15 ルーク様と放課後のお茶会・前
今日の放課後は、図書室でお目当ての本を借りてからカフェテラスで飲み物を買って、それを飲みながら中庭の奥のベンチでのんびりと読書をするという最高のプランを考えていた。
本を無事に借りられて、カフェラテを買い、中庭へと向かう道中でそれは起こった。
「……ひどい……なぜ、私ではダメなんですか?」
「……なんでだろうねぇ」
「……っ、ひどい……ひどい……です……っ……ぐすっ……」
「あー……泣かないで? ね?」
ルーク様が女子生徒を泣かせていた。
この光景を見るのは何度目だろうか? 基本的にルーク様は、来るもの拒まずの方だ。なのに、時々こうやってお断りしている場面に出くわす。
普段イチャイチャしている子達と、何がどう違うのか。これまで目にした子達は、みんな可愛くて綺麗な子ばかりだった。ただ一つだけ違いがあるとすれば、泣いている子達はみんな『本気』に見えた。
本当にルーク様のことが好きで好きで仕方がないと、全身で伝えているような子達ばかりが、何故か断られているのだ。やはり、そういった本気の子が相手だと後々面倒だったりするのだろうか? 前世も今世でもこういった事とは無縁なので、私にはいろいろと理解し難い。
「……遊びでも、一時的な関係でも構いません! ですから……ですから……っ、お願いします……っ!」
「……ごめんね。気持ちは嬉しいよ」
「――――っ、もう、いいです」
涙を拭っていたルーク様の手を払い除けて、女子生徒は去って行ってしまった。
うーん……私も早く中庭に行きたいのだが、この道を通らないと辿り着けない。のんびりプランは諦めるべきかと悩んでいると、頭上から声がする。
「お嬢さん」
「……は?」
見上げるとルーク様がそこには居た。
気怠げに髪をかきあげながら、私を覆うようにして壁に手を突いている。これは、いわゆる壁ドンっていうものでは? 生まれて初めての経験だが、ルーク様の目が一切笑っておらず、正直めちゃくちゃ怖いです……。
「こんなところで覗き見かな? いい趣味だね」
「……は!? い、いえ! 私は中庭の奥のベンチで読書をしようと、たまたま通りかかっただけです!」
「……ふぅん? でも、見てたよね?」
「……そ、それは、そうかもしれませんが……不可抗力と言いますか……」
「まあ、いいや。せっかくだしお茶でもしようよ……えーっと……ソフィアちゃん?」
「……コレルです」
一文字すら合っていない。
だが、こんなモブの名前を覚えている方がありえないので、そこは仕方ないかと苦笑する。
「そうだっけ? ま、何でも良くない? 俺も何か飲み物買って来るから、先にベンチに行っといて」
一緒にお茶をするのは確定なんだ……。のんびり読書タイムの予定だったのに。
でも、実際そのつもりはなくても告白されていた所を見てしまったのは事実だし、罪悪感が全くないわけでもないので、おとなしくベンチに座ってルーク様を待つことにした。
……。
…………。
……………………。
来ないのですが? え、もしかして忘れちゃった? それならそれで、当初の予定通り読書でもしようかと本を捲った時。
「お待たせ~」
あ、いらっしゃった。
覚えていたんだと顔を上げると、美しいお顔の左側が真っ赤に腫れていて、思わず二度見してしまった。




