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第1話 任務失敗?

 警報が鳴り響く小型宇宙船の中で、天体クレイアの地球調査隊員であるレイは頭を抱えていた。


「クソっ、どうなってんだよ」


 目的地である地球は目と鼻の先。少し気を緩めていたところで、けたたましいアラームの音が非常事態であることを告げた。

 反応しないコントロールパネルに加速し続ける機体、あらゆる液晶画面が乱れ、着陸地点も不明になった。急激な異変の原因がわからないまま、淡々と地球との距離が近づく。なんとか軌道修正出来ないものかと制御装置を操作するも、不具合が改善された様子はなかった。


「こちらD1号。応答願う!」


 逐一連絡を取っていた管制官からは、先程から一切反応がない。


「着陸まで、あと5分です」


 無機質なアナウンスが残された時間が僅かであることを告げる。それでも、レイは作業する手を止めなかった。

 調査隊員としてのマニュアルはクレイアを発つ前に完璧に覚えている。今までに詰め込んだありとあらゆる知識を整理していると、レイの脳裏に司令官の言葉が浮かんだ。


『想定外の事態が起こった場合、自爆を図れ』

『我々の痕跡を残すな』


「こんなところで、死んでたまるか」


 飽きるほど聞かされた規律を、今だけは振り払った。

 

 レイは今後の活動に支障がでようとも、まずは生き延びることを優先した。他の機能は正常に作動しなくとも、コントロールパネルから着陸システムだけでも制御できれば、耐えがたい重力の負荷によって命を落とす確率は低くなる。


「あと少しだけもってくれよ、俺の身体」


 メインのパネルを分解し、強制再起動を図る。集中力を極限まで高め、絡まった糸をほどくように慎重に作業を進めた。基盤を弄り始めてから僅か数分、額から一筋の汗が流れるとともに、着陸システムの起動音が流れた。


「よしっ」


「着陸ま、で、あと1ぷ……で……」


 ひと段落つき、ほっとしたのも束の間、耳障りな音声が聞こえた。無様にも途切れたアナウンスは、レイの未来を示しているようだった。

 自分の行く末の不安をかき消すように、レイは首を左右に振り、窓の外の景色に目を向ける。数分前はちっぽけであった青い光が、知らぬ間に巨大な惑星として立ちはだかっていた。


「これが地球か……」


 宇宙船の多くの機能の故障により、徐々に進む環境の変化に適応できず、レイの身体は悲鳴を上げ始めた。関節の支えも限界を迎え、踏ん張っていた両足は膝をついた。

 それでもレイは、目を逸らすことなく一心に地球を見つめる。この惑星を己の目で見ることを、レイは命がけで臨んでいた。


 天体クレイアが地球を発見したのはそう昔のことではない。ある日、飛行距離を伸ばすことに注力していた偵察ロケットが偶然、数枚の写真を持ち帰った。青く光る巨大な惑星、それが地球であった。ロケットは他にも空や海、森の様子を捉えていた。クレイヤは発展した文明を得ると同時に多くの自然を失った。そんな灰色の惑星に住む人々は地球の美しさに心を奪われたのだ。レイもそのうちの一人である。


 生きるんだ。この地球で。


 祈るように、レイは静かに目をつむった。

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