清く正しい反社ライフのスタートだって!?
桜が舞い始め、期待に胸を躍らせながらこの高校に入学して半年が過ぎた
時の流れは早いもので、あっという間に感じる
朝から自転車を押し、ぼーっと門の前で突っ立っているのが私、斎場久連波である
久連波、と書いてクレハ、と読むのだが、完璧な当て字で不良のようだと常々周囲から距離を置かれる
まぁ、距離を置かれる原因はそれだけではないのかもしれないが、私にはそれ以外に心当たりがない
兎に角、入学してからのこの時期が一番退屈なのだ
友達と呼べる存在はおらず、昼食も一人で黙々と食うという有様で、少なくとも楽しいとは言えない高校生活を送っていた
そんな私には、勿論両親がいる
一応働いてはいるし、お金もそこそこにある
だが、言わずもがな普通ではない両親だった
名前を紹介した時点で察しがついている人も多いと思うが、ご名答、私の両親はどちらも不良である
しかも、若い頃は二人して番張っていたようで、知名度もあるらしく、前も厳ついオッサンから話しかけられていた
そんな二人の娘である私も、なかなかの知名度で、昔は嬉しかったものの、今は思春期ということもあり彼らを遠ざけていた
さて、こんな長々と前置きを述べたが、本題はこれからだ
「ハァ!?海外に数年間赴任するぅ!!?」
昨日の深夜、こちとら課題に追われている最中だというのに呼び出されて聞かされた話だ
おかげでとんでもなく近所迷惑になっただろうし、折角今まで大人しい子で統一してきたイメージが台無しである
しかしそれくらい驚いた
そして、この万年新婚夫婦ときたら、私を日本に置いて二人で海外にランデブーする気らしい
「大丈夫よ!吉野クンの家、もとい、会社に入れるよう頼んどいたから!」
「あー、アイツん所なら安心だな
ま、反社だが」
お?やんのかコラ♡
軽ーいノリで、反社を娘に?っ間違えた、、自分の娘を反社に入社させてんじゃねぇ!!
というわけで、未だにそれが夢であると願っているのだが、ピコンッとラインの音が鳴り響いた
❨帰ったら早速荷物まとめだすから手伝って〜お願い♪❩
すぐさまスマホの電源を落とし、もうすっかり見慣れた門をくぐった
「ただいまー」
「おかえりー、って早く帰ってこいって言ったのにスルーしやがったな!?」
「誰が手伝うか。自分のことくらい一人でやれし」
帰ってきたなり怒鳴るのは勘弁してほしいものだ
こちとら学校で疲れてんの
「まぁ?アンタに頼まなくてもできたけどさー
残念だね~、早く帰ってきてたらアンタの好きなチョコケーキ買ってあったのに」
、、クソババアだ。本当に大人気なさすぎる
ここには荷物が山ほどあって、通りづらい。正直全て持っていけるのか心配だ
、、最終的に親父が修正しまくってなんとか行けそうだけど
「ホラ、ンなトコで突っ立ってないで部屋に行って着替えて、十分後に出発するから。ちゃんとした余所行きにしな」
シッシッと追い払われるような形で私はリビングを後にした
「久連波ー、行くぞー!」
ハーイ、と返事をしながら下へ降りる。私の部屋は2階にあるからだ。そこそこ広いので、気に入っている
それはさておき、二人はもう出発らしい
通るのが困難になるくらいあった母の荷物は、やはり親父が色々整理したらしく、大きなカバンが数個なくなっていた
「あー!私の気に入ってるルームシューズがない!あれは絶対に持っていくって言ってたのにー!」
「いや、あんなの何に使うんだよ?」
ホント、母に比べ冷静な父のおかげでここまで育ったと思う
あーだこーだ言いながら、車への荷物運びを終えた
その間私は、夜風に吹かれて綺麗な夜空を見ていた
家は売り払わずに残しておくらしいが、あまり帰ってくることはなくなるだろう、とのことだった
理由は聞いたがそのうち分かる、とはぐらかされてしまった
車で約三十分ほどかかる場所に目的地はあった
深夜なのでもう半分寝ていたが、母によって叩き起こされた。ひどい
車から降りると、まず違和感があった
駐車場にある車がどれもこれも高級車ばかりなのである
そんな駐車場にボックスカーが一台は浮いてるな、、と笑みが零れる
てか、そもそも何でこんな所に来たんだろ?
その謎は、その高級車達をよく見ていたら見当がついた
もう一つの違和感は、全てが黒塗りであること、だったのだ
つまり、そういう筋の所というわけで、、
そういえば、私が勝手に入社させられてた反社って、まさか、、
嫌な予感が胸に影をつくりながら、私は高層ビルを見上げた
見た目と入口は、普通の会社と何ら変わらない
しかし、【関係者以外立ち入り禁止】に入ると、一気に雰囲気がらしくなった
そこを堂々と進む両親は、番張っていた頃を彷彿とさせるのだろう。知らんけど
社員に導かれるまま進んでいくと、社長室っぽい所に着いた
重厚な扉に目を輝かせる
昔はこういうのに憧れていたため、その童心が戻ってきたのだろう
ガチャリ、と重そうな扉を大の大人二人で開けると、そこには数人の男性と一人の女性がいた
「あら〜、あんたらもいいオッサンになっちゃって!」
「おっ、タクじゃん久しぶりー」
両親は彼らに寄っていって感動の再会を始めてしまった
この流れだと、間違いなく思い出話に花を咲かせだすはずだ
そうなると、私は絶対に寝る
こんなところで寝てられない。それだけは勘弁してくれ
しかし、私の思いは無念に散り、酒を出して思い出話をし始めてしまった。嗚呼、最悪だ。眠い
とはいえ、折角久しぶりに会ったんだから、ここで水を差すわけにもいかないし、、
自分勝手な両親に半分呆れ半分疲れのため息をついて、私は睡魔に抗うのをやめ、瞼を閉じた
「やっぱり寝ちゃってるわこの子
どーせなら空港まで送ってほしかったけど、、ま、この時間がだし、しゃあないか。貴方、そろそろ行くよ」
「ちょっと待て、寝顔だけ納めさせて、、うん、よし行こう」
実はこう見えて娘大好きなんだよなー、アタシの旦那は
勿論自分もそうだけど、アタシに似すぎてなんかなぁ、、ってよくなる
それに加えて、立派に反抗期に入っちゃったってことで最近喧嘩しかしてないなー
ま、ウチらから離れて気づくこともあるだろうし、もう行くとするよ
「よろしくしてやってくれよ〜、お前達」
「久連波に何かあったら連絡くれ。飛んで帰るからよ」
昔の旦那を知る奴らは変わりように終始笑いを隠せず肩を震わせていた
んで、お戯れ程度に蹴られるまでがセット
ヒラヒラと手を振りながら、アタシ達は高層ビルを後にした
「あの子、どう変わるかなぁ~」
「もっとキレがある姉御肌の美人さんになるよ」
「いつかあの子もチーム持ったりして〜」
「チームにクソ野郎がいたらぶっ潰す」
「やめたげなよ、大人気ない」
空港までこんな感じで娘の未来について二人で想像していた
「まぁ、きっと必ずアタシみたいな子になっちまうよ」
「だな、俺もそう思う
お前みたいな、姉御肌と唯我独尊さを兼ね備えてる」
「オイ?、、まぁ、否定はできないね」
今までのあの子を思い返して、クスリと笑う
けれど、ちょっと気性が荒かったり、実はマジメだったりするところは貴方似だね、と言ってみれば、少し考えて嬉しそうに笑って頷いた
「あいつらは、反社でもそこまで悪い奴らじゃねーし、安心だな」
「まぁ、ガキも少しいるみたいだから、ボッチは免れるだろうよ」
「何かあったらぶっ潰す」
「また言ってるじゃん」
だって、、と元不良らしい顔しておいてしおらしくなるアタシの旦那様
「もうそろそろ着くよー、、、荷物頑張って降ろさなきゃね」
「、、、だな」
これでも少なくしたのに、、と後部座席を見て苦笑いを浮かべている
そしてまた二人で笑い合って、空港へ無事に到着した
出発する間際に、あの子にメールを送って、ここに本人はいないのに、いや、いないからこそ告げた
「大好きだよ、大事な私の娘」
離れていく地面がやけに印象に残って、胸がツンとした
目が覚めると、私はどことも知らない部屋のソファに寝転んでいて、お腹辺りには毛布が掛けられていた
道理で暑いわけだ。そう思いながらその冬用毛布を畳む
今はもう夏だぞ
畳み終わると、今度はキョロキョロと辺りを見渡した
そして、深夜にここに来たことを思い出した
じゃあ、ここは――反社の内部ってことで、そんな中に一人置き去り、、って、あの人たちどこ行った!?
混乱する頭を押さえていたら、一人男性が入ってきたようだ
広い空間にポツリと一人だけだったので、足音がやけに大きく響いた
「起きたみたいだね、斎場さん所の嬢ちゃん」
ひとまず頷いておく。ほら、イエスマン精神ってやつ?
イエスマンが分からんけど
「私も、彼らに憧れた一人さ。君のことも守るから安心してくれ。けど、美波ちゃん、、お母さんはここへの入社を誓約書に書いてくれちゃったわけでさぁ」
「つまり、、売春とかで働くってこと!?」
「ちげーよバカ」
また新たな男性が入ってきた。結構若いな
「アンタにやらせる仕事は向こうが指定してきてる。それ以外させたら俺らがやられる」
はへぇ、、こんな兄ちゃんでも知ってるんだ、両親を
今までオッサンばっかだったからびっくり
「んじゃ、私は結局何すんの?あと、お兄さん達の名前は?」
そう問うと、初めに来た方のおじさんが少し笑った。頭、大丈夫か
「いや、、すまない。君のお母さんとの初対面を思い出してしまってね、、こうも似るもんなんだねぇ
、、あぁ私は湯木恭佑だよ。よろしく頼むよ、お嬢さん」
「、、俺は、八塩皇治だ。言っとくが、仲良くする気はねェ。この職は一匹狼でやるモンだ、、仲良くしてもメリットがねェ」
それだけ言うと、八塩さんはどこかへ行ってしまった
「さて、嬢ちゃんも起きたことだし、他の社員にも挨拶回りに行こうか。これも社会人として必要だよ〜」
というと、歩き出したので、すぐさま彼の後を追う
「あの、、毛布、どうすればいいですかね?」
「誰かが片付けるだろうし、ソファの上に置いときな」
了解です、と返事をして冬用毛布をソファの上に下ろす
ふぅ、地味に重たかったな
気を取り直して、湯木さんの後を追った
外観だけでも迫力があった高層ビルだが、内装も凄かった
本来無機質なビルの廊下。そこには綺麗に生けられた花と高そうな花瓶があった。綺麗に咲いているので、誰かが手間をかけてこだわりをもってやっているのだろう
また、階によって壁紙が違うのも驚きだ。覚えやすくていいな
一体どこへ向かっているのかは分からないが、ただ湯木さんについて行っている
すると、
「アレ〜?キミが噂の新人チャンかナ?
ビックリした~、オジサンが高校生連れてるンだもん」
急に曲がり角から現れた、多分社員の男の子。身長は低めだけど、多分そう。
彼は、とにかく派手な外見だった
髪色も、目も、変わっていたけれど、なんだかとてもキレイに感じた
「急に出てきてその態度はないんじゃないかな、有栖川君」
「テメーみたいなオジサンに名前呼ばれたくないんだケドー?
ゴメンね~、こんなオジサンとじゃつまんないっショ?オレが案内したげるネ~、久連波チャン♪」
「一旦自己紹介してもらっていいっすか?」
「、、アハッ!これまた変わった子が来たナァ♪
えーと、オレは有栖川紅莉栖だヨ!仲良くしようネ、久連波チャン♪」
彼は目を細めて笑うと、顔を近づけてきた
「ヘヘっ、ビックリしたっショ?オレのお気に入りの印ってヤツ?それ付けとけば大体の危険から守れるかナ〜、多分!」
多分って、、とは思ったけど、いざとなったら頼りになるっぽいし、良しとしようと社内案内を再開した
「ここは、食堂だよ、、いつもなら皆来る頃なんだが、、」
ガラッ
何箇所かある扉が開く音がする。するとそこから数人の男性達が入ってきた。中には女性もいるようだ
「あー、腹減って死にそ〜!!って、湯木さんに、、誰だソイツ?」
「あら?珍しく紅莉栖ちゃんもいるじゃない〜、久しぶり〜!元気にしてた?」
「あっ、湯木さん!!お疲れ様ッス、そちらは、、?」
「もう少し落ち着きがあればいいのに、、?見ない顔」
入ってきた面々の視線がバシバシ刺さる。痛い
「もぅ、皆聞いてないノ~?この子が入社したての新人ちゃん、久連波チャンだヨ〜?」
これまた、覚えるのに苦労しなさそうな人達だな、、と失礼極まりないことを思いながら、彼らを見通した
「ご紹介に預かりました、斎場久連波と申します。これからよろしくお願いします」
丁寧に頭を下げ、自己紹介を終える
「斎場、っていったら、、あのお二人のお子さんかしら?まぁ、大きくなったのね〜!お姉さんビックリしちゃった」
「斎場夫婦には稽古をつけてもらったこともあるし、またよろしく言っておいてくれ!」
「ふーん、、オレはその夫婦知らねェが、ま、いいや。とにかく腹減ったから話すならそれからにしろ!!」
順調かと思いきや、そうでもなさそうだ
「あー、食った食ったァ、、んで、何の話だよ?」
「こら、君も新人のときは良くしてもらっただろう?それを今度は君がする番さ」
あー、出た親気取りの叱り方〜と低く小さい声で言う紅莉栖君。げんなりとした顔で湯木さんと反対の方を向いていた
どうしてそこまで嫌いなのか、、単純に反りが合わないんだろうか?と思っていたら、今いる人達の自己紹介が始まるようなので、そちらに意識を向けた
「とっとと終わらせて寝る。オレは荒島岳斗だ。、、んじゃ寝るワ」
有難うございます、と頭を下げておく。すると、仮であれひらひらと手を振ってくださった。案外優しい人なのかもしれない、、そう、俗に言うツンデレ!!、、と思っていたら凄い睨まれた。あの人心読めるのか?
「じゃあ、私ね~♪私は桐山瑠唯よ!よろしくね久連波ちゃん!中々この職で女の子いないから嬉しい〜!!」
そう言うと、ギューっと抱きしめられた。見た目の倍ほどに力が強く、首が締まるところだった、、危ない、、
「えーと、俺か!!俺は檀野正司ッス!気軽に話しかけてくれたら、嬉しいぜ!」
ザ・熱血少年!みたいな人だった。声が大きいから慣れが必要かな。というか、自分の方が先輩なのに、《〜ッス》って、、?
「あぁ、それッスね、、それぞれには俺の持ってない個性があると思うんスよ。その分尊敬しなきゃなって思って、こうなりました!気遣わせてたらスンマセン、けどなかなか直んなくて、、」
「ううん、それもえーと、、檀野さんの個性だと思いますし、疑問に思っただけなんで。気にしなくてもいいですよ」
謝られて、申し訳なくなったのでそう返すと。目は小さいながら、その目を大きく開けて顔を輝かせた。眩しい
「そう言ってくれて良かったッス!元気出ましたワ!」
彼は、ニカッと笑うと、自分も明日に備えて寝ます!と言って食堂後にした
徐々に人が減っていく中で、この場に残っているのは私達三人と桐山さんと、少しぼーっとしている人だけになった
そんな彼は、檀野くんが出ていくのを見送ってから、口を開いた
「僕は霞ケ丘怜真、、よろしく、お願いするね、、じゃあ、また」
バイバイ、と呟くようにして手を振りながら、彼もまた出ていった
こうして、食堂には四人になってしまったのだが、、ここからどうするの?
「はいは~い!いい事思いついた!!私がこれからこの子を案内するわ〜♪湯木さんもお忙しいだろうし、紅莉栖君は任務が入ってなかった?」
「、、任務なんかよりも、久連波チャンといる方がイイもーん!ねぇねぇ久連波チャン、アッチにおっきいお庭があるんだ〜、二人で見に行こー☆」
気分がヒュンと下がったかと思いきや急上昇して私に抱きつく紅莉栖君。
そのまま、半ば無理矢理連れて行かれてしまったのである
いや、お二人とも呆れて諦めないで!!なんかヤバそうなんで!
誰かこの子がを止めてーーー!!