30 文化祭・2
なんとか、人目につく前に手を繋ぐことは回避され、ジェラルドさんと屋台を見て回ろうかと話していた時。
同じく一緒に見て回っていた、キャロルとカイちゃんに出会した。キャロルが元気に手を振ってくれたので、私もにこやかに手を振り返す。
「よお。お二人も一緒かい?」
「ああ。そちらもか…………何か?」
カイちゃんが、にまにまとこちらを見ていたことに対し、訝しげにジェラルドさんが問う。
「いやぁ。改めて、なんつーか……あのアインベルツ様がなぁ」
「バカにしているのか?」
「まさか。まぁ何だ、お互い鈍いヤツ相手だから気長にやって行こうぜ。――そうだ、俺達はこれからお化け屋敷に行くんだが、一緒にどうだい?」
カイちゃんのお誘いに、ジェラルド様が私に目配せをする。
「私は構わないが。コレルは、どうだろうか?」
「私も構いませんよ。楽しそうです」
私達の返事にカイちゃんが、にこりと笑って頷く。
「よし、決まりだな。じゃあ行こうぜ」
お化け屋敷の前まで来ると、意外な賑わいをみせていた。
列に並んでいる人達を見渡すと、男女二人の割合が大半を占めているようだった。やはり、いついかなる時もこういった場所は、カップルで溢れているものなのだなぁと、思わず関心してしまう。
そういえば、カイちゃんとキャロルはどうなっているのだろうか。かなり良い感じなのではと、個人的には思っているのだが。
考えていると、ふと後ろに振り返ったカイちゃんと目が合う。
にこっと笑ってくれたカイちゃんに、こっそりと最近はキャロルと、どんな感じなのかを聞いてみた。
「ん? まあ、悪くはないと思うぜ。お前さんのお陰でいろいろと先回り出来てるし、今もこうやって一緒に文化祭を回れてるしな」
「そっか。文化祭中は、ずっと一緒なの?」
「いや、キャロルの両親も来るって言ってたからな。そん時は、さすがに別行動だ。けどそれ以外の時間は、ほぼ一緒にいる予定だな」
「あらぁ~そうなの~。良かったね」
そんな会話をしていると、突如カイちゃんと私が引き離される。
「ちょっと、近すぎるんじゃないか?」
「そうだよ、カイちゃん!」
ジェラルド様が私の腕を、キャロルがカイちゃんの腕を掴んだのだ。
「君は今、誰と一緒にこの場にいるんだ?」
「コレルちゃんと仲良しなのは知ってるけど、カイちゃんが今一緒にいるのは私なんだよ?」
「ジェラルド様!? す、すみません!」
私は、慌てて謝罪する。
確かに、一緒にいる相手がこそこそと別の人とお話していたら、嫌な気持ちになっちゃうよね。失礼なことをしてしまったと、反省する。
――いや、待って。それよりも、キャロルの反応が今までと少し違う気がする。これは、もしかしなくても脈ありなのでは!?
そう思って二人を見ると、とんでもなく甘い雰囲気を醸し出していた。
カイちゃんがキャロルに、愛しくてたまらないといわんばかりの優しくとろりとした笑みを向けていて、柔く頭を撫でている。
「ん。ごめんな?」
「……ううん。私こそ急に引っ張っちゃって、ごめんなさい」
「いや、俺は嬉しかったけどな」
「……カイちゃんは、優しいね」
「ああ。お前さんには、特別な」
こ、これは絶対に邪魔をしてはいけないやつだ!
二人の甘い空気に、何だか見てはいけないものを見ている気持ちになってしまい、目を逸らす。
「……君は、よそ見ばかりだな」
「え?」
言葉と共に手を取られ、そのまま指を絡められる。
――ひぇっ!?
こ、これは、世の恋人と呼ばれるの方々のされるものでは!?
「先ほど、様呼びをしたからな」
「えっ? あっ! で、ですが、この繋ぎ方は……!」
「嫌だろうか?」
「い、嫌とかでは……ありませんが……」
「では、5分間このままで」
「……あ、う……は、はい……」
じ、自分の指の間にジェラルド様の指がある……。凄い……なんだろう、この状況……。じわりと汗が出てきた。
は、恥ずかしい……。私はなぜ、ジェラルド様のような美しい殿方と、指を絡めているのだろうか?
頭の中でぐるぐると考えていると、カイちゃんとキャロルの番が来て、お化け屋敷の中へと入って行ってしまった。
ジェラルドさんと私の番が来る数分後まで、私たちは指を絡めたまま、列に並ぶとこになってしまった。




