37 これからのこと
文化祭が終わると、すぐに秋休暇が訪れる。
私はいつも通り、自宅の屋敷に帰って来ていた。
夏休暇と違って、皆それぞれ予定があるらしく、会うことが難しかった。
カイちゃんとキャロルは、カイちゃんの別荘へと行くらしく嬉しそうに報告された。
二人は、そこでも何か進展があるかもしれないなぁ。休暇が開けたら聞いてみよう。
シャーレ嬢は、おばあ様の元で過ごされるらしい。おばあ様は上品かつ博識な方でシ、ャーレ嬢の憧れらしい。さすがは、シャーレ嬢のおばあ様だ。私も機会があれば、一度お会いしてみたいな。
ジェラルドさんは、弟さん(弟さんは、アインベルツ家の子だと教えてくださった)と共に騎士団に所属されている、叔父様のところで特訓をなさるらしい。
お休み中も、鍛練だなんて大変過ぎる……。休暇が開けたら、何かお好きな物を差し入れさせて貰おうかと考える。
そんな感じで、皆さん予定がギチギチらしい。
ゲームでも、秋休暇の間キャロルは魔法の特訓をメインにしてたことを思い出す。
私は、ふと息を吐くと窓の外を眺める。
整えられた庭で、秋の花々が心地良さそうに揺れている。愛らしい花を見ながら紅茶を一口飲むと、今後のことを考える。
文化祭が終わったので、次の大きなイベントはニューイヤーイベントのはずだ。
ニューイヤーイベントは、冬休暇中に行われるイベントで、好感度の一番高いキャラからお誘いを受けて、一緒に参加するものである。
今のところ、キャロルと一番好感度の高い攻略キャラは、どなたなのだろう?
ふと、キャロまほでの各ルートを思い返していると、ジェラルドさんとキャロルの仲睦まじいスチルが脳裏に浮かぶ。
――ざわ。
あーー……ダメだ、胸がざわざわする。
……どうしてこうなった。
思えば、ネイサン達と和解した後の馬車の中から、いつものジェラルドさんとは少し違っていたような気がする。
そして、魔法祭で演舞が終わった後に制服を取りに行ってくれて帰って来た時。
動揺していた私に気遣ってか、僅かに距離を取ってくれていた。その後も相変わらず優しくて友好的だが、これまでよりもほんの少しだけ距離を置いてくれている。
私は、それを何となく寂しいと感じていた。
これって、もしかしなくてもジェラルドさんに惹かれてるってことだよね……?
いや、落ち着け。それよりも今はこの先のことを考えよう! 自分の生存を優先だ!
えっと、なんだっけ。
ああ、そうだ。そもそも、キャロルはルートに進むための大きなイベントは、主にカイちゃんと過ごしているはずだ。
秋休暇でも一緒に別荘に行くって、もうそれはそういうことだよね? おお。なんだかドキドキしちゃうな。
文化祭でのキャロルの反応を見ていても、恐らく二人が結ばれるのは、時間の問題だと思われる。
そうなると、キャロルは聖女ルートに進むのだろうか? いや。そこは、カイちゃんとの幸せルートでいいのかな?
これまでの流れを考えると、本来のゲームの流れとかなり異なっているはずだ。
私自身も、さまざまなイベントに関わったり参加させてもらった。
キャロルやカイちゃんやシャーレ嬢……それに、攻略キャラの皆さんとも仲良くなれた。いや、アルベルト様とは、今でもめちゃくちゃ距離があるけども……。
もしかしたら、このまま何事もなく過ごして行くことが出来るのではないだろうか。
この流れなら、断罪イベントを回避できるのではないだろか。
そもそも、前世のことを思い出してキャロルと関わっているうちに、彼女に対して怨み妬みの感情で、魔法で攻撃するなんてことは有り得ないことだと、ずっと思っていた。もし仮に何らかの事故が起きてしまって、キャロルに対して魔法を使ってしまったとしても、故意にキャロルを攻撃するなんてことは無いと、信じてもらえるのではないだろうか……そんなことを考えてしまう。
少なくともゲームの中の私と違って、今の私はキャロルに対して、怨みも妬みもしていない。
楽観的かもしれないが、何となく上手く行くのではないかという感情が強い。
それは、今が私にとって楽しくて充実した毎日だからかもしれない。
自分を変えようと、私なりに努力して。皆さんとも仲良くなれて、サイラス様とのお話しで、将来のこともほんの少しだけど考えるようになって……。
以前の自分よりも、ずっと好きになれた。
今ならもし断罪されたとしても、多少なりとも納得して死ねると思う。
けれど、今度は未練が出来てしまった。もっと生きたい。これからも皆とたくさんの楽しい時間を過ごしたい。魔法も極めて行きたい。
ジェラルドさんとも……そこまで考えたところで部屋の扉がノックされる。
「失礼します」
「師匠!」
「お嬢様、今日は爪の美しい整え方が知りたいとのことでしたよね?」
「はい、今日もよろしくお願いします!」
ごちゃごちゃ考え過ぎていたところに、師匠が来てくれて、ほっと息を吐く。
まだまだ自分磨きも、やって行きたい。
大丈夫。信じよう、可能性を。
そんなことを考えながら、爪をピカピカに磨いてゆくのであった。
私の秋休暇は、主に自分磨きに精を出すことに集中した。
◇
秋休暇が終わり、久し振りに皆と会えて休暇中の話に花を咲かせていたが、担任の先生が現れて中断される。
各々が席に着き、先生の話を聞いていた時。
私にとって、驚くべき言葉が発せられた。
「皆さん、秋休暇はどうでしたか? すぐに冬休暇が訪れますが、体調に気を付けて勉学に励んでくださいね。冬休暇の前に、他校との交流会がありますが……」
……………………は?
他校との交流会?
他校との交流会は、二年生になって暫く経ってからのはずだ。そして、その前に断罪イベントがある。
え。待って……どういうこと?
何で、こんな時期に交流会があるの……何もかもがチグハグだ。
それでも、一つだけ核心めいたものがある。
これは、つまり……
「私は、断罪イベントを回避できたってこと!?」
私は思わず興奮ぎみに声を上げて、立ち上がってしまった。




