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【完結】憧れの乙女ゲーに転生したのに悪役モブ令嬢!?~ギロチン確定で攻略キャラたちからの好感度最悪ですが抗い続けたら楽しい学園生活が待っていました~  作者: スズイチ
第一章 モブ令嬢の抗い

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21 王子様と妹姫・後



「クロエ?」

「こんな所にいらっしゃったのですね。探しましたのよ?」

「今日は客人が来ると伝えてあったよね?」

「……客人って、こちらの方々ですの?」


 少女が、ぐるりと私たちを一瞥いちべつする。


「……ふぅん」

「こら、クロエ。……ああ、申し訳ない。この子は妹のクロエ。ほら、ちゃんとご挨拶しなさい」

「……はぁい。皆さま、ご機嫌よう。クロエ・グランジェインです」


 妹姫にご挨拶をいただいたので、私達も立ちあがりそれぞれ丁寧に名乗る。


「今日は友人として遊びに来てくれたのだから、そんな風に畏まらず気楽に接してはくれないかな? 僕としてはその方が嬉しいな」

「いいのかい?」

「もちろんだよ」

「わ、わかりました!」

「……お兄様」


 アルベルト様の発言に、クロエ姫は不満そうな態度をとる。

 

 クロエ姫はゲーム中には出て来ることはなく、お目にかかるのは初めてに近い。式典などで遠目からは何度か見かけたことがあったが、いざ近くで拝見すると作り物のような可憐さと美しさがあった。さすがはアルベルト様の妹姫だ。


「それにしても、とっても可愛らしい妹さんですね!」

「ありがとうございますぅ。……あら?」


 クロエ姫は、テーブルの上に置かれたバスケットとその中身を見て眉をひそめる。


「なんですの、これ? なぜこのようなものがテーブルの上に?」

「あ、えっと、私が持って来たんです。お家のパンなのですが、良かったらクロエさ……クロエちゃんも食べてみて? 美味しいよ!」


 ペーパーナプキンでバスケットの中のパンを包み、クロエ姫に差し出すキャロル。その時……。



 ――パァン!



 その場に居た全員が、呆気に取られた。

 キャロルの手を、クロエは姫が振り払ったのだ。手にしていたパンがテーブルの下へと落ちる音が、やけに大きく響き渡る。


「このような低俗な物をわたくしに差し出すなんて、どういう了見ですの!?」

「クロエ!」


 アルベルト様が立ち上がると、クロエ姫をたしなめる。


「……お兄様、だって……」

「……あ、ご、ごめん、なさい……私がいけないんです……お姫様に、こんな……っ、ごめんなさ……っ」


 いやいやいやいやいや、なくない!?

 なんなの、この子? お姫様か何か知らないけど、こんな酷い仕打ちある? キャロルやキャロルのご両親が作った最高に美味しいパンにも失礼が過ぎるでしょ!? さすがに一言、苦言を呈そうと立ち上がって口を開こうとした時、カイちゃんが制御するように私の前に手を差し出した。


「悪いが、ここは譲ってくれ」

「……カイちゃん」

 

 私は静かに頷くと、おとなしく席に着く。

 カイちゃんは着ていたジャケットを脱ぎ、キャロルの頭から被せて彼女の頭を優しく叩いた。そして、落ちたパンを拾うとそのまま食し始める。


「――あのさぁ。お姫さんか何か知らねぇけど、どんな教育してんの?」

「申し訳ない。――クロエ、謝りなさい」

「……なぜですの? このような物を、わたくしに食べさせようとしたのに? そもそも、このテーブルの上にあったと言うことは、お兄様にも食べさせようとしていたのではなくて!? 許せないわ!!」

「――クロエ」


 アルベルト様が、すっと目を細める。


 ――ぞくり。

 

 途端に、その場の温度が急激に下がったかのように感じた。

 

 アルベルト王子という方は基本的には柔和な方だ。冷静で爽やかで人望があり、国民から絶大な人気を博している……だが、彼には誰に対しても一歩を踏み込ませない距離感が常にあった。ゲームでは、そのようなことはなく、今よりも正義感強く真っ直ぐなお人柄だったのだが……。


「謝りなさい」

「……で、ですが……」

「できるね?」

「――っ!……も、申し訳……ぐっ……」


 言葉の途中で、クロエ姫は走ってこの場を離れて行ってしまった。


「――クロエ!……申し訳ない。あの子には、後できつく言っておくよ」

「……い、いえ! 本当に大丈夫です! ごめんなさい。私のせいで……」

「お前さんは、悪くねぇだろ」

「そうですわ」

「うん。キャロルさんは悪くないよ」


 むしろ、たくさん気持ちを傷付けられてしまったはずだ。キャロルが辛い思いを、引き摺らなければ良いけれど……。


「お詫びと言っては何だけれど、宝物庫を案内するよ。本来は王家の者しか入ることの出来ない場所だけれど、折角遊びに来てくれたのだし楽しんで帰って貰えると嬉しい」


 アルベルト様の提案に、ざわりとする。

 宝物庫……アルベルト様の言葉通り、王族に連なる者にしか入ることの出来ない場所だ。自国の重鎮ですら入ることの出来ないような場所に、ただの学生が入ってもいいの!?


「と、とても有り難い提案ですが、よろしいのでしょうか……?」

「宝物庫……俺たちが入っても許されるのか?」

「後ほど、お咎めを受けたりはしませんか……?」

「……? そんなに凄い場所なの?」


 何も知らないキャロルが不思議そうに問うので、私達が説明をすると大きな目をキラキラと輝かせ始める。


「そんな凄い所に、行ってもいいんですか!?」

「ふふっ、勿論だよ。僕から提案したんだしね。だから、そんなに畏まらないで。――じゃあ、行こうか。着いてきて」


 ――案内された宝物庫は想像よりも更に素晴らしい場所で、神秘的で夢のような場所と時間をもたらしてくれた。


 キャロルも先程とは、うってかわって楽しそうにはしゃいでいる。

 カイちゃんは、そんなキャロルを見て安堵の様子を見せる。シャーレ嬢は興味深そうに宝物たちを懸命に見つめていた。

 

 一時は、どうなることかと思ったが良かったと息を吐く。


 アルベルト様を見ると、何処かぼんやりとしていた。

 不思議な方だ……そして掴めない方。ゲームと変わった部分はたくさんあるが、私の中ではアルベルト様に一番違いがあるように思える。


 何処で、このような違いが出来たのだろうか……。

 考えても仕方のないことだと頭を振ると、目の前の美しい彫刻に視線を移す。


 

 ――今はただこの素晴らしい空間を堪能することにした。

 

 


 

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