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【完結】憧れの乙女ゲーに転生したのに悪役モブ令嬢!?~ギロチン確定で攻略キャラたちからの好感度最悪ですが抗い続けたら楽しい学園生活が待っていました~  作者: スズイチ
第一章 モブ令嬢の抗い

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2 主人公登場

 

 高等部、登校初日。


 エスカレーター式なので基本的に見知った顔ばかりなのだが、さすがに何だか緊張してしまう。


 小さく深呼吸して顔を上げると何となく見たことのある男子生徒と目が合った。

 以前の私ならすぐに目を逸らして無視していたけれど、師匠から教わった目が合ったらとりあえず微笑んでおくを実践してみる。


 男子生徒は目を細め難しい表情で私をまじまじと見つめたかと思うと、突然何かに気付いたように隣の男子に声を掛けた。


「おい、あれマルベレットさんじゃないか?」

「は? マルベレットさん? あの人が? いやいやいやいや…………え?」

「な!?」

「本当だ! わあ……以前とは別人みたいだね」


 二人の会話に辺りがざわざわし始める。


「マルベレットさん? あれが?」

「ずいぶんと面変わりされましたわね」

「普通に可愛くないか?」

「うん。俺もそう思う」

「俺、ちょっと好みかも!」

「何かあったのかしら?」

「ほら、あれではなくて? 舞踏会の……」

「ああ……アルベルト様にあんなことを言われてしまったら変わりたくもなりますわよね」


 いろんな声が聞こえてくる。

 まあ多少なりとも同級生が休み明けに変わっていたらざわつくし、いろんなことも言われちゃうよね。

 

 ――いや、待って。

 それよりさっき、誰か可愛いって言ってなかった!? 前世込みで生まれて初めて自分に向けられた単語なんですが!


 驚いていると声をかけられる。


「…………もしかして、マルベレットさん?」

「はっ、はい。おはようございます」


「髪をお切りになられましたのね。ずいぶんと印象が変わられましたわ」

「傷んでおりましたし、重く感じておりましたので。お陰でとてもサッパリいたしました」


 穏やかに会話しているが、相手は舞踏会でシャーレ嬢の悪口を言っていたのに、いつの間にか逃げていた例のモブ令嬢の一人だ。

 何事もなかったみたいに話し掛けてくるけど、あの時のこと忘れてないからね?

 とはいえ私も悪口に参加してしまったのは事実だし、自分を変えるきっかけになったのも確かなので、感謝は出来ないが恨むのもお門違いだ。


「そうだったのですね。ああ、そういえば編入生がいらっしゃるのはご存知?」


 …………きた。


 この学園は王侯貴族しか入ることは出来ないが一つだけ例外がある。


 それは『魔法』が使えること。


 この世界にとって魔法が使えるということは、とびきりのステータスだ。


『キャロルと秘密の魔法世界』


 タイトルの通り魔法というのはキャロまほの世界において主軸になってくる。

 魔法というものが使える世界ではあるが、誰も彼もが使えるというわけではなく、魔法は魔法に選ばれたものだけが使うことが出来る。

 遺伝因子才能などは関係なく『魔法』そのものが使う相手を選ぶのである。

 ゲーム内では選出方法は明らかにされていなかったが生まれながらに使える者から、ある日突然使えるようになる者もいる。そして、それは魔法自らが使う相手を選んだから……らしい。


 魔法は攻略対象キャラはもちろん、シャーレ嬢も使うことができる。


 ――そして。


「……あの」


 愛らしい鈴の転がるような声。

 振り返るとそこには主人公ヒロインが居た。


「一年七組の教室はどちらでしょうか?」


 桃色の髪に浅葱色の目。左側のサイドに花のヘアピンを付けている……ゲームの中そのままの出で立ちだ。

 だが、いざこうやって間近で彼女を見るとあまりの可愛らしさに驚く。

 華奢で小柄、ふわりとした春風のような空気。主人公ヒロインなので声は付いていなかったが、初めて聞いた声は想像よりもずっと甘くて柔らかだ。毛先だけ内に巻かれたさらりとした真っ直ぐな髪の毛も大きな目も何もかもが愛らしい。

 見るだけで心惹かれる、圧倒的主人公(ヒロイン)力。


 そりゃあ攻略キャラも落ちちゃうわ。

 こんな可愛い子が側に居て好きにならないわけがないよね。


「……あの?」

「あっ、えっと、七組ですね!」


 思わず見惚れてしまった……さすが主人公ヒロイン


「あの、同じクラスですので宜しければ一緒にどうですか?」


 同じクラスなのに別々に行くのも可笑しい気がするし、この先のことを考えると出来るだけ主人公ヒロインとは仲良くしておきたい。


「わあ! よろしいのですか? よろしくお願いします。私、キャロル・アレットと申します」


 うん。知ってる。ほんの僅かな時間ではあったけれど、私もキャロル(あなた)だったから。


「コレル・マルベレットと申します」

「仲良くしてくれると嬉しいです、マルベレットさん!」


 にこにこと楽しそうに微笑むキャロルは、どこまでも可愛いかった。


 教室に入ると見知った顔が勢揃いしていた。

 アルベルト様にジェラルド様にシャーレ嬢……他にもキャロルの幼馴染み且つゲームのお助けキャラでもある『カイちゃん』こと、カイン・ガレルローザ氏も居る。前世では、とてもお世話になりましたと心の中で手を合わせる。


「カイちゃん!」

「キャロル!」


 さっそくキャロルがカイちゃんに気付いたようだ。


「今日から一緒だな」

「うん!」

「言ってくれりゃあ、正門で待ってたのに」

「ううん。私はカイちゃんや他の皆さんと違って編入組だから、早く学校に慣れるためにも一人で来たかったの」

「相変わらず真面目だねぇ」

「うふふ。それとね、新しいお友達もできたのよ」


 そう言うとキャロルは私の腕に柔らかくしがみ付き、下から顔を覗き込んでくる。


「ね、コレルちゃん」

「へ? は? わ、私っ!?」


 予想外の出来事に思わずキョドってしまった。


「……あ、ごめんなさい。まだ少ししかお話したことないのにお友達とか言ってしまって……ご迷惑でしたか?」

「あっ、いえ! 全然! むしろ嬉しい、です……」


 女の子に……いや、人にお友達とか言ってもらったのは前世も含めて生まれて初めてだ。

 正直めちゃくちゃ嬉しい。心がほわほわしてしまう。


「へえ。良かったじゃねぇか。えっと……」

「こ、コレル・マルベレットです」

「俺は、カイン・ガレルローザ。よろしく」

「こちらこそっ!」

「うふふ」

「どうした?」

「お友達がお友達と仲良くしてるのって、何だか嬉しいなって思ったの」


 天使なのかな? 確かにゲームの選択肢でも性格の良さが滲み出ていたけれども……。感動のあまり天を仰ぎ顔を覆ってしまう。


 こんな素敵な子に対して、恨み妬んで酷いことを言うなんて考えられない……。


 ――おまけに。


 実は私も魔法が使えたりする。

 しかも、よりによって攻撃魔法に特化しているのだ。

 本来、何らかの事情がない限りは誰かに対して攻撃魔法を使うなんてことはあってはならないことだ。なのに、私はキャロル憎しで使ってしまい魔法のギロチンにかけられてしまう。


「……コレルちゃんどうかしたの? 大丈夫?」


 私が暗い表情をしていたのだろう。キャロルが心配そうに聞いてくる。


「う、うん! ありがとう。大丈夫です」

「本当に? 無理してない?」


 ――そんな会話をしていた時。


「キャロル・アレットさんだね」

「はい?」

「初めてまして。僕はアルベルト・グランジェイン」

「グランジェイン……って、もしかして王子様ですか!? は、初めましてっ!」

「君は治癒魔法に長けていると聞いたよ」

「は、はい! といっても、魔法の力を授かって半年にも満たないので、まだまだ未熟者ではありますが……」

「治癒の力を使える者は世界でも極僅ごくわずかしかいない。馬車にかれて重体だった老人を、その場に居合わせた君が完治させたそうだね。聖女の光臨だと街は大賑わいだったと聞いたよ」

「そ、そんな……」


 キャロルは恥ずかしそうに俯く。

 可愛い! 百点!

 可愛いキャロルを見つめていると、アルベルト様の隣にいたジェラルド様と目が合う。

 訝しげに私を見ると、ああ……と声を漏らす。


「舞踏会の時に殿下に木端微塵にされた女か。殿下の言葉が余程の堪えたのだな、あの時よりは多少は見れるようになっている」


 おっ! 言うね~! さすがはツンツンで名高いジェラルド様。

 彼はデレ期に入るまでは辛辣な言葉でこっちの心を遠慮なく抉ってくる。

 まあ、だからこそくっついた時のデレっぷりが堪らないんだけどね!

 テンプレとはいえ、ギャップって大事だよね。


「恐れ入ります~」


 とりあえず彼の言葉には当たり障りなく返しておこう。

 死ぬほど顔がいいし、ハイスペだけど人生に疲れた社畜のアラサー的には、この手のキャラは魅力的である反面とんでもなく面倒だと思っている。


 ゲームの中なら何だかんだ楽しめるし、ギャップに悶え死にそうになったこともあるけれど、現実だとそうもいかない。

 確かに成金貴族である私より家柄は格段に上かもしれないが、友人でもないほぼ初対面の人間に対してこんな辛辣な言葉を投げ掛けてくるような人、どんなにハイスペでもお近づきになるのは遠慮願いたい。

 キャロルと仲良くしたかったけれど、彼女と仲良くなるってことはもれなく攻略キャラが付いてくると言うことでもある。


「(うーん……難しいなぁ)」


 腕を組んで悩んでいるとジェラルド様が眉根を寄せてこちらを見ていた。

 何だろう。私、変なこと言っちゃったかな?


「あの、何か?」

「別に。何でもない」


 そのままツンとそっぽを向かれてしまう。

 やはり現実のツンツン人間は面倒くさい。


 教室内を見回す。

 七組ここは他のクラスよりもずっと人数が少ないはずだ。このクラスは魔法が使える者たちで編成されている。これから3年間このメンバーで過ごさなくてはならない。

 まあ、私の場合途中退場の可能性もあるのだが……。

 出来ればクラスメイトたちと平穏無事な毎日を過ごし卒業までこぎつけたい。

 そのためにも、私のやれることは全てやっておこう。

 小さく息を吐くと口角を上げる。

 

「師匠、私がんばりますからね」


 小さく呟いた声は教室の喧騒に飲み込まれた。

 

 

 

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