28 文化祭に向けて
文化祭まであと数日に差し迫った、ある日。
キャロルと私は、生徒会にお手伝いに来ていた。ちなみにカイちゃんとシャーレ嬢にも、声を掛けて来てもらっていた。
「アルベルト様。こちらの申請書類に、サインをお願いいたしますわ」
「はい、これでいいかな」
「おいおい。この、わくわく怪奇ハウスってのは何だ? ちゃんと出展する業者に、確認しに行った方がいいんじゃないのか?」
「そうだね。ガレルローザくん、一緒に来てもらってもいいかな?」
「各学年の、クラスでの展示や催しについてなんですけど……」
「あ~それはこっちでやっとくから、キャロルちゃんは備品の方を確認してもらっていい?」
「あの、来賓やご家族の方々への招待状なのですが……」
「わかった、こちらで確認しよう……数が多すぎるな。コレル、手伝って貰えるか?」
◇
「あー……大っ変だな。生徒会ってのは」
「全面的に、同意いたしますわ」
「確かにこんなに忙しいとは思わなかったね、キャロルさん」
「本当だね、生徒会の皆さん凄いね!」
一段落終えて私たちが談笑していると、サイラス様からの差し入れだとカフェテラスで買って来てくださった飲み物と軽食が振る舞われた。
「お疲れ様。みんな、今日はありがとう。好きなのを選んで食べてね」
皆が、わっと声を上げる。
私は皆が選んだあと、最後に残った物を手に取った。
「コレル」
「はい?」
ジェラルド様に声を掛けられ振り返ると、私の選んだ物とジェラルド様の持っていた物が交換される。
「ジェラルド様?」
「君は、こちらを食べるといい。あと『様』じゃなくて『さん』な」
私の手の中には、ホットティーと生ハムとチーズとお野菜のたっぷり入ったサンドイッチ。
どちらも私の好物だ。
「あ、あの……?」
「君は、それが好きなのだろう?」
言いながら、私と交換した珈琲を口に含む。
「よ、よろしいのですか?」
「ああ。私は特にこだわりがないから、なんでもいい」
ちなみに私が手に取ったのは、珈琲とスコーンだ。
「じゃあ、ジェラルド様……さんがお嫌でなければ半分こしませんか? ちょうど二つずつ入っていますし。これ、すごく美味しいのでジェラルドさんも食べてみてください!」
「……君がそう言うなら」
「はい!」
ワックスペーパーに包まれた片方のサンドイッチを、お渡しすると一緒にいただく。
「どうですか?」
「ああ。美味いな。今度からは私もこれをいただこう」
「えへへ!」
私たちのやり取りを見ていた皆が、一斉に口を開く。
「コレルちゃん、いつの間にジェラルド様と、そんなに仲良しになったの?」
「コレルって呼んでたよな」
「コレルさんも、ジェラルドさんとお呼びしておりましたわ」
「アインベルツ君、マルベレットさんと仲良くなったんだね。二人とも真面目で素直な優しい子だから、きっと気が合うんだろうね」
「へ~何か意外。ルドくんとコレルちゃんって、むしろ正反対な気がするんだけど? まぁ仲がいいのは悪いことじゃないけど。でもコレルちゃん、俺のことも構ってくれないと寂しくて泣いちゃうからね~?」
「ふふ、仲が良くてなによりだよ」
みんなの言葉にたじろいでいると、ジェラルドさんに肩を抱き寄せられる。
「ああ。コレルと友人になったんだ。なぁ、コレル?」
「え!? は、はい。そうですね」
「そういうことで、覚えておいて欲しい」
ジェラルドさんは皆を見て、どこか不敵に微笑んでいる。私はというと、突然のことにパニックになっていた。
「(え、えっと……どういう状況なの?)」
しばしの沈黙のあと、最初にルーク様が口を開いた。
「……なんか、ルド君って思ってた以上に分かりやすい子だったんだね。お兄さん、ちょっと驚いちゃった」
「へぇ……なんつーか、意外だな。まぁ俺はそういう分かりやすい奴、嫌いじゃないけどな」
「わあぁっ!」
「あらあら」
「仲が良いねぇ」
「……良くわからないけど、二人は友達になったんだ。素敵なことだね!」
なんだろう、この空気。
でも、何ていうか凄く穏やかというか明るいというか……楽しい雰囲気だ。
まさか生徒会室で、皆さんとこんなにも和やかな時間を過ごせるなんて、思ってもいなかった。
数日後は文化祭の本番だ。
当日が楽しみで仕方ないと、はやる胸を私は静かに押さえ付けた。




