20 王子様と妹姫・前
お城に到着すると執事の方が出迎えてくれて、客室へと案内してくれる。
持参した手土産をそれぞれ手渡し、広々としたソファに座って静かに待っていると、アルベルト様が客室へと入って来られた。
「やあ。遠いところをようこそ」
相変わらず爽やかでお美しい方だ。白を基調としたお召し物も良く似合っていらっしゃる。
「ほ、本日はお招きありがとうございます!」
キャロルが勢いよく立ち上がると、代表して挨拶をしてくれる。
「ああ、そんなに畏まらないで。気兼ねなく寛いでくれて構わないよ」
「……あ、ありがとうございます」
そう言われても、緊張するのは至極当然のことである。隣にいるキャロルは、私よりも固まっていて出されたお茶に口一つ付けていない。
それに気付いたアルベルト様が困ったように笑みを溢す。
「――そうだ。よければ、庭園に行かないかい? そこでお茶にしよう。君たちが持って来てくれた手土産も一緒にいただこう」
アルベルト様の言葉に皆で頷くと、客室を出て庭園へと向かう。
「キャロル、緊張しすぎだ」
「だっだって……お城だよ!? 緊張しない方が無理だよ~!」
「うふふ」
執事さんを筆頭にキャロル、カイちゃん、シャーレ嬢。その後にアルベルト様。更にその後から私という並びで歩いていた。
私が最後なのは、廊下に飾られていた絵画を見ていて出遅れたせいだ。
さすがに、アルベルト様を追い越してみんなの所へ行くのは気後れしてしまう。まあいいかと、のんびりと歩いていると、アルベルト様の元から何かが落ちるのが見えた。
慌てて拾うと、それは真っ赤な宝石が嵌め込まれている美しいペンダントだった。
「あの、アルベルト様」
呼び掛けるとアルベルト様が振り替えってくださる。視線がかち合うと、いつもは美しく透き通った翡翠色の目が暗く沈んだように見えて、体が強張ってしまう。
「どうかしたの?」
にこりと穏やかに微笑んでくださるアルベルト様に、先程のほの暗さは何処にも見当たらなかった。
「……あ、い、いえ……そのっ、こちら、落とされませんでしたか……?」
先程のペンダントを差し出すと、アルベルト様が、ああ……と静かに呟く。
「拾ってくれてありがとう。いつもは首に掛けているのだけれど、今日は胸元に入れておいたから落ちてしまったのかな」
そう言うとペンダントを首から掛け、洋服の中へと仕舞われる。
「……お美しいペンダントですね」
「……妹からのプレゼントなんだ。――ああ、みんな随分と先に行ってしまったね。僕たちも行こうか」
「は、はい!」
庭園に着くと、みんなは先に座っていて和やかに談笑していた。キャロルも緊張が解れたのか、いつもの様子が伺える。
「アルベルト様、コレルちゃん!」
「遅かったですわね」
「大丈夫か?」
「遅れて、ごめんね」
執事さんが引いてくれた椅子に掛けると、みんなに謝罪する。
「ううん。何かあったの?」
キャロルの問に、アルベルト様が口を開く。
「マルベレットさんが落とし物を拾ってくれてね。それで、遅れてしまったんだ」
「そうだったんだ!」
「う、うん」
「――さて。それでは、お茶会を始めようか。今日は集まってくれてありがとう。楽しんで行ってくれると嬉しいな」
アルベルト様の言葉で、お茶会が開催される。
美しい花々の咲き乱れる庭園で、王子様や友人達とお茶会だなんて夢みたいだなあ……と紅茶を飲みながらぼんやりと考える。
テーブルの上にはシャーレ嬢の持参した特別な品種の花が飾られており、飲んでいる紅茶の茶葉は私の持ってきたものだ。老舗のお茶菓子も出してくれている。キャロルのバスケットも置いてあるし、敷かれているテーブルクロスは、カイちゃんの持参したものだろう。この国では珍しい生地に繊細なデザインが施されている。
ちゃんと持って来たものを出してくれていることに、関心してしまう。
他にも、様々なお茶菓子が所狭しと並んでいた。
「どのお菓子も美味しい~! ね、コレルちゃん」
「うん、本当だね」
「わたくしは、コレルさんのお作りになるお菓子も好きですわ」
「あ、ありがとうございます!」
「この紅茶美味いな」
「あ、それはねぇ……」
穏やかな時間を過ごしていると、愛らしい声が庭園に響き渡る。
「お兄様!」
その場に居た全員が振り返る。
年の頃は、十三歳くらいだろうか……眩い金色の髪に、透き通った海のような碧眼。小さな顔に、大きな目と長い睫毛。薔薇色の頬に、艶やかな唇。華やかなワンピースがとても良く似合う、美しい少女がそこに居た。




