38 私の提案
――断罪が回避されたのではと、思わず声を上げてしまった日の放課後。
私は、カイちゃんと庭園へと来ていた。
「急に呼び出してごめんね、カイちゃん」
「構わねぇさ。あれか? 今朝、お前さんが叫んでた断罪が回避されたってやつのことかい?」
「……お察しの通りなのですが、突然叫んだりしてお恥ずかしい限りです……」
「ははっ、それだけお前さんにとっては衝撃的だったんだろ。気にしなくていいさ」
相変わらず、カイちゃんは優しい。
「あれだろ、前に話してくれたやつ」
「うん、そうなの。実は……」
カイちゃんにここまでの流れと、断罪イベントがあるのは必ず他校との交流会の前だったということを伝える。
「良かったじゃねぇか! お前さんなりに、頑張って来たことが報われたんだな」
「う、うん! いろいろ変わっちゃってるから、完全に回避されたとは言い切れないけど、多分……大丈夫なんじゃないかなって思ってる」
「そっか、大変だったな」
労るように頭を撫でられて、少し泣きそうになってしまう。
「そ、そうだ! カイちゃんは、キャロルさんとはどうなの? 秋休暇は一緒に過ごしたんでしょ?」
「……ああ。うん、そうだな」
何だか歯切れが悪い。どうしたのだろう?
「……どうしたの? キャロルさんと何かあった?」
「――いや。プロポーズしたんだ、キャロルに」
…………プロポーズ?
「えっ!? ぷっ、プロポーズって、あのプロポーズですか!?」
「ああ」
「そっ、そそそそれで、キャっ、キャロルさんは、なんて……?」
真っ直ぐに見つめてくるカイちゃんの言葉を、私は固唾を呑んで静かに待つ。
「……恥ずかしそうにしながら、小さく頷いてくれたよ」
カイちゃんは、にこっと笑うとピースする。
私は、その言葉にぱあぁと顔が輝いたことが自分でも分かる。
「わあぁ! よっ、良かったねぇ!!」
「ああ。次の休暇に、二人で婚約指輪を買いに行く予定だ」
その言葉を聞いて、私は思わず泣いてしまう。
「……ほ、ほんとに、よかっ……うっ……二人とも、幸せになってね……うぅっ……」
「……ふっ、ははっ! なに泣いてんだよ」
吹き出したカイちゃんに、頭をくしゃくしゃに撫でられる。
「――ありがとな、コレル」
「……うん……うん、みんな幸せになれると良いね」
私の言葉に、カイちゃんの表情が曇る。
「……実は、さ……」
「……?」
ぽつりぽつりと、カイちゃんが話し始める。
何でも、夏休暇が明けて暫く経った頃から妙なことが起り始めたらしい。
キャロルの私物が無くなったり、壊されたり……しかも、キャロルだけではなく……。
「シャーレさんも!?」
「ああ。シャーレお嬢さんにも、同じようなことが起こってるらしい」
……二人に、そんなことが起こっているなんて知らなかった。
「……なんで、二人とも私には言ってくれなかったのかな……」
「ああ、そこは勘違いしないでくれ。元々、俺がキャロルから相談を受けてたんだ。で、それを偶々《たまたま》シャーレお嬢さんに聞かれちまってな」
「……そう、なんだ?」
「ああ、二人とも驚いてたぜ。貴女もですかってな……。それで、コレルには心配かけないように黙っておこうってなったんだ」
「……そっか」
「二人にとっては、お前さんに対する配慮なんだ。理解してやってくれ」
「……うん、分かってるよ。ありがとう、カイちゃん」
私は、カイちゃんに微笑みかける。
本心では話して欲しかった気持ちはあるけれど、私が二人の立場でも口にはしなかったと思う。
「……それで、お前さんに聞きたかったんだが、ゲームではこんなことは無かったのか?」
「う、うん! ルートによっては、嫌味を言われたり呼び出されちゃうこともあったけど、物を壊されたりなんてことは無かったかな……」
「……そう、か。ありがとな、教えてくれて」
「ううん!」
しかし、二人が同じように嫌がらせを受けるなんて……。そこで私は思い付く。
「ね、カイちゃん。よければ、私たちで犯人を突き止めない?」




