私のことも名前で呼んでほしいな」

「え!?」


 心の中ではいつも名前で呼んでいるが、本人を前に呼ぶのは緊張してしまう。


「ダメ、かな?」


 はぁ~~……何だ、それは? 可愛いが人類を越えている……。


「え、えっと……キャロル、さん……?」

「はい!」


 キャロルが花がほころぶような笑顔を見せる。あまりの眩しさに顔を覆ってしまった。


「ふふっ嬉しいなぁ。あ、コレルちゃんもチェリータルト食べる? はい、あーん」

「はえ!?」

 

 カスタードたっぷりのチェリータルトの乗ったフォークを口元に差し出される。こんなことしてもらっても良いんですか? 攻略キャラでもないのに? 緊張を悟られないように、小さく深呼吸してから口を開く。


「い、いただきます……」

「うふふっ美味しい?」

「――んぐ。は、はい。すごく美味しいです。あ、よければ私のもどうぞ」

「わぁ! ありがとう」


 お互いのデザートをシェアするなんて初めての体験だ。キャロルは私にたくさんの初めてをくれる。こんな素敵な放課後を過ごせるなんて夢にも思ってなかった。


「ありがとう、キャロルさん」

「ん?」

「ううん! 何でもない」


 えへへと笑って誤魔化し、二人で楽しいお茶の時間を過ごした。

 

 この後、キャロルは生徒会室に用があるとのことで行ってしまった。

 ここは共通ルートで、生徒会の仕事を手伝って欲しいとアルベルト様に打診されるはずだ。

 

 私はというと甘いものを食べたこともあり、散歩がてら遠回りをして寮に戻ることにした。

 誰もいない校舎裏の小道をのんびりと歩く。

 プティングもキャロルから貰ったチェリータルトも美味しかったけど、前世で主食だった和食が恋しい。


「はぁ……おむすび食べたい。具は明太子と鮭がいいなぁ……お豆腐とワカメのお味噌汁に、だし巻き卵も付けて欲しい……しらす丼に温玉乗っけたのも食べたいなぁ……あとお魚の煮付に、から揚げに、天ぷらそば……」

「…………お前さん、もしかして日本人?」

「は? えっ!?」


 私、口に出してた!?

 いや、それよりも何でこんな所にカイちゃんが!?

 どうやら、校舎裏のベンチの上で寝てたらしい。気付かなかった……。


「ああ、いや。変なこと聞いたな、悪い」

「い、いえ……」


 今、日本人って言ったよね? なんで? どういうこと?


「――あ、あのカイちゃ……ガレルローザさんは、日本をご存知なんですか……?」

「お前さん、やっぱり日本人……いや、んなワケないか……っつーことは、前世で日本人だったってやつか?」

「なぜそれを!?」

「俺も同じだからな」


 今、何て言ったのこの人?

 俺も同じ? 前世が日本人?

 

 あまりにも予想外で茫然としてしまう。


「おーい、大丈夫か? まぁ俺も驚いてるけどな」

「……あっ、は、はい! すみません! えっと、ガレルローザさんも前世は日本人だったんですね……いつ、お気付きになられたんですか?」

「あー……俺は九歳ん時に誘拐されて、犯人に殺されかけた時に記憶がバーッとな……。お前さんは?」

「さらっと凄いこと言いますね……。私は、つい最近です。この春休暇の時に崖から転落してしまって……その際に」

「……なるほどなぁ。良かったらちょっと話そうぜ、座んなよ」

「あ、ありがとうございます」


 ベンチに座っていたカイちゃんが場所を少しずらして私の座れるスペースを作ってくれる。


「お前さんは前世……日本では何してたの?」

「私は、東京でしがない会社員をしておりました。ガレルローザさんは?」

「んー? 俺は……まあ、いろいろやってたけど一応メインは女性向け風俗かな」

「じょせいむけふうぞく?」


 聞きなれない言葉に思わず聞き返してしまう。そんな私を見てカイちゃんは目を細めて笑う。


「お前さんは、そういうのと無縁そうだもんなぁ……。女の人相手の夜のお仕事ってやつ。俺の親はとんでもないクズでさ。金もないくせに飲む打つなんてのは当たり前で、機嫌が悪いとすぐに殴るような奴らなワケよ。俺だけならまだ良かったんだけど、弟が二人いてさ。あいつらのこと守って飯も食わせてやんないといけなくてな。……けど、俺のことで客同士が揉ちまって間に入った時に刺されてそのまま……ってな」


 ……壮絶すぎる。

 カイちゃんの前世、地獄すぎない?

 私の人生ズタボロだと思ってたけど、とんだ甘ちゃんだった……。


「あの……私、自分の前世こそ最悪で一番不幸みたいに気取ってました……すみません……」

「ははっ! なんで謝んの。みんな、それぞれ自分の人生しか背負えねぇんだし、辛さや重さもその人のもんだから、お前さんが辛かったんならそれは他の誰よりもお前さんが一番辛かったでいいんだよ。誰かと比べなくていい」

「……ありがとうございます」


 優しくて、強い人だ。


「私も私の前世のことお話ししてもいいですか?」

「もちろん。いくらでも聞いてやるよ」


 恥ずかしく情けない私の前世。

 誰にも知られたくないと思っていたけれどカイちゃんには話しておきたくなった。


 時々詰まりながら、時には感情的になりながら私は自分の前世を話した。

 

 そして、核心に触れる。


「……ガレルローザさんは、ゲームはお好きでしたか?」

「ゲーム? いや、んな余裕なかったし、たまーにスマホで弄るくらいのもんだったかな」

「……そうですか。えっと、かなり唐突な話になってしまいますし信じられないかもしれませんが、前世に『キャロルと秘密の魔法世界』という乙女ゲー……女性向けの恋愛ゲームがあったんです。そして、ここはそのキャロルと秘密の魔法世界の世界なんです」

「……は? キャロル?」

「はい。キャロルです。ガレルローザさんの幼馴染でもあるあのキャロルが主人公のゲームなんです」

「……なに? 一体どういうことだ?」

「何もかもが一致しているんです。グランジェインという国も登場人物たちの容姿も名前も、私の大好きだったキャロまほと……。ありえないと言い切ってしまうには、余りにそのまま過ぎる」


 カイちゃんの困惑が手に取るようにわかる。


「――えーと……ちょっと待ってくれ。つまり、ここはそのキャロルの何とかって言うゲームの中ってことなのか?」

「いえ。それは少し違っていましてキャロまほの世界に転生したと言うのが正しいかと。今、私達はちゃんとこの世界で生きていて生活をしています。ここは紛れもない現実です」

「…………そうか」

「ガレルローザさんは、相手の出自や能力や好感度……誰が誰をどう思っているかを、魔法で読み取ることに長けていますよね? ガレルローザさんはゲームの中では、キャロルのお助けキャラだったんです。攻略キャラがキャロルをどう思っているのかとか、攻略キャラに何をあげれば喜ぶとか……そう言ったことを教えてあげるのがガレルローザさん……『カイちゃん』の役目でした。ちなみに攻略キャラはアルベルト王子、王子の右腕的存在のジェラルド様、2年のサイラス様に、同じく2年のルーク様の4名です。プレイヤーは主人公ヒロインのキャロルになって、4人の誰かと恋愛をするか魔法を極めてこの国の聖女になるかを選んでエンディングを目指します」

「……ちょっと待ってくれ」

「はい?」

「すると何か? 俺はキャロルが他の男とくっつく手伝いをするだけの奴ってことか!?」

「……はい。そういうことになるかと」

「キャロルが俺を好きになったり、俺とキャロルが恋人同士になるってことは!?」

「……ゲーム内では、まずありえないですね」

「…………マジかよ」


 カイちゃんが片手で顔を覆い項垂れる。

 これは、もしかして……。


「ガレルローザさんは、もしかしてキャロルさんのことがお好きなんですか?」


 カイちゃんは自分の若葉色の髪をぐしゃぐしゃにしながら、あ"~~っと声を漏らす。


「……そう。すっげぇ好き」

「あらぁ~!」


 思わず口元を押さえてしまう。

 顔が赤い……耳まで赤い。かわいい。

 カイちゃんはキャロルが好きなのかぁ。そりゃあ、あんなとびきり可愛いくてキラキラした天使みたいな子が側にいたら好きになっちゃうよね。


「で、お前さんは?」

「はい?」

「そのゲームん中で何やってたんだ? キャロルの友達か?」

「…………私。……私は、名前すら出てこないキャラクターでした……」

「は?」


 カイちゃんに全てを話した。

 ゲームの中で何をしでかしたか。どんな役回りだったのか。

 舞踏会の時のことも春休暇をどんな風に過ごしたかも……何もかも洗いざらい彼に話した。

 一言も発せず静かに聞いてくれていたカイちゃんが口を開く。


「…………そっか。なるほどなぁ……お前さんも大変だったな」


 カイちゃんが私の頭をくしゃりと撫でる。

 その手つきの優しさに思わず泣きそうになってしまう。


「んじゃ、俺が協力してやるよ」

「へ?」

「抗うんだろ? 俺にできる範囲でだが、お前さんに協力してやる。――それに、もしお前さんがゲームとは違う運命を辿ったんなら俺にも希望ってやつがあるかもしんねぇしな」

「……ガレルローザさん」

「お前さんの話聞いて、俺も抗ってみたくなったんだ」

「……ありがとうございます。私もガレルローザさんとキャロルさんが恋仲になれるよう、微力ながらお手伝いします! 実はカイちゃんは、お助けキャラなのに容姿もキャラも魅力的だと発売当初から人気で、彼を攻略できるルートはないのかってSNSでも騒がれてて……だから、カイちゃんも主要キャラに負けないくらいの人気があったんです! えっと、つまり何が言いたいかというと、私よりもずっと希望も未来もあります!」

「ははっ! ……そっか、んじゃ期待しとく。宜しくな」


 カイちゃんが手を差し出してくる。

 握り返した手は想像よりもずっと大きくて温かかった。


「それと、あと一ついいですか?」

「ん?」

「私もガレルローザさんのこと『カイちゃん』って呼んでも構いませんか? あっ、いや、その、ゲームを楽しんでいた身としては、そちらの方が馴染みがありまして……って、さすがに馴れ馴れしすぎますよね! すみませ……」

「いいよ」

「え?」

「名前なんてお前さんの好きに呼んだらいいさ。折角だし俺もコレルって呼ばせて貰うよ」

「あっ、ありがとうございます!」


 まさか私と同じく前世の記憶を持っていて、その人が協力を申し出てくれるなんて夢にも思っていなかった。


 胸が跳ねる。気持ちが高揚する。

 どうしようもない自分が何処まで出来るかなんてわからない。

 それでも、希望はあるのだと信じられる。


 はっと息を吐く。

 心地の良い時間だ。今日のこの瞬間のことを私はきっと一生忘れないのだと思う。

 

 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ